一般社団法人 日本アニメーター・演出協会(JAniCA)による「アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム(ACTF)2026 in TAAF」が、3月14日(土)・15日(日)の2日間行われた。
本稿では同イベントで行われたセミナーから、京都市 KYOMAF B-SIDEによる「サンジゲン京都スタジオにおけるアニメ制作環境-地方でのリモート制作と人材育成の実践事例-」の模様をレポートする。
イベント概要
「アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム(ACTF)2025 in TAAF」
開催日:2026年3月14日(土)、15日(日)
場所:としま区民センター
参加料:無料
主催:東京アニメアワードフェスティバル2026実行委員会
共催:一般社団法人日本アニメーター・演出協会(JAniCA) ACTF事務局、株式会社ワコム、株式会社セルシス
www.janica.jp/course/digital/actf2026inTAAF.html
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全てのスタジオが元請作品を制作する
セミナー「サンジゲン京都スタジオにおけるアニメ制作環境-地方でのリモート制作と人材育成の実践事例-」には、サンジゲンより代表取締役・プロデューサーの松浦裕暁氏、京都市産業観光局クリエイティブ産業振興室 コンテンツ産業振興課長の保田光春氏が登壇。アニメ制作における地方拠点の可能性と人材育成をテーマに、サンジゲンの実践事例が紹介された。
サンジゲンは2006年の設立後、2012年に初のサテライトスタジオを京都に立ち上げ、現在では札幌から福岡まで全国に地方スタジオを構えている。本社は荻窪で、2019年にクリエイティブ部門を立川に移転して以降、本社には制作とシステムのスタッフのみが在籍している。
こうした体制の背景について、松浦氏は東京23区内の生活コストの高さを挙げた。家賃をはじめとする物価の上昇はクリエイターにとって大きな負担であり、人材流出の一因にもなっている。一方、京都スタジオでは人材の定着が進んでおり、サンジゲン全体でも離職率は低い水準にある。
京都にはアニメ制作を学べる教育機関が複数あり、クリエイター育成の土壌が整っている。さらに長い歴史や豊かな食文化が創作の刺激になっており、これも人材の定着につながっているという。セミナーの冒頭で保田氏は、「多くの人材が東京のスタジオに就職してしまう」と触れていたが、松浦氏は「京都こそクリエイターに優しい環境です」と、その強みを語る。
また、京都スタジオは現在30名弱と比較的小規模で、社内コミュニケーションが取りやすいことも定着率の高さにつながっているという。ほかの地方スタジオも数人から数十人規模で運営されており、風通しの良い職場であることも離職率の低下に寄与している。
サンジゲンでは、地方スタジオを成り立たせるしくみとして、「制作管理」、「人材教育」、「人事評価」の3つを柱に据え、これらを連動させることで運用している。それぞれを詳しく見ていこう。
まず同社では、スタジオごとに仕事を分ける方針はとっておらず、全国のスタジオが元請作品に関わっている。これは松浦氏が京都スタジオを開設した当初から一貫したポリシーだ。
他社では、スタジオごとに異なる案件を受注し、それぞれの特色が生まれるケースもある。しかし、松浦氏はサンジゲンはひとつの会社であり「同じ制作手法を共有しながら全員で作品づくりに取り組みたかった」と、自らの考えを明かす。
そうした方針を支える上で重要な役割を果たしているのが、自社開発ツールのサンジゲンDB(データベース)だ。全員の業務が管理されており、各カットの担当者や進行状況がリアルタイムで把握できるほか、作業に要した時間も分単位で記録される。これにより、どのスタジオでも同じ環境で制作管理を行えるようになった。
基礎工数表は、各作業にどれぐらいの作業時間がかかるのか、その基準を定めたものだ。例えば、キャラクターが映るカットでも、上半身のみの場合と全身の場合とでは、後者の方が工数は大きい。かつてはカットごとの難易度を主観的に判断していたが、サンジゲンDBに蓄積された作業データを活用することで、クリエイティブな仕事を客観的な数値に置き換えられるようになった。このしくみは、後述する「人事評価」でも活かされている。
制作開発セクションは、松浦氏直下のチームで、「今のサンジゲンには何が必要なのか」を分析・検証するブレーンのような役割を担う。開発の前提となるデータ入力などは各スタジオの総務事務スタッフが担当し、方針が決まるとシステム開発スタッフに依頼をして、サンジゲンDBに組み込まれるというながれだ。
デジタルインフラに関しては、サンジゲンは社内にサーバールームを持たず、データセンターを使用している。サーバールームを置いていた時期もあったが、コストが非常に高い上、ビルのメンテナンスに伴う停電でPCが故障したり、スタジオ移転の妨げになったりと、課題が大きかったそうだ。現在は、遅延を抑えるためのキャッシュサーバーを併用しつつ、全国どこからでもデータを管理できる体制を整えた。
公平なキャリアパスで地方スタジオを実現
サンジゲンに新卒や未経験で入社したアニメーターは、研修を経てセカンダリーアニメーションを担当する。セカンダリーはキャリアパスの出発点にあたり、動きの核をつくるプライマリーや、加筆によってセルシェーディングの質感を生み出すターシャリーなど、段階的に次の役職へ進んでいく。
同社では、仕事の内容がオペレーション(作業)なのか、クリエイティブ(創造)なのかを分けることで、教育の標準化を可能にした。セカンダリーは、プライマリーが付けた動きに対して、揺れものの調整や色替え、めり込みの修正などを施す工程であり、オペレーションの比重が大きい。もちろんクリエイティブな要素は含まれているが、一定の手順を正確に教えれば習得しやすい領域だという。
そのため、セカンダリーの教育では作業手順の指導に重点をおき、必要なことに絞って教える方針とした。まずはサンジゲンのアニメのつくり方を理解してもらい、セカンダリーに特化した指導を徹底することで、どのスタジオでも同じ内容を同じ水準で教えられるという、教育の標準化を実現した。
キャリアアップの判断基準となるのが、定量評価システムである。以前は勤続年数など、感覚的な判断で次のステップを任せていたが、技量が追いつかずにストレスを抱えてしまったスタッフもいたという。そういった経験を経て、スタッフの能力を見極めた上で仕事を任せることが重要だという認識に至り、数値に基づく評価を徹底することになった。
定量評価システムは、基礎工数表によって管理されている。サンジゲンのベテランスタッフが1時間で完了できる作業量を0.1工数と定め、カットごとに工数を設定。これらはサンジゲンDBに集まった過去の1年分のデータをもとに算出される。工数管理による数値化と実績データの蓄積を通じて、
松浦氏は、地方スタジオを成立させるには、このようなしくみづくりに向き合う必要があったとふり返る。もっとも、その重要性は地方スタジオに限った話ではなく、仮にスタジオがひとつしかなかったとしても、本来は整備すべきものだという。拠点が集約されていると必要性が見えづらいが、「もし地方スタジオを構えるとしたら」と考えることで、見逃している運用面の課題が発見できるのではないかと述べた。地方スタジオの制作には、感覚ではなく数値に基づく運用が不可欠であることを示すセミナーとなった。
最後に、モデレーターを務めたACTF事務局の轟木保弘氏は「アニメの勢いが、地方の若い人々のモチベーションになっていることは、教育現場でもひしひしと感じています」と実感を語り、そういった気持ちを現場につなげる上でも「今日の松浦さんの講演は、スタジオがどう向き合うのかという肝の部分をお話しいただけたと思います」と感謝の言葉を送った。そして「ここに行政がどのようにマッチングして、上手くバックアップできるのか、成功例をどれだけ積み重ねていけるのか。各地域で続けていければ良いなと感じています」と、今後の広がりに期待を寄せた。
TEXT_遠藤大礎 / Hiroki Endo
EDIT_海老原朱里 / Ebihara Akari(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada