ループSF小説の傑作として知られ、後にハリウッドで実写映画化もされた『All You Need Is Kill』(集英社刊)が、STUDIO4℃によってアニメーション映画化された。同社らしいアーティスティックなビジュアル表現を観客にアピールしつつ、全編を3DCGで制作したことによる立体的で爽快感のあるバトルアクションが見どころの本作。今回はキャラクターモデリングを中心にセットアップからカット解説まで、全3回に渡り紹介していく。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 330(2026年2月号)に一部、加筆修正を加えた転載となります。
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公開:2026年1月9日(金)
原作:桜坂 洋(『All You Need Is Kill』/集英社刊)/監督:秋本賢一郎/制作:STUDIO4℃/配給:クロックワークス
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©桜坂洋/集英社・ALL YOU NEED IS KILL製作委員会
直線的で左右非対称なキャラクターをつくる
2値化された状態からアナログ的な処理で主線を描画
ひと目で観客を惹きつける本作のキャラクターデザイン。これを活かしつつ3Dキャラクターとして忠実に再現することはチャレンジのひとつだった。このデザインの特徴は、一般的な丸みを帯びたキャラクターとは異なり、直線的で角があること。さらに、キャラクターの個性を際立たせるため、ほぼ全てのキャラクターがアシンメトリー(左右非対称)でデザインされており、これもモデリングの難度を高める要因となった。前任者を引き継ぐかたちで担当したキャラクターモデリングチーフの田中莉緒氏は「今まであまりモデリングをした経験がないタイプのデザインで、顔のラインが崩れないよう無機物をつくるような感覚で、線がブレないように注意する必要がありました」と語る。
写真掲載なし、キャラクターモデリングチーフ・田中莉緒氏(STUDIO4℃)
キャラクターの輪郭線は、硬い線に見えないよう、Pencil+をベースにしつつ、フレームごとに線の太さや位置が微妙に揺らぐランダムな描画設定を適用した。さらに、アンチエイリアスのない2値化された状態で一度出力し、その後の撮影工程でアナログ的な処理を加えることで、手描きのような温かみと力強さをもつ線を実現。「1枚ずつ描く手描きの絵のパワーを3DCGからも生み出すためのアプローチでした」(CGI監督・中島隆紀氏)。
なお、本作ではカメラとの距離に応じてキャラクターモデルを切り替えている。特にアップの際には、豊かな表情を生み出すためのコントローラが数多く仕込まれた。独特な線を3D上で忠実に再現するため、特定の線を出すためだけの専用ポリゴンを仕込むといった手の込んだ工夫も行われている。逆にロングの場合は線が密集してしまうことを防ぐために線の量が調整されている。髪や顔の細かいタッチの線はポリゴンで仕込まれており、表示/非表示の切り替えでコントロールすることが可能。線の数自体はできるだけ少なくしつつも、1本1本の線が伝える情報は多くする必要があり、丁寧な線の出し方に注意を払ったという。
主人公・リタ
主人公のリタ。ダロル出現によって壊滅した房総半島でボランティアスタッフとして働く18歳。ある日の作業中、思わぬ出来事に遭遇し意識を失うが、同じ日の朝に目覚める。「リタは顔や頬のラインがとにかく直線で、スキニングや動きの付け方など、直線的になるように骨組みをするのが大変でした」(田中氏)。
キャラクターを守る機動ジャケット
リタをはじめとしたキャラクターたちは戦闘訓練を経た兵士ではなく、復興支援のボランティアスタッフであるため、ガレキ除去をする際に使用する機動ジャケットを着て敵の「ギタイ」と戦うことになる。機動ジャケットのモデルはキャラクターモデルとは別個につくられており、データ上でも“着ている” 状態。Maya上でそれぞれのリグを読み込んでアニメーションさせる。「キャラクターが並んだときにシルエットで個性を出したかったので、腕周りや肩パッド部分などに細かな調整をしてもらいました」(秋本監督)。
距離に応じたモデル制御と表情表現
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▲モデルの頭部はカメラアングルや距離に合わせて変形、切り替えできるしくみが用意されている。なお、同じ素材がセットアップの方にも入れられている。それぞれリタのロングショット用の設定(左)、ミドルショット用の設定(中)、アップショット用の設定(右) -
▲カメラアングル別の頭部の変形
フェイシャルリグ
髪の毛のリギング
キャラクターの髪の毛は、物理シミュレーションではなく、全て手付けでアニメーションが付けられた。特にリタの髪は、個々の毛束を動かすのではなく、「ブロッコリーのようなシルエット」を塊ごと制御するという独特のコンセプトでリグが組まれている。
前髪部分のみなど、階層的なコントローラを使って動かすことで、独特のシルエットを保ちつつ、風になびくような軽やかさも表現する高度な制御が実現されている。
撮影処理とレタッチのために2値化された素材
本作では素材は2値化した状態で書き出されている。
タイムループをくり返す中で手に入れた武器
本作のキャラクターたちは当初、作業現場で使う掘削機やハンマーなどを駆使して戦う。その後、タイムループをくり返す中で敵に対して有効な武器としてリタが見つけたのが、この強化斧。アクションカットでケレン味のある動きを見せるため、反り返るリグを入れたり、変形にも対応しているのが特徴だ。
クリーチャー「ギタイ」
作中のクリーチャー「ギタイ」は、秋本監督自らがデザインし、モデリングとリギングはCGI監督の中島氏が担当した。「地球をテラフォーミングする工作機械という設定に基づき、下半身は機械的、上半身はダロルの花やサンゴ、トンネル掘るときのシールドマシーンのような放射状のデザインからインスピレーションを受けたデザインとなっています」(秋本監督)。
ギタイは花びらや歯など、各パーツが伸縮したり、足が地面に設置したままサイズ感が大きく変化したりするなど、多彩なアニメーションに対応できる複雑なリグが組まれている。そのため、リグは重くなったものの、ギタイの不気味で予測不能な動きを上手く表現することが可能になったという。
No.3に続く。
CGWORLD 2026年2月号 vol.330
特集:映像制作ニュースタンダード
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2026年1月9日
価格:1,540 円(税込)
TEXT&EDIT_日詰明嘉/Akiyoshi Hizume
PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota
EDIT_海老原朱里/Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子/Momoko Yamada