
ARエンタメ企業のGraffityでゼネラリストとして活躍する、3DCGアーティストのRieringo氏。2025年3月に開催されたVookとCGWORLDの共催イベント「W Conference」でもMCとして参加するなど、個人としても積極的に活躍の幅を広げている。
今回はそのRieringo氏に女性クリエイターとしての思いや制作スタイルなどに聞くとともに、マウスコンピューターのクリエイター向けノートPC「DAIV Z6」や4K対応モニター「ProLite XB3288UHSU」の性能や魅力を深掘りしてもらった。
プロフィール

Rieringo 氏
rieringo.com
ARエンタメ企業「Graffity」に所属し、Apple Vision Proを中心としたAR/XRコンテンツの3DCG表現を担当。企画初期の段階では、ビジュアル提案や構成の方向性設計なども担っている。さらに、Rieringo名義での自主制作やメディア・講演活動なども並行して行っている。
“体験できる”ARやXRなら、誰かの生活をさらに豊かにできる
CGWORLD(以下、CGW):始めに、これまでの経歴を簡単に教えてください。
Rieringo氏(以下、Rieringo):まず、私は物心がついたころからファッションやモノづくりが大好きで、小学2年生のころにはもう「デザイナーになる」と決めていました。さらに中学2年生のとき、当時好きだったブランドのデザイナーに会えるチャンスがあり、そこで「どうしたらデザイナーになれますか?」と聞いたところ「あなたが何かを作れば、それだけでもうデザイナーですよ」と言ってもらえたんです。
その言葉を聞いて「何か作りたい!」という衝動にかられ、すぐに家にあったミシンに飛びついたことはいまでも覚えていますし、沸き上がるモノづくりへの情熱から15歳からブランド活動を始め、その後服飾の専門学校に入学しました。
そういった経緯から、20代半ばごろまでは個人事業主としてブランド経営を通して、モノづくりの魅力を伝えたり、アパレル・2Dデザインに関する仕事をしてきました。
CGW:デザイナーとして活動する一方で、CGクリエイターを目指すことになったきっかけは何だったのでしょうか。
Rieringo:大きなきっかけは、3D Bibiさんが公開しているBlenderの入門動画「机と椅子のチュートリアル」に出会ったことです。
20代後半まで自分で事業を続けてきて、実は心身のバランスを整えるために、少しお休みをいただいていた時期があったんです。そのタイミングで初めてこのまま個人事業主でいくのか、今更だけど会社員になるかを考えました。そして、「”まだまだ”20代後半!」と捉えることにして、この機会をチャンスに活かそうと決めたんです。
チャンスに活かそうと決めたら、「自分のコンフォートゾーンを抜け出して、もっと自分のクリエイティブなスキルを伸ばしたい」「個人で手が届く範囲ではなく、もっとたくさんの人に届けられるプロダクトをチームで作ってみたい」そんな好奇心が芽生えてきました。
そうして心の赴くままいろんな「表現」に触れている中で出会ったのが、今も大好きな3DCGでした。3D Bibiさんのチュートリアルの中で生み出されるローポリCGがもう衝撃的にかわいくて「こんなステキなものを作れるなんて今すぐやるしかない!」と、中学生の頃ミシンに飛びついたように、今度はPCに飛びつきました(笑)
「これなら自分が好きな世界を、神様のように自由自在に、しかも場所やモノに捉われず作ることができる」と無限の可能性を感じた、まさに運命の出会いでした。
そこで、28歳になったタイミングで思い切って3DCGの世界へと方向転換したわけです。


後述のW Conference 2025の開催に合わせて制作された作品。ミモザの花が、ヘアパーティクルを使用して作成されている。国際女性デーの象徴でもある「ミモザの花」はイベントのキービジュアルとしても使用されたモチーフ。中央の白い段差のあるオブジェクトは、キャリアのステップを表現している。
CGW:そういったなかで、AR/XRの世界に興味を持ったきっかけは?
Rieringo:私の3DCGの入口はゲームでもアニメでも映像でもなかったので、「どの道に進むのが一番良いのか?」については私自身かなり迷いました。そこで改めて自分のルーツを振り返り業界を選択する際の軸となったのが「生活に身近である」ということでした。
「誰かの生活を豊かにする」ということがいつでも自分の仕事におけるポリシーで、何よりもそこにやりがいを感じているんです。「誰かの生活に寄り添い豊かにする」ことがAR/XRでは実現できる。さらにそこにApple Vision Proの登場で、高品質な3DCGの描画が現実的になってきた。AR=スマホのイメージでしたが、新しいデバイスの登場により表現の幅が格段に増え、これまでにないケミストリーが巻き起こる予感がしてこの業界に決めました。
AR//VR/XRの特徴である“体験できる”という点も、自分の選択に納得感を覚えた重要なポイントだと考えています。3DCGは見るだけで終わってしまう受動的なコンテンツも多いなか、AR/XRはキャラクターなどを介さずとも、その人自身が”能動的な体験ができる”ため、より人の記憶や心に残りやすいコンテンツを作れるのではと期待しています。実際、私自身も初めて、自分が作った3DCGのシーンに降り立った瞬間の感動は鳥肌モノでした。「私の世界に来ちゃった!」「ついにシルバニアファミリーの世界に入れた!」と、本当に大興奮だったんです(笑)
世の中的に見たらAR/XRはまだまだまったく新しい領域で、ユースケースも少ないと感じています。しかし、技術の進化とともに新たな価値を創出できる大きな可能性を秘めているとも確信しています。だからこそ私が所属しているGraffityは、業界をリードしながらその新たな価値を広く伝える存在として、AR/XRの未来を切り拓いていきたいと考えています。
Rieringo氏が所属するGraffity株式会社は、「ARで、リアルを遊べ。」をミッションに掲げるARエンタメ企業。 2017年の創業以来、Apple Vision Pro向け空間ゲーム「Craftrium」をはじめとするARゲーム事業を展開している。 また、toCプロダクトで培った企画・開発ノウハウを活かし、ARに特化した新規事業の企画・開発・運用改善を支援する「Graffity AR Studio」を運営。NTTコノキュー社やJT社といった大手企業との共同プロジェクトも多数推進している。
さまざまなアイテムから自分だけのアクアリウムを創り、さまざまな魚を発見・集めるゲーム。 Apple Vision Proを活用し、自分だけのアクアリウムをワークスペースに飾ることで、デジタル空間に彩りを加え、特別な空間を実現する。
「きっと誰かの心を動かせる」 W Conferenceを通じた期待と発見
CGW:少し話題は逸れますが、3月末に行われた「W Conference」へのご登壇は本当にありがとうございました。女性クリエイターにフォーカスを当てたイベントでしたが、終えてみて新たな学びや気づきなどはありましたか?
Rieringo:今回のイベントは趣旨が本当に素晴らしいと感じましたし、きっと「誰かの背中を押せる」「悩んでいる人を勇気づけられる」ようなイベントになると確信して参加させていただきました。また私自身も、他の登壇者の話を聞くことでキャリアに対する考え方が180度変わるなど、とても良い経験をさせていただきました。

例えば、私にはまだ子どもがいないので、イベント前は“子どもがいることでの大変さ”ばかりをイメージしてしまっていたのですが、「子どもがいることが活力になる」というメッセージにはハッとさせられました。「子どもを産んでも(キャリアを)諦めなくていい」、そう語ってくれる当事者の方がいるというのは、とても心強かったです。
私はクリエイターとして「自分の人生で感じたことのすべてが自分のクリエイティビティに活きる」と考えているので、もし子どもを産んで新しい自分になったら「いままでは出来なかったような表現ができるようになり、それを活かした新しい作品も生み出せるようになる」と思うと期待感の方が大きくなりましたね。今後、私自身もそういう風に変われるのかなと思うと、本当にワクワクしてきます。
CGW:今後、同じようなセミナーがあった場合、チャレンジしてみたいテーマなどはありますか?
Rieringo:女性限定イベントでは女性目線だけで語られがちなので、一緒に働く男性側の意見も気になると感じました。とくにCG業界は男性比率が高いですから、普段はなかなか聞けない男性目線の意見も含め、イベント全体を通して両者の目線で話ができると、より良いイベントになるかなと思いました
CGW:Rieringoさんは今回のイベントに限らず、他のメディアやセミナーでの講演、自主制作などでも積極的にご活躍していますが、そういった活動の原動力はなんでしょうか?
Rieringo:今回のイベントでのMC役もそうですが、さまざまな自分の活動が「誰かの背中を押し、誰かの人生を豊かにしている」のであれば、これ以上に嬉しいことはありません。最近は女性のロールモデルのような立場で自分の想いを講演活動などで伝えることも増えていますが、それが「多くの人の心を動かしている」と思うと、そこにも大きなやりがいを感じますね。
また自主制作に関しても、いまはX(旧Twitter)などで発信すれば、ダイレクトに反応をもらえるのがとても嬉しいです! 自分にしかできないものを創り出し、それを発信することで「きっと誰かの心を動かせる」とも思っているので、そういったところも制作活動の原動力やモチベーションになっています。
これならいままで以上の幅広い表現にもチャレンジできるはず! DAIV Z6とProLite XB3288UHSUを検証

CGW:ご登壇いただいたW Conferenceの企画の一環として、今回マウスコンピューターのDAIV Z6とProLite XB3288UHSUを検証していただきましたが、率直にいかがでしたか?
Rieringo:まず、DAIV Z6の性能には本当に驚きました。
普段の制作では、2023年4月に購入したMacBook M2 Maxを使用していて、自宅で作業する際には、そこに4K対応の27型液晶モニターを接続した2画面で作業しています。ツールはBlenderを中心に、Adobe Substance 3D、Photoshop、Illustrator、Unityなどを用途や案件に応じて使い分けていて、購入当時の私にとって高価な代物だったこともあり、自分のノートPCがスペック的に劣ることはそんなにないだろうと思っていたのですが、DAIV Z6と比較するとその差は歴然でした。
例えば、BlenderでのCyclesによるGPUレンダリングを比較したところ、私のノートPCで8分45秒かかった処理が、DAIV Z6ではたったの1分8秒で終わってしまったんです。本当に「これは一体どういうこと!?」と困惑してしまうほどの衝撃的な結果でしたね。
また、ヘアパーティクルでミモザの花を制作する作業でも検証してみたのですが、そもそも私のノートPCでは作業中にフリーズすることがあるばかりか、レンダリングはエラーが出て処理そのものが実行できないような状況でした。それが、DAIV Z6では何の問題もなくすいすい作業できた。「こんなにも違うものなのか」と素直に感動しましたし、「これならいままで以上の幅広い表現にもチャレンジできるはず」と感じました。
そして、幅広い表現へのチャレンジとして、DAIV Z6を使用して普段よりも大規模な作品にも挑戦してみました。

ハネムーンで訪れ、その美しさに圧倒されたという、タヒチ・ボラボラ島からインスパイアされた作品。美しく壮大な自然と溶け込むポリネシア文化を感じるアセットのすべてが手作りだという。

空へと伸びるヤシの木、ライトアップされた水上コテージの下を泳ぐエイや魚たち、満点の星空、それから、水面がやさしく揺らめくエメラルドグリーンのラグーン。
海の質感表現にこだわりすぎて、約6時間かかりました(笑)。浅瀬のラグーン特有の水面のゆらめきや色合いを表現したくて、既存のアドオンの流用では表現が難しかったんですよね。なので、多数のノードを組み合わせて独自に調整して仕上げたんです。
ですが、負荷の高い透過オブジェクトを表現するための複雑なノード構成のマテリアルプレビューもスムーズで、重たいシーンでもサクサク確認でき、とても快適な作業でした。
作品全体では45アイテム・50万ポリゴン超えなのですが、高速なレンダリング処理により、細かなトーンや光の調整もストレスなく繰り返すことができ、DAIV Z6のハイパワーさを痛感しました!

CGW:CG制作では、高性能なCPUとGPUを搭載したデスクトップPCを使っているクリエイターが多いと思いますが、あえてノートPCを選んだ理由は?
Rieringo:1つは、クライアント先に出向いて実際にPCの画面でシーンを見せたりすることが多いからです。あとは、移動中に作業ができるというのも大きなメリットですね。ちょっとした空き時間に作業を進められますし、帰省などの道中などでも作業できるので、もうノートPCが手放せない感じになっています。

CGW:モニターについてはいかがでしたか? まずは現在ご使用のモニターを選ばれた際に重視された点からお聞かせください。
Rieringo:現在使用しているモニターを選ぶ際にマスト条件としてまず挙げたのは「4K対応」であることでした。私が作る作品はヘッドマウントディスプレイを通じて、ユーザーの目の前に大きく表示されることもあるので、私自身も作業中に眼前に大きく表示する必要があります。だから、たとえ大画面であっても「低解像度で見にくい」のではまったく意味がないんです。あと「色の表現」も重視したポイントで、いまのモニターは「sRGBのカバー率が100%」という性能ですが、色の感覚についてはまったく困ることがなく、その点に関してはとても満足しています。
CGW:そのあたりについて、検証いただいたProLite XB3288UHSUはどうでしたか?
Rieringo:まず感じたのは、大画面でありながら「視野角も広い」ということ。画面サイズが大きいと角度によって見えづらくなってしまう製品もあるのですが、ProLite XB3288UHSUではそれがなくとても優秀だと感じました。また、細部の色の表現も問題なく、その点も素晴らしかったですね。今回はBlenderのデータを表示してみましたが、まったく違和感がなく美しく見ることができたので、そういった部分でも優れているなと実感しました。
CGW:そのほか、PCも含め何か気に入った点などはありましたか?

Rieringo:私も含め、PCに関する知識や経験などがあまりない人にとって、CGクリエイターに必要なスペックを標準で搭載するとともに、“クリエイター向け”としっかり明記されているDAIV Z6はとても助かると感じました。実際、今回試してみても「これを買えば間違いない」と感じたので、私としてももっと早く、それこそCGに始めたころに出会っていたかったと感じました(笑)。
また、DAIV Z6はひと目見たときから筐体のデザインが「スタイリッシュだな」と感じましたし、カフェで作業したくなるようなカッコよさでした。しかも、軽量でバッグにすっぽり収まってくれる大きさだったので、総合的にとても魅力的だと感じましたね。
Rieringo氏が検証した「DAIV Z6」と「ProLite XB3288UHSU」のポイント
DAIV Z6-I7G60SR-A

DAIV Z6-I7G60SR-A
液晶画面のアスペクト比が16:10のWQXGA・16型の大型液晶ディスプレイを搭載するクリエイター向けのノートPC。インテルのモバイル向けハイエンドCPU「インテル Core i7-13700H プロセッサー」やノート版のミドルクラスGPU「GeForce RTX 4060 Laptop GPU」を搭載したハイスペック構成で、NVIDIA Studio認定も受けている。また、マグネシウム合金を使用することで約1.60kgの軽量スリムボディを実現しつつ、約15.5時間の長時間動作を両立している点なども魅力となる。
- CPU
インテル Core i7-13700H プロセッサー(14コア【Pコア 6、Eコア 8】 / 20スレッド / Pコア 2.40GHz、Eコア 1.80GHz / TB時最大5.00GHz【Pコア 5.00GHz、Eコア 3.70GHz】 / 24MBキャッシュ)
- GPU
GeForce RTX 4060 Laptop GPU
- メモリ
32GB(16GB×2)
- ストレージ
NVMe(Gen4×4)接続1TB SSD
- パネル
16型液晶パネル(ノングレア / sRGB比100% / Dolby Vision対応)
- 無線
Wi-Fi 6E(最大2.4Gbps)対応 IEEE802.11 ax/ac/a/b/g/n準拠+Bluetooth 5内蔵
- OS
Windows 11 Home 64bit
ProLite XB3288UHSU

ProLite XB3288UHSU
約10.7億色表示に対応したVAパネル(ノングレア液晶)を採用する31.5型の大型モニター。最大解像度は4K2K(3,840×2,160)をサポートし、明暗表現の幅を広げる高画質規格「HDR10」(High Dynamic Range 10)にも対応する。さらに、左右各89°/上下各89°の広視野角に加え、最大120mmの高さ調節や最大25°のチルト調節が可能な多機能スタンドを備える。
- パネル種類
VA ノングレア液晶
- サイズ
対角80.0cm(31.5型) 16:9
- 信号入力コネクタ
HDMIコネクタ×2 / DisplayPortコネクタ×1
- 昇降機能(高さ調整)
120mm
お問い合わせ
株式会社マウスコンピューター
TEL(法人):03-6636-4323(平日:9~12時/13時~18時、土日祝:9~20時)
TEL(個人):03-6636-4321(9時~20時)
mouse-jp.co.jp/store/brand/daiv
TEXT_近藤寿成
INTERVIEW_池田大樹(CGWORLD)
EDIT_遠藤佳乃(CGWORLD)