映画『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』(以下、『キルケーの魔女』)のCG制作は、どのように設計され、現場でかたちになっていったのか。本記事では、CGディレクター・増尾隆幸氏と、CG制作の主幹スタジオであるIKIF+のCGプロデューサー・濱中 裕氏の対談を通して、その実像に迫る。3Dレイアウト(以下、3DLO)から海面表現、Ξ(クスィー)ガンダムとTX-ff104 アリュゼウスによる最終決戦のアクションにいたるまで、制作の中核を担った両者の視点から紐解く。
なお、本記事は月刊「CGWORLD vol.334」(5月9日発売)掲載の全21ページの特別企画「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女/村瀬演出と3DCGの現在地」の先行内容となる。
映画『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』
公開日:2026年1月30日(金)
原作:富野 由悠季、矢立 肇
監督:村瀬修功
企画・制作:サンライズ
製作:バンダイナムコフィルムワークス
配給:バンダイナムコフィルムワークス、松竹
gundam-official.com/hathaway
ガンダムCGと村瀬修功監督作品、その蓄積の上に
CGWORLD(以下、CGW):まずは、お2人のキャリアからお聞かせください。増尾さんは1980年代から3DCG制作に携わっていますね。
増尾隆幸氏(以下、増尾):京都市立芸術大学を卒業後、フリーランスのイラストレーターとして活動していました。当時はTV情報誌などでイラストを描いていて、ガンダムのミリタリー要素に注目したマニアな人たち向けに後のMSV(モビルスーツバリエーション)につながるマーキングサンプルなどを描き始めたんです。やがて模型情報誌のイラストやプラモデルのパッケージも描かせてもらうようになって、ガンダムとのつながりができていきました。
CGに興味をもったのは、1982年にボストンで開催されたSIGGRAPHを視察しに行ったことがきっかけです。1986年頃から実際にCGをつくり始めました。当時はPC-9801などの16bit環境で、レイトレーシングのプログラムを自分で打ち込みながら、簡単な反射や屈折の表現を試していました(笑)。方眼紙に図面を書いて頂点座標を割り出し、テキストエディタで打ち込んでいくような時代でした。
CGW:その後、1990年にルーデンス(現、TREE Digital Studio ルーデンス事業部)を設立なさった。
増尾:はい。設立後は、CMや映画、イベント映像を中心にCG制作とディレクションを手がけてきました。ガンダムのCGに関しては『GUNDAM THE RIDE ‐宇宙要塞A BAOA QU‐』(2000)の頃から関わっていて、その後も『GUNDAM EVOLVE 5 RX-93 νGUNDAM』(2003)、『RX-93ff νGUNDAM from SIDE-F』(2022)など、複数の作品に参加しています。『閃光のハサウェイ』第1章(2021)ではCGディレクターを務めました。
2020年末にルーデンスの代表を退任し、現在はフリーのCGディレクターとして活動しています。2026年度からはデジタルハリウッド大学大学院の特命教授にも就任したので、自分の経験を若い方々に伝えていきたいと思っています。
本作の第1章はルーデンスのチームと一体になって制作に当たれましたが、『キルケーの魔女』はその前提がない状態での参加でした。自分の直下に制作チームをもたない中で、制作体制をどう組むかを考える必要がありました。
CGW:そんな中で、IKIF+がCG制作の主幹スタジオとして入ってきたわけですね。
増尾:実際にCG制作を主導する現場として、IKIF+に入ってもらうかたちになりました。MSは3ds Maxのリグ構造に依存する部分が多く、どうしても3ds Max主体で進める必要がありました。そのため私は大型輸送機や一般車両などのメカ、海面表現、背景のカメラマップといった作品の世界観を支える要素を中心に、自分のメインツールであるHoudiniで検証・コントロールしていきました。
CGW:濱中さんはそのIKIF+のCGプロデューサーとして『キルケーの魔女』に参加されています。濱中さんも長年CG制作に携わっていますね。
濱中 裕氏(以下、濱中):私は2000年頃にCG業界に入り、最初期には『メトロポリス』(2001)や『イノセンス』(2004)などにカット制作者として参加しました。その後、徐々に役割がCGプロデューサー側にシフトし、現在は全体の進行や体制を見ながら、最適な進め方を判断しています。『キルケーの魔女』でも各工程を横断しつつ、社内外の調整を担いました。
CGW:村瀬修功監督作品の『虐殺器官』(2017)でも、お2人はご一緒されていますね。
濱中:『虐殺器官』では増尾さんがCGディレクターで、IKIF+もCG制作に参加していました。そのときの経験が『キルケーの魔女』の体制にもつながっています。
増尾:濱中さんとは『虐殺器官』で一度ご一緒しているので、村瀬監督としても「この座組みなら安心できる」と思われたのでしょう。
CGW:増尾さんのガンダムCG制作の長年の蓄積と、村瀬監督作品での協働経験、その両方を前提にした体制だったわけですね。
濱中:お声がけいただいたのは2021年夏頃で第1章の公開直後でした。ただ、その時点では全体の物量も、どれくらいの人員が必要かも、正直まだ見えていませんでした。そこから体制をつくりながら、徐々に本制作が動き出していった感じです。
増尾:当初は到達地点が見えないまま手探りで作業を開始せざるを得ず、五里霧中でしたよ(笑)。そんな中で、IKIF+との共同作業の経験があったことは安心感につながりました。
CGW:その体制の下で具体的にどのような画づくりが行われていったのか。ここからは3DLOを起点に順を追って伺っていきます。
Vコンテと3DLOを基盤とした制作フロー
CGW:まずは本作の3DLOに注目したいと思います。Vコンテの段階からかなり完成度が高いですね。
ヴァリアント甲板における、腕立て伏せカットの3DLO事例
増尾:本作では多くのシーンで村瀬監督がCinema 4D(以下、C4D)とAfter Effectsを使ってVコンテを組み、構図やカメラワーク、ライティングの方向性まで含めて設計しています。それを基に絵コンテを起こし、3DLOとして具体化していくながれです。
第1章に続き『キルケーの魔女』でも3DLOは主にサブリメイションが担当しました。この段階でカメラ位置やパースに加えて、キャラクターの配置や動き、背景との距離関係まで確定させています。この3DLOが作画や美術の基準になるので、どこに何があり、どう見えるのかを曖昧なく共有できる状態にしておく必要がありました。
CGW:絵コンテに先行してVコンテをつくり込むワークフローはかなり珍しいですね。
濱中:そうだと思います。このVコンテや3DLOがあることで全体の認識を揃えやすくなりました。各セクションが同じ空間やライティング情報を前提に作業できたので、工程をまたいでもズレが出にくかったです。
ヴァリアント甲板における、突入訓練カットの3DLO事例
CGW:ここまでの話をふまえると、本作のVコンテと3DLOはかなり踏み込んだ検証工程でもあったわけですね。
濱中:単に構図を決めるだけでなく、そのライティングや動きが成立するかを先に確認する工程になっていました。この日時の太陽の位置はどこか、キャラクターは何歩でドアに到達するのか、ドアの開閉時に干渉しないか、といったところまで3D上で詰めています。
CGW:静止状態ではなく、時間軸込みで見ている。
濱中:はい。先に光源を設定し、芝居を付けて、その結果を基にカメラワークを決める進め方が多かったです。
CGW:となると、Vコンテ段階でキャラクターやセットの3Dモデルも必要になる?
濱中:そうです。背景やメカに加えて、主要キャラクターのVコンテ用モデルも用意していました。髪型まで造形したローポリゴンで、キャラクターごとにプロポーションが異なり、股関節の位置も個別に設定している。体型の当たりがそのまま取れる状態です。これにポーズや動きを付けた上で、カメラワークを決めていました。
CGW:かなり前段で完成形に近い状態をつくっていますね。
増尾:第1章でも一部のシーンで同様の試みをしていましたが、『キルケーの魔女』ではほとんどのカットがこの進め方になりました。Vコンテや3DLOをつくっていないシーンの方が少ないと思います。
CGW:本作では、C4D、LightWave、3ds Max、Houdini、Blender、Unreal Engineなど、様々なソフトウェアを使っていますよね。データ変換が大変だったのでは?
濱中:大変でしたが、特にVコンテや3DLOで設定したカメラデータは必須だったので、最終的にはFBXでやり取りしました。このカメラ情報を基準にしないと、後のカット制作が成立しなかったんです。
CGW:目で見て合わせることはできない?
増尾:無理ですね。村瀬監督自身がC4D上でカメラ位置を決めているので、それっぽく合わせても確実にバレます。
濱中:「私が撮ったものじゃないでしょう」と言われます(笑)。「消失点の位置がちがう」といったことまで指摘されるので、ごまかしは効かないです。
増尾:第1章のとき、他の人に任せると意図通りにならない部分があったので、『キルケーの魔女』ではなるべくご自分でやる方針にしたんだと思います。おかげで村瀬監督の意図がダイレクトに反映されたし、後工程での修正は減りましたが、現場の待ち時間は増えました。理想を言えば、村瀬監督が5人いてくれたら良かった(笑)
内部構造まで成立させる、ビッグ・キャリアーの設計
CGW:こうした3DLOベースの制作は、ビッグ・キャリアーのような大型メカを使ったシーンでも同様だったのでしょうか。
増尾:基本的なながれは同じですが、ビッグ・キャリアーは大型輸送機なので、外観の曲面構成と内部構造の両方を同時に成立させる必要がありました。今回はグスタフ・カール00型4機を搭載する前提だったので、外から見たときのフォルムだけでなく、内部の格納スペースや動線まで含めて整合性をとる必要があったんです。
ビッグ・キャリアーへの、MS積み込みシーンの3DLO事例
CGW:実際に運用できる構造になっているか、検証しながら造形したのでしょうか?
増尾:そうです。スロープからのMSキャリアーの搬出入や貨物室内での配置、コックピット周辺の動線まで含めて、実際に成立するかどうかをHoudini上で検証しています。デザイン画の段階では成立しているように見えても、複雑な構造物は2Dだけでは判断しきれない部分があります。実際に3D空間上で組み上げて、動きや干渉を含めて確認していく必要があるんです。
ビッグ・キャリアーのパイロットシート周辺の設計もシビアで、シート脇を人が通れるのか、操作系と干渉しないのかといったところはかなりギリギリを攻めています。こういう部分は3D上で動かして確認しないと判断できません。空間に余裕をもたせれば人や機材の動線は確保しやすくなりますが、それではミリタリーものとしての実在感が弱くなる。狭いところは狭くあるべき、というのが基本的な考え方です。
CGW:そういうリアリティを重視した画づくりや演出が、『キルケーの魔女』では第1章以上に徹底している印象があります。
増尾:昔のアニメでは四畳半の部屋が十畳くらいに広がって見えるようなこともよくありました。でも村瀬監督や私はそれがどうしても気になっていたので、今回はスケール感を崩さない方向で設計しています。ただし全てを物理的に正しくすると、今度は画として成立しないこともある。なので、嘘をつくべきところはつきます。ただし闇雲に変えるのではなく、何をどこまで調整するかをコントロールする。その判断をするためにも3Dでの検証は欠かせない工程でした。
海面表現に求められた"芝居"と省力化設計
CGW:ビッグ・キャリアーでは内部構造まで含めた整合性が重要だったわけですが、海面表現でも単に「それっぽく見えればいい」では済まない難しさがあったのでしょうか。
増尾:ありました。むしろ海の方がカット数が膨大なぶん、別の意味で厄介でした。ヴァリアント周辺だけでも相当な数があって、全体では海が絡むカットは160くらいあると思います。これを全部カットごとに最適化していく、いわゆるカットオリエンテッドなやり方だと、時間もコストも到底もたない。だから最初に考えたのは、「どうやって省力化するか」でした。
そこで、流用できる素材はできるだけ流用する方針にしました。カメラ高、進行方向、速度、光源方向のちがいごとに条件を整理して、汎用的に使える海面素材をつくっていく。大事なのは単に使い回すことじゃなくて、流用しているとバレないギリギリを探ることなんです。だから、「これとこれは共用できるはずだ」という判断を私の方でして、共用可能な素材のリストをつくっていました。遠景の白波からヴァリアント周辺の船首波や航跡波まで、基本的には同じ発想でやっていました。
海面表現における、汎用素材の活用事例
CGW:一方で、海という題材そのものにも、表現上の難しさがありますよね。
増尾:そうですね。CGによる水の表現には大きく分けると2つの方向性があります。1つはボリュームデータとして扱う方法。もう1つはパーティクルの集合体として扱う方法です。ただ、いくら映画とはいえ、ひたすらボリュームのシミュレーションをやっていたら終わらない。だから水にしっかり"芝居"を付けたいカットではボリュームを使い、それ以外の部分はパーティクルのしぶきで処理する、という使い分けになります。そこがまず大前提でした。
ただ、ここで厄介なのはシミュレーションに手を出すと、多くのCG制作者がシミュレーション自体に取りつかれてしまうことなんです。物理的に正しく計算されていれば、それが正しい画だと思ってしまう。でも正しくシミュレーションすればするほど、画がつまらなくなることは普通にある。私たちは別に科学実験をしているわけじゃないので、本当に優先すべきなのは、物理的に正しいかどうかではなくて、画として良いか、面白いかなんです。そこに手間をかけるべきだし、逆に優先度の低い部分は簡略化して処理した方がいい。そのさじ加減が一番難しい。
私はCGを始めた頃から、ずっとそういう感覚でやってきました。黎明期のCGは本当に無能で(笑)、やりたいことなんかほとんどできなかった。だから、どれだけシステムをだまして、嘘をつかせて、最終的な画をつくるかをずっと考えてきたんです。今みたいにシステムが整って、ボタン一発でそれなりの画が出てくる状況はむしろつまらない。AIも含めて、世の中全体がそちらに進んでいる感じがしますけど、私はむしろそのながれに逆行したいと思っているくらいです。
CGW:その考え方が、『キルケーの魔女』の海面表現にも表れていると感じます。
増尾:海面が画に馴染むかどうかって、単に海面そのものの出来だけでは決まらないんです。やっぱりスケール感の影響が大きい。例えばヴァリアントの場合、船である以上、船が立てる波、船首波、航跡波が自然に存在しているからこそ海が画に馴染む。逆にそういう要素を考えずに何となくつくったものは絶対に馴染まない。
ヴァリアント周辺についてはまさにそのための個別の調整が必須で、主にNHKアートにお願いしていました。汎用素材も上手く併用しつつ、近景の目立つところはカット単位で詰めないと画がもたなかったので、切り分けながら進めていただきました。
ヴァリアント周辺の白波・航跡波の制作事例
CGW:そんな中で、海面表現の基準になったカットはあったのでしょうか。
増尾:強いて言うなら、ロドイセヤの残骸が出てくるあたりの海面カットですね。東映アニメーションにやってもらったカットで、最初のテイクからかなり良かったです。あれがひとつの基準になって、「この方向ならいける」という手応えを得られました。帖佐太郎さんによる地上部のカメラマップの出来も非常に良くて、その意味でもひと安心できたポイントでした。
ロドイセヤ周辺の海面カット
増尾:一方でゲッチンゲン・ハウス周辺の波打ち際は、ルーデンス時代の旧知のスタッフに対応してもらいました。あの細かな波はなかなか上手くいかなくて一度は諦めかけていたんですが、お願いしたらこともなげにつくってくれた。見たときに「ああ、自分が最初にイメージしていたのはこれだったんだ」と思いました。
CGW:そこまで差が出るものなんですね。
増尾:出ますね。もちろんCG的な技量も必要なんですが、結局いちばん大きいのは絵心だと思っています。ルーデンス時代にスタッフを育てていたときも、私が見ていたのはそこでした。自分は理科の好きな絵描きだと思っていますけど、だからこそ絵心があるかないかは天と地ほどちがう。クオリティの差を分けたのはCGソフトの操作以上に、どう見せれば画になるかを判断できるかどうかだったと思います。
ゲッチンゲン・ハウス周辺の波打ち際カット
増尾:海は、全編を通して出続ける要素だからこそ、全部を均一に力で押し切ることはできませんでした。どこを共用し、どこを個別に詰めるか。その上で、どこに芝居を与えて、どこでは嘘をつくか。今回ずっと考えていたのはそういうことだったと思います。ヴァリアント周辺の海を今見返すと、作業中に思っていたよりはずっと馴染んでいる。もちろん、もっとやれたはずだという思いはありますが、少なくともこういう設計の積み重ねがあったからこそ、最終的な画面にもち込めたんだと思います。
IKIF+が掴んだ、終盤アクションの"勘所"
CGW:一方で、IKIF+として特に手応えを感じたのは、どのあたりだったのでしょうか。
濱中:やはりSector 6のエアーズ・ロック(ウルル)戦中盤、Ξガンダムがアリュゼウスを追い詰めていくあたりですね。中でも、アリュゼウスを地面に叩き付けてから、ビーム・ライフルを何発も撃ち込むカットは印象に残っています。MS同士が取っ組み合っている、かなり珍しい場面でもありましたし、最後の最後まで苦労しながら皆で頑張ってつくった箇所でもありました。
CGW:このあたりまで来ると、かなり勘所を掴めていた?
濱中:そうですね。IKIF+が一番初めに着手したのは、同じSector 6でももっと前半の、Ξガンダムがエアーズ・ロック下方から飛び立つカットや、グスタフ・カール00型と戦うシーンでした。あの頃は「何をもってOKになるのか」がまだ見えきっておらず、かなり手探りでした。そこからチェックを重ねる中で村瀬監督が何を求めていて、金子祥之さん(CG演出)や、中谷誠一さん(メカニカル総作画監督)、玄馬宣彦さん(メカニカルスーパーバイザー)がどこを見ているのかが少しずつわかってきた。その積み重ねの先にあったのがこの終盤のアクションカットだったと思います。
CGW:藤江智洋さん(サンライズ第1スタジオ・CGディレクター)が監修した、第1章のMS戦という高い基準もあった。
濱中:ありました。第1章という非常に大きなベンチマークがある中で、なかなかOKをいただけない状況がしばらく続いていました。チェックを通らないとアニメーションの仕上げ工程に入れず、スケジュールの見通しも立てられなかったです。加えてエアーズ・ロック戦の背景はUnreal Engineでレンダリングする計画だったので、最終的に合体したときの画が自分たちにもまだ見えきっていなかった。目指すべきクオリティラインが終盤まで見えづらかったという反省はあります。
CGW:その中で、このカットはひとつの到達点になった。
濱中:そう思います。IKIF+だけで完結したわけではなく、他スタジオの方々にも協力していただきました。その頃には他社も含めてだいぶ勘所が共有されてきていて、連携しながら画を詰めていける状態になっていた。そういう意味でもこのカットは後半になってようやく発揮できたクリエイティビティの成果だったと思います。
Ξガンダムがアリュゼウスを追い詰める、終盤カットの変遷
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▲初期テイク。ビーム・ライフルの発射回数は6回で比較的少なく、アクションの密度もまだ抑えめだった -
▲アニメーションの完成テイク(撮影入れ前)。村瀬監督・CG演出・メカ作監などのチェックを経て、ビーム・ライフルの発射回数が11回に増え、全体の攻撃性と密度が引き上げられている
CGW:初期テイクと完成テイクを比べると、ビーム・ライフルの打ち込み回数が全然ちがいますね。
濱中:絵コンテでは「ここで何発か撃つ」と書かれていただけだったので、5〜6発くらい撃てば十分だろうと思っていたんですが、チェックの際に「もっと多く撃ってほしい」という指示をいただきました。「こんなにボコボコにするほど殺意が高いんだ」と驚きましたね。
序盤はリアルな戦闘機のような空中戦だったんですが、終盤に行くほど、どんどん肉弾戦寄りになっていきました。物理的に殴り、叩き付け、その上で撃ち込む。その方針の下でアニメーションもエフェクトも足されていき、最終的に画面全体がどんどん派手になっていきました。
『キルケーの魔女』を経て見えてきた、次の課題
CGW:ここまで伺ってきて『キルケーの魔女』は、村瀬監督の求める画と、それを実現するための制作体制や技術がかなり高いレベルでせめぎ合った作品だったことがよくわかりました。最後にこの経験が今後にどうつながっていくのかを聞かせてください。
濱中:今回の制作を通して、本当にいろいろ勉強しなければならないと痛感しました。私たちはこれまで、3ds MaxとPencil+ 4をベースにしたセル調のCGの仕事を数多くやってきました。ただ今回はそれだけでは応えきれない要望がかなり多かった。もっと本格的な光の計算まで含めたCGの考え方を取り込んでいかないと、村瀬監督が望んでいる表現には届かないのではないかと感じました。
CGW:具体的には、どのあたりが難しかったのでしょうか。
濱中:例えば、間接光が回り込まないとか、影が上手く出ないといった指摘ですね。突き詰めるとグローバル・イルミネーション(以下、GI)的なものを求められているのだと思います。ただ、だからといって単純にGIにすればいいわけでもない。計算量の問題もありますし、アニメ作品におけるロボット表現そのものを考え直さないといけない。情報量を増やして正確にすれば、それでカッコ良くなるわけではないんです。
増尾:まさにそれですね。
濱中:特にアリュゼウスのような線の多い機体は、真面目に光を当てると全部の線が出てきてしまって、かえって気持ち悪くなるし黒つぶれもしやすい。ディテールの多いデザインなのですぐ破綻するんです。その中で、ディテールは引き算しつつ、必要な情報は残っていて、なおかつカッコ良く見える状態を3Dライティングでどう再現するか。そこは今後の大きな課題だと思っています。
CGW:村瀬監督が求めていたのは、シンプルなセル調でも、リアルなGIでもない、中間的な画なんですよね。
濱中:そうなんです。シンプルなセル調だとどうしても明るい面と影の面がゼロイチで分かれてしまう。でも村瀬監督が求めていたのは「この辺には0.5の明るさがあるはずだ」というような、中間的な陰影でした。とはいえ全部をGIのグラデーションで処理すればよいわけでもない。最終的にはセル寄りの表現を求めているんですが、従来のセル調のロボット表現にそのまま寄せれば済む話ではないと感じています。もし第3章に関わらせていただけるのであれば、そのあたりは大きな課題になると思います。
CGW:一方で増尾さんは、『キルケーの魔女』を通して、技術的にはどこにいちばん課題を感じましたか。
増尾:自分が改めて痛感したのは、やっぱりソフトウェア間の垣根をどう越えるか、ということですね。本当は画をつくることにしか興味がなく、ワークフローそのものに興味があるわけじゃないんです。でも実際には、そこが一番大切なんだと思いました。そこが自由にならないと本当の意味での画づくりの自由は得られない気がします。
CGW:それぞれが使い慣れたソフトウェアをもっている以上、それを尊重しながらデータが素直に行き来できるしくみが必要になる。
増尾:その通りです。特に今回は、村瀬監督の頭の中にかなり明確な画があって、それをC4D上でご自分で組んでいるわけですから、なおさらですよね。初期にはUSDの導入も検討しましたが、セキュリティ要件や実運用上の制約があって断念しました。もっと良い方法がないかと模索しています。
CGW:そのあたりも含めて、『キルケーの魔女』は単なる1本の作品づくりに留まらず、今のアニメCGの可能性と課題を強く浮かび上がらせた作品だったと言えそうです。本日は、貴重なお話をありがとうございました。
INFORMATION
CGWORLD vol.334(2026年6月号) 特別企画
映画『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』
村瀬演出と3DCGの現在地
3Dレイアウト、モビルスーツ、美術、特殊技術撮影の全記録
<記事構成/全21ページ>
PART 01 村瀬修功監督 インタビュー
絵コンテ前に3D空間内で光まで設計
PART 02 CGディレクション
(CGディレクター・増尾隆幸氏)
PART 03-1 MSモデリング
(CGモデリングディレクター・石田龍樹氏、CGプロデューサー・濱中 裕氏(以上、IKIF+))
PART 03-2 MSアニメーション
(CGリードアニメーター・柴山一生氏(IKIF+))
PART 03-3 Unreal Engine
(CGアニメーター・佐藤博行氏(IKIF+))
PART 04 美術
(美術監督・大久保 錦一氏、美術監督補佐/ライティングデザイン・山口直人氏、(以上、タワークレーンスタジオ)、ライティングデザイン・村田裕斗氏)
PART 05 特殊技術撮影
(特技監督・上遠野 学氏)
5月9日(土)発売。CGWORLD SHOP、Amazonにて予約受付中です。
TEXT&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
文字起こし_大上陽一郎/Yoichiro Oue
PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota










