世界観としても座組みとしても奇跡的に好相性だった
ーー実際に放送がスタートしてからの反響はいかがでしたか?
斎藤:Twitterなどで、「ディズニーやピクサーよりも良い!」と、ファンの方がコメントしてくれているのを見て嬉しかったですね。もちろん、3DCGアニメーションとしてのクオリティとしても、制作コストの面でも勝てるわけないのですが、"新たなCG表現"という意味では、一定の成果を出せたのではないかと思っています。
ーーCGWORLDとしても大きな衝撃をうけました。
斎藤:戦闘シーンと演奏シーンのどちらも登場するCG作品って、実は海外には全然ないんですよね。海外のCGアニメーション表現では、"アクティング"(俳優に演技をさせる)というアプローチが一般的です。それに対して、本作の戦闘アクションは作画の表現技法のなかで培われた極めて日本的なものです。ミュージカル的な要素も兼ね備えたミューモンたちの演奏シーンなども、海外のCG作品ではまず見られません。日本のアニメが海外マーケットでもその独創性を誇れる表現ではないでしょうか。
髙橋:第1話のカオス感がこの作品を象徴しているなと思いました。物語の導入は、学園部活ものかと思わせたら、ヒロインが異世界に飛ばされて、ライブ演奏がはじまったと思ったら、ダークモンスターというなんかでかい奴と戦闘をはじめるという(笑)。
© 2012,2015 SANRIO CO.,LTD. SHOWBYROCK!! 製作委員会
斎藤:楽器演奏というライブパフォーマンスも、外連味のあふれる戦闘描写もあるという『SHOW BY ROCK!!』のアニメーションに対してスタッフたちのモチベーションもすごく高まっていきました。それに比例してCG表現のクオリティも高められたのではないかと思っています。僕らStudioGOONEYSが単独でCGアニメーションをつくったのでは、たとえ同等のクオリティに仕上がっていたとしても誰にも観てもらえないでしょう。そこに、サンリオさん、ボンズさんという確かな実績と多くのファンをもたれた会社さんと一緒に制作させていただけたからこそ話題をあつめ、多くの方に観てもらえるのだと思っています。TVアニメって、すごく多くの人たちに観てもらえる媒体なんだなと、実感しましたね。あとは、ボンズ&サンリオファンに叩かれないだろうかということもすごく気にしていました(笑)。
髙橋:ニコニコチャンネルの視聴では、CG表現のクオリティが高いことに対して「サンリオ金もってるな」というコメントも見かけたのですが、そんなにもってません(苦笑)。
斎藤:僕らが担当した3Dパートだけでは売り物になりません。そこに"サンリオ"という名前があるから許された表現だったでしょうし、もしボンズさんのオリジナル作品など、サンリオさん以外のプロジェクトでこのCG表現を出したら拒絶反応を示した方々もいたと思います。「サンリオの作品だから」というのに良い意味で乗っかれて本当に良かったと思います。
髙橋:否定的な意見もあるだろうなと思ってはいましたが、第1話の感想をみていると「なんなんだこれは!?」っていう声と同時に、「わけわかんないけどすごい面白いね」というコメントが多くあったのが印象的でした。
――実は以前から個人的にゲームアプリもプレイしていたのですが、実際にアニメを観るまではミューモンがCGでどのように表現されるのか想像もつきませんでした。
渡辺:製作委員会の意向から3Dパートに対しては賛否が分かれることを予想していたので、PVなど放送前のプロモーションではあえて3Dを露出させませんでした。かなりのチャレンジでしたね。その作戦が成功したのかどうかはこれから結論が出るのだとは思うのですが、放送前にミューモンの映像が出てこなかったことは、原作からのファンの方々には不安もあったのではないかと。
斎藤:僕は良かったと思いますよ。第1話のインパクトが大きくて、すごく目立ったと思うし。
渡辺:第1話を観ていただいた方の中には「ボンズ、(2Dパートを減らして)手ぇ抜いたんじゃないの?」って思う方もいるかもしれないって、ドキドキでしたよ(笑)。
斎藤:いやいや! ボンズさんの作品って、すごく作画が安定していらっしゃるじゃないですか? 世界観に惹きつけられるというか、話に没入できるというか。
TVアニメ『SHOW BY ROCK!!』本編PV第二弾。座談会でも話題に出たようにPVの段階では3Dパートはあえて露出されなかった
――確かに、ボンズさんは作画への強いこだわりをもたれていらっしゃるなと感じます。
斎藤:それって、ディズニー作品にも共通する点だと思いますよ。僕らが小さい頃って、ディズニー映画って女の子の作品だというイメージがあったじゃないですか? だけど、観始めると最後まで観てしまうんですよね。それが、1カット1カットの動きなのか、ストーリーによるものなのかはわからないんですけど、観る人を惹きつける何かをもった作品をつくれるスタジオということなんですよね。ボンズさんもそうしたスタジオだと、僕は勝手に思っています。
渡辺:ありがとうございます! 作品の特性としては、ボンズが得意としている、ボンズのファンが望んでいるラインというのは確かにあるのですが、ときにはちがうアプローチを試すことでスタジオとしての表現力が広がるのではないかと思っています。『SHOW BY ROCK!!』を通してまた裾野が広がったかなあと。
斎藤:作品全体としてクオリティを高めていくのは2Dでも3Dでも変わりありません。ただ、日本のCGアニメーション制作現場で特に苦労するのが、モデリングやアニメーションではなく、ルックデヴ(ルック・デベロップメント/Look Development)におけるライティング設計だと感じています。世界観を高める上では背景や美術のつくりこみ重要だと思っているのですが、キャラクターものでは、背景など世界観をつくりこむ前にキャラクター制作に多くのリソースが割かれてしまいがちなんです。
――先行する工程にリソースをとられてしまい、後工程にいくほどその尻ぬぐいをする羽目になるというのは映像制作では往々にしてありますね(苦笑)。
斎藤:バジェットには限りがあるので致し方ない面もあるのですが、今回はキャラクターの造形が良い意味でプリミティブだったことも良い結果につなげられました。また背景美術もライブステージという一種の箱庭が中心だったので、バンドごとの個性を描き分けつつデザインルールに共通性をもたせることができました。つまり、キャラクター表現と背景の双方において、迷いが少なく無駄なくつくりこむことができました。そうした意味でも『SHOW BY ROCK!!』は奇跡的なプロジェクトだったと思います。
ーー様々な要素が奇跡的に良い化学反応を起こしてていったようですが、プロデューサーの渡辺さんのお立場としてはここまでCG表現でチャレンジするのではなく意識的に制御することもできたはずですよね。でも、あえて委ねるところは委ねてしまうという、その采配も絶妙だったように感じます。
髙橋:今回は、予算等をあまり気にせずに、原作・監修という立場から作品としての希望やイメージについてスタッフのみなさんと話し合いを重ねさせていただきました。池添監督ともお互いにかなり近いところに理想像があったので、「じゃあみんなが良いと思うものでやったらいい」みたいに考えていました。渡辺さん的にはイラっとしたかもしれませんが(笑)。
渡辺:極端に言うと「ワンカット○○円キッカリになります」と言われたら、そこで取捨選択が発生するじゃないですか? そうした判断材料があれば僕としても3Dパートに対してより具体的に意見できたかもしれないのですが、2Dと3Dでは制作手法も工程も異なる部分が多々あるので、自分としてはStudioGOONEYSさんに託さざるを得ないという面もありました(苦笑)。その意味では、"通訳的な存在"がいれば良かったなあ、とは思いましたね。そこは今回のひとつの反省点でもあります。あまりにも内部事情を大ぴらにされてしまうと(予算を削りたくても削れないなど)逆に困ってしまうこともありそうですが(笑)。
斎藤:僕らは「観てくれるお客さんのためにがんばろう」という気持ちはどの案件でも必ず抱いていますけど、渡辺さんや髙橋さんのような、一緒に制作させていただく方々の笑った顔が見たいなっていう気持ちも抱けると、また新たなモチベーションになりますよね。今回、こうした質感のCG表現を限られたバジェットの下で最大限高いクオリティに仕上げることができたのは、ボンズさんやサンリオさんをはじめとする製作委員会さんがきちんとした座組みをつくってくれたおかげなんだと思います。
渡辺:僕的にはそんな良い話じゃなくて、お互いに突っ張っていったら共倒れになっちゃうから、どこかで手を打ってなんとか全体を収めないと、と必死なだけなんですけどね。
斎藤:渡辺さんってそんなこと言いながら、けっこう熱いですよね!
一同:(笑)。
斎藤:最初にストップをかけてくれるのも渡辺さんなんですけど、僕らの想いや話に、耳を傾けて受けとめてくれるのも渡辺さんなんです。さすがはプロジェクト全体をまとめる立場の方だなって思いました。
髙橋:3Dと2Dのどちらのパートも、スタッフの方々が熱い想いをもって取り組んでいただいて、ありがたいなあと改めて思います。CG表現で特に感動したのは、個人的に推しキャラはレトリーなんですけど、エンディング映像の中でレトリーが演奏しながらシアンの方をちらっ、ちらっと見ているんですよ! そうした動きからキャラクターを愛して、キャラ同士の関係性をしっかりと理解した上で動きをつけてくださってるんだなって、すごく感じました。
斎藤:それはアニメーターの功績ですね。エンディングをディレクションさせてもらったのは僕なんですが、自分からはそうした指示は出してないので。
髙橋:ああいった目線などのさりげない動きによって、キャラクターが本当に生きている感じが伝わるものなんですね。
ーーシュウ☆ゾーくんのウィンクとかも、すごくキャラクターが立っていましたよ。
髙橋:1話でシアンがギターソロを披露して、ダークモンスターに囚われていたトライクロニカのメンバーたちが解放されるというシーンがありまして、そこでシュウ☆ゾーくんの「彼女とっても輝いてるねっ☆」というキラキラな台詞がはいります。あそこが大好きなんですよ(笑)。直前まで危機的な状況だったくせに、そんなことは微塵も感じさせないところがシュウ☆ゾーくん像そのままなんですよね。
――StudioGOONEYSさん的には、同業のCG制作者さんからの反響もあったと思うのですが?
斎藤:反響という意味では、CG業界からよりもクライアントにあたるコンテンツ業界からの反響が大きいです。「(『SHOW BY ROCK!!』のCGを制作した)StudioGOONEYSさんにお願いしたい」と言ってくださったりとか。本当にありがたいことですね。新たな道も拓けていくのではないかと思ってます!
渡辺:ボンズのファンだと言ってくれる方の中では、今回は意見が真っ二つですね。「新しいことをやってる」と喜んでくれた方と、「ボンズっぽくない」とネガティブな反応の方とで。ですが、今までボンズのことを知らなかった人が既存の作品にも興味をもっていただけたなら、トライしてみた甲斐はあったと思っています。

――アニメ『SHOW BY ROCK!!』の今後の展望をお聞かせいただけますか?
髙橋:もし続編をつくれる機会があるのなら、とりあえず、3D化するキャラを増やしたいですね。プリプロの段階から「髙橋さん、今回は(3D化できるのは)20体までですよ」ときつく言われていたので(笑)。ゲームアプリの方はすでに21バンドが登場していて、今後もキャラが増えていく予定です。あとはアニメと実在アーティストを交えたフェスなんかも実現できると良いですね。
渡辺:僕的にはもう限界(笑)!
一同:(笑)。
斎藤:でも、そこまでのキャラクター数を3DCGアニメーション化させるというのは、海外でもあまり事例がないはずなので、世界の覇権を握ったも同然の偉業です(笑)。その覇権から新たなビジネス展開も期待できるんじゃないでしょうか? 『SHOW BY ROCK!!』が秘めているポテンシャルは、そのくらい大きなものだと思いますけどね。
――いろんな意味で、日本のアニメ史に確かな足跡を残した意欲作になったのだと思います。今後の展望も期待しています!
INTERVIEW & EDIT_戸崎友莉、沼倉有人(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充
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TVアニメ『SHOW BY ROCK!!』Blu-ray & DVDシリーズ
第1巻&第2巻 好評発売中!
第3巻 2015年8月26日(水)発売予定ほか
・Blu-ray特装限定版...品番:PCXE.50541/価格:7,452(税込)
・DVD通常版...品番:PCBE.54871/価格:6,264円(税込)
発売元:フリュー/販売元:ポニーキャニオン
© 2012,2015 SANRIO CO.,LTD. SHOWBYROCK!! 製作委員会
【第2巻購入者向けイベント】
『ボクらの夢銀河☆ファンミーティング~とってもプレシャスなTOKIMEKIをキミにっ☆~』
出演者:宮野真守(シュウ☆ゾー役)、村瀬歩(リク役)、逢坂良太(カイ役)
内容:ミニライブなど
日程:2015年9月19日(土)
対象巻:2015年7月22日(水)発売 Blu-ray特装限定版&DVD通常版 第2巻
【第3巻購入者向けイベント】
『徒然なるクリクリプラズマ♪ガールズバンドふぇすてぃばる!~みーんな大好きにゃん♡~』
出演者:稲川英里(シアン役)、上坂すみれ(チュチュ役)、沼倉愛美(レトリー役)、佐倉綾音(モア役)ほか
内容:ライブなど
日程:2015年11月8日(日)
対象巻:2015年8月26日(水)発売 Blu-ray特装限定版&DVD通常版 第3巻