2025年9月19日(金)からの、日本での公開を皮切りに、世界で100以上の国と地域に広がった劇場版『チェンソーマン レゼ篇』。2022年に放送されたTVシリーズ同様、MAPPAの単独出資で挑んだ本作が、世界規模で熱狂を呼んでいる。このたび、MAPPAのCGIチームに取材を敢行。TVシリーズとは異なる切り口で、どのようにキャラクターの魅力を引き出し、クオリティを高めていったのか。その舞台裏を紹介する。

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    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 330(2026年2月号)からの転載となります。

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    Blenderをメインツールに変更してのキャラクター制作

    メインキャラクターごとに1,000枚以上の作画ガイドを提供

    劇場版『チェンソーマン レゼ篇』(以下、「レゼ篇」)は、藤本タツキ氏による漫画『チェンソーマン』(集英社)で連載当初から人気の高いエピソードを映像化した作品である。2025年9月の公開以来、観客動員を伸ばし、興行収入は2026年3月末時点で108億円を突破、大ヒットを記録している。制作は2022年放送のTVシリーズに続き、MAPPAが担当。劇場版ならではの密度で、都市を舞台に爆発を交えた派手なアクションと、登場人物の繊細な心の揺れを描き出した。

    劇場版『チェンソーマン レゼ篇』
    原作:藤本タツキ(集英社「少年ジャンプ+」連載)/監督:吉原達矢/配給:東宝/制作・製作:MAPPA
    chainsawman.dog/movie_reze
    Ⓒ 2025 MAPPA/チェンソーマンプロジェクト Ⓒ 藤本タツキ/集英社

    「レゼ篇」では「作画に寄せた3DCGを目指す」という方針自体はTVシリーズから継承した一方、CGチームのアプローチには変化があった。キャラクターに関しては、完成カットに3DCGをそのまま使わず、2Dのアニメーターに作画参考用のモデルを提供するという手法を採用。これに伴い、DCCツールは3ds MaxからBlenderに切り替えられた。レンダリングを挟まずに3D Viewportで検証ができる即時性や、作画スタッフへの素材の受け渡しにおける利便性が、Blender導入の決め手になったという。

    • 左より、CGIプロデューサー・淡輪雄介氏、3DCGモデリングディレクター・玉井真広氏
    • 3Dモデリング・石浦奏飛氏

    写真掲載なし:3DCGアニメーションディレクター・渡辺大貴氏(以上、MAPPA)

    CGIプロデューサーの淡輪雄介氏は「ツール自体が変わったため、続編という意識はあまりなかったかもしれません。新たな気持ちで挑みました」と制作をふり返る。なお、MAPPAがBlenderをメインツールに用いたのは、2025年春クールのアニメ『LAZARUS ラザロ』に続いて2作目となる。同作のスタッフが複数参加し、蓄積した知見を注ぎ込んだ。

    このため「レゼ篇」では、メインキャラクターの3DCGが完成映像に登場することはない。しかし、CGIチームが果たした役割は非常に大きかった。作画スタッフには、360度回転させたターンテーブルのムービーと連番画像を提供し、あらゆる距離と角度から参照できる体制を構築。リグも組み込まれており、Blenderを扱えるアニメーターであればポーズを自由に付けられる環境も整えられた。観客の目には直接映らないものの、クオリティを左右する“黒子” としてキャラクター表現を支えた3DCGの仕事を見ていこう。

    デンジやレゼのキャラクターデザイン

    キャラクターデザインは杉山和隆氏がTVシリーズから続投。「レゼ篇」のルックは、影付けや色味、原作がもつ表現を、より積極的に拾っている。

    • ▲杉山氏によるデンジのキャラクターデザインの決定稿。衣装や線の省略方法も描かれている
    • ▲本作のヒロイン・レゼ。チョーカーのピンや髪の巻き方の指定もある
    ▲レゼがボムに変身すると等身が頭ひとつ分高くなる。なお、チェンソーマンも同様

    作画参考用のCGモデル

    キャラクターデザインを基にCGモデルが制作される。まずテストとして、チェンソーマンの前作のモデルをBlenderに変換。TVシリーズでは電動ノコギリが回転するなど細部も表現されていたが、本作では作画参考用のため削除し、取り回しの良いフォーマットにされた。

    ▲杉山氏によるチェンソーマンのキャラクターデザイン
    • ▲チェンソーマンのCGモデル。素体はTVシリーズから流用し、はだけたシャツなどの差分のみ手を加えた
    • ▲ボムのCGモデル。こちらは「レゼ篇」のために新規に制作され、杉山氏やメインスタッフに作業画面を見せながらテイクを重ねた。「ディテールがあると逆に邪魔になってしまうこともあるので、作画さんのイメージを阻害しないように、細部ではなくプロポーションやバランスを重視して、情報を削ぎ落としていきました」(3DCGモデリングディレクター・玉井真広氏)

    CGモデルのターンテーブル

    ▲CGモデルが完成したら、ターンテーブル(回転)ムービーを出力する。1回転を100フレーム(1フレームあたり約3.6度)で設定し、全方位からキャラクターを確認できるようにしている。映像はバストアップのターンテーブルで、首や頭部、歯のラインなどがわかる

    CGモデルの連番画像

    さらに距離別のターンテーブルも作成し、各ムービーを100枚の静止画として連番で書き出した。胸から上のバストアップ、顔を大きく捉えたフェイスアップ、距離を取ったロングなど全10種類を用意し、各キャラクターにつき計1,000枚もの画像が制作され、作画スタッフに共有された。

    それらの中には、あおり(仰角)や俯瞰(俯角)など、手で描くのが難しい視点にカメラを置いた素材も含まれており、作画のクオリティコントロールに大きく寄与している。全てを紹介するのは難しいため、ここではチェンソーマンの左斜め前(45度)からの画像を距離ごとに一部掲載する。

    • ▲バストアップ
    • ▲フェイスアップ
    • ▲フェイスアップのあおり1
    • ▲フェイスアップのあおり2。カメラを低く寄せ、首元から見上げた印象を強めた
    • ▲フェイスアップの俯瞰1
    • ▲フェイスアップの俯瞰2。カメラを高く寄せ、頭頂部から見下ろす印象を強めた
    • ▲全身のあおり
    • ▲全身の俯瞰

    キャラクター表情集

    キャラクター表情集は、CGモデルの連番から杉山氏が任意の角度の画像を抜き出し、その上から手を加えて制作されたものだ。モデルはあくまで参考用のため、ディテール面での要求はなかったが、「手癖で描かないためにも、キャラクターデザインにはないアングルからの資料がほしい」というリクエストがあったことも、大量の連番を出力した理由となった。

    その中から、アニメで必要とされることの多いアングルの顔を抜き出し、総作画監督修正を入れるようにキャラクターのルックを整えていった。それもあって「レゼ篇」の表情集1枚あたりの作例は非常に多く、カメラが回り込むように描かれているのも特徴となっている。

    ▲レゼの3DCGモデルの正面(0度)
    • ▲背面(180度)
    • ▲右側面(270度)
    • ▲正面あおり
    • ▲右斜め前(315度)のあおり。顎を下から映した角度のため、作画の難度が高い構図である
    • ▲レゼの表情集。上段はあおり、下段は俯瞰のCGモデルに手を加えたことが窺える
    • ▲デンジの表情集。それぞれの表情が、レゼの表情集とほぼ同じ角度から描かれていることがわかる

    サメの魔人・ビーム(チェンソーマンライド)

    アクションシーンを中心に活躍するサメの魔人・ビームは、チェンソーマンが騎乗した状態のCGモデルも制作。実際にチェンソーマンが乗った場合の見え方を検証する目的も兼ね、座り乗りと立ち乗りの2種類が用意された。

    完成映像では、シーンの盛り上がりに合わせてビームの大きさが変化しており、アニメーターが違和感のない範囲で変化を付けている。それゆえに淡輪氏は「ビームの参考をどこまで活用するかは、作画陣の感性に委ねていますが……」としつつも、「アニメーションとしての『良い嘘』を成立させるためにも、やはり基準は必要になりますから」とコメント。演出的な誇張を成立させるベースとしても、CGモデルが有効に働いているというわけだ。

    ▲ビームのCGモデル。チェンソーマンが座り乗りしたバージョン
    ▲立ち乗りバージョン。チェンソーマンの足場が必要になるため、座り乗りに比べてビームのサイズが大きめに変更された
    ▲杉山氏が描いた作画参考。【上の2つの動画】はこれを基にチェンソーマンを乗せた検証用モデル、作画参考としてつくられた。同じように立ち乗りでビームが巨大化しており、「ビームの全体の大きさ、尻尾、頭の長さ、多少変えてもOKです!」という指示も添えられている。アクションだからこそ、サイズの一貫性よりも見映えを重視していたことがわかる

    ボムのセットアップ

    ボムのモデル制作とセットアップは3Dモデリングの石浦奏飛氏が担当。先行制作されたレゼのモデルを流用し、下半身はほぼそのまま使用することで、デザインの連続性を保ちつつ、制作スケジュールの短縮につなげた。上半身は、変身によって頭身が上がったことや、原作の表現に合わせて、レゼよりもボリュームをもたせているように見える。

    淡輪氏は「ボムはチェンソーマンと一緒に登場することがほとんどですから、そのバランスも含めての判断でしたね」と意図を明かす。顔や腕のモデルは新規に作成し、腕に巻き付いたケーブルはラインが綺麗に出るように注意が払われた。また、セットアップでは、ダイナマイト製の前垂れに力を注いだとのこと。モデル自体は円柱を組み合わせたシンプルな形状だが、杉山氏のキャラクターデザインにある「ダイナマイトの境で折れる」という指示の実装に苦労したという。最終的には、各段の境目で回転制御できるようにコントローラを配置し、各段の個別操作を可能にすることで解決した。

    ▲全身のリグ。BlenderのアドオンのAuto-Rig Proで生成し、頭や服、前垂れは個別で追加した
    • ▲頭部。口は自由に動かせる
    • ▲後頭部。爆弾の安定翼を思わせるトゲ状の意匠は、突起数の確認も含め時間を要した
    • ▲前垂れ。横一列に並べたダイナマイトを、縦に8段繋げた構造で、段と段の境目が可動する
    • ▲ポーズを付けた状態。前垂れがなびく瞬間を表現している。「モデルはあくまで参考用ですが、やはりポーズを付けられた方がアニメーターの方も便利だろうと思ったんです。固い素材を柔らかく見せるのが大変でしたね」(石浦氏)

    No.2に続く。

    CGWORLD 2026年2月号 vol.330

    特集:映像制作ニュースタンダード
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2026年1月9日
    価格:1,540 円(税込)

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    TEXT&編集_遠藤大礎 / Hiroki Endo
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
    EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada