Netflixオリジナルアニメーション『超かぐや姫!』。月から来たかぐやと高校生の酒寄彩葉の2人が、仮想空間『ツクヨミ』でライバー活動を行いながら絆を深めていく物語だ。アニメーション制作はスタジオコロリドと山下清悟監督が率いるスタジオクロマトが担当。今回は山下監督とCG監督の町田政彌氏、CG背景監督の草間徹也氏のインタビューとCGメイキングをお届けする。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 331(2026年3月号)に一部、加筆修正を加えた転載となります。
現代的エンタメ要素と古典文学との異色の組み合わせ
Netflixにて世界独占配信中
監督:山下清悟/脚本:夏生さえり、山下清悟/アニメーション制作:スタジオコロリド、スタジオクロマト/製作:コロリド・ツインエンジンパートナーズ
www.cho-kaguyahime.com
©コロリド・ツインエンジンパートナーズ
――まずは本作の概要と映像表現におけるコンセプトについて教えてください。
山下清悟監督(以下、山下):タイトルに『かぐや姫』が入っているので、古典文学的なイメージを意識される方も多いと思うのですが、ボカロPの方々に楽曲を提供していただいたり、ライバーやeスポーツ的な要素を入れたりと、現代のネットエンタメ要素を盛り込んだ総合エンタメアニメーションと位置づけて制作しています。また、映像表現では現実の世界をコミカルで漫画的な演出で表現し、仮想空間の『ツクヨミ』ではリアルな立体感を重視したCG的な表現を使うことで対比構造を意識しながら制作しました。
山下清悟氏/監督
――制作に入る前のプリプロの段階ではどのような検討がなされたのでしょうか?
町田政彌氏(以下、町田):私はプリプロが半分ぐらい進んだ時期から参加させていただきました。ツクヨミの世界観について伺ったり、目指すCG表現のリファレンスなどを見ながら、様々なことをヒアリングさせていただきましたね。伺ったコンセプトを基にテスト的に映像をつくりながら、監督とイメージを擦り合わせていきました。オリジナル作品ということもあり、監督の頭の中にあるイメージや好み、思い描くビジョンを注意深くヒアリングしていった感じです。
町田政彌氏/CG監督
草間徹也氏(以下、草間):もう2年以上前の話になりますが、京都のような巨大な街並みを仮想空間としてつくりたいということだったので、3D背景でどのように表現していくのかをお聞きしていきました。3D背景としては、仮想空間であるツクヨミの街並みとバトルゲームの世界、ライブステージの3つがあるのですが、それぞれ異なった方向性でイメージを詰めています。例えば、街並みは京都風で、デジタルサイネージなどがたくさんあって煌びやかな感じにしようとか、バトルゲームの世界は少し彩度を落としてソーシャルゲーム的な、少し懐かしいローポリゴン風な雰囲気にしたり。また、ライブステージではバーチャル空間風でいかにも3DCGでつくられた雰囲気にしたり、レーザー光線やエフェクトを入れながらデザインしていきました。
草間徹也氏/CG背景監督
山下:ツクヨミの中を泳いでいる光の魚がいるのですが、影も形もない状態で町田さんにデザインからお願いしました。僕の中では、この光る魚が大量に泳いでいるイメージは絶対に必要なものなので、かなり気にしていたところ、1回目に見せていただいたビジュアルがとてもクオリティの高いものだったんです。一度だけチェックバックさせていただきましたが、その後はすぐにフィックスしました。
魚の内部構造が見えているような表現で本当に気に入っていて、ツクヨミの世界観がしっかり出ていたと思います。通常、デザイン込みでCG制作をお願いする場合、こちらから細かく指示しないと盛られた状態で上がってこないのですが、スティミュラスイメージさんにお願いすると、何も言わなくても全部盛りの状態で上がってくるんです(笑)。本当にすごいと思いました。
――ツクヨミの街並みは3DCGで表現されているそうですね。
山下:先ほど、草間さんからもありましたが、ツクヨミについてはキューン・プラントさんにご担当いただきました。キューン・プラントは、広大な空間を3DCGで制作できる数少ない会社さんだと思います。ツクヨミの世界観を表現するときに、広い空間にある和風のファンタジーな街並みをダイナミックなカメラワークで見せたいと思っていました。通常の背景ではとても難しいカットになるので、草間さんにお願いして3DCGで街全体を作成してもらいました。作品の雰囲気や世界観を守りながら仕上げていただいたと思います。そのほか、バトルゲームの背景もローポリゲーム風という表現が難しいテーマでしたが、Blenderでライティングされた状態を見せてもらったら、非常に良い画が上がってきてBlenderの表現力には驚かされました。
3DCGと作画を効果的に活用したハイブリッドな制作手法
――続いて、具体的なCG制作について教えてください。バトルゲームのシーンやライブステージなどで、キャラクターがとてもダイナミックに動くシーンが多く登場しますが、こうしたキャラクターは3DCGで表現しているのですか?
山下:いえ、実はほとんどのシーンで、キャラクターは作画で描いています。ただ、本作のワークフローの特徴だと思うのですが、バトルゲームやライブシーンでは、作画の作業に入る前に、3DCGのキャラクターモデルを使ってプリビズを作成しています。キャラクターモデルのモーションとカメラワークを付けた状態で、若干修正を入れて二原、三原の作画スタッフに渡して作画してもらい、そのままフィニッシュするという方法で進めています。バトルゲームのKASSENシーンは300カット以上あるので、最初から、一度プリビズで動きをフィックスして作画するという手法に決めて、制作に入っています。
――KASSENシーンでプリビズを作成する際に、こだわった点があればお聞かせください。
山下:3DCGの話とはズレてしまいますが、KASSENシーンでは登場キャラクターが何らかの変形武器を装備しています。今回この変形武器についてはこだわりたい部分だったので、キャラクターに合わせてどういう武器にするのかなどを、時間をかけて設定に落とし込んでいきました。また、長いアクションシーンが続くと観ている方が飽きてしまうこともあり、そのシーン内でのキャラクターの成長軸をきちんと意識して演出しています。アクション中にドラマを見せるということには注力していますね。
――ツクヨミでは多くのモブアバターが登場していますが、モブアバターも作画でしょうか?
山下:モブのアバターも全部作画になっています。VRoid Studioで作成したアバターをCinema 4Dに読み込んでアニメーションを作成し、作画用のプリビズに使用しています。ほかの仕事でもよくこの方法を採用しているのですが、数が多かったので制作部のスタッフの方々に頼んで10数体のバージョンを作成してもらいました。ただ、実際には変換が上手くいかない部分もあったので、町田さんの方でつくり直してもらっているモブキャラクターもあります。
広大な街並みにライブステージ高度なCGアセット制作
――3D背景の制作についてより詳しく伺いたいのですが、ツクヨミの広大な街並みの作成は非常に制作的な負荷が高いと思います。ワークフローなどで工夫した点があれば教えてください。
草間:最初はツクヨミの街並み全体を作成するという話で進んでいたのですが、カットによって街並みの見え方が変わってくるので、あらかじめ建物をつくってしまうとねらった構図にならないんです。何よりも処理が遅くなってしまうので、原図用に数区画分の建物アセットをつくって各演出側にお渡しして、自由に構成していただけるようにしました。建物の外観や高さも演出の方によって使いたい形状がちがう可能性があるため、Blenderのジオメトリノードを使ってメッシュを変形させたり、自動的に階層が増えたり窓が増えたりするしくみをつくってあります。
演出上で困らないように、ひたすらアセットやジオメトリノードをつくっていく作業を半年間ほど続けていました。この点については、『クラユカバ』(2024)での3D背景制作で得たノウハウを発展させて、今回かなり役に立っています。ジオメトリノードを使ったアセット制作の完成形が今回でできたように思います。
――演出の方が直接、Blenderを使って原図を構成していくのですか?
山下:そうなんです。スタジオコロリドの演出部(演出助手)はBlenderを使う方が多いですね。背景のカメラワークを考えているときに、『クラユカバ』を制作したプロデューサーから「Blenderを使って背景をつくっている会社があるよ」ということでキューン・プラントさんを紹介してもらった経緯もあります。
――ツクヨミで開催されるライブのステージデザインもとても華やかで素敵でした。ライブステージも3DCGで制作されているのですか?
山下:ライブステージは、登場するシーンでつくり方がちがっていて、フルCGで作成しているカットもあれば、3Dデータに背景美術を描き足してつくっているカットもあります。
町田:序盤のライブの空間はスティミュラスイメージで、全部3DCGでつくらせてもらっています。提供していただいたガイドモデルを基に、当社の方で色味やルックをどんどん決めていきながら制作していきました。最初は結構盛ったデザインで提出したのですが「ちょっと抑えてくれ」と言われたり(笑)。制作したカット数もかなり多かった部分ですね。最初にオファーをいただいたときに想定していた量の倍くらいになっています。
草間:ライブシーンについては、山下監督が3DCGを使える方ということもあり、今回はBlenderを使って画づくりをしました。特に最後に出てくる卒業ライブシーンなども本編とほぼ同じルックがBlender上で再現されています。実際の本編ショットでは、このBlenderのシーンをカットのレイアウトに合わせてレンダリングして、それを基に美術スタッフが背景を描いていくという工程で各カットの背景が作成されています。通常であれば、美術の方で描いてもらってAfter Effects(以下、AE)でコンポジットしていくと思うのですが、本作では逆の発想で制作されていますね。
山下:序盤のライブステージでは3DCGを使っていたのに、ラストの盛り上がるステージでは手描きの背景を使っている(笑)。この卒業ライブのパートでの突然の“手描きパワー” というのがこの作品の面白いところです。ただ、作画では難しいところもあるので、足りないところは3DCGで補うという感じでカットを制作しています。
町田:卒業ライブでは、城が変形するショットがあるのですが、そこはスティミュラスイメージの方で対応させていただきました。ご提供いただいた城のモデルを使ってアニメーションさせているものの、Blenderで作成されていて当社の3ds Maxではルックが再現できないため、見た目で合わせてカットを作成しました。それと、このときにながれているプロジェクションマッピングの映像も当社で作成しています。プロジェクションマッピングのデザインは、こんな感じにというリファレンスの映像をいただいたので、参考にしながらデザインしました。
山下:この卒業ライブのシーンは本当に大好きで、何度見ても泣けてきます。
プロシージャルな魚群の制作など膨大な物量を熱量で乗り越える
――先ほどもお話がありましたが、ツクヨミで泳いでいる光る魚はとても印象的でした。どのように作成しているのか教えてください。
町田:光る魚のエフェクトについては、監督から豪華絢爛な魚群ではなく人の深層心理のようなアンダーグラウンドでダークな世界、人の心の奥底のような感じというイメージをいただいていたので、深海や宇宙など、人間が到達したことがないような世界をビジュアライズしていきました。魚群は3ds MaxのtyFlowを使って作成しています。tyFlowのBirth Skeletonで魚の骨格のような形状を作成してアニメーションさせ、さらに魚のひらひらとした形状もtyFlowを使ってシミュレーションしています。かなりの物量があるので、tyFlowを使うことでプロシージャルに魚群を生成できるのは都合が良かったですね。あと、魚の動きはループにしてあり、密度が足りないときは撮影の方で魚の量を調整できるようにしています。
――最後に本作の制作を終えた感想をお願いします。
町田:今回の作品は全体を通してかなり物量のある案件だったのですが、現場のムードがすごく前のめりで、10年に一度できるかどうかというくらいの熱量をもって制作できました。当社のスタッフも楽しんでデザインやCG制作の作業を行えました。
山下:そうなんですよね。スタジオコロリドも本当にここ一番くらい、現場の熱量を感じました。まるで背水の陣みたいな。いや、本当の意味で背水の陣だったんですけどね(笑)。今回、一度3DCGで作成して、さらに手描きに戻すという、普通に考えると二度手間になるのですが、どうしても作画の線の感じがほしくてここまでやってきたという感じです。結局、国内外含めて600名近い作画の方に協力してもらっています。
――お話を伺ってエンディングのクレジットロールの長さの理由もわかりました。今回はありがとうございました。
仮想空間『ツクヨミ』のコンセプトアート
本作は現実世界と、主人公のかぐやたちがライバーとして活躍する仮想空間のふたつの世界で物語が展開する。仮想空間のツクヨミは、和風ファンタージをベースとしたデザインで彩られた街並で構成され、和風な建物に現代的なネオンエフェクトが装飾されるなど、煌びやかな世界が広がっている。
さらに、ツクヨミの中にはライブ会場やバトルゲームのフィールドなど、様々なエンターテインメントを体験できるワールドも存在。下記の画像はツクヨミのコンセプトアートの一例で、制作はゴキンジョが担当している。
VRoid Studioによるモブのアバターたち
ツクヨミの世界では多くのアバターが活動しているため、モブアセットのバリエーションも大量に必要になった。これらの作成にはキャラクターをプロシージャルに作成することができるVRoid Studioが活用されている。
VRoid Studioは非常に容易にキャラクターをデザインすることができるため、何人かの演出部のスタッフがVRoid Studioを使ってモブキャラクターをデザインし、PMX形式で書き出したデータをCinema 4DやBlenderに読み込み、プリビズを作成。作画のベース素材として活用されている。
No.2に続く。
CGWORLD 2026年3月号 vol.331
特集:デジタルファッション制作ハンドブック2026
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2026年2月10日
価格:1,540 円(税込)
TEXT_大河原浩一(ビットプランクス)/ Hirokazu Okawara
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada