PlayStationやXboxで人気を博した『首都高バトル』がファンの熱い要望に応えて約18年ぶりに復活。往年の熱量と現代的な仕様の見事な融合で日本ゲーム大賞2025優秀賞を受賞した本作の開発の裏側を、元気の開発チームに聞いた。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 330(2026年2月号)からの転載となります。
ゲームエンジンをUEに刷新しSteamでシリーズ復活
『首都高バトル』は、1994年に誕生した首都環状線を舞台とするレースゲームシリーズだ。周回型レースとは異なり、走行を成長要素として扱うRPG的な構造を採用し、車両一台一台に強いキャラクター性を与えている点を特長とする。
Xbox向け『首都高バトルX』(2006)以降、シリーズは長らく沈黙していたが、Steamを主軸とした展開により、約18年ぶりの復活を果たした。2025年1月に早期アクセス版、同年9月にフルリリース版が発売され、2026年2月26日にはPS5版の発売も決定している。
開発・発売:元気/リリース:発売中(PS5版は2月26日発売予定)/価格:6,600円(ダウンロード版)、7,600円(パッケージ版)/Platform:PC(Steam)、PS5/ジャンル:レース、RPG
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開発再始動の背景には、2020年頃から世界的に広がったJDM(Japan Domestic Market)ブームによる日本車人気の再燃に加え、Steamというプラットフォームの存在も大きかった。
「Steamの登場によってパブリッシングのハードルが下がり、チャゲームエンジンをUEに刷新しSteamでシリーズ復活レンジがしやすくなりました」と、プロデューサーの佐藤孝年氏はふり返る。
そして何より、新作を待ち続けるファンの声が開発陣の背中を押したという。
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一方で、開発は必ずしも順調ではなかった。Unreal Engineの挙動検証やスマートフォン向け展開の模索、Steamへの移行などに約2年を要し、その後情報の共有化や横の繋がり強化等のため開発体制を再編。プロデューサーの佐藤孝年氏、プログラマー出身のディレクター佐藤寿彦氏、アートディレクターの小野木祐典氏が加わり、プログラムとアートの両面から歩み寄る体制の下、Steam向けタイトルとして本格的に舵を切った。
小野木氏は「3人で進行から見直し、何をつくるべきかを見据えたゲームづくりを心がけました」とふり返り、佐藤寿彦氏も「昔のリソースのままでは今の時代に戦えないと判断し、車両モデルを含めてつくり直しました」と語る。では、その具体的な取り組みを見ていこう。
『首都高バトル』らしいキャラクターのある車両制作
各ジャンルの人気車種をリアルと映えの両立で再現
本作に登場する車両は全74種類。現実世界で人気の高い車種を軸に、走り屋、いわゆるヤン車、ドレスアップカーなど、各ジャンルで支持されている車両が選定されている。良くも悪くも「『首都高バトル』らしさ」を感じさせるラインを意識した車種構成となっている点が特徴だ。
『首都高バトル』はレースゲームであると同時にRPGでもあり、車両は一般的なゲームで言うところのキャラクターや装備に近い存在として位置づけられている。シナリオやゲーム進行の中での役割や見た目の印象を担うのはクルマそのものだ。そのためコラボ車両を含め、本作に登場する車両にはキャラクター性や「映え」を意識した明確な序列化が求められた。
車両モデルについては、新規制作に加え、過去作のモデルをベースとしたブラッシュアップも行われている。過去モデルはおよそ2万ポリゴン程度で構成されていたため、当初は上限を10万ポリゴン程度に設定して再構築が進められた。その後、開発が進むにつれてUEの挙動や描画の安定性が確認されたことから制限を撤廃し、最終的には最大で約75万ポリゴンに及ぶ高密度なモデルも制作されている。
新規モデルの制作フローは、実車撮影をベースとするものと、デザイン資料を基に進めるものの大きく2系統に分かれる。資料の少ない車両については、オーナーの協力を得て開発スタッフが現地に赴き、実車を撮影。実際に見て触れることで得られる情報は、モデリング精度の向上に大きく寄与したという。制作と並行して、自動車メーカーやエアロパーツメーカーによる監修も行われている。
マテリアル設計にはPBRを採用し、現実に即した数値を基本としながら調整を行なっている。テクスチャは細かくつくり込みすぎると画面上でちらつきが生じるため、エンジン上での見え方を確認しながらバランスを取った。UE5のLumenの特性により表示結果が安定しにくかった点は、特に苦労した部分のひとつだという。
また、クルマの装飾に用いるバイナルグラフィックスの制作においては、小野木氏がテキストによる指示ではなく、3Dで作成したイメージやイラストを直接共有するケースも多かったという。限られた時間の中では、完成イメージを具体的に示す方が意図が伝わりやすく、結果として精度の高いアウトプットにつながるためだ。
途中で刷新された開発体制
初期の開発体制から、プロデューサーに佐藤孝年氏、ディレクターに佐藤寿彦氏、アートディレクターに小野木祐典氏を中核とした体制に刷新。それまでのワンマン的な体制から、専門性の異なる3名がプロジェクトの方向性をすり合わせ、パブリッシングまで含めて全体を設計する体制へと移行した。
この再編により、プログラム、背景、2D、車両、VFXといった各分野が一貫した方針の下でディレクションされるようになり、VTuberとのコラボレーションなど、突発的な案件にも柔軟に対応できる開発環境が整えられた。こうした変化はユーザー側にも伝わっており、X(旧Twitter)上では、早期アクセス版とフルリリース版では車両デザイン(バイナル)の印象が変わったと感じる声も多く見られたという。
グラフィック進化の軌跡
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▲UEによる検証段階の画面。開発初期はUE4からスタートし、その後の制作進行に合わせてUE5へと移行している -
▲スマートフォン向け展開を模索していた時期のビジュアル。プラットフォームの制約により、表現面には大きな制限があった
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▲Steam向け開発へ移行した直後の段階。体制再編前の時期にあたり、過去作の画づくりを継承し全体的に暗めのトーンで構成されている -
▲現在の首都高速を実際に走行し、撮影した参考映像。過去作の時代背景と比べて照明環境が大きく変化しており、側壁タイルの凹凸まで視認できるほど明るくなっている
撮影ベースの車両モデル制作
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▲レクサスLFAの実車を撮影した写真。現物を確認する機会の少ないLFAや一部の高級スポーツカーについては、オーナーの許可を得た上で取材・撮影を実施、モデリングスタッフも同行した。3Dスキャンは、十分な知見が得られていなかったことと効率面の課題から、今回は採用されていない -
▲Maya上でのモデリング画面。車両ごとにポリゴン数は異なるが、開発途中でGPU負荷が想定ほど高くないことが判明したため、当初設定していた10万ポリゴンの上限を撤廃し、最終的には約75万ポリゴンに収める方針とした
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▲フロント周りの修正指示。実車を撮影して確認した内容を基に、ディテールを精査・調整している。写真や資料だけでは把握しにくい形状も、実物を確認することで理解が深まったという -
▲同、リア周りの修正指示。フロント同様、実車確認を踏まえた細かな調整が加えられている
キャラクター性を重視したデザインベースの車両モデル制作
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▲二代目迅帝のデザインパース。シナリオ上での役割に応じて、見た目や存在感が強調される車両として設計されている。ライバル車である迅帝はNSXをベースとしており、シリーズ初のホンダ車でもある -
▲二代目迅帝のデザイン三面図。ベースデザインの上に緑のラインで新デザインが描き込まれており、片側60mmのワイドボディとして設計されていることがわかる
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▲ワイドボディ仕様のモデリング画面。迫力を重視したオリジナルデザインのエアロパーツを装着した状態で制作 -
▲二代目迅帝のバイナルグラフィックス表示。車両ごとの個性を視覚的に際立たせる要素として、バイナルの重要度は高い
イメージ共有の工夫
首都環状線の実在感とゲームとしての映えを両立する画づくり
現代の首都環状線を基準に再設計された背景とライティング
背景表現におけるコンセプトは、「首都環状線の実在感」と「ゲームとしての映え」をどのように両立させるか、という点にあった。プログラマーの佐藤寿彦氏とアートディレクターの小野木氏がそれぞれの立場から歩み寄ることで、このバランスがかたちにされている。首都環状線の照明は、資料を基に照度を忠実に再現すると、実際のプレイ画面では想像以上に暗く見えてしまう。
人間の視覚がもつダイナミックレンジをそのまま再現することは難しいため、本作では数値上の正確さだけでなく、印象としての明るさを重視。実際に現在の首都環状線を走行・撮影して検証を行い、LED照明の増加によって明るくなった現代の首都環状線の印象に合わせたライティングが採用された。
コース形状自体は過去作のデータをベースとしているが、各要素には大幅な刷新が施された。ガードレールはHoudiniで内製のジェネレータを用いて制作し、Mayaへインポートした上でスクリプトによって環境にフィッティング。樹木についても、従来の板ポリゴンをクロスさせた手法から、メッシュモデルへと切り替え、全て植え直された。
また、モデルを流用している箇所であっても、マテリアルは全てPBRに刷新され、ノードを用いた汚し表現を追加。トンネル内のタイルについてもノーマルマップによって凹凸感を強調するなど、質感表現の底上げが図られている。コースから見えるビル群は前作のモデルをベースとしているものの、約1,400棟全ての窓表現を見直し、室内が立体的に見えるパララックスマッピングへと変更された。ビルの窓から漏れる光が車体に反射することで、夜景全体のクオリティ向上にもつながっているという。
ガレージシーンのライティングでは、UEの表現力を活かし、ドームライトによるリアリティと演出用ライトを組み合わせることで、映えを優先したビジュアルを構築している。さらに、走行中の派手な演出も本作の見どころのひとつで、エフェクトにはNiagaraを使用。『首都高速トライアル』などの実写映画を参考に、リアルな火花表現が追求された。
目指すビジュアルを詰め込んだコンセプトアート
小野木氏がテコ入れのために参画した際に提示したコンセプトアート。テクスチャにノーマルマップを用いて路面の凹凸感を強調し、従来は暗さで処理していた空についてもスカイシミュレーションを導入して明るく表現するなど、当初に目指す完成像を盛り込んでいる。
退路を断つ意味も込めて、まず高いコンセプトを提示し、そこへ近づけていく方針が採られたという。最終的には、このコンセプトに沿ったビジュアルへと仕上げられていった。
Houdiniとスクリプトによるガードレール配置
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▲ガードレールのフィッティング作業画面。コースモデル自体は過去作で制作したデータをベースに流用しており、新たに防音壁やガードレールを追加する際には、Houdiniで直線状態のモデルを生成した上でMayaにインポートし、MELスクリプトによって配置するワークフローを採用している。これにより、背景制作の効率化が図られた -
▲ガードレールのフィッティング設定画面。設置間隔や支柱のステップ距離などはパネル上からアトリビュートを入力して制御できるようになっており、区間ごとの調整を柔軟に行えるしくみとなっている
PBRへの全面刷新と質感表現の強化
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▲Substance 3D Painterで制作されたタイル素材。本作ではマテリアルを全てPBRベースへと刷新し、ノードによる汚し表現の追加など、マテリアル段階で質感調整を行えるようにしている -
▲ノーマルマップの有無による比較(上:あり/下:なし)。エッジ部分に適切なハイライトが入ることで、立体感とリアリティが大きく向上している
Lumenを活かした自己発光と反射表現
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▲Lumenで自動販売機や看板などのオブジェクトに自己発光を設定した例。Lumenによる反射はシーン全体の明るさに大きく寄与しており、実在するライトが少ないエリアや柱の影といった暗部も、自己発光オブジェクトによって視認性が向上している。なお、Lumenが有効になるのは画質設定がHigh以上の場合で、発売予定のPS5版はUltraとHighの中間に相当する品質となるため、Lumenに対応している -
▲実機画像
現代の首都環状線を基準にしたライト設計
もともとは2012年頃の時代設定を想定して制作されていたが、現在の首都環状線を実際に目にしているユーザーとのイメージの乖離を避けるため、ライティングは現代の首都環状線を基準に再調整された。
プログラマーでもある佐藤寿彦氏が実在する光源環境を再現し、同時に小野木氏が映えや印象値を重視した同一背景を構築してもち寄り、両者のすり合わせによって『首都高バトル』としての最適解となる背景表現がかたちづくられている。照度や色温度についても資料から数値を読み解いた上で、見た目の印象に近づくよう調整が行われた。
車体を際立たせるガレージライティング
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▲リアルライトのみで構成したガレージのライティング例。現実に即した光源配置ではあるものの、車体が流線型で大きな凹凸をもたないため、全体としてメリハリに欠けた暗い印象の画となってしまった -
▲スカイライトを用いて反射表現を強調したライティング例。車体の流麗な反射ラインは明確に表現できているが、屋外に設置されているかのように全体が明るくなりすぎてしまう結果となった
実写分析に基づく火花エフェクト
火花エフェクトの調整画面。火花はNiagaraを用いて制作されており、複数種類の動きをもつパーティクルが組み合わされている。
調整にあたっては、1980年代後半の実写映画『首都高速トライアル』における、車両が横転して激しく火花を散らすシーンを参考にしたという。実車映像を分析することで、車体の角に物が接触した際に発生する火花にも、上方向へ舞い上がるもの、路面に落ちるもの、遠方へ飛散するものなど、いくつかの挙動パターンがあることが確認され、それらを再現するかたちでエフェクトが設計されている。
CGWORLD 2026年2月号 vol.330
特集:映像制作ニュースタンダード
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2026年1月9日
価格:1,540 円(税込)
TEXT_石井勇夫(ねぎデ)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada