ヤングアニマル連載中のコミック『ロックは淑女の嗜みでして』(以下、『ロックレディ』)。主人公は親の再婚で、庶民から不動産王である鈴ノ宮家の娘になった、高校1年生の鈴ノ宮りりさ。大好きだったロックとギターを捨て「お嬢様らしく」振舞う努力をしていた彼女だったが……。

「お嬢様×ロック」の青春譚が大人気の本作。アニメ化にあたっては世界的な人気を誇る日本のガールズロックバンド「BAND-MAID」がモーションキャプチャを務めたことでも話題になった。今回はそのCGメイキングを4回に分けて紹介する。第3回となる今回はキャラクターセットアップを解説。

記事の目次

    関連記事:アニメ『ロックは淑女の嗜みでして』BAND-MAIDによるモーションキャプチャが話題!(1)ワークフロー篇(2)セットアップ篇

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 323(2025年7月号)に一部、加筆修正を加えた転載となります。

    演奏の激しい動きを再現するためのリギングとアニメらしい表情をつくるための工夫

    リギングについては社内開発による3ds Max向けのリギングツール「RigBuilder」を使用している。プロジェクト特化のツールセットから汎用スクリプトまでを提供する統合ツールで、MAXScript、Pythonツールのモジュールはサーバ上にあり、リアルタイムにバグ修正を反映させたり、ディレクターそれぞれがモジュールを新規追加できたりと、取り回しがしやすく設計されている。

    『ロックレディ』ではベースリグのロード、全身の補助リグ構築の自動化、衣装ユニット(スカートや袖)のロードなど、定型はここから作成されている。

    また、本作のキャラクターたちは演奏中に目を大きく見開くなど豊かな感情を見せるため、フェイシャルも個性的だ。原作通りに口を大きく開く表現を通常のモデルで行うのは難しいため、本作ではあらかじめ口のポリゴンを顔とは別につくり、Pencil+ 4の透過機能を使い、入れ子構造にしてそれぞれが独立して動くようにしている。

    「新人アニメーターにとっても、口を動かしても顔が破綻しない方がつくりやすいので、この手法でのメリットは大きかったです」(大島氏)。

    オリジナルツール「RigBuilder」によるリギング

    ▲りりさのリグの一部。Bipedベースに汎用のボディ、各部補助リグと衣装、髪、フェイシャルなどキャラクター固有のリグを実装している。ボディリグはすべて共通でツイスト、ベンド、オフセットが全身に入っている
    • ▲ヒジを尖らせたり……
    • ▲膝曲げでスネがめり込まないようなオフセットは自動で駆動する
    ▲音羽はデフォルト状態では足が長く、姿勢に違和感が出てしまうため自然なドラムの座りになるよう、足の長さやスカートの長さ、シルエットをアニメーターが細かく調整している
    ▲RigBuilderのUI。社内開発による3ds Max向けタイトルのリギングメインツール

    プリーツスカート形状を表現するリグ

    ▲プリーツスカートのリグ。ボーン変形のみだと凹凸がなく平面的なものに見えるため、スリットが立ち上がるギミックを追加している
    ▲第1話でのりりさが大股で歩く動き。左のギミック使用前は扇子のように立体感がないが、右の使用後は隣り合うスカートのボーンの距離に応じてプリーツが山ごとに立ち上がり、立体感が出ている

    音羽のショートパンツのリグ

    ▲第9話ライブシーンでの音羽のステージ衣装。左図はモーションキャプチャモデルで右図がレンダリングモデル。飾りの丸いスタッズの沈み込みやシワの入り方からわかるように、足と腰のボーンによるスキンのみだと付け根のめり込みが目立ってしまう。ドラマーの音羽はほぼ座りポーズで演奏することもあり、表面のボリュームを保つリグを追加することで不自然に見えないようセットアップが行われた
    ▲腰の表面にリグを左右4本ずつ入れることでショートパンツの表面を持ち上げている。これによって座ったときもシワにハイライトが乗り、リアルなルックを実現した

    髪の動きをコントロールするリグ

    • ▲ロングヘアーリグ。髪が大きく動く想定があったためFK/スプラインIKのほか、Spring Maxベイク用ボーンや数束をまとめて操作するリグなど多層にリグが設けてある
    • ▲後頭部一帯の髪が動かないままだとCGっぽさが強く出てしまうため、後ろ髪の根本は後頭部表面に配置し、頭頂部からのシルエットが滑らかにつながるようリグが配置されている
    • ▲環の横髪を制御するWaveリグ。毛束ごとにボーンで制御できるが、手数がかかるため簡易的な揺れを追加。正弦波(sinカーブ)の動きをするWaveリグを髪に実装しており、簡単なパラメータ操作で髪揺れができるように設定されている
    • ▲実際に髪が揺れた際の様子

    アニメらしい表情をつくる工夫

    • ▲フェイシャルの工夫として、口のモデルを別にすることで大きな変形、位置、回転の調整がしやすいようにされている
    • ▲口を大きく変形させた状態。ある程度、無理に変形しても顔のシルエット、UVを担保できるようになっている
    ▲りりさのフェイシャルのレンダリング画面
    ▲りりさのモーフ一覧。73点用意されている(LR分含まず)
    ▲口の表示にはPencil+ 4マテリアルの[高度な設定→マテリアルの透過]を使用している

    (4)アニメーション付け篇に続く。

    CGWORLD 2025年7月号 vol.323

    特集:『KEMURI』
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2025年6月10日
    価格:1,540 円(税込)

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    TEXT_日詰明嘉Akiyoshi Hizume
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
    EDIT_海老原朱里(CGWORLD)/Akari Ebihara、山田桃子 / Momoko Yamada