一般社団法人 日本アニメーター・演出協会(JAniCA)による「アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム(ACTF)2026 in TAAF」が、3月14日(土)・15日(日)の2日間、としま区民センターで開催された。
14日には各社事例紹介、15日にはセミナーと展示が行われ、アニメ制作関係者ほか多くの人々が聴講に訪れた。本稿では各社の事例紹介から、サンジゲンによる「Blenderで作るTVアニメ最新事情」の模様をレポートする。
イベント概要
「アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム(ACTF)2025 in TAAF」
開催日:2026年3月14日(土)、15日(日)
場所:としま区民センター
参加料:無料
主催:東京アニメアワードフェスティバル2026実行委員会
共催:一般社団法人日本アニメーター・演出協会(JAniCA) ACTF事務局、株式会社ワコム、株式会社セルシス
www.janica.jp/course/digital/actf2026inTAAF.html
Blender移行のねらいと現場での手応え
セッション「Blenderで作るTVアニメ最新事情」では、サンジゲンより瓶子修一氏(取締役)と森田紘吏氏(創造部3DCGスーパーバイザー/監督/Blender推進プロジェクトリーダー)が登壇。Blenderをメインツールに据えてワークフローを構築してき
まず語られたのは、「Blenderの魅力」だ。同社にとってBlender最大の恩恵は、ライセンス費用が発生しない点だという。サンジゲンには約200人のスタッフが在籍しており、そのうち7割が3DCGソフトを使用する。3年ごとに発生する巨額の更新費用を、別の投資に回せるようになったことは、大きなメリットだった。
ただし、サンジゲンがBlenderへ切り替えた理由は「単にライセンス料の問題だけではない」と瓶子氏は強調する。その背景にあるのは、特定のソフトウェアに依存しないという姿勢だ。
サンジゲンの創設者である松浦裕暁氏や、1990年代からアニメーション業界に従事してきた瓶子氏は、プロジェクトごとに最適なツールに切り替えながら柔軟に制作体制を構築していった。そうしたやり方を受け継ぐ中で、2023年のライセンス更新のタイミングで、3ds MaxからBlenderへの移行が決定した。
Blenderは、コスト以外に技術的な利点も大きい。例えばBlenderのレンダリングエンジンであるEeveeは非常に軽快で、3Dビューポート上で確認しながらリアルタイムに作業を進められる。
カスタマイズの自由度が高いことも強みだ。近年ではコード生成AIの普及によって、エンジニアではなくアーティストが自らツールをつくることも珍しくない。サンジゲンでは100以上のツールを開発しており、公開しているものもあれば、1カットのために個人が制作したものも数多く存在する。
サンジゲンでは「アドオンは自由に購入して良い」という方針を採っている。そこには、Blenderへの移行によって既存ソフトより作業スピードが落ちるのではないか、学習コストが膨らむのではないか、といった不安を和らげるねらいがある。また、アドオンは比較的安価なため、ライセンス費用の無償化で浮いたコストを充てることができた。
導入したアドオンについては、実際に使って有用だと判断したものを、自社ツールとして開発し、バージョンが変わっても継続使用できるように保守していく。こうしてアドオンの購入を機に、自社ツールの拡充も進められている。
実運用で見えた課題をどう解決したか?
エフェクト表現の工夫
続いては、Blenderの課題へ話題が移った。まず挙げられたのが、Particleなどのエフェクト表現の弱さである。しかし、サンジゲンでは全面的にシミュレーションに頼るのではなく、オブジェクトの変形によってシルエットをコントロールする手法を多く用いている。
3ds Max時代に使っていたアプローチも、BlenderでAnimation Nodesなどを活用することで再現可能で、現状では工夫次第で対応できている状況だ。そのため、今後もエフェクトの多いメカ作品が控えているが「対応は可能だ」と見通しを示す。
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▲エフェクトの作業画面 -
▲「(3ds Maxでは)Particle Flowで最初から最後まで一気につくっていたものも、(Blenderでは)小分けにしてひとつひとつやっていけば、何とかできるという感じですね」(森田氏)
シミュレーションが必要になった場合は、VFXツールのEmberGenを活用している。Blenderの3D情報を受け渡し、EmberGen側でシミュレーションを行う。作業はアニメーターではなくコンポジットチームの担当になる。流体表現そのものはBlenderでもつくれるが、この分野では専用ツールに強みがあるため、今後もEmberGenを併用する方針だという。
「Cycles」対応に伴うGPUレンダリングへの移行
初めてBlenderでの3D協力で携わった『ウマ娘 プリティーダービー ROAD TO THE TOP』(2023)(以下、『ウマ娘』)では、芝生の表現にCyclesが採用されていた。
サンジゲンではCPUレンダリングを軸にした制作環境でレンダリングサーバーを運用していたが、1カットの計算に数日を要する試算がでた。本作への参加は、Cyclesを効率的に運用するためのGPUレンダリング環境を構築する必要性を再認識する貴重な機会になったという。
GPUレンダリングへの移行にあたっては、
また、GPUはNVIDIA製とAMD製で描画結果にわずかな差が生じ、色味が異なって見えることもある。分散レンダリング時には、そうした差異が映像のちらつきにつながるため、サンジゲンではGPUをNVIDIAで統一している。
頻繁なバージョン管理への対応
セッションの中盤では、Blenderのバージョン管理の話に多くの時間が割かれた。Blenderは更新頻度の高さが魅力である一方、内部プロパティの変更によってアドオンが動作しなくなることもある。そのため「作業中はバージョンを上げない」ことを徹底した。アップデートはシステム側で一括管理し、各マシンで異なるバージョンが混在するといった運用上の混乱を防いでいる。
アドオンの導入についても、そのフローを明確に定めている。始めにアーティストが使用したいアドオンをシステム担当に申請。ライセンスやセキュリティ面の確認を経て、承認されたアドオンのみをスタジオのPCに一斉導入する。
レンダーファームの専用環境も整えられた。サンジゲンでは、個人のPCでもレンダリングできるように設定し、レンダーノードと同じように扱うことができる。この環境の構築には、システム側が用意した専用パッケージを使用している。作業用環境とレンダリング用環境を分けてインストールすることで、アーティストが日常的に使う環境と、レンダーファーム用の環境とが干渉しないようにしている。
Blenderはアドオンが開発しやすいソフトウェアだが、
これに対するサンジゲンの対応策は明快だ。年1回リリースされるLTS(Long Term Support/長期サポート)版のタイミングで全アドオンを検証し、新バージョンを試すのは一部スタッフに限定する。さらに、本番環境はLTS版のみ採用し、中間バージョンは原則使用しないという運用をしている。
瓶子氏は、Blenderの利点として、オープンソースであるため過去バージョンのログが残る点も挙げている。市販ソフトでは旧バージョンがダウンロードできなくなる可能性があり、過去案件への対応に備えて、旧環境を維持した専用PCを残しておかなければならない。それに対し、Blenderは過去のバージョンに遡りやすいことも強みになっている。
Blenderを導入時に開発したツール
Blender導入時にサンジゲンが先行開発した3つのツールも紹介された。「Asset PathChanger」は、3ds Maxの「アセットトラッキング」に相当するツールだ。Blenderには大規模チーム向けのアセット管理機能が充分に備わっていないため、チーム制作ではこうした仕組みが欠かせない。森田氏は「チームで仕事をするなら必須で、今はどの会社も自前でつくっているはずです」と語る。
「BlenderSCMS」は色彩管理システム、「SanzigenToon」は自社製シェーダで、どちらも3ds Max時代から使っていたシステムをBlender向けにつくり直したものだ。
Blenderを軸に広がる新たな可能性
福岡と、全国の主要都市にスタジオを構えるネットワークを活かし、各地のロケーションをデジタル資産として蓄積する新たなスキームを構築している。
実際に、XGRIDの3Dハンドスキャナー「PortalCam」を使用して、ロケーションの3Dデータを取得している様子も公開された。PortalCamは、LiDARとカメラ情報を組み合わせて空間を計測し、自動処理によってフォトリアルな3D空間データを生成できる。撮影場所の条件にもよるが、2~3時間ほどでデータ化まで完了するため、ロケーションのモデル化はスピーディに進められるようになった。
続いて、マーカーレスキャプチャーシステム「Captury」の解説がされた。スタジオ内のカフェスペースにカメラを吊り下げることで、キャプチャスタジオとして運用。12台のカメラで被写体を全方位から撮影し、モーションを取得している。
Blender Ver.5.2への移行後に活用を見込んでいる機能についても説明があった。サンジゲンでは、アニメーターがコンポジットに素材を渡す前段階、仮組みにもAfter Effectsを使っているが、これをVideo Sequence Editorに移行する予定だという。
Video Sequence Editorは、Blenderに搭載された動画編集機能で、当初は機能面に不足があったがバージョンアップを経て実用に耐えうるレベルに達してきているそうだ。
最終的なコンポジットにはAfter Effectsを引き続き用いるものの、森田氏は「3Dのカメラから見た絵をそのままタイムライン上で扱えるため、BlenderとAfter Effectsを往復する手間も減らせます。アニメーターは1本のソフトでチェックムービーを出すところまで、効率的に進められるかなと思っています」と、今後の展望を語った。
さらに、背景美術の工程では、World LabsのAIサービス「Marble」の活用によって、一部作業を自動化できる可能性が示された。Marbleは、画像を読み込ませると、そのイメージをもとに3D空間データを生成する。これまでは、美術会社から受け取った美術設定をもとに、モデラーがレイアウト用モデルを作成していたが、Marbleの導入によって効率化が見込まれる。
Blenderはソフト自体の進化に加え、こうした外部ツールや周辺環境の変化に素早く適応できる点が強みだ。瓶子氏はまとめとして、開発の速さによって多様なツールを試せることに言及する。「僕たちにとっては夢があって、新しいアニメのつくり方ができるのではないかと思っています」と今後への期待を述べ、セッションを締めくくった。
サンジゲンのBlenderによる最新アニメ『ニワトリ・ファイター』
TOKYO MX・BS日テレにて、2026年4月5日(日)より、放送中!
原作:桜谷 シュウ/監督:鈴木大介/アニメーション制作:サンジゲン/企画プロデュース:SOLA ENTERTAINMENT
www.niwatori-fighter.net
© SS/KH,V
TEXT_遠藤大礎 / Hiroki Endo
EDIT_海老原朱里 / Ebihara Akari(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada