2026年2月21日(土)から23日(月・祝)に横浜アリーナで開催された『エヴァンゲリオン』(以下、エヴァ)シリーズ30周年フェスイベント「EVANGELION:30+; 30th ANNIVERSARY OF EVANGELION」(以下、エヴァフェス)。スタジオカラーのクリエイターが総合演出を担った本イベントより、展示周遊エリア「EVA EXTRA 30」の模様をお届けする。

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    30周年は「これから」への入口。スタジオカラーの未来を担うクリエイターが挑む、『エヴァンゲリオン』初の大型フェス「EVANGELION:30+; 」直前インタビュー

    イベント概要

    「EVANGELION:30+; 30th ANNIVERSARY OF EVANGELION」
    日時:2月21日(土)~23日(月・祝)
    場所:横浜アリーナ

    主催:EVANGELION:30+;30th ANNIVERSARY OF EVANGELION 運営
    詳しくは、イベント公式サイトをご参照ください。
    30th.evangelion.jp/fes

    ©カラー

    横浜アリーナに広がる『エヴァ』映像の様々なかたち

    近年、アニメ作品の展示会は各地で盛況を見せている。しかし、最大収容人数17,000人を誇る横浜アリーナをフルスケールで使用し、3日間にわたって開催されたケースは極めて稀だろう。

    「エヴァフェス」は、アリーナフロアを大きく二分する構成を採っている。ひとつは多彩な演目を行う「STAGE AREA」、もうひとつが展示周遊エリア「EVA EXTRA 30」だ。両エリアはほぼ同規模で設計されており、展示側にも十分なスペースが割かれている点が印象的だった。

    入場してすぐに目に飛び込んでくるのが、「EVA EXTRA 30」エリアの象徴である「セントラルタワー」だ。6m×4mの巨大LEDモニタ6面に、『エヴァンゲリオン』シリーズの歴史を紡ぐマテリアルを再構成した映像が次々と映し出される。

    上部構造を含めると高さは約12mにおよび、そのスケールは会場の中でも圧倒的な存在感を放つ。シャープなデザインも相まって、単なる上映装置ではなく、空間全体を象徴するモニュメントのような佇まいを見せていた。

    セントラルタワーの映像は6つのセクションで構成されており、スタジオカラーの千合洋輔氏が監督を務めた。アートディレクターを大瀧 翼氏、テクニカルディレクターをBASSDRUMの中田拓馬氏、音楽を村井 智氏が担当。そして、スタジオカラー デジタル部の3DCGIチームと撮影・特技チームをはじめ、BASSDRUMsankakuMULTRASIGNIFといった名だたるスタジオが各パートを担当し、『エヴァンゲリオン』シリーズを形づくってきた多様な映像表現の魅力を拡張する演出が連続的に展開される。

    「INDEX」。『エヴァ』シリーズではフォントをグラフィカルな要素として用い、単なる文字情報を超えた視覚的インパクトを生み出してきた。本展示でも、ストーリーのあらすじが、大瀧のアートディレクションによってグラフィカルに表現されている。さらに、プロジェクトスタジオQによるモーショングラフィックスがデザインの魅力を引き立てる
    ▲BASSDRUM中田氏がディレクターを務めた「Scene Loader」。新劇場版の様々なシーンをコラージュしたムービー。劇場作品ならではの情報量を活かし、大型モニタでも十分な見応えを生む構成となっている。本編から切り出した画角で提示することで、既存のシーンにも新鮮な印象を与えていた。タワー上部やエリア周囲に張り巡らされた700本近くのLEDバーが、常に映像と連動して様々な色と動きで発光する壮観なLEDバー演出は、BASSDRUM池田航成氏のテクニカルディレクションによって実現した
    ▲スタジオカラー デジタル部3DCGIチームによる「Wireframe」。『エヴァ』シリーズの機体などの3Dモデルを、ワイヤーフレームの状態で提示する映像だ。写真中央のスタッフとの身長差から、その圧倒的なスケールと緻密なディテールが伝わる。モデルは360度回転し、そこにFoliumによるモーショングラフィックスが組み合わさり、ハイディテールな世界が広がる
    ▲sankakuによる「Key Frame」。原画単体で提示するカットや、本編映像に原画を重ね合わせる演出によって、線が持つ情報量の豊かさを改めて実感させる。画面全体の色調設計や原画の線のカラーリングも、印象的な視覚効果を生み出していた
    ▲MULTRAによる「Monitor Graphics」。『エヴァ』シリーズに登場する多彩なモニターグラフィックスの魅力に着目し、マルチスクリーンを活かして演出された映像だ。幾何学模様やテキスト情報を本編の文脈から切り離し、巨大モニタ上に提示することで、デザインそのものの美しさを改めて浮かび上がらせる
    ▲撮影・特技工程の魅力に迫る「VFX」。スタジオカラー デジタル部の撮影・特技チームが今回のために用意したスペシャルムービーを、SIGNIFがモーショングラフィックスを駆使して構成・演出した。原画の力はもちろんのこと、撮影や特技工程が戦闘シーンに与える影響の大きさを改めて実感させる内容だ。素材を段階的に分解して提示することで、クリエイターたちの多様な創意工夫が浮かび上がる

    「EVA EXTRA 30」セントラルタワー のクレジット情報はこちら
    https://30th.evangelion.jp/fes/news/55

    「MATERIAL of EVA」が示す中間制作物の実在感

    セントラルタワーの斜め前にある展示が「MATERIAL of EVA」だ。ここでは『新世紀エヴァンゲリオン』のセル画や、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』関連の原画など、時代を横断して収集された貴重な制作資料が展示されている。これらの資料整理と展示に協力したのは、庵野秀明氏が理事長を務める認定NPO法人アニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)である。

    案内によれば、『新世紀エヴァンゲリオン』の制作資料は、1995年のTV放送および1997年の劇場公開以降、倉庫などで保管されてきたものの、長らく未整理の状態にあったという。2023年以降、ATACの研究員が整理作業を開始し、本編映像との照合を行いながら記録・リスト化を進めた。

    本イベントでは、そのように再整理された資料の数々が公開されている。展示資料の多くは初公開となるものであり、作品を形づくった“制作の痕跡”を間近に感じられる内容となっていた。

    展示スペースの大半を占めていたのは、『新世紀エヴァンゲリオン』のセル画だ。驚くべきは、その保存状態の良さである。

    セル画はアセテート樹脂製で、紫外線や加水分解の影響を受けやすく、一般に長期保存が難しいとされる。しかし制作から30年以上を経た本作のセルには、アニメカラーのヒビ割れや輪郭線のかすれといった劣化はほとんど見られず、まるで制作当時のままのような印象を受けた。

    その背景には、資料整理と保存に携わった関係者の継続的な努力があったことは想像に難くない。

    この展示で改めて強く感じたのは、アニメ制作の“手作り感”である。本展のセルは背景と分離され、白紙の上に展示されていた。セルに塗られたアニメカラーが白紙に影を落とすことで、セルとしての物質感を鑑賞者に訴えかける。

    現在のアニメ制作は、制作工程から最終的に視聴者のモニタに映るまで、ほぼ全てがデジタル上で完結する。デジタルならではの高度な視覚効果は確かに魅力的だが、その過程は視聴者にとってブラックボックス化しやすい。対して、1枚1枚の動画やセル塗りの仕上げ、ブラシによる特殊効果の痕跡がそのまま提示されると、作品が人の手によって作られていたことが生々しく伝わってくる。本展示は、その素材が実際に撮影工程を経て映像化されていた事実を示すものでもある。

    さらに、いわゆる版権絵と呼ばれるパッケージやグッズ、アニメ誌用のセル画も展示されていた。印刷物として目にする機会の多いこれらのイラストも、原画・セルとして見ると本編以上に細密で、手の込んだ仕上がりが際立つ。展示空間の中で改めてその存在感を放っていた。

    ▲ネルフ本部発令所のレイアウト検討模型。現在であればプリビズで制作されるであろうモックアップにあたるものだ。こちらは方眼紙で作られており、正確なレイアウトが重視されていたことが窺える
    ▲作画スタッフに配布された注意事項。手描きの動画(中割)は多数のスタッフによって制作されるため、作画の統一を図る目的でこうしたガイドラインが共有されることがある。ただし、メイキング記事などを含めても公開される機会は非常に珍しい。クリンナップの方法や目の描き方、顔の振り向き、歩き方に至るまで、動きを統一するための具体的なポイントが記されている。最終的に動画の線はセルへ転写され、撮影工程へと進むため、線画クオリティを担保する“最後の砦”ともいえる存在だ。注意事項にタイトルが付けられている点からも、制作現場の空気感が伝わってくる
    ▲トレスとは、動画用紙に描かれた輪郭線をセルへ転写する工程を指す。トレス後に仕上げ工程へと進み、線で囲まれた領域をセルの裏側からアニメカラーで着彩する。黎明期には手描きによるハンドトレスが行われていたが、その後トレスマシンが登場し、作業効率の向上に大きく貢献した。動画用紙とセルの間にカーボン紙を挟み、マシンに通すことで、動画の鉛筆線をセルに熱転写するしくみだ。展示されている黒い紙は、線を転写した後のいわば“マスク”にあたる部分。動画やセルは展示される機会があるものの、作業後のカーボン紙は通常廃棄されるため、制作関係者以外が目にする機会はほとんどない

    「これまで」と「これから」への思いを込めた展示

    セントラルタワー背後に広がる「アニバーサリーパーク」は、『エヴァ』シリーズの歩みを振り返るゾーンだ。壁面にはTV放送前の動きから記した年表が掲出され、各話の放送記録や劇場公開の履歴、歴代パッケージソフトのジャケットまでが網羅されている。作品史を客観情報として提示する、クロニクル的な空間構成が印象的だった。

    さらに、26台のブラウン管モニタにTVシリーズ各話を同時上映する展示も設けられていた。来場者はハニカム型のベンチに腰かけ、思い思いの話数を鑑賞できる。ブラウン管特有のにじみや色味、画角の印象は、当時の視聴環境そのものを想起させる。

    現在では動作品の確保が難しいブラウン管モニタだが、本展示ではソニーPCLの協力のもと、14インチと9インチを合わせて26台を用意したという。最終的な“視聴体験”まで再現しようとする姿勢からも、30年という時間の重みが伝わってきた。

    会場の一角に設置された、幾何学模様をあしらった大型筐体が「ヴァーチャルカメラスタジオ」だ。『シン・エヴァンゲリオン劇場版』における初号機VS第13号機の3DCG戦闘シーン制作で採用されたUnityベースのヴァーチャルカメラシステムをスタジオカラーとBASSDRUMが共同開発、体験型コンテンツとして再構成したものである。

    来場者はスマートフォンを活用したデバイスを用い、本編戦闘シーンの前段階にあたる約20秒のシークエンスのカメラワークを操作する。AR空間認識を用いた6軸リアルタイムトラッキングを用いることで、来場者がデバイスを動かすと、位置・角度・画角がCG空間の仮想カメラに即座に反映され、まるで本物のカメラでCG世界を覗き込むかのような撮影体験を実現した。

    3回のテスト撮影の後に本番収録が行われ、最終的には来場者の撮影した映像と本編シーンをプリビズルックで再レンダリングした映像が、約1分尺にまとめられて出力される。完成映像は、ユーザー登録時に発行される2次元バーコードからダウンロードでき、SNSでの共有も可能だ。さらにエンドロールには、登録したユーザー名が本編クリエイターと並んで表示される演出も用意されている。

    SNS上では「エヴァフェス+ヴァーチャルカメラ」などのキーワードで、多彩な成果物を確認できる。特撮的なステージ性を活かしたリアリティ重視の構図や、本編との連続性を意識したカメラワークなど、来場者それぞれの解釈が反映された映像が並んでいた。本展示は、映像制作の楽しさを体感させると同時に、次の創り手を静かに後押しする装置としても機能していたように思える。

    横浜アリーナという巨大空間に広がったのは、30年分の記憶だけではない。そこには制作の手触り、技術の進化、そして未来への視線が同時に存在していた。エヴァという作品が積み重ねてきた時間と、それを継ごうとする世代の現在地。その両方を体感できるイベントだった。

    なお、4月10日(金)発売のCGWORLD vol.333(2026年5月号)では、事前インタビューや本稿で紹介した現地レポート、さらに開催後のメイキングを含めたふり返り記事を掲載予定だ。制作の舞台裏により踏み込んだ内容をお届けするので、ぜひご期待いただきたい。

    TEXT_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota