2022年2月17日(木)に発売された『刀剣乱舞無双』は、刀剣育成シミュレーションゲーム『刀剣乱舞ONLINE』と「無双」シリーズとのコラボ作品だ。開発を担当したコーエーテクモゲームスから、ゼネラルプロデューサーの襟川芽衣氏とCGディレクターの猪瀬真由氏に話を聞いた。

記事の目次

    ※本記事は、CGWORLD vol.284(2022年4月号)掲載の記事を再構成したものです

    Interviewee

    コーエーテクモゲームス

    写真左から
    ゼネラルプロデューサー・襟川芽衣氏
    CGディレクター・猪瀬真由氏

    Information

    発売:DMM GAMES
    開発:コーエーテクモゲームス
    リリース:発売中
    価格:8,778円(通常版)
    Platform:Nintendo Switch、DMM GAME PLAYER/Steam(PC)
    ジャンル:アクション
    touken-musou.com
    ©2015 EXNOA LLC/NITRO PLUS ©コーエーテクモゲームス All rights reserved.

    刀剣男士を“魅せる”ための細やかな気配り

    『刀剣乱舞ONLINE(以下、刀剣乱舞)』は、プレイヤーが審神者(さにわ)となり、名だたる刀剣が戦士へと姿を変えた刀剣男士たちを従え、歴史改変を目論む時間遡行軍(じかんそこうぐん)と戦うPCブラウザ/スマートフォンアプリゲームである。リリース8周年を迎えた現在ではアニメや映画、舞台、ミュージカル等、幅広い展開を見せている。

    「『刀剣乱舞』のような女性ファンが多い作品と『無双』シリーズのコラボは初めてでした。これまでの『無双』シリーズの中で最も華麗なアクションにしたいという思いの中、“魅せる”をコンセプトに開発してきました」と襟川氏は話す。

    さらに、ビジュアルを魅せるためのコンセプトとして掲げたのが“華麗なる一閃”というキーワードだ。

    「トゥーン調やフォトリアル調など、目標の画づくりに到達するまで様々な表現にチャレンジしました。『無双』シリーズにビジュアルを寄せてしまうと雄々しくなりすぎるので、最初の落とし込みまでにはかなり時間を要しました」と猪瀬氏。

    原作ゲームの刀剣男士は複数のイラストレーターがデザインを手がけているため、元のデザインのテイストを残しつつ、頭身のバランス等を整えて世界観を統一する工程に非常に時間がかけられたという。

    そのほか、原作ファンを意識した設計として、必殺技に加えて抜刀や納刀シーンも用意するなど、見せ場が多くなるように演出されている。さらに、バトルモーションは刀剣男士ごとに個性や刀種を活かしたものになっており、共有モーションはほとんどないという。

    「今回登場する刀剣男士を十五振りに限定したからこそ実現したつくり込みと言えます」(襟川氏)。

    それでは本作の華麗なビジュアルがどのようにつくられたのか紹介したい。

    Point 01:原作ゲームの刀剣男士を立体として成立させるために

    2D イラストの刀剣男士たちを3D モデルとして違和感なくつくり上げるためには、形状や質感、バランスにいたるまで細かな調整が必要だった。

    バランス調整がくり返された刀剣男士のモデル

    刀剣男士のモデルは、Mayaを使用してモデリングし細かい凹凸にはZBrushが使用されている。テクスチャ作成にはPhotoshopや3D-Coatが使用された。モデルに費やされているポリゴン数は三日月宗近(みかづきむねちか)で約5万ポリゴンで、当初予定されていたポリゴン数よりも多くなっているという。

    登場する全16体の身長表。身長は公式の設定に合わせられている。ただ、原作ゲームの刀剣男士は担当イラストレーターが複数いるためテイストや頭身もまちまちで、身長を合わせただけでは統一感がなくなってしまう。そのため、各イラストレーターのテイストを残しつつ頭身バランスを整え、本作のテイストに寄せている。単体では問題ないモデルでも、並べてみると違和感が出ることが多く、各キャラクター間の調整にとても時間がかかったという
    Mayaで表示された三日月宗近の全身モデル
    三日月宗近の衣装のアップ
    一期一振(いちごひとふり)の衣装のアップ
    巴形薙刀(ともえがたなぎなた)の衣装のアップ。羽根を纏った衣装はモデリングに手間がかかった衣装のひとつだ
    衣装の光沢表現には着彩を考慮した技術が使われている。光沢の色や強さをコントロールしやすく、衣装の質感を底上げしている。左が光沢表現ON、右がOFFの状態だ

    形状の再現に意識が割かれた顔の造形

    刀剣男士の頭部モデルの制作例だ。本作ではテクスチャの質感はリアル寄りにしつつ、形状は原作イラストに合わせてデフォルメを加え、細部まで再現していった。

    公式の設定資料集を見ながら形状を調整していったが、角度によって目の配置などが変わってくるため、社内で頭部の三面図を用意し、それを基にバランスを細かく調整していったという。

    しかし、完全にイラストを再現しようとすると立体として成立しなくなるため、カメラの角度に応じて顔の形状がシームレスに変化するようなしくみをつくって対応した。特に薬研藤四郎(やげんとうしろう)や一期一振は、原作イラストの独特なテイストを落とし込むのが難しかったという。

    三日月宗近の頭部のワイヤーフレーム
    • 顔を斜めにしたときの変形例。変形をOFFにした状態
    • ONにした状態。鼻筋の入り方や顎の輪郭が異なるのがわかる
    燭台切光忠(しょくだいきりみつただ)の頭部モデル。頭頂部のハネ髪の形状について、正面で見たときの髪の位置が横から見たときにどの位置にどのような形状で現れるのか、三面図で確認しながら進められた
    千子村正(せんごむらまさ)の頭部モデル。頭頂部から後ろにながれる髪の再現が難しかったとのこと
    刀剣男士はそれぞれまつ毛を強調したモデリングになるように心がけたという。画像は鶴丸国永(つるまるくになが)の例。まつ毛を長くすると目が小さく見えてしまうので調整しながら作成されている。まつ毛だけで数日かけたキャラクターもいるという

    肌や髪を美しく見せるための工夫

    本作の刀剣男士はリアル寄りのルックではあるが、陰影は原作イラストの印象に合わせて調整されている。

    特に鼻の下に生成されるセルフシャドウは、表示されないようにメッシュを二重構造にして影が落ちない設定にしている。その他の陰影は法線転写用のメッシュを作成し、法線を転写して仕上げている。

    • 三日月宗近の法線調整前のシェーディングモデル
    • 法線調整後の状態。目の周りや頬の影の落ち方が柔らかくなり明るい表情になっている
    • 鼻下に影が表示されている状態
    • ▲鼻下の影を消した状態
    • 顔のメッシュ。鼻を低くし影が落ちないようになっている
    • 影を落とさない設定の鼻のメッシュを乗せ二重構造にしている
    • 髪の表現にはフォトリアルなHairシェーダを採用。長い髪は先端部分を背景に馴染ませて遠近感が強調されるように調整されている。画像は蜻蛉切(とんぼきり)の髪の調整前
    • フォグの色に近い色を加算で合成して背景に馴染ませた状態。なお、そのほか横から見たときの瞳を窪ませて見せる視差マップや、髪や耳に光が透過する表現も活用されている

    刀剣の細かな装飾や刃文まで再現

    刀剣男士たちの本体であり、戦いの際には武器として扱う刀剣も、原作イラストを基にモデリングされている。モデル制作にあたっては、実在する刀剣の資料を参考にしながら再現し、ひと振りずつ細部にこだわりながら進められたという。

    刀剣専用のシェーダは使用していないが、刃文や切先など多様な反射のちがいによる質感は材質ごとのマテリアルを用意して、細かい部分まで再現している。また目貫や鍔などの装飾も、資料を基に忠実に再現されている。

    三日月宗近の太刀と拵
    へし切長谷部(へしきりはせべ)の刀と拵
    ▲薬研藤四郎の短刀と拵

    アレンジが施された時間遡行軍

    時間遡行軍として登場する敵キャラクターは、原作ではまがまがしい印象のデザインだが、『刀剣乱舞』のファンには女性が多いため、立体にした際に嫌悪感をおぼえない造形になるよう調整された。

    また、変形するキャラクターが多いため、最初のうちにチェックモーションを作成し、動かしながら破綻がないようにモデリング作業が行われたという。

    時間遡行軍・短刀の設定画(上)と3Dモデル(下)
    時間遡行軍の設定画(上)と3Dモデル(下)。不気味なデザインだが、恐怖感を煽らないように色味を調整している
    新規時間遡行軍、源氏蛍の設定画(上)と3Dモデル(下)

    Point 02:刀剣男士の個性と「無双」シリーズの爽快感を両立するモーション

    本作の刀剣男士は衣装も武器もそれぞれに異なり、個性豊かな攻撃を高速でくり出す。「無双」シリーズの核とも言える「爽快感」を生むためのモーションの工夫とは。

    リグ構造

    各刀剣男士のリグは、社内で独自に開発された汎用リグをベースとし、服装や装備に応じてキャラクターごとに個別にセットアップされている。

    汎用リグはモーション作業時には操作しやすいリグに切り替えることができるようになっており、アニメーターの負担を軽減する工夫も施されている。

    刀剣男士は和装が多いため、揺れものも多いが、基本的に衣装などの揺れものはClothシミュレーションで制御し、制御しきれないような構造のものは補助骨を追加して動かしている。

    三日月宗近のリグの構成。上半身にジョイントが集中している
    モーション作業用のコントローラに切り替えた状態
    へし切長谷部のリグ。肩の鎧などのめり込みを防ぐため、キャラクターの中で最も補助骨が多い

    個性と刀種の特性を表現するバトルモーション

    本作はフォトモードも用意されているため、刀剣男士のモーションは「指先まで美しく」をテーマに、それぞれのキャラクターの個性が反映されるような動きを意識しながら制作されている。やられモーションなどの一部の動きを除き、モーションはほぼ全てキャラクター固有だという。

    特に通常攻撃のモーションは、刀剣男士ごとに歌仙兼定(かせんかねさだ)であれば「苛烈」、三日月宗近であれば「優雅」というようにキーワードを決めて制作された。手付けによるキーフレームアニメーションに加えてモーションキャプチャも併用されており、剣劇ができるアクター数名によって16体分のモーションを収録して利用しているという

    巴形薙刀の走りモーション
    ▲薬研藤四郎の走りモーション。同じ走りモーションでも巴形薙刀とはかなり走り方が異なる
    巴形薙刀の通常攻撃モーション
    薬研藤四郎の抜刀モーション

    細部まで手を抜かない表情付け

    フェイシャルアニメーションではブレンドシェイプを使用せず、独自のフェイシャルリグが活用されている。これらのフェイシャルの形状変化は、Maya上でも実機上でも同じようにプレビューが可能だ。

    フェイシャルモーションを作成する場合は、刀剣男士ごとに様々なアニメや公式の資料を集めて表情集を作成し、性格や特徴を活かした表情になるように意識したという。

    また、複数の刀剣男士が登場するようなシーンでは、小さく映る刀剣男士にも手を抜かずに表情付けしているため、注意して観てほしいとのこと。

    山姥切長義(やまんばぎりちょうぎ)の表情。上から喜び、怒り、哀しみ、驚き
    激怒した表情などでは、眉間のシワも表現されている。画像はへし切長谷部の激怒の表情
    日向正宗(ひゅうがまさむね)のイベント時の表情。このような大きなシワも用意されている

    手法を使い分ける揺れもの制御

    刀剣男士の衣装の揺れものは基本的にはClothシミュレーション、髪については揺れると思われる箇所に細かくボーンを入れ、それを揺らす方法で制御されている。本作は攻撃モーションのスピードが総じて速いため、揺れものの動きには苦労したキャラクターが多かったという。

    特に山姥切国広(やまんばぎりくにひろ)などの大きな布を纏うようなキャラクターの場合はシミュレーションのみでの制御が難しく、モーションの途中でリセットをかけたり、一時的に風や重力などのパラメータを差し替えることで対応している。

    髪の動きは、ひと束ごとに風の影響力を変更することができ、顔にかかる髪はあまり揺らさないといった指定が可能。長髪のキャラクターの場合はボーンを揺らす手法とClothシミュレーションを併用している。

    • 鯰尾藤四郎(なまずおとうしろう)のアホ毛はボーンを揺らす手法で制御されている
    • ▲鯰尾藤四郎の揺れ制御設定の全体像
    顔のサイドの髪【上】と、腰下まで伸びている後ろ髪【下】はClothシミュレーションで動かしている
    • ▲コントロールが難しかった山姥切国広の布の例。画像はClothシミュレーションの途中でリセットをかけていない状態。スピードが速く、布が動きすぎて背中が見えてしまっている
    • ▲シミュレーションの途中でリセットをかけた状態

    Point 03:戦闘を鮮やかに彩る様々な演出

    原作ゲームにある「真剣必殺」や「中傷」などの要素を上手く採り入れつつ、本作ならではの画づくりで“華麗なる一閃”を演出している。

    絵コンテから緻密に設計された必殺技

    通常攻撃や必殺技のエフェクトは、まず字コンテや作成されたモーションを確認しながら、刀剣男士の動きに合ったエフェクトの形状を考えてベースとなるルックを作成する。刀剣男士自体のルックや要素を上手く拾って、そのキャラクターらしい豪華なエフェクトになるように心がけられているという。

    ベースのエフェクトが決まったら実際のキャラクターのモーションに合わせてみて、エフェクトの尺やサイズ、タイミング感を調整し、最終的には実機に反映させてエフェクトの発光度合いや色合い、動きが意図通りになっているか確認しながら制作されている。

    必殺技のエフェクトはキャラクターの個性を特に押し出す必要があるので、三日月宗近であれば月のエフェクトが屈折表現で上手く波打って見えるように、鶴丸国永であれば鶴の羽をイメージしたエフェクトにするなどキャラクターの演出に合わせてブラッシュアップされている。

    Maya上での鶴丸国永の必殺技モーション制作の様子
    原作ゲームの必殺技にあたる「真剣必殺」のポーズが採り入れられている。周囲に舞う桜は、戦闘開始時の抜刀モーションなど様々な場面で演出に用いられている。半透明描画ではどうしても発生数を絞らなければならないため、モデルを使用した不透明の桜を用意し、エフェクト側で設定できるライティングから輝度調整を行い、不透明に見えない桜を表現したという
    大倶利伽羅(おおくりから)の必殺技エフェクトの作業例。必殺技の動きに合わせて自社ツールを使ってエフェクトを配置
    大利伽羅の必殺技別ポーズの例
    さらにエフェクトのパーツを作成していく
    作成されたエフェクトを配置して完成した状態

    負傷状態を表現するエフェクト

    負傷時のエフェクトは、通常状態のキャラクターモデルと、負傷状態のモデルを切り替えて使用している。飛び散る破片は破片用のテクスチャを作成し、自社製のエフェクトツールを使ってアニメーションを作成している。

    作成された負傷エフェクト
    ▲負傷用キャラクターモデルと負傷エフェクトを合成した完成画面

    大群感を表現する敵モーションの工夫

    短刀などのいわゆる雑魚敵のモーションは、モーションノイズを使用してランダム感を強調したモーションとなっている。モデルに配置した特定の骨が指定範囲内でランダムに動くようにセットアップされている。短刀は大量に配置されるシーンが多いため、スケール変更や左右反転などをランダムに再現設定している
    Mayaによる短刀のリグ構造

    Point 04:作品世界に没入させる背景とライティング

    本作では、本拠地となる「本丸」や歴史上の合戦場などがロケーションとして登場する。プレイ中の没入感を高めるため、細部まで趣向が凝らされている。

    本丸をはじめとした背景の制作

    設計資料を基におおまかな地形を作成し、仕様と景観の両面から問題がないかを開発チームと確認しながらステージ設計が進められた。CGの景観に合わせて仕様や遊びの部分に変更を加えることもあったという。背景のルックは、フォトリアルな表現ではなくアニメ背景的なテイストを目標に調整されている。

    表現が単調にならないようマテリアルごとにマスクを適用し、異なるマテリアルをブレンドして質感を向上させているという。逆に経年劣化のある柱など、汚しを追加したい場合は接地部分やエッジに苔や砂などのマテリアルをブレンドして表現している。

    本丸。原作に登場する本丸のデザインや実際の戦国時代の建築物を参考に設計されている
    ▲本丸夕景
    本丸夕景のレイアウト作業中画面
    マテリアルブレンドの例。壁板の質感など異なるマテリアルをブレンドして質感を向上させている。左がブレンドなし、右がマテリアルブレンドを使用した例

    ポストプロセス

    背景はポストエフェクト処理で遠近感などが強調されている。使用されているポストエフェクトは、カラーグレーディング、アンビエントキューブマップ、ハイトフォグ、ブルーム、スカイドームなど。

    画像は中遠景のカラーグレーディングを行うことで全体のバランスを調整し、ポストエフェクトで奥行き感のある空間を表現したものだ。

    • ポストエフェクトOFF
    • スカイドームをONにして背景の空を浮き上がらせた状態
    • ハイトフォグをONにして地面近くにフォグを設定し高さ方向の空間表現を強調した状態
    • カラーグレーディングを施して完成した最終的な背景

    キャラクターの落ち影表現

    地面に落ちる影は、カスケードシャドウマップを使ったソフトシャドウで表現されており、操作キャラクターとバディキャラクターの影は、個別のシャドウマップを使用して解像度を上げている。画像は影の中にキャラクターが立っている場合の例だ。

    キャラクターの接地感を表現できるよう、ステージとキャラクターに個別のシャドウマップを使用することで、影の中に立っていてもキャラクターの影がわかる。

    左がシャドウマップを分けていない状態、右が分けた状態

    フォグの揺らぎ表現

    特殊なポストエフェクトの例として、フォグの揺らぎ表現がある。背景にかかるフォグに対して揺らぎを設定することで動的な要素を追加し、動きのある画づくりを実現している。

    • フォグの揺らぎの強さを10にした状態
    • 揺らぎの強さを100にした状態
    • 揺らぎの強さを1000にした状態

    CGWORLD 2022年4月号 vol.284

    特集:実践!メタバース
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2022年3月10日
    価格:1,540 円(税込)

    詳細・購入はこちら

    TEXT_大河原浩一 / Kouichi Okawara(ビットプランクス)
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)