ヤングアニマル連載中のコミック『ロックは淑女の嗜みでして』(以下、『ロックレディ』)。主人公は親の再婚で、庶民から不動産王である鈴ノ宮家の娘になった、高校1年生の鈴ノ宮りりさ。大好きだったロックとギターを捨て「お嬢様らしく」振舞う努力をしていた彼女だったが……。

「お嬢様×ロック」の青春譚が大人気の本作。アニメ化にあたっては世界的な人気を誇る日本のガールズロックバンド「BAND-MAID」がモーションキャプチャを務めたことでも話題になった。今回はそのCGメイキングを4回に分けて紹介する。初回となる今回はワークフローについて解説。

記事の目次

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 323(2025年7月号)に一部、加筆修正を加えた転載となります。

    BAND-MAIDとグラフィニカのタッグで描く激しいバンド演奏シーン

    「ごきげんよう」、「ごきげんよう」と、お嬢様たちの挨拶がこだまする。桜心女学園に転入してきた鈴ノ宮りりさは、淑女だけが集う学園にあっても生徒たちの憧れの的。ある日、彼女は旧校舎の音楽室で、正真正銘のお嬢様である黒鉄音羽が汗だくになってドラムを叩く姿を目撃する。音羽に挑発されたりりさがギターを手にして演奏を始めると、彼女がそれまでひた隠しにしていたロックの魂が目を覚まし、激しいセッションが始まる。

    『ロックは淑女の嗜みでして』
    2025年4〜6月、TBS系28局にて放送
    ABEMA、dアニメストアほか、各配信サービスにて配信中
    原作:福田 宏(白泉社「ヤングアニマル」連載)/監督:綿田慎也/アニメーション制作:BN Pictures
    rocklady.rocks
    Ⓒ福田宏・白泉社/「ロックは淑女の嗜みでして」製作委員会

    ヤングアニマル連載中のコミック『ロックは淑女の嗜みでして』(以下、『ロックレディ』)は、お嬢様たちが“らしからぬ” 激しい音楽を演奏する姿が魅力の作品だ。

    TVアニメ化に際して、リアルな演奏シーンのクオリティを担保する上では、3DCGの楽器とキャラクター、モーションキャプチャは必須。アクターとして白羽の矢が立ったのは、実際にメイド姿でヘヴィなロックを奏で、世界的な活躍を見せる女性5人組のバンド・BAND-MAIDだった。キャプチャに際してはメンバーが普段、使っている楽器を使用。

    収録スタジオは楽器持ち込み可能なスタジオイブキで、多忙な合間を縫っておよそ月1回のペースで、計5回の録画が行われた。彼女ら自身が納得いくまで行なったという情熱的なパフォーマンスには、日頃の演奏のクセも採り入れられており、メンバー自身も「そっくり」と認めるほど。

    左より、3DCGサブディレクター・東 優子氏、3DCGプロデューサー・池上由佳氏、CGディレクター・坂口遥佳氏、3DCGモデリングディレクター・樋口博和氏、3DCGセットアップディレクター・大島渓太郎氏(以上、グラフィニカ)
    www.graphinica.com

    本作は一般的なアニメのバンドシーンと比べても演奏シーンの尺が長く、バリエーションを含めた楽曲数は長短含め16曲もあり、2~4ヶ月ほどかけて制作されたという。CG制作を担当したグラフィニカの坂口遥佳氏は本作が初のCGディレクター作品。「スタッフ皆で協力し、BAND-MAIDさんの迫力ある動きを活かしつつ、緊張感ある演奏シーンをつくれたと思います」と、手応えを語ってくれた。

    3DCGで演出するダイナミックなバンド演奏シーン

    本作のバンド演奏シーンでは通常のレイアウト作業の前に簡易的なAテイク(Vコンテ)を作成した。このときのモーションはキャプチャデータをそのままながし込んだだけの状態で、この段階で一度、綿田慎也監督とイメージのすり合わせを行い、カメラワークとカット尺を決めきった後、Lテイク(レイアウトテイク)に入る。3DCGプロデューサーの池上由佳氏は「以前、ダンスシーンのある作品を手がけた際に、キャプチャデータから簡易的なVコンテを提出した経験を基に提案させていただきました」と話す。

    演奏シーンの絵コンテは主にビジュアルディレクターのソエジマヤスフミ氏が手がけ、監督チェックを経たものを基に、坂口氏がAテイクにカメラワークを付ける。このとき坂口氏が考案した動きが採用されることも多々あったという。

    「キャプチャされたBAND-MAIDさんの動きを優先させたカメラワークを付けたり、前後のカットのつながりを考えて、コンテにはなかった縦回転を入れたりしたものが採用されました。後の話数で監督から『ここも縦回転がほしい』と言っていただけたときは嬉しかったです」(坂口氏)。

    バンド演奏シーンにおけるカメラワークの演出

    第9話CUT351。ライブのクライマックス。ギターのりりさとドラムの音羽が一段階ギアを上げて演奏するシーンで、その迫力が表情やポージングにも表れている。

    ▲モーションキャプチャデータそのままのAテイク。アクターも動きを付けているが演奏を優先したポージングだ。りりさのキャラモデルも初期の簡易制服モデルを使用
    ▲アニマティクス状態のLテイク。上記のAテイクから身体の向きや腕の振りを強調し、力強さや勢いを表現したモーションをつくり上げた
    ▲レンダリング後のMテイク。表情や髪の毛などに手描きアニメ的な表現が施された
    ▲コンポジットを行なったTテイク。ステージ上の照明や落ち影、髪の毛の色味などに撮影処理が施されている

    クライマックスの演奏を思い切り楽しんでいるりりさと音羽。絵コンテ上では客席側からりりさに寄っていくという指示があった。坂口氏は「勢いを出すため観客の間をすり抜けていく」カメラワークを演出。この後、りりさと音羽の周りを横にグルっと回るカメラワークの指示があったため、この2カットの勢いを繋げるためにカットのつなぎに縦回転を追加した。

    ▲キャプチャデータを使ったAテイク。正面を向いた“正しい” 演奏姿勢だ
    Lテイク。りりさの身体の向きに演出を加えている
    Mテイク。演奏の喜びを全身で表現するために頭の向きや身体を折ったポージングに大きく変更
    Tテイク。縦回転カメラのブラー処理が施されている
    ▲アニメ公式より公開されている各テイク、およびCGメイキング

    (2)キャラクター篇に続く。

    CGWORLD 2025年7月号 vol.323

    特集:『KEMURI』
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2025年6月10日
    価格:1,540 円(税込)

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    TEXT_日詰明嘉Akiyoshi Hizume
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
    EDIT_海老原朱里(CGWORLD)/Akari Ebihara、山田桃子 / Momoko Yamada