「揺れ」はライブ映像の説得力を左右する。マーザ・アニメーションプラネット(以下、マーザ)が手がける「あんさんぶるスターズ!!DREAM LIVE」(以下、「スタライ」)の衣装制作の根底にあるのは、「揺らせるものは、全て揺らす」という徹底した思想だ。ユニット単位で判断を揃え、リードキャラクターを起点に設計方針を固めながら、厚みをもたせた重ね着構造や、ボーン+ベイクによるシミュレーションを組み上げていく。

第3回のスタライ編[1]では、制作フローの要点と、揺れ表現を前提にした衣装構造設計の考え方を整理する。

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    ※本記事は月刊 『CGWORLD + digital video』vol.331(2026年3月号)掲載の特集「デジタルファッション制作ハンドブック2026」(全56ページ)から、一部を抜粋・再編集したものです。

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    ▲左から、リグスーパーバイザー・田中雄大氏、モデリングスーパーバイザー・馬杉 明日美氏、Virtual Live映像事業課 課長/CGディレクター・木下秀幸氏(以上、マーザ・アニメーションプラネット)

    マーザ・アニメーションプラネット Virtual Live映像事業課

    マーザは設立以来、フルCG映画制作のためのノウハウと堅牢なパイプラインを磨き上げてきた。その資産をバーチャルライブ制作にも展開し、内製ツール群とCG映像の専門家の知見を組み合わせることで、キャラクターモデリングからアニメーション、コンポジットまで精緻に統合。ライブならではの存在感を支える総合的な技術基盤を整えている。
    www.marza.com

    ユニット単位で判断を揃え、全て揺らす前提で検討を始める

    「スタライ」のアイドルはユニット単位で活動しており、同一ユニット内では衣装も共通、もしくは近いデザインで設計されている。そのため衣装制作では、まず基準となるリードキャラクターの衣装を制作し、クライアント監修を経ながら、衣装構造やセットアップの方向性を固める。その後、同じユニット内の他キャラクターへ展開することで、判断の軸を統一し、以降の調整や手戻りを最小限に抑えている。

    リードキャラクターには、原則としてユニットのリーダー、もしくは装飾点数が最も多いアイドルが選ばれる。ただし例外もあり、例えばEdenではリーダーの乱 凪砂は長髪で衣装構造の検討が難しいため、髪の短い巴 日和をリードにした場合もあった。

    このとき重要な指針となるのが、「揺らせるものは、全て揺らす」という設計思想だ。揺れの有無は表現の説得力に直結するため、全て揺らすことを前提に検討を始める方針が貫かれている。ポリゴン構造や相貫しやすい部位を事前に整理しておくことで、後の修正負荷を抑えつつ、安定した表現につなげている。

     「スタライ」ではシミュレーション結果をより正確に再現するため、ボーンに加え、メッシュへのベイクも併用している。そのため揺らす部位は基本的に正方形ポリゴンで構成する運用も徹底されている。

    さらに内側のシャツなども含め、重ね着の各レイヤーに厚みをもたせた構造を採用している点も特徴だ。最終的に画に出ない部位はレンダリング前に削除するものの、表面と割りを一致させた裏面を後工程で追加するのは難しい。そのため、あらかじめ表裏を用意しておく判断が、衣装の存在感を安定して成立させる上で重要となる。

    なお、モデリングとセットアップの各工程では、原則として1人の作業者が同じユニット内の全アイドルを一貫して担当することで、衣装の造形や動き、揺れもの表現の方向性を統一。ソフトウェアはMayaを主軸にしつつ、セットアップではmGearやeSTの一部機能も併用することで、自然な揺れ表現と制作の効率化を両立させている。

    [スタライ 8th]紅月:重ね着・揺れ・着崩しを成立させる、着物衣装の設計

    「スタライ」では共通トポロジーの素体を使っており、プロポーションはアイドルごとに調整。着物を着る機会の多い紅月のみTポーズを採用している。

    本衣装の胸元は3層の重ね着構造になっており、全てに厚みをもたせた設計が採られた。振袖部分にはシミュレーションを適用するが、肩まわりはアーマー内部で重ね着した着物が潰れやすいため、多数の補助ボーンとブレンドシェイプを併用。腕の動きに合わせて着物がスライドする挙動を実装している。

    若干着崩した着付けのデザインで、腕を下ろすほど肩の素肌が見える仕様であることも、この判断に影響した。

    ▲ブーツの靴紐は編み上げ部分までモデルで制作し、肩のアーマーに付属する縄や房も一本一本を造形で再現

    房の結び方は前面と後面で異なり、その差異も忠実につくり分けられている。房には1本ごとにボーンを仕込み、アニメーターが個別調整できる構造とした上で、シミュレーション自体は5本を1束にまとめて適用している。当初は房全体をまとめて動かす設計も検討されたが、翻った際の広がりが出ず、不自然に見えるとの判断から、現在の構造に落ち着いた。

    なお、テクスチャ解像度は一辺4,096pixelを基本としており、単色部分はテクスチャをつくらず、MayaのRampノードで制御する場合もある。

    ▲「あんさんぶるスターズ!!DREAM LIVE -8th Tour」Blu-rayダイジェスト。紅月の衣装は2:15以降で確認できる

    [スタライ 9th]Valkyrie:内側まで"正直"につくる、多層構造の衣装設計

    本衣装は、ブラウスのフリル+サッシュ+チェーンが重なり合う多層構造が大きな特徴だ。

    初期モデルではデザイン画に準拠して、サッシュを折り畳んだ状態で造形。揺れ検証を行うと布が自然に翻らず、動きが硬く見える課題があった。そこで、シミュレーション時に綺麗な揺れが出るよう、やや広がりをもたせた形状へと修正した。

    ▲初期モデル(左)と、修正後のモデル(右)

    本衣装はサッシュの内側までチェーンが回り込むデザインで、見えない部分も全て造形している。動きを付けると布の下が見える場合も多く、内側にチェーンが存在しないと実在感が薄れてしまうためだ。後から追加するのは難しい要素だからこそ、初期段階で内側まで"正直"につくる判断がなされている。

    • ▲左肩。シワまで正方形ポリゴンで造形されている
    • ▲右肩

    布同士や体との相貫による破綻を防ぐため、コリジョン設計にも工夫が施された。サッシュが左肩のフリルを押し潰さないよう、大きめの球状コリジョンを配置した。

    ▲脇や体の前面にも大きめのコリジョンを置くことで、"見えない保護空間"を確保している。別途フリルにも揺れを設定しており、腕を下ろすと脇まわりが破綻するため調整を要した

    これにより、アイドルがターンをした際にも、サッシュが他の装飾を潰すことなく、布本来の軽やかな動きを安定して維持できるようになった。

    なお、布のシワ表現においても、シミュレーション破綻を避けるため、正方形ポリゴンを維持したまま造形している。

    パンツ周辺などの細かなシワはZBrushで彫り込み、ノーマルマップで表現。リムライトが入った際に、ディテールが出るよう調整されている。シワは多ければ良いというものではなく、リアルに入れすぎると不自然になるため、効果的な箇所に絞って追加している。

    ▲「あんさんぶるスターズ!!DREAM LIVE -9th Tour」Blu-rayダイジェスト。Valkyrieの衣装は1:30以降で確認できる
    ©HE/ES-DL
    【全4回連載・第4回】マーザが挑むライブ衣装制作/スタライ編[2]は10日(火)公開です。

    INFORMATION

    月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.331(2026年3月号)

    特集:デジタルファッション制作ハンドブック2026
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2026年2月10日

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    TEXT&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
    文字起こし_大上陽一郎/Yoichiro Oue
    PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota