昨冬に大団円を迎えたアニメ『僕のヒーローアカデミア』。そのゲーム化最新作が『僕のヒーローアカデミア All’s Justice』だ。高い原作再現度と膨大な参戦キャラ数を誇る本作の舞台裏を開発チームに聞いた。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 331(2026年3月号)からの転載となります。
シリーズ3作目で挑む、最終決戦の熱量の完全再現
本作は、バンダイナムコエンターテインメントとバイキングのタッグによる『僕のヒーローアカデミア(以下、ヒロアカ)』家庭用ゲーム化第4弾だ。
「前2作の『One's Justice(以下、OJ)』シリーズから副題とナンバリングを一新し、『対戦アクションの枠を超えた没入体験』の創出を目指しました」とバンダイナムコエンターテインメントのプロデューサー、宮﨑 あおば氏は本作のテーマを語る。
プロジェクトがスタートしたのは2021年。原作漫画はいよいよクライマックスへと差しかかろうかという時期であり、本作もその最終決戦の熱量をいかにゲームで表現するかが企画の焦点となった。
販売:バンダイナムコエンターテインメント
開発:バイキング
リリース:発売中
価格:7,700円(通常版)ほか
Platform:PS5、Xbox X|S、PC(Steam)
ジャンル:ヒロアカ対戦アクション
mhaaj.bn-ent.net
©堀越耕平/集英社・僕のヒーローアカデミア製作委員会 ©Bandai Namco Entertainment Inc.
ビジュアル面では、アニメの魅力を忠実に再現しつつ、Unreal Engine 5(以下、UE5)の最新機能を活用した現世代機向けのリッチな表現を追求。
バイキングのリードデザイナー・岩崎武徳氏は本作での挑戦のひとつとして、「前作までの知見をベースとしつつも、描画プログラマーが初期から参画し、最新エンジンの機能を活かしたリッチなトゥーンルックを追求しました」と語る。
特に、アニメ特有の「手描き感」を再現するための独自シェーダ開発や、Niagaraによる高密度なエフェクト表現は、本作の技術的な大きな柱となっている。
所属:★バンダイナムコエンターテインメント、◎バイキング、◆シリコンスタジオ
プレイアブルのキャラクターだけでも68体という過去最大の物量をこなすため、ベースモデルの流用が利きやすい制作フローを構築するなど効率化を推し進める一方、前作までに登場したキャラクターたちの3Dモデルにも全面的なブラッシュアップを実施。
また、そうしたビジュアルを躍動感と共に描き切るために、バイキング社内にとどまらずシリコンスタジオなど各社からスタッフが集結し、原作さながらの総力戦の様相となっている。ではその具体的な取り組みをみていこう。
アニメと並んでも違和感のないモデル制作
UE5上で追求する「作画」の存在感
本作のモデル制作において一貫した指標となったのは、「アニメの設定画と並べても違和感がないこと」、そして「キャラクターモデルを見て、アニメだな、と思えること」だったと、リードキャラクターモデラー・砂賀拓也氏は語る。
この目標を達成するため、各モデラーはUE5上の作業画面とアニメの設定画を常時比較しながらルックを調整。パーツのバランスからディテールにいたるまで、徹底的にアニメとの差異がないように制作が進められた。
前作までに登場したキャラクターについては、流用による効率化を図りつつ、こうした効率化で確保したリソースでクオリティを追求。必要に応じて顔モデルをゼロからつくり直すなど、前作を超える原作再現を目指した。
また、怪我や衣装の損傷といった外見変化が激しい原作の展開に対応するため、ベースモデルは設計段階からこれらのバリエーション制作を前提とした構造を採用。ストーリーパート用モデルの制作ワークフローも簡潔化されている。
一方、本作からの新規キャラクターについては、アニメと原作から印象的な表情を抽出してその「平均値」をデザイン画として起こし、モデリングの指針とする手法が採られた。ここでも既存モデルの資産を最大限活用し、新規制作の工数を抑えることで膨大な物量に対応している。
また、『ヒロアカ』の特徴のひとつである力強い輪郭線は、背面法によるアウトラインと、ポストプロセスによる輪郭線を併用して表現。頂点カラーを参照して太さを制御するしくみを構築したことで、キャラクターごとに最適なラインを描画することが可能となった。影表現についても、影の制御用テクスチャでRGBAのカラーチャンネルを参照するようにしており、これを活かしたデクの"個性"演出は「本作でやってみたかった」ことのひとつだという。
LODについてはUE内のSimplygonによる自動生成を活用。自動化ゆえのモデルの崩れを回避するため、細かなディテールをポリゴンでつくり込まずにテクスチャ表現に集約するなど、最適化を見据えたデータ設計が徹底されている。
アニメの印象に近づけるモデル制作
前作と本作における既存キャラクターモデルの比較。アニメの最新作画に合わせ、ブラッシュアップが施されている。
▲麗日お茶子の全身とバストアップ。コスチューム細部の造形更新に加え、首回りの影や髪などのディテールが向上
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▲一方、今作初参戦となる「オール・フォー・ワン 混沌」は、制作着手時にアニメ設定画が存在しなかったため、原作漫画をベースにデザイン画の作成からスタートした。死柄木弔のモデルをベースにレタッチで作成したデザイン画。この段階ではベースモデルの筋肉質な体格が残っている -
▲監修を経て完成した最終稿。メッシュ調整により筋肉のボリュームを削ぎ落としたほか、目元や顔の造形を微調整
RGBAチャンネルを活用した影の制御
本作の陰影はメッシュ形状とシェーダによるリアルタイム計算を基本とするが、デクの“個性”「ワン・フォー・オール(OFA)」発動時など、演出上の意図で特定の影が必要な場合は、顔・目・髪・首の4部位で影制御用テクスチャを用いた特殊制御を行う。
シャドウマップはRGBAの各チャンネルに個別の制御情報を保持させており、基本の影範囲指定にはGチャンネルを使用。さらに、状況に応じて参照するチャンネルを切り替えることで、特徴的な影の出し分けを可能にしている。
ゲーム映えを追求した派手なモーション
アニメの忠実な再現と「ケレン味」の融合
アニメと異なり、プレイヤーが自由にカメラを操作できるゲーム環境では、キャラクターの表示が相対的に小さくなる。そのため、アニメの動きをそのまま3Dモデルに適用すると、画面上で「寂しさ」や「物足りなさ」を生じがちになる。本作ではそういった問題を避けるため、原作の動きを参考にしつつ、ゲーム画面で映える大きく派手なアクションを全て手付けで作成。
「ゲーム上での手触り感についても、キャラクター性を損なわないように気をつけつつ、技としての魅力を引き出せるように実装後に調整を入れました」(リードモーションデザイナー・下田桂資氏)。
フェイシャルアニメーションについても、前作からボーン数を大幅に拡充。会話劇やドラマシーンが大幅に増加した本作のニーズに応え、より豊かな感情表現を可能にした。制作フローとしては、各キャラクターのベースとなる表情セットをあらかじめ用意し、状況に応じて必要な表情パターンを制作する手法を採っている。
髪や衣服などの揺れもの制御には、主にUE5のChaos Clothによる物理演算を採用。ただし、激しいアクションなど物理シミュレーションのみでは制御が困難な部位については、手付けのアニメーションと物理演算をブレンドして処理することで、破綻のないダイナミックな動きを実現している。
これらのセットアップを支えるのが、Maya用のリギングツールmGearだ。プレイアブル68体、非プレイアブルを含めると100体を超える膨大なキャラクターに対応するため、mGearをベースとした汎用性の高いリグ構造を構築。各キャラクター固有のボーンに対しても、専用のリグを追加して柔軟に対応できるワークフローを確立した。
mGearをベースとしたリギングワークフロー
キャラクターのセットアップにはMaya用リギングツールのmGearを採用。NPCを含めると100体を超えるキャラクターを効率的に制御するため、共通構造をベースとしつつ、個別の特徴に応じたカスタマイズを行なっている。
派手さを重視したモーション
本作のアニメーション制作はキャプチャを使用せず、全て手付けで行われている。Maya上で制作し、UE5上でどう見えるかを確認しながら、原作から逸脱しすぎずゲーム画面で映えるように調整していく。
表現力を底上げするフェイシャルの拡充
原作漫画やアニメの豊かな表情を再現するため、既存キャラクターもボーン数を大幅に増やしている。
▲表情パターンの例。ボーン密度の向上により、作画的な誇張を交えた複雑な表情も、モデルの破綻なくスムーズに表現可能となった
クオリティと破壊を両立する背景
高速戦闘の最中もfpsを維持する描画のしくみ
本作の背景は、広大な「街ステージ」と「対戦用ステージ」に大別される。制作フローは、企画者が準備した仕様書から始まり、ゲームとしてのレベルデザインと原作で印象深いロケーションから仕様を作成し、関係各所と調整の上でラフアートやモックを経て本制作へと移行する。
リードレベルデザイナー・駒形和重氏によると、ビジュアルは基本的にアニメ準拠だが、進行の都合上ゲーム開発がアニメよりも先行してしまう場合は、キャラクターモデルなどと同様にゲーム側で原作漫画から設定を制作することもあったという。
マテリアル表現については、開発初期よりPBRの採用を決定。まず必要になりそうなマスターマテリアルを複数用意し、設定や修正に合わせて追加を重ねていったという。また、状況によって機能を切り替えたい場合はスタティックスイッチを、雨に濡れるなどの質感変更にはマスターマテリアル内のノードに作成されたパラメータの切り替えを用いている。
また、本作のステージには様々な破壊物が設置されており、道路のアスファルト面などの賑やかし的なものや、破壊することでステージ形状に大きな変化をもたらすものまで多岐にわたる。
破壊表現にはUE5のChaosDestructionを使用。一度に多くの建造物を破壊した際などにフレームレートが低下するのを防ぐため、Chaos Cacheを用いて破壊挙動を事前に記録・再生する手法を採り、多数のオブジェクトが同時に崩壊するシーンでも安定したフレームレートを維持している。
さらに、描画パイプラインにも独自の最適化が施された。多くの描画オブジェクトにディザ抜きを適用する一方、アルファ抜きが必要な特殊オブジェクトを除き、BlendModeがMaskedであっても軽量版のVertexOnlyシェーダがアタッチされるようエンジン側をカスタマイズ。
「エンジン側で吸収できる手法なので、アーティストに追加工数を発生させずに描画負荷を下げる、非常にコストパフォーマンスの良い最適化が実現できています」と、SPARK CREATIVEのレンダリングプログラマー・小林新汰氏。こうした描画プログラマーによる細部へのアプローチが、高速戦闘を支えるパフォーマンスの礎となっている。
ステージ制作のワークフロー
ステージ制作の工程。仕様書に基づいたモックアップから始まり、各セクションとの調整を経て完成度を高めていく。
▲最初期段階のモック。地形の起伏や戦闘エリアの距離感を検証するためのラフな構成
マスターマテリアルによる質感の動的制御
▲通常時と「氷漬け」状態の比較。ビルの表面を覆う氷などは、マテリアル内のパラメータを切り替えることでシームレスかつ劇的な質感変化を実現している
戦略的役割に応じた破壊オブジェクトの設定
本作において破壊は単なる演出に留まらない。
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▲バトルの戦略に関わる破壊物。通常時は遠距離攻撃を防ぐ遮蔽物として機能するが、強化モード「ライジング」時のみ破壊可能となる -
▲同じく戦略に関わる破壊物。専用演出付きの攻撃であるカウンタークラッシュをカプセル内で行なった際に初回限定で建物の破壊演出が発生する
「アニメの画」を演出するエフェクト・ライティング
作画の質感を保ちつつリッチな空気感を魅せる
本作のビジュアルは、2Dアニメ特有の表現を3D空間にいかに落とし込むかという挑戦の連続であった。その中核を成すエフェクトとライティングにおいても、最新技術の導入とアナログ的な感性による調整が数多く積み重ねられている。
エフェクト制作はUE5のNiagaraをメインに、Houdiniによるメッシュ制作やEmberGenでのテクスチャ生成を組み合わせるかたちで構築。キャラクターたちの多種多様な“個性”を表現するにあたっては、生成した連番テクスチャの再生速度をあえて制御することで、アニメ特有のコマ打ちの質感を擬似的に再現。マテリアル側でのディゾルブ処理による段階的な透過や色変化を併用し、手描きのような質感へと近づけている。
また、『ヒロアカ』で特徴的に使用されるアメコミ風の描き文字演出も、アニメの演出に準拠するかたちで実装。「パーティクルの量と重なりを可能な限り避けつつ、密度が足りない場所などに文字エフェクトを配置することで、負荷を抑えつつ画面が簡素に見えないような画づくりを意識しました」と、リードVFXデザイナーを務めた黒田将大氏(GOLD ELEPHANT)は語る。
ライティングにおいてはUE5のLumenを導入し、ライティングベイクのコストを大幅に圧縮した。キャラクターにGIを乗せるとPBR寄りの画になってしまうため、キャラクターにはGIを乗せずに純粋なライティングで表現している。
また、ライジングや必殺技の演出時などキャラクターの顔をよく見せたいカットに対応するため、各キャラクターには顔・髪・身体の3箇所に個別の専用ライトを配置。カットごとにその向きや強度を微調整することで、太陽光の向きに縛られない「物理的には正しくないが、アニメ的に正しい影」が生じるように設計されているという。
多様なツールで生み出す手描きの質感
エフェクト制作には、UE5のNiagaraを主軸に、Photoshop、After Effects、FluidNinja、Houdini、EmberGenなど多種多様なツールが投入されている。
“個性”を際立たせる色調制御
数ある“個性”の中でも、特に炎の表現にこだわったというエンデヴァーの「ヘルフレイム」。技のメイン部分のエフェクトには、色階調を数段階に制限するマテリアルを組むことで、トゥーン調の炎の表現を実現している。
アニメの雰囲気を再現するライティング
ストーリーやバトルを盛り上げる多彩なカットシーン
表現の最大化を図る柔軟な制作フロー
本作のカットシーンは、主に物語の節目を飾る「プリレンダーデモ」、UE5上でリアルタイムにストーリーを演出する「シーケンサーデモ」、そしてバトル中に挿入される「ライジング演出」の3種類で構成される。
シリコンスタジオが手がけたプリレンダーデモでは、インゲーム用とは一線を画す高精細な専用モデルとフェイシャルリグを投入。制作過程では、コンポジット工程の後にフェイシャルアニメーションを微調整するというフローが採られた。これにより、最終的な画づくりに完璧にマッチした細やかな表情表現を実現している。
「フェイシャルリグは、Advanced Skeltonをベースに調整しています」と、ストーリーデモシーンディレクター(プリレンダリング)を務めたシリコンスタジオの木内克典氏。
シーケンサーデモにおいては、企画側の字コンテから直接Vコンテを制作し、カメラワークや尺、タメ・ツメの調整を経てエフェクトを実装するという、あえて絵コンテ工程を省略した合理的な手法を採用。制作スピードと実機上での見映えを最優先した、現場主導のワークフローが確立されている。
一方、プレイ中に挿入される「ライジング演出」は、各作業者の裁量に大きく委ねられた。「約3秒の尺」「バトルの合間に顔をしっかり見せる」「ワンアクションから決めポーズへ」という基本ルール以外は、各担当者のセンスに一任。キャラクターの魅力を最大限に引き出すための専用ライトとポストプロセスが用意されており、ステージごとのカラーグレーディング設定に左右されることなく、常に最高のルックで演出が差し込まれるしくみを構築している。
「作成工程としてレベルシーケンサーでの調整のみで済むようにしており、色、文字のテクスチャ、ポストプロセスやブラシパターンなどのパラメータをシーケンサーに展開して、共通シーケンサーとキャラ固有のシーケンサーを組み合わせて実装しています」(レンダリングプログラマー・小泉萌江氏)。
クオリティを追求するプリレンダーデモ
シリコンスタジオが担当したプリレンダーデモの制作プロセス。
スピード感を重視したシーケンサーデモ
シーケンサーデモのワークフロー。スピード感を重視し、絵コンテを介さずVコンテ制作を先行させている。
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▲Vコンテ画面。この段階でカメラワークやアクションの尺、タメ・ツメといった演出の骨子を固めていく -
▲Maya上のシーケンサーデモ専用ツールを用いた作業画面。プレイブラストの管理やツールランチャーなど、様々な内製ツールが用意された
専用のライティングとポストプロセスによるライジング演出
CGWORLD 2026年3月号 vol.331
特集:デジタルファッション制作ハンドブック2026
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2026年2月10日
価格:1,540 円(税込)
TEXT_稲庭 淳 / Jun Inaniwa
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada