マーザ・アニメーションプラネット(以下、マーザ)が手がける「あんさんぶるスターズ!!DREAM LIVE」(以下、「スタライ」)では衣装の揺れに徹底してこだわっているが、揺れを成立させるほど、破綻も増える。長尺のライブを完走するには、nCloth/nHairの使い分け、メッシュ分割密度の最適化、コリジョン設計、部分シミュレーションの見極めなど、安定性と見映えの両立が欠かせない。
第4回のスタライ編[2]では、Ra*bitsやTrickstar、UNDEADなどの事例を通じて、“壊れない可愛さ”、“崩れない格好良さ”を支える最適化の技術を掘り下げる。
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INTERVIEWEE&STUDIO
マーザ・アニメーションプラネット Virtual Live映像事業課
マーザは設立以来、フルCG映画制作のためのノウハウと堅牢なパイプラインを磨き上げてきた。その資産をバーチャルライブ制作にも展開し、内製ツール群とCG映像の専門家の知見を組み合わせることで、キャラクターモデリングからアニメーション、コンポジットまで精緻に統合。ライブならではの存在感を支える総合的な技術基盤を整えている。
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[スタライ 8th]Ra*bits:分割数で"可愛さ"を制御する、衣装の揺れ設計
「スタライ 6th」以降のシミュレーションでは、面積のある揺れものにMayaのnCloth、細長い揺れものにnHairを使い分けている。nCloth用メッシュは、分割数が少なすぎるとヒラヒラ感が出ず、多すぎると計算負荷が増すのに加え、わずかな力で破綻しやすくなるため、動きと安定性の両立をねらって最適な密度を探っている。
シミュレーション結果は厚みのないジオメトリキャッシュとして扱い、ラップデフォーマのような手法で厚みのあるモデルへ転送。本衣装の場合は、特に縁の"モコモコ"部分は負荷が高く、直接適用すると崩れやすいため、縁専用の中間メッシュを追加する構成が採られた。
細長い揺れものはnHairによるシミュレーション結果をベイクしたカーブの上に、SplineIKのジョイントを配置した。ジョイント数が少ないとカーブ形状と一致せず、軽やかさが失われるため、シミュレーション結果を見ながら数を調整している。
ジョイント数が増えるほどアニメーターの修正負荷も上がるため、「多すぎず、少なすぎず」が重要となる。本衣装では、Ra*bitsらしい可愛い揺れと制作効率を両立できる最適化が図られた。
本衣装は、襟や裾、アームカバー、フットカバーにいたるまで"モコモコ"したシルエットがキャラクター性の要となるため、テクスチャ表現に頼らず、全てモデルで制作する方針が採用された。シルエットを最優先にした設計と、最適化されたシミュレーションによって、常に"可愛さ"を崩さない揺れ表現が成立している。
[スタライ 8th]Trickstar:調整に強い構造をつくる、衣装設計の方針
本衣装は、パンツの上にチェーン、その上にサッシュ、さらにジャケットが重なる多層構造を採用。Aポーズの状態では見えない部分であっても、ライブ中の動きや揺れによって露出する可能性があるため、ベルト通しとチェーンをつなぐ金具までリアルに造形された。
各層の間には太って見えない範囲で適切な空間を確保し、コリジョン計算に支障が出ないように調整。ジャケットの左側はサッシュの分だけ前に出ているため、右側も同じだけ前に出すことで左右対称の構造にしている。こうした調整によって、スキンウェイト作業などの負担が減り、後工程での破綻を抑えやすくなる。
チェーン類は、まずパンツなどに沿ってカーブを制作し、そのカーブ上にチェーンのインスタンスを配置する手法を採用。監修段階では、ポリゴン化せずカーブのまま調整を行うことで、衣装全体のバランス変更や修正指示にも迅速に対応できるようにしている。
特に明星 スバルは元気にジャンプすることが多く、背中側まで見えやすいことから、シャツ背面の切り替え線なども省略せずにつくり込まれた。
[スタライ 8th]UNDEAD:6ヶ月を要した揺れ設計、複雑構造への対応
本衣装では右肩から首にかけて、通常・ねじり・三つ編みという3種の異なる紐を配置。紐は全てモデルで表現され、背面の結び目やエポレット下の取り付け部分まで省略せずにつくり込まれている。
3種の紐はそれぞれ個別に揺れを設定し、腕の動きに連動して形状が変化するほか、影も正しく落ちる構成とした。当初、デザイン画では三つ編み紐の内側にスカーフが配置されていたが、そのままでは紐と胴体の間に挟まれて破綻しやすいことが判明。作業開始前に監修と相談し、スカーフを外側に配置するデザインに変更した。
通常、衣装のセットアップでは、リードキャラクターのリギングに約1ヶ月、シミュレーションの数値検討に約1ヶ月、アニメーターとの仕様調整に約1ヶ月を要するが、揺れもの構造が複雑だった本衣装では合計6ヶ月を費やした。振付の激しさや身長差によって数値は個別最適化されるため、特に動きの激しい大神 晃牙は専用調整が行われている。
[スタライ 9th]Knights:設定差を省略しない、耳飾りの個別設計
本衣装では、全体のデザインは共通でありながら、耳飾りの構造はアイドルごとの設定に合わせてつくり分けられている。例えば鳴上 嵐はピアス仕様のため、ピアス本体とキャッチを造形。さらにイヤーカフも追加されている。
一方、朱桜 司はイヤリング仕様となっており、留め具の構造が異なる。
グッズやパンフレット用の撮影でアップになる可能性も想定し、監修から提供された全アイドルの設定を忠実に反映。情報量の多い衣装であっても省略せず、キャラクター性を損なわない設計が徹底されている。
[スタライ 8th]Crazy:B: 割りを揃えて破綻を防ぐ、衣装構造設計
厚みをもたせた部分は、表裏でポリゴンの割りを可能な限り一致させている。割りがずれると、折れ曲がった際に裏面が貫通しやすくなるためだ。ポケットやワッペンなどの付属物も下地となるジャケットと割りを揃え、めくれ時の追従性を確保した。
本衣装では、ジャケットの胸元や袖口に糸がほつれたような表現がデザインとして盛り込まれている。この"ほつれ"はシルエットに影響するためテクスチャでは対応せず、モデルで表現された。さらに、小さなジョイントを仕込み、nHairで揺れまで設定している。
[スタライ 9th]fine:関節破綻を防ぐ、ボリューム袖の設計
本衣装は、ボリュームのある袖が大きな特徴である一方、脇や肘といった関節周辺の布まで揺らす必要があり、シミュレーションの難度が高かった。特に腕を深く曲げた際に、nCloth用メッシュが関節に挟まって暴れやすく、破綻が頻発したという。
そこで、腕のコリジョンを実寸より細めに設定し、腕と胴体の間に挟まった袖が潰れるのを防止。さらに手首にはドーナツ状のコリジョンを配置し、腕を振った際に袖の布が指先方向へ飛び出さないよう制御した。
やわらかそうな布の印象を損なわず、大きな動きにも耐えられるよう、シミュレーション設定が細かく調整されている
[スタライ 8th]Double Face:安定性重視のシミュレーション設計
本衣装では、ジャケット全体をシミュレーションで揺らすのではなく、前腕や胸下など、動きによる見えの変化が大きい範囲にのみシミュレーションを適用している。胸元や脇まわりは、腕を動かす度にめり込みや破綻が発生しやすく、シミュレーションで揺らすとかえって修正負荷が増すためだ。
繊細なシワ表現はシミュレーションでは暴れやすく、約5分におよぶ楽曲の途中で破綻すると、その度に再計算が必要になりアニメーターの負担が増えるため、安定性と費用対効果の観点からも、必要最小限に絞る判断がとられている。
どこを揺らし、どこを揺らさないかを初期段階で見極めることが、長時間のライブを成立させる鍵となっている。
INFORMATION
月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.331(2026年3月号)
特集:デジタルファッション制作ハンドブック2026
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2026年2月10日
TEXT&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
文字起こし_大上陽一郎/Yoichiro Oue
PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota