ヤングアニマル連載中のコミック『ロックは淑女の嗜みでして』(以下、『ロックレディ』)。主人公は親の再婚で、庶民から不動産王である鈴ノ宮家の娘になった、高校1年生の鈴ノ宮りりさ。大好きだったロックとギターを捨て「お嬢様らしく」振舞う努力をしていた彼女だったが……。

「お嬢様×ロック」の青春譚が大人気の本作。アニメ化にあたっては世界的な人気を誇る日本のガールズロックバンド「BAND-MAID」がモーションキャプチャを務めたことでも話題になった。今回はそのCGメイキングを4回に分けて紹介する。最終回となる今回はモーションキャプチャやアニメーション付けを解説。

記事の目次

    関連記事:アニメ『ロックは淑女の嗜みでして』BAND-MAIDによるモーションキャプチャが話題!(1)ワークフロー篇(2)キャラクター篇(3)セットアップ篇

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 323(2025年7月号)に一部、加筆修正を加えた転載となります。

    楽器のモデリング、およびモーションキャプチャとアニメーション付け

    演奏シーンの制作にあたっては、キャラクターのモデリングや動作だけでなく、楽器のつくりや動きも重要になってくる。キャラクターたちが使用する楽器は、実際の写真資料を基にモデリングされた。

    リアルな挙動を表現できるよう、シンバルの揺れやキーボードの鍵盤などには、実際の楽器と同じ動きができるようにリグが施されている。演奏は先述の通りキャプチャデータをながし込んだ後、動作ひとつひとつに細かな調整を施して芝居付けを行う。特にギターやベースの運指は、キャプチャだけではフレットを押さえる基本的な動作しか収録できなかった。

    それ自体はスタッフにとって、タイミングを計る基本的なガイドとしては機能したが、映像と音を完璧にシンクロさせるためには、実際のカメラで撮影した演奏動画を基に楽譜と見比べ、1コマずつ手付けで詰めていく必要があった。

    グラフィニカのスタッフの中には楽器経験者も多く、それぞれの知見を作業に活かしていったという。逆に坂口氏をはじめ本作の制作をきっかけに楽器を手にしたスタッフもおり、音楽への愛情がしっかりと込められている。

    ギターをはじめとするバンドメンバーの楽器のモデリング

    りりさたちが演奏するギターなどの楽器については、原作マンガの絵から近い形のものを選考し、監督確認後に原作確認を行なって、モデルが制作された。

    ▲りりさのギターのモデル
    • ▲りりさのギターのレンダリング画像
    • ▲同じく、りりさのギターのレンダリング画像
    ▲音羽のドラムのモデル
    • ▲音羽のドラムのレンダリング画像
    • ▲同じく、音羽のドラムのレンダリング画像
    ▲ティナのキーボードのモデル
    • ▲ティナのキーボードのレンダリング画像
    • ▲同じく、ティナのキーボードのレンダリング画像
    ▲環のベースのモデル
    • ▲環のベースのレンダリング画像
    • ▲同じく、環のベースのレンダリング画像

    モーションキャプチャの収録

    モーションキャプチャのマーカーはアクターだけでなく楽器にも付けられており、プレイ中の楽器の動きもリアルに追っている。画像はシンバルの揺れる動きをキャプチャする目的で付けたマーカー。このほかに、ドラムスティックにもマーカーを付けてリアルな動作を反映している。

    「通常のカメラでは動きが追いきれないほど速いドラミングでも、キャプチャの判定の有無で動きを把握することができました」(坂口氏)。また、ギターにつてはアクターを務めたKANAMIの親指の第一関節、人差し指と小指の第三関節にマーカーを付けて、指の動くおおよそのタイミングをキャプチャしている。より詳細な動きについては多角度のカメラで撮影したものを参考にした。

    ▲アニメ公式より公開されているBAND-MAIDのメンバーによるモーションキャプチャの様子

    楽器のリギング

    楽器全般は基本方針として「現物で動くところは動く」ようにリグを配置している。

    • ▲ドラムのリグ。ハイハットやバスドラム用のツインペダルにもリグが仕込まれており、リアルな挙動が可能
    • ▲ブームアームは「シンバルから常に垂直になるように」という決まりがあり、カットごとのカメラワークに応じて微調整ができるよう、部分的な調整リグが追加されている
    ▲キーボードは鍵盤ひとつひとつにリグが仕込まれているのはもちろん、上部のコンソールのボタンやツマミも動かせるように設定されている

    ライブハウス「MIXHALL」の制作

    第9話に登場したライブハウス「MIXHALL」。まず、美術制作を担当しているととにゃんから配布されたレイアウト用のモデルに対し、グラフィニカ側からテクスチャ用に必要な美術を発注する。その後、受け取った美術データを貼り付け、Substance Painterで調整と仕上げを行なった。ライブシーンではカメラワークが激しく、ライトが見切れる場合は位置を移動させたり、印象が変わらない程度にステージを広げるなど、演出に応じて柔軟な対応がされている。

    ▲美術ボード
    ▲レンダリング画像

    アニメーターによるハイライトの追加

    キャラクターの顔がアップになった際にはハイライトやまつ毛のディテールが加えられている。これらは当初、予定がなかったものをアニメーターが自主的に制作して追加し、それぞれのパーツが社内に配布されたという。「社内でリファレンスされて、顔がアップになるたびにディテールが増すという現象が起きました(笑)」(3DCGサブディレクター・東 優子氏)。

    • ▲音羽のノーマル瞳
    • ▲音羽のディテールが加えられたワイヤーフレーム
    • ▲まつ毛と瞳ハイライトのハイディテール部分。3ds Maxによるもの
    • ▲ノーマル瞳にまつ毛と瞳ハイライトのハイディテール部分を加えたハイディテール表現

    3ds max上での顔の形状の調整

    各キャラクターにおける頭部モデルの調整前と調整後の比較画像。調整前はアオリのカメラアングルの際にどうしても平板で寸詰まりのような形に見えてしまう。そこで輪郭・顎・目の周りにフェイシャルリグを仕込み、カットに応じて1クリックで変形できるようプリセットを組んだ状態にして、さらに各カットの担当者が微調整を加えて頭部の形状をつくっている。

    「本作には目を大きく見開いたり、不敵に口を歪めたりするようなカットがあります。その際、従来のモデリングの仕方ですと、頭部の輪郭が崩れて破綻するおそれがありました。そこでPencil+ 4の透過機能を使い、顔と口のモデルを別にすることで対応しています」(樋口氏)。

    • ▲りりさ、アオリの調整前
    • ▲調整後
    • ▲音羽、俯瞰の調整前
    •  ▲調整後
    • ▲ティナ、俯瞰の調整前
    • ▲調整後
    • ▲環、アオリの調整前
    • ▲調整後

    After Effects上での調整

    アニメーターは3ds Max上の調整の後、さらに原作の絵に近づけるべく、After Effectsで表情をディテールアップさせている。以下は調整前と調整後の例。これらの表情は社内で共有され、話数が進むにつれて描写の密度はさらに高まっていったという。

    • ▲ドラムを演奏する音羽の調整前
    • ▲調整後。おでこに落ちる影や歯を食いしばる口元の影、そして乱れた細い髪を加えることで音羽の必死さが強調されている
    • ▲ギターを演奏するりりさの調整前
    • ▲調整後。原作でも強調されたりりさのアップ。逆光の影を落とすことで湧き上がる迫力が増している
    • ▲同じく、ギターを演奏するりりさの調整前
    • ▲調整後。りりさの口元に影を落とすことで口角が上がったような印象を与え、彼女のさらに沸き立つ気持ちを表現している

    CGWORLD 2025年7月号 vol.323

    特集:『KEMURI』
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2025年6月10日
    価格:1,540 円(税込)

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    TEXT_日詰明嘉Akiyoshi Hizume
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
    EDIT_海老原朱里(CGWORLD)/Akari Ebihara、山田桃子 / Momoko Yamada