戦国時代を舞台にしたダーク戦国アクションRPG『仁王』シリーズ。最新作『仁王3』ではシリーズ初となるオープンフィールドを採用し、様々な時代を舞台に広大な世界の探索が可能になった。本稿では、この新たな挑戦におけるグラフィックス制作について開発陣に話を聞いた。

記事の目次

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 333(2026年5月号)からの転載となります。

    広大な世界を成立させる新たな開発アプローチ

    戦国時代の厳しい世界を突き進む高難度のダーク戦国アクションRPG『仁王』シリーズ。最新作『仁王3』では、シリーズ初となるオープンフィールドが採用され、従来のミッション制の構造から、より広大な世界を探索していくゲーム体験へと発展している。こうした大きな仕様変更に対応するため、本作では開発初期からプログラマーも参加し、ゲーム構造の設計を含めた入念な準備が進められた。

    『仁王3』
    開発・販売:コーエーテクモゲームス
    リリース:発売中
    価格:9,680円(通常版)ほか
    Platform:PS5/PC(Steam)
    ジャンル:ダーク戦国アクションRPG
    teamninja-studio.com/nioh3/jp
    ©コーエーテクモゲームス All rights reserved.

    テクニカルディレクターの山﨑優太氏は、今回のコンセプトについて次のように語る。「プレイヤーが好きなように進められるゲーム体験を目指しました。これは2024年にリリースした『Rise of the Ronin』でオープンワールドを開発した経験を活かしています」。

    今回の画づくりについて、「『仁王』シリーズは妖怪が蠢くおどろおどろしい世界です。しかし今回はオープンフィールドということで、これまで以上に遠くまで見渡せる世界を表現する必要がありました。そのため、ランドマークとなる建物などが遠くからでも確認できるよう、検証を重ねています」とアートディレクター・田渕賢作氏は説明する。

    ▲上段左から 田渕賢作氏、山﨑優太氏、新田亮馬氏、阿部直樹氏、中段左から 米田直樹氏、中村大太氏、宋 広達氏、大高知紘氏、下段左から 阿部亮治氏、古屋賢吾氏、水戸夏暉氏、小山裕之氏
    以上、コーエーテクモゲームス

    開発には主に社内ゲームエンジンのKatana Engineが使用された。このエンジンは『Rise of the Ronin』の開発にも用いられており、本作では新たなグラフィックスパイプラインの導入やグローバルイルミネーション技術の活用など、描画面での強化が図られている。

    外部ツールも幅広く使用されており、MayaZBrushSubstance 3D PainterPhotoshopBlenderMarvelous DesignerHoudiniAfter EffectsPremiere、Wrap、FiberShopなどが使用された。こうした開発の取り組みがどのように実現されたのか、詳しく紹介していく。

    人物と妖怪が織りなす『仁王』のキャラクター造形

    人物と妖怪で異なる造形設計

    『仁王』シリーズの魅力のひとつは、戦国時代という舞台に説得力を与える人間キャラクターの造形だ。これは『信長の野望』シリーズや『戦国無双』シリーズなど、コーエーテクモゲームスがこれまでに開発してきた時代劇タイトルの蓄積を踏まえたものと言えるだろう。

    しかし『仁王』シリーズは、単なる戦国時代の物語ではない。人間だけでなく妖怪も登場する独自の世界観をもっているためだ。さらに『仁王3』では、戦国時代だけでなく古代や平安、江戸、幕末といった複数の時代を巡る構成になっている。そのため、人間キャラクターの造形も単に戦国時代のリアリティを追求するだけではなく、様々な時代背景を踏まえた設計が求められた。

    キャラクターコンセプトアートリード・阿部直樹氏は、「人間キャラクターと妖怪では、造形設計の考え方や制作時に重視するポイントが大きく異なっています」と語る。

    今回の人間キャラクターでは、各時代の身分や職業、文化背景がデザインから自然に伝わることを重視したという。「装備や衣装は歴史資料を基に設計し、実際の使用感や重量感が感じられるよう、素材表現に注力しています」(阿部氏)。

    また顔造形についても、骨格や筋肉構造を踏まえたリアリティをベースに、デフォルメとのバランスを調整しながら自然で魅力的な表情を目指している。

    一方、妖怪キャラクターの場合はコンセプトから “その妖怪らしさ” をどうつくるかを考えている。「パブリックイメージ通りの妖怪ではなく、コミカルさやユニークさも加えながら『仁王3』アレンジを施しています」(阿部氏)。

    また本作はアクション性の高いゲームであるため、妖怪の性質から能力や戦闘スタイルを考え、ビジュアルとゲームプレイの両立を意識したデザインが行われている。

    キャラクターモデルのカテゴリは、PCベースモデル、NPC、武器、防具、敵(人間/妖怪)、守護霊などに分類されている。ポリゴン数はデザインによって変動するが、顔は約10万ポリゴン、装備は15万~30万ポリゴン、妖怪は通常個体で10万~30万ポリゴン、ボス妖怪では30万~50万ポリゴン規模となっている。

    特に人間キャラクターの装備は大量のアセットを制作する必要があるため、調整作業をいかに効率化するかが重要な課題となった。各時代の装備は構造やシルエットが大きく異なるため、バグやモデル修正が発生した際の影響も大きい。そのため、本作では不具合を未然に防ぐための入念な事前設計が行われている。こうした取り組みは、『仁王』シリーズ最新作としての品質向上を図りつつ、同時に制作工数の削減と作業効率の向上にもつながっている。

    キャラクターデザインと造形設計のポイント

    • ▲人間キャラクターの例。武田信玄のデザインと守護霊の金剛獅子
    • ▲カットシーンでの武田信玄。鎧の細部や、重量感を感じさせるモデリングが確認できる
    • ▲妖怪のひとつ、蛇骨婆。中央の首が伸びる攻撃アクションを想定した造形になっている
    • ▲インゲームでの蛇骨婆

    キャラクターメイクの進化

    本作のプレイヤーキャラクターのキャラクターメイクでは、ブレンドシェイプを活用することでより細かな調整が可能になっている。

    ▲過去作では、フェイスのボーン位置をパラメータで調整する方式だったため調整範囲に限界があったが、より幅広い表現が可能になった。画像は鼻の形状調整の様子。左からデフォルト、最大値、最小値
    ▲さらに新たな仕様として、左右の目の開き具合を個別にパラメータ調整できるようになっている。この機能により、隻眼の侍のようなキャラクターも作成可能になった

    肌の質感向上

    本作ではより自然な質感表現を実現するため、マテリアルIDのしくみを導入。従来は人間の肌や眼球、妖怪の特殊な肌など異なる素材でも同一シェーダを使用していたため、拡散色が同じ赤みを帯びた表現になってしまっていた。今作では素材ごとに個別のIDを割り振ることで、それぞれ異なる拡散表現が可能になった。

    ▲妖怪「ぬっぺふほふ」の肌表現の比較。左:『仁王2』、右:『仁王3』
    ▲本多忠勝の質感表現の比較。左:『仁王2』、右:『仁王3』。肌の拡散表現が改善され、より自然な質感となっている
    ▲同一シェーダ内で複数のパラメータセットを用意した質感表現の例。素材ごとの調整により、より自然な見た目を実現している

    装備のバリエーション

    ▲装備の5部位構成の図。装備は頭部・胴体・手・脚・足の5部位で構成されており、組み合わせを前提とした設計になっている
    ▲各時代の防具。古代・平安・戦国・江戸・幕末といった複数の時代の装備が、それぞれ5部位で制作されている
    ▲異なる時代の装備を組み合わせた例。部位構造やサイズを統一することで、どの時代の装備を組み合わせても自然に成立するよう設計されている

    ディテールマップによる装備の質感表現

    ▲装備の質感を高めるため、ディテールマップを軸としたマテリアル設計を採用。テクスチャ解像度に依存せず、家紋や刺繍、織りなどの細部の凹凸情報を表現できるようにしている。アクション中やカットシーンでカメラが寄った際にも質感がわかる仕上がりだ
    ▲ディテールマップを用いた素材表現の例。紐や布、革、金属など異なる素材の質感がはっきりと伝わるよう設計
    ▲異方性シェーダなし(左)/あり(右)。身分の高いキャラクターの衣装に採用されており、通常の布表現よりも鮮やかで品のある光沢を与えている
    ▲異方性シェーダなし(左)/あり(右)。「武田信玄や卑弥呼といった権威や地位の高いキャラクターの衣装では、生地の質感がそのまま身分や存在感につながるため、布表現には特にこだわっています」(キャラクターアートサブリード:中村大太氏)

    衣装量産のための工夫

    ▲Marvelous Designerを活用して作成した共通衣装データ。和装を前提とした構造で設計されており、衣装制作の土台として利用されている。「作業者には海外スタッフも多く、和装の理解が難しい場合もあります。そのため、共通衣装データが役立ちました」(キャラクターアートサブリード:宋 広達氏)
    ▲和装構造の整理例。縫い目や折り目の位置を整理することで、UVを分割しても問題ない箇所を明確化している
    • ▲男女の和装における帯位置のちがい
    • ▲襟の袷は正中線上に配置し、着物の衿は鎖骨付近で体にほぼ密着させる
    ▲頭部装備に応じた髪型の自動切り替え。装備データベースを基に自動制御を行い、装備ごとに適切な髪型パーツが適用されるしくみを構築
    ▲装備モデルの干渉を回避するための自動表示切り替え。例えば腕部に突起物のある装備を着用した場合、袖の長い装備ではモデルが突き破らないよう該当パーツを自動で非表示にする

    質感と重厚感を両立した九十九化身

    守護霊の力を解放した姿である「九十九化身」。生物的なフォルムと甲冑/忍装束の構造を融合させることで、霊的な存在としての異質感と重厚感を両立したデザインとなっている。

    ▲九十九化身のデザイン。左:サムライスタイル、右:ニンジャスタイル
    • ▲サムライスタイルの九十九化身モデル(正面)
    • ▲同・背面
    • ▲ニンジャスタイルの九十九化身モデル(正面)
    • 同・背面
    • ▲サムライスタイル・インゲーム
    • ▲ニンジャスタイル・インゲーム

    妖怪の状態変化

    本作では、戦闘中の状態変化を視覚的にわかりやすくするため、マテリアル遷移による状態変化を活用。

    • ▲人魚のミイラ化の例。ブレンドシェイプによる形状変化と、マテリアル遷移による質感変化を組み合わせて表現している
    • ▲徳川慶喜の妖怪化の例。マテリアル遷移によって外観が変化することで、キャラクターの状態変化を視覚的に示している

    草薙の表情作成

    主人公の守護霊「草薙」のフェイシャルセットアップは解剖学をベースに設計されており、トポロジーやジョイント構造、フェイシャルターゲットを組み合わせることで、軽量ながら十分な表現力をもつ構成となっている。テクニカルアーティスト班と連携して制作された。

    ▲草薙の表情スケッチ
    • ▲Maya上でのカットシーン制作画面
    • ▲インゲームのカットシーンでの草薙
    • ▲Mayaで作成した草薙の喜びの表情。頬が丸く膨らむ、瞳孔が縦横に拡縮するなど、人間キャラクターにはないギミックが実装されている
    • ▲頬を膨らませる表情
    • ▲あくびの表情
    • ▲威嚇の表情

    (2)に続く(近日公開予定)。

    CGWORLD 2026年5月号 vol.333

    特集:CGインディーズ仕事術
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2026年4月10日
    価格:1,540 円(税込)

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    TEXT_葛西 祝、インタビュー協力_ランチタイム(渡邉 広、加藤優貴、五十木 絹)
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada