2021年6月24日(木)から配信中のNetflixシリーズ『全裸監督 シーズン2』。バブル景気にわいた1980年代を描いたシーズン1に対し、シーズン2ではバブル景気の終焉と、拡大路線の破綻によって主人公・村西とおる(山田孝之)が転落していく様が描かれる。ビジュアルのスケールアップとクオリティアップを実践すべく、新たな体制で臨んだ本作。そのVFXをリードしたSpade&Co.の小坂一順VFXスーパーバイザーをはじめとする中核スタッフたちに話を聞いた。

TEXT_村上 浩(夢幻PICTURES)/ Hiroshi Murakami(MUGEN PICTURES
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota



『全裸監督 シーズン2』予告編1 - Netflix
© 2021 Netflix, Inc.

information Netflixシリーズ『全裸監督 シーズン2』 www.Netflix.com/title/80239462 総監督:武 正晴/監督:武 正晴、後藤孝太郎/原作:本橋信宏『全裸監督 村西とおる伝』(太田出版、新潮文庫)/脚本:山田能龍、小寺和久/脚本協力:大江崇允、岨手由貴子、川﨑いづみ/美術:都築雄二、大西英文/撮影:江原祥二/照明:杉本 崇/装飾:山田好男、松田光畝/編集:堀 善介/VFXスーパーバイザー:小坂一順/制作プロダクション:C&Iエンタテインメント

【中核スタッフ】
左から、VFXディレクター 白石哲也氏、CGスーパーバイザー 山岸辰哉氏(フリーランス)、VFXスーパーバイザー 小坂一順氏、VFXプロデューサー 塙芽衣氏、テクニカルアーティスト 亀村文彦氏(ロゴスコープ)
Spade&Co.



【参加デジタルアーティスト】
左から、山田昭仁氏、戸梶雅章氏(フリーランス)、澤田康平氏、新谷真生氏、賀山 淳氏(フリーランス)、正木里桜氏、大場勇作氏、一瀬 隼氏(Barehand Modeling Studio)、塚原大輔氏、関野公紀氏(Barehand Modeling Studio) ※所属の記載がない方はいずれもSpade&Co.所属



【参加コンポジター】
左から、小川秀平氏(フリーランス)、上田春寧氏、藤枝京佑氏、芝 那々子氏、浅川翔太氏、出石涼太氏、田中朝幸氏(フリーランス)、髙栁優斗氏、丸 晴凪氏、久保田瑠生氏 ※所属の記載がない方はいずれもSpade&Co.所属



<1>CGプロダクション内で完結できる4K/HDRワークフローを構築

シーズン1では、主人公・村西とおる(山田孝之)の事務所シーンの多くがスタジオセットで撮影されていたという。しかし、今回紹介するシーズン2ではリアリティをさらに追求したいという武 正晴総監督や美術監督たちの意向を汲んでスタジオセットだけでなくロケーション撮影も取り入れることになった。

シーズン2の主なロケ地は、サファイア映像(シーズン1で、村西が仲間たちと起ち上げたAVプロダクション)がオフィスを構える渋谷東急ハンズの周辺で行われた。90年初頭の面影が多く残る場所で周囲のオフィスビルも当時のままだったこともあり、合成処理も看板の差し替えや窓の外に見える景色など軽めの作業で済んだという。ただ、シーズン2「第1話:宇宙からエロが降る」冒頭で描かれる渋谷のスクランブル交差点周辺は再開発が進み当時とは大きく街並みが変わってしまったため、ビル群から道路標識に至るまで90年代の街並みをCGで忠実に再現しなければならず最も多くの作業時間を要したという。





「制作当時は複数のプロジェクトが進行しており社内スタッフも多忙を極めていたため、本作の指揮を執ってもらえるCGスーパーバイザーを探していました。そんな矢先、山岸(辰哉)さんが『全裸監督に参加したい』とツイートしたことを知り、オファーしたのです。私がオムニバス・ジャパンに在籍していた頃から山岸さんは高名で、映画『宇宙兄弟』(2012)のロケット発射シーン(※1)など質の高いVFXを多く手がけていらっしゃったので、いつか一緒に仕事をしたいと思っていました。今回ようやくその夢を叶えることができました」と、Spade&Co.代表取締役で本作のVFXスーパーバイザーを務めた小坂一順氏は語る。

※1:同シーンは、第66回(2012年度)「映像技術賞 VFX部門」(一般社団法人 日本映画技術協会)を受賞した

本作は4K/HDRフォーマットで制作、完パケされた。そのためNetflixが指定した仕様や基準に沿ったワークフローをイチから構築しなければならなかったという。「4K/HDRを扱った経験もなくNetflixがサイトで公開している仕様書も難解でACESなどの用語をイチから学ぶことから始める必要がありました。そこで山岸さんに亀村(文彦)さんを紹介してもらい社内のインフラ整備からワークフローの構築まで一括して担当していただきました」(小坂氏)

テクニカルアーティストとして本作に参加した亀村文彦氏(ロゴスコープ)は、2020年3月に行われたテスト撮影から本撮影が開始される4月までの約1ヶ月間で、HDRの扱い方や適切なプレビュー方法など課題を洗い出し機材の選択からシステムの設定まで、入念な検証を行なった上でワークフローを構築した。



▲ 最終的に完成したHDRプレビューシステムの構成図。ロゴスコープ/亀村氏の設計により、HDRとSDRを同時に確認できる体制を実現



「Spade&Co.における初の4K/HDRによるNetflixシリーズ 作品だったため、まずはNetflixから配布されている納品仕様書(Netflix Branded Delivery Specifications)やベストプラクティスを、Spade&Co. の主要メンバー間で読み合わせすること から始めました。その結果、今までの映画やCMで培われたカラーパイプラインを変更することなく、本HDR作品に対応できることがわかりました。しかし、制作される画像データは今まで通りでも(DCI-P3やRec.709のSDRコンテンツ)、適切なHDR表示環境(※1)で視聴した場合にのみ起こる視覚的なアーティファクトを発見するためには、SDRとHDRそれぞれの視聴環境を同時に視聴する環境が必要です。そこで、既存のプレビュールームを改造して、Nuke Studioを軸とするVFXスタジオ用にカスタマイズされたSDR&HDR同時視聴環境を構築しました(上図)。このSDR&HDR同時プレビュー環境のおかげで、ポストプロダクションやグレーディングルームに足を運ばずとも、それと同等品質のVFXチェックや監督プレビューを低コストに行うことができます。また、Spade&Co. のスーパーバイザー陣によるVFXチェック時に、高輝度なHDRかつ大画面スクリーンでのみ起きるジャーキネスや、高輝度域での色空間外範囲など視覚的に体験できる上に、SDRとの比較を同時に行えるため、HDR制作時のVFXノウハウがスタジオとしてはもちろんのこと、個々人としてもドンドン蓄積していくことができました」と、亀村氏はふり返ってくれた。

※1:適切な表示環境とは、4K-HDR規格、またはHD-SDR規格で決まった最適な画面サイズ、視聴距離、画面輝度、背景輝度、環境照度のこと



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  • ◀ Spade&Co.のプレビュールームを4K/HDR対応にリニューアルする際の検証時に撮影した写真。<A>プレビューシステムを構成するモニタ、4K出力デバイス、LUT変換ボックスを複数種のメーカーを選定して比較検証した/<B>HDR TV(民生モニタ)のHDR輝度範囲や線形性を測定する様子。実際に用いるNuke Studioからの出力を基に検証が行われた。(映像遅延やオーディオとの同期についても検証)/<C>検証後の選定されたシステムを主観評価する様子。モニタに合わせた色空間変換を適用した後の、iMac Pro上のNuke StudioのUI画面、HDRおよびSDRの映像出力の主観評価

全8話で構成されたシーズン2にて、Spade&Co.が手がけたVFXショット数は551。なお、第1話に搭乗する宇宙衛星シーンは、本編のビジュアルとは大きく異なるため、演出を務めた中島賢二氏を中心とするチームが担当した(同シーンのVFXはKhakiがリード)。VFXカットはShotGrid(旧Shotgun)を用いて進捗状況やデータ管理、アセットの共有が行われた。Nuke Studioから出力されたオフラインデータを基にShotGrid上に全ショットのサムネイルやショット名、Nukeファイルやタスクのテンプレートが自動作成されるためスタッフの手間も軽減されヒューマンエラーも抑えることができ重宝したという。「軽い気持ちでツイートしただけなのに本当に制作に参加できるとは思いもしませんでした(笑)。コロナ禍によってクランクインが遅れたことからポストプロダクション期間は当初の予定よりもタイトになったことに加え、4K/HDRという初めて扱うフォーマットでつくる必要があったのでなにか苦労しましたが多くの方々に支えられて完遂することができました」と、CGスーパーバイザーを務めた山岸辰哉氏。





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▲ Nuke StudioとShotGridのデータ連係の例。<A>Nuke Studio出力設定画面。Shotgrid側と連携しながらどういったフォルダ構造で進めていくかを決めていく/<B>Nuke Studioから出力されると同時に、オフラインムービーのサムネイルバージョン化・シーケンス名・ショット名・ショットのin / out点・ショット尺がNuke Studioと同期するかたちでShotGrid側に登録されていく。「事前に設定しているタスクテンプレートを割り当てることができるので、ショット登録と同時に必要タスクも作成されます。今まではプロダクションマネージャーが手入力していたことがいっさい省けるようになったことが大きな利点となりました」と、VFXディレクターを務めた白石哲也氏



<2>デジタルアーカイブが稀少な90年代の渋谷を再現

シーズン2・第1話の冒頭で村西が渋谷のスクランブル交差点で演説するシーンは、足利スクランブルシティスタジオで撮影を行い、背景の街並みは3DCGで忠実に再現したものをコンポジットするという、本作のなかでもトップクラスで難易度の高いVFXが求められた。コロナ禍の影響から実写撮影のロケ地がなかなか決まらなかったため、絵コンテやプリビズ作業もテイルヘビーな進行となり、VFXワークも混迷を極めたという。「90年代初頭のスクランブル交差点を再現するというのが本作最大のミッション。膨大な数のアセットが必要でした。そこでハイクオリティのエンバイロメントに定評あるBarehand Modeling Studiosさんに協力を求めました。アセット制作に着手したタイミングでは絵コンテがなかったため、渋谷の街並みのどのエリア(方位)が必要になるのか絞りきれなかったので、スクランブル交差点の周辺全体をつくることになりました」(山岸氏)



▲ 第1話(1991年当時)のスクランブル交差点シーンより



先述の通りクランクインは2020年3月だったが、4月7日(火)に1回目の緊急事態宣言が発令されたため、撮影を中断することに。その後、6月下旬に再開され11月にクランクアップ、順次オフライン編集が進められたという。だが、第1話冒頭シーン用の撮影は諸事情によりクランクアップ直前に撮影された。なお、渋谷の街並みのアセット制作は2020年8月からスタートし、2021年4月に完了(Barehandにとっての納品)となった。

90年代の渋谷の街を再現するため多くの資料をかき集めたが、特にビルに掲げられた看板の資料は写真自体が少ない上に解像度が低いなどリファレンス探しも難航した。信号機も現在はLED化が進んでいるため、当時のものとは形状が異なるためCGで差し替えることが求められた。さらに横断歩道のラインや標識なども現在と異なるため細心の注意を払いながら制作が進められた。「同じスクランブル交差点でも第1話の舞台となる91年と、第8話(『石の意志』)の舞台となる94年では、街中の看板を作り変える必要もありました。90年代の渋谷を再現するといっても今あるビルに汚しを入れ古く見せれば済むわけではありません。それらのビルも当時は今より新しかったはずですから古過ぎず新し過ぎないバランスの取れたルックを目指しました。普段はSubstance Painterを使用して質感付けを行うのですが、本作で求められた写実的なルックには写真素材を貼り込んだ方が良い結果が得られると感じました。アセットはモデル形状の善し悪しだけでなくシーンファイルに読み込んだ際に適したルックなるよう仕上げなければならないのですが、4K/HDRフォーマットによる制作では想像以上にアセットの細部まで見えてしまうため、CGプロダクション側でも4Kのマスモニで確認できる環境を整えることが必須だと思いました」と、Barehand Modeling Studios代表取締役で、同社チームのCGスーパーバイザーを務めた一瀬 準氏はふり返る。



▲ 第7話(1991年当時)のスクランブル交差点シーン。当時の写真などの資料を基に、看板などがCGで作り変えられた



足利スクランブルシティスタジオ(オープンセット)における撮影では、コロナ禍中のためエキストラは1,000人ほどしか動員できなかったため、群衆やクルマなどをCGで作成することも求められた。クルマは市販モデルを加工し、カラーバリエーションを持たせつつ、運転席にモブを乗せるなど細部にまでリアリティを追求。デジタルモブはレスパスビジョンがフォトグラメトリーベースで作成したモデルを使用。モーションはスクウェア・エニックスのスタジオで収録したキャプチャデータを使い、HoudiniのCrowdsを利用してモブシステムを構築。モブは遠景や手前などブロック毎にArnold Scene Source(ass)で連番出力することでデータ容量を節減することで大規模なシーンを実現した。「スクランブル交差点の周囲を歩くCGの群衆が実写の人物と重なってしまったり壁や植木を突き抜けたりしてしまうこともありコンポジットで位置や数の調整が必要になりました。群衆を奥や手前など細かく素材分けを行うことも考えましたが、膨大なレイヤー数になりレンダリングにも多くの時間を費やすことになってしまうためDeep Compositeで対応することにしました。ただ、4Kサイズということもあり処理負荷も高く取り扱いには苦労しました」と、VFXディレクターを務めた白石哲也氏(Spade&Co.)。HDRではハイライトやマスクのエッジが際立つためコントラストや馴染み具合は細心の注意を払ったが、それ以外はSDR時の作業と同じ感覚でコンポジット作業を行えたそうだ。



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▲ 中景から遠景用のデジタルモブ。<A>フォトグラメトリーから作成された/<B>モーションデータの例



▲ CGで作成されたタクシー。座席にはデジタルモブが加えられた



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▲ スクランブル交差点シーンのCG作業例。<A>計測データを基にオープンセットを3D化したもの/<B>ライティング作業用のMayaシーン



スクランブル交差点シーン(QFRONT側)のブレイクダウン

  • <STEP 1:実写プレート>

  • <STEP 2>

  • <STEP 3>

  • <STEP 4>

  • <STEP 5>

  • <STEP 6>

  • <STEP 7>

  • <STEP 8>

  • <STEP 9>

  • <STEP 10:完成形> コンポジット作業時は、DeepデータをRGB素材とは別情報として読み込み、Nuke側で連結させている。各素材はDeep情報を含んでいるため、コンポジターは各レイヤーの前後関係を気にすることなく、スムーズに作業を進めることができたそうだ



<3>実在感を高めるインビジブルエフェクト

ポストプロダクション期間中も緊急事態宣言が発令されていたため多くのスタッフがリモートワークで作業を行うことになった。そこでShotGridを介しアセットデータやロケ時の撮影情報、チェックバックなどを共有することにしたという。さらにリモートワークでもストレスなく作業できるよう全てのアセットはArnold Scene Source (.ass)ファイルに変換し、テクスチャはtx化することでデータ容量や処理負荷を軽減させた。作業時はローポリモデルを表示させレンダリング時はハイメッシュのモデルに切り替わるようにするべくMayaのArnold Translatorを利用。事前にアセットを.ass化することでレンダリング時の変換処理を省略できるため、レンダリング速度が向上するというメリットも得られたそうだ。さらに、MayaのTX Managerで作成されたtxファイルや.assファイルの書き出しや差し替えはほぼ自動でパブリッシュできるようパイプラインが構築されている。「VFX制作にはロケ時のカメラの位置やレンズなど細かな情報が欠かせません。Spade&Co.には助監督上がりのスタッフが在籍されているので、現場の撮影データを事細かに記録してくれるので非常に助かりました」(山岸氏)



▲ Arnoldのプロキシ機能(.ass)を用いたレンダリング例



渋谷に移転したサファイア映像が入居するトウセン宇田川ビルのシーンでは、CGSLABによるフォトグラメトリーから作成した3Dデータをガイドにアセットを作成。アップショットになることもあるためUDIMを使い、4K/HDRの品質に耐えるよう作成された。このシーンでは、ロケ撮影からスタジオ撮影のプレートへとシームレスに切り替わるトラベリングショットも登場するが、その自然な仕上がりはSpade&Co.の真骨頂だろう。



  • ◀ フォトグラメトリーから作成したトウセン宇田川ビルの3DCGモデル



▲ トウセン宇田川ビル(3DCGモデル)のマテリアル素材。コンポジット作業で細かく調整できるよう、AOVで各種チャンネルを出力



トウセン宇田川ビルシーンのブレイクダウン

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  • <A>実写プレート/<B>3Dカメラで再構築するための背景差し替え素材。奥レイヤーはマットペイントを使用/<C>3Dビルを配置/<D>3Dビルのコンポジット作業。手前部分のCG素材を調整/<E>実写プレートから必要な部分を戻した完成形。演者など生身の人間は、基本的に全てマスクワークで戻し作業が施された



足利スクランブルシティスタジオで撮影されたプレートは、周囲にビルが存在しないため実際の渋谷とは光の回り方や影の落ち方が大きく異なるため周囲のビルが正確に描写されたCGの背景素材と合成した際に違和感が生じてしまい影の落ち方や見映えなど考慮したライティングを施す必要もあった。例えばスクランブル交差点シーンの場合、ビル群、車、群衆、街路樹、信号機といった大まかに5つのレイヤーで構成されており信号機の明滅や地面影の具合をコンポジットで細かく調整できるよう多くのエレメントを出力している。



▲ Nukeによる3Dプロジェクトで再構築されたJR渋谷駅ハチ公口



スクランブル交差点シーン(JR渋谷駅ハチ公側)のブレイクダウン

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<A>実写プレート/<B>Nuke上で3Dプロジェクションによって再構築されたCG背景を合成/<C>CGで作成した街路樹と電話ボックスを合成/<D>ベースコンポジット/<E>高解像度で高い精度を求められたFGマスク素材。髪の毛の細かなディテールまで再現できるように努めたという/<F>一連のコンポジット処理が施された完成形



スクランブル交差点シーンのコンポジットを担当した芝 那々子氏は、同シーン以外にも渋谷のカラオケ店やダッチワイフを燃やすシーン(後述)など、実写と3Dが複雑に絡み合う難易度の高いシーンを数多く担当しており、白石氏の右腕として活躍した。「店内から窓越しに渋谷の夜景を捉えたショットでは、Mayaから出⼒された電光掲⽰板や、⾚井紀⽂さん(フリーランス)に描いていただいたマットペイントで奥行き感のある背景を作成しました。カメラのトラッキングが上手く行かず店内と窓外のライティングも大きく異なるのでバランスを取るのに苦労しましたが、窓ガラスに映り込みや汚しなどを加えリアリティを追求しました」(芝氏)



▲ Nukeによる3Dプロジェクションによって、窓外の渋谷の街を構築



窓越しに渋谷の夜景を捉えたショットのブレイクダウン

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<A>Nukeで再構築しつつ、光の表現等をコンポジットワークで詰めた背景素材/<B>人物のマスクワーク/<C>人物のコンポジット調整/<D>カラオケ店内のガラス映りの再現や、リアリティを出すために汚しや追加の映りを追加した完成形



最後に景観以外のユニークなVFXを2つ紹介しよう。川田研二(玉山鉄二)と荒井トシ(満島真之介)が、川田が大事にしていたダッチワイフを燃やすシーン(第7話『奇想転落』より)だ。ここでは厚みのある黒煙を追加したいという監督のオーダーを受け、StealthWorksがベースとなる炎と煙をCGで作成。さらにそこへ実写の煙素材を加えるなど、芝氏が巧みなコンポジットワークを施し、印象深いシーンに仕上げられた。



ダッチワイフを燃やすショットのブレイクダウン

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  • <A>CGで作成した炎と煙素材/<B>実写プレート/<C>一連のCG素材をコンポジットした状態/<D>煙の実写素材を混ぜて、接地感やなじませを調整した状態/<E>人物のマスクワークを施した完成形



そして、ブラウン管のテレビ画面に映し出される映像の加工処理も本作ならではのVFXである。この表現は、NukeでNTSC特有のインタレース(走査線)を再現するためのノードを組んで表現。画面ハメコミ合成はカット数も多かったためテンプレートを作成し、スタッフ間で共有した。ルックが決まるまでに時間を要したが滲みや走査線を加えることで違和感のないショットに仕上げている。「今回初めて4K/HDRという高精細な映像を手がけることになったので、亀村さんにプレビュールームを構築してもらいました。情報量が桁違いの上にHDRとSDRで細部の見え方が異なるため、コンポジターが作業するときも両規格でチェックできる環境が必要だと感じました。ただ慣れと経験で対応できる部分もあるので、本作で構築したパイプラインをベースに制作を続けて、ノウハウを蓄積していきたいです」(白石氏)



ブラウン管モニタへのルック加工のブレイクダウン

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<A>はめ込み用のオリジナル実写素材/<B>インターレースエフェクトを追加//<C>ブラウン管モニタに合わせて、画面走査線エフェクトをかけた状態/<D>走査線エフェクト素材/<E>オリジナルプレートをはめ込んだ状態/<F>一連のコンポジットワークが施された完成形