2022年10月より放送されたアニメ『チェンソーマン』。MAPPA1社のみの出資で制作され、エンディングテーマは週替わりで楽曲が採用されるなど、独自の取り組みがアニメ業界の話題をさらった注目作だ。今回はそのCGメイキングを取材。主にモデリング、アニメーション、撮影パートを中心に、全4回に分けて紹介していく。

記事の目次

    ※第1~2回の記事はこちら
    MAPPAの技術力を結集させ超ハイクオリティを追求した話題作『チェンソーマン』(1)モデリング篇
    MAPPAの技術力を結集させ超ハイクオリティを追求した話題作『チェンソーマン』(2)アニメーション篇

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 295(2023年3月号)からの転載となります。

    Information

    『チェンソーマン』
    原作:藤本タツキ(集英社「少年ジャンプ+」連載)/監督:中山 竜/アニメーションプロデューサー:瀬下恵介/制作:株式会社MAPPA
    chainsawman.dog
    ©藤本タツキ/集英社・MAPPA

    シーンの空気感と雰囲気を匂い立たせるフィルタワーク

    「色や雰囲気を大切にしてほしいという要望があったので、背景が上がってきたときに、どうすれば“雰囲気が良くなるか”を常に考えていました」と語るのは、撮影監督を務めた伊藤哲平氏。本作の撮影工程は、コンテ撮、レイアウト撮、タイミング撮、本撮といった一般的なながれの次に、必ずフィルタ処理が追加されている。

    例えば、全体が青色の印象のカットであれば補色のオレンジ色を乗せるというように、色彩的な効果を用いて印象的なカットに仕上げている。こうしたフィルタ処理によって、場所や時間、季節だけでなく、登場人物の感情までも含んだシーンの空気感を演出しているのだ。

    ただしこうしたフィルタ処理は、数値や色彩のセオリーに則って機械的に適用するわけではない。監督とやり取りを重ね、意図を拾い上げて処理を決めていく。ここに、このフィルタ処理の難しさがある。伊藤氏は、監督の中にある感覚的なイメージを的確に拾い上げるため、監督の好む映画などリファレンス集めに奔走した。

    全体的な仕上がりとしては、実写の雰囲気に寄せてコントラストと彩度を抑えたシーンが多くなったが、アニメとしての良い部分を消さないように意識しつつ、生々しい映像に合わせた空気感をつくっている。「色のフィルタや画づくりにここまでこだわったことはなく、今回の経験で個人的なレベルがワンランク上がった感じがしますね」と話す伊藤氏。

    また、作画と3DCGのハイブリッド作品ならではだが、セルと3DCGの差が出すぎないように処理を乗せていく必要があった。そのためには作画的な素材を乗せる場面も多かったが、立体的なキャラクターであるチェンソーマンたちに対して、特殊効果などのセル素材は平面的に動くため、地道に追いかけていくという作業には苦労したという。

    ちなみに、作中唯一モザイク処理になってしまった7話の姫野の嘔吐物も伊藤氏の仕事だ。あまりのリアルな出来栄えにモザイク処理を余儀なくされてしまったそうだ。

    撮影のながれ

    本作では、アフレコに使用するコンテ撮やレイアウト撮までは協力会社へ依頼しており、MAPPAではタイミング撮から作業を行なっている。

    • タイミング撮。タイムシートを打ったキャラクターを背景に乗せた状態
    • フィルタ処理前の本撮。背景にぼかしなどをかけている
    フィルタ処理を乗せた完成画

    After Effectsでの撮影作業。

    • キャラクターにタイムシートを打ち、動画にする
    • キャラ処理をかけた状態。わかりづらいが、ラインが薄くなるなど質感が変わっている
    • 【キャラ処理をかけた状態】をBGに乗せた状態
    • ボケなどの撮影処理を施した状態
    フィルタ処理をかけた状態。この処理によって大幅に画の雰囲気が変わることがわかる

    フィルタ処理で早朝の空気感を表現

    8話で、姫野がベランダで朝食を食べるシーンを例に、フィルタ処理の詳細を見ていく。

    • フィルタ処理前
    • フィルタ処理後。全体的に白味がかり、姫野にライトラップが乗っている。また、背景のビル影部分は青味が増している。「このカットの処理はシンプルな構成にしましたが、朝の澄んだ空気感が効果的に表現できて、美しいカットに仕上げられたと思います」(伊藤氏)
    フィルタ処理にはカラーグレーディングプラグイン「Magic Bullet Looks」を使用している

    “エモい”を追求した最終話ED

    本作最終話(12話)エンディングの1カットでのフィルタ処理。この12話のエンディングではデンジがアキやパワーたちと過ごす、つかの間の穏やかな日常が描かれ、ファンの間でも大きな話題を呼んだ。

    「監督から『エモい感じにしたい』というオーダーがあったので、エモいとはなんだろうと悩みました(笑)。色味についてはかなりやり取りしましたね」と伊藤氏。

    • フィルタ処理前
    • フィルタ処理後。光などを追加。全体的に暖色の色味に調整し、情緒的な印象となった
    Bullet Looksでのグレーディングに加えて、PSOFT CelFXを使用して空気にピンク色を乗せて表現している

    撮影パートで画づくりを担ったカット

    8話で登場する、暗闇にいるカースのカットは、背景含めて撮影側で作成している。雰囲気づくりにも悩んだというが、原作の雰囲気を参考に、完成度の高いモデルを活かすように意識。最終的にはこのかたちに落ち着いた。

    • フィルタ処理前
    • フィルタ処理後
    煙の素材。薄暗いシーンだが煙や血、水などの購入素材を複数組み合わせて使用している
    血の素材
    水の素材

    リアリティにこだわったビールの表現

    7話のビールのカットでは、チーフ演出の中園真登氏の要望で、とことんリアリティを追求した。

    撮影処理。水滴や炭酸の泡の追加やぼかし、色の調整を行なっている
    仕上げ工程への指示。かなり細かい指示が書き込まれており、そのこだわりが感じられる

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    判型:A4ワイド
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    発売日:2023年2月10日

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    TEXT _野澤 慧 / Satoshi Nozawa
    EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada