2022年10月より放送されたアニメ『チェンソーマン』。MAPPA1社のみの出資で制作され、エンディングテーマは週替わりで楽曲が採用されるなど、独自の取り組みがアニメ業界の話題をさらった注目作だ。今回はそのCGメイキングを取材。主にモデリング、アニメーション、撮影パートを中心に、全4回に分けて紹介していく。
※第1~2回の記事はこちら
MAPPAの技術力を結集させ超ハイクオリティを追求した話題作『チェンソーマン』(1)モデリング篇
MAPPAの技術力を結集させ超ハイクオリティを追求した話題作『チェンソーマン』(2)アニメーション篇
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シーンの空気感と雰囲気を匂い立たせるフィルタワーク
「色や雰囲気を大切にしてほしいという要望があったので、背景が上がってきたときに、どうすれば“雰囲気が良くなるか”を常に考えていました」と語るのは、撮影監督を務めた伊藤哲平氏。本作の撮影工程は、コンテ撮、レイアウト撮、タイミング撮、本撮といった一般的なながれの次に、必ずフィルタ処理が追加されている。
例えば、全体が青色の印象のカットであれば補色のオレンジ色を乗せるというように、色彩的な効果を用いて印象的なカットに仕上げている。こうしたフィルタ処理によって、場所や時間、季節だけでなく、登場人物の感情までも含んだシーンの空気感を演出しているのだ。
ただしこうしたフィルタ処理は、数値や色彩のセオリーに則って機械的に適用するわけではない。監督とやり取りを重ね、意図を拾い上げて処理を決めていく。ここに、このフィルタ処理の難しさがある。伊藤氏は、監督の中にある感覚的なイメージを的確に拾い上げるため、監督の好む映画などリファレンス集めに奔走した。
全体的な仕上がりとしては、実写の雰囲気に寄せてコントラストと彩度を抑えたシーンが多くなったが、アニメとしての良い部分を消さないように意識しつつ、生々しい映像に合わせた空気感をつくっている。「色のフィルタや画づくりにここまでこだわったことはなく、今回の経験で個人的なレベルがワンランク上がった感じがしますね」と話す伊藤氏。
また、作画と3DCGのハイブリッド作品ならではだが、セルと3DCGの差が出すぎないように処理を乗せていく必要があった。そのためには作画的な素材を乗せる場面も多かったが、立体的なキャラクターであるチェンソーマンたちに対して、特殊効果などのセル素材は平面的に動くため、地道に追いかけていくという作業には苦労したという。
ちなみに、作中唯一モザイク処理になってしまった7話の姫野の嘔吐物も伊藤氏の仕事だ。あまりのリアルな出来栄えにモザイク処理を余儀なくされてしまったそうだ。
撮影のながれ
本作では、アフレコに使用するコンテ撮やレイアウト撮までは協力会社へ依頼しており、MAPPAではタイミング撮から作業を行なっている。
After Effectsでの撮影作業。
フィルタ処理で早朝の空気感を表現
8話で、姫野がベランダで朝食を食べるシーンを例に、フィルタ処理の詳細を見ていく。
“エモい”を追求した最終話ED
本作最終話(12話)エンディングの1カットでのフィルタ処理。この12話のエンディングではデンジがアキやパワーたちと過ごす、つかの間の穏やかな日常が描かれ、ファンの間でも大きな話題を呼んだ。
「監督から『エモい感じにしたい』というオーダーがあったので、エモいとはなんだろうと悩みました(笑)。色味についてはかなりやり取りしましたね」と伊藤氏。
撮影パートで画づくりを担ったカット
8話で登場する、暗闇にいるカースのカットは、背景含めて撮影側で作成している。雰囲気づくりにも悩んだというが、原作の雰囲気を参考に、完成度の高いモデルを活かすように意識。最終的にはこのかたちに落ち着いた。
リアリティにこだわったビールの表現
7話のビールのカットでは、チーフ演出の中園真登氏の要望で、とことんリアリティを追求した。
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月刊CGWORLD + digital video vol.295(2023年3月号)
特集:アニメCGの現場 SPECIAL
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2023年2月10日
TEXT _野澤 慧 / Satoshi Nozawa
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada