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映像業界では納入時に必須となっている「パカチェック」。光点滅に起因する光過敏性発作を防止するために必要なチェック工程ながら、ゲーム業界での導入は進んでいないのが現状だ。こうした中、アカツキは自社タイトルの安全性を確認・担保するために世界標準のチェックツール「HardingFPA」を採用。導入をリードした同社の安納達弥氏と、HardingFPAを取り扱う伊藤忠ケーブルシステム志賀威也氏に、ゲーム業界においてパカチェックを行う利点について解説してもらった。

――自己紹介をお願いします。

安納達弥氏(以下、安納):アカツキの安納です。弊社は主にスマートフォン向けのゲームの開発と運営を行なっている会社で、私が所属するCAPS(Customer And Product Satisfaction)というチームは、アカツキのリリースする製品/サービスの品質管理とリリース後のお客様対応の役割を担当しています。CAPSに所属し製品品質やお客様対応の役割を担うメンバーは、東京本社もしくは福岡にある子会社に分散して所属しており、約180人のメンバーで一体となって品質管理やお客様対応の役割を担っています。

  • 安納達弥氏
    株式会社アカツキ
    ゲーム事業本部
    CAPS Guild
    aktsk.jp

志賀威也氏(以下、志賀):伊藤忠ケーブルシステムの志賀です。弊社は1986年設立の放送・通信・音響機器のシステムインテグレーターです。私が所属する部署は、放送局様やポストプロダクション様など映像制作に関わる全てのお客様に国内外の優れた業務用製品の販売・サポートを行っています。

  • 志賀威也氏
    伊藤忠ケーブルシステム株式会社
    クロスメディアソリューション本部
    テクニカルサポート2部第1課
    www.itochu-cable.co.jp

――ありがとうございます。今回お話いただく「パカチェック」ですが、具体的にどういったものかご説明をお願いします。

志賀:放送業界や映像制作会社では業界用語の一種ですが、光点滅の身体的影響をチェックすることを「パカチェック」と呼んでいます。例えば、記者会見のフラッシュやストロボの点滅、ゲームの場合であれば、変身シーンや武器を発射した際の光や、爆発、閃光などのエフェクトなどは、「光過敏性発作(てんかん発作)」を誘発するリスクがあります。パトライトのような赤色点滅、うずまき模様が回転することによる酔いの発生などの空間パターン、弱いけれど長く続くふわふわした点滅など、さまざまな種類の光源がありますが、これらを測定して視聴者やプレイヤーの発作を未然に防ぐのがパカチェックの役割です。弊社が取り扱うのは、業界標準となる英国Cambridge Research Systems社のHardingFPAシリーズで、制作中のコンテンツがゲーム用ガイドラインや各放送ガイドラインに適合しているかどうかを確認することを目的としたソフトウェア製品群です。

▲HardingFPAシリーズによるファイル解析画面。輝度点滅や赤色点滅など色を分けてひとつの画面で表示する。合格か失格かをタイムラインで表示するのでどのシーンに問題があるかがひと目でわかる

――パカチェックというのは、国際的な規格があるのでしょうか?

志賀:ITU(国際電気通信連合)が策定したITU-R勧告BT.1702があります。日本では「ポケモンショック」(1997年に発生した、一部の視聴者が光過敏性発作を起こした事例)が有名ですが、実はその数年前にもイギリスで特定のCMを見た子どもが発作を発症するという事例がありました。基準策定のために医学的アドバイスを求めた神経生理学教授のグラハム・ハーディング博士です。長い時間をかけて光過敏性発作(てんかん発作)の誘発要因について調査し、その上で制定したガイドラインをもとに、Cambridge Research Systems社と共同で開発した測定ソフトウェアが弊社で取り扱うHardingFPAシリーズになります。世界的にデファクトスタンダードのシステムです。

――従来、HardingFPAは映像コンテンツに対するチェックツールかと思いますが、現在はゲーム業界での活用も広がっているのでしょうか?

志賀:今のところゲーム業界において関係省庁から指導が入ったケースはないと思いますが、問題を未然に防ぐためにお問い合わせをいただくことは非常に多くなってきています。この背景には、PlayStaion5などの次世代機のハードスペックの向上による光の演出の過激化や、スマートフォンゲームの利用率の増加があります。ゲームはTVにつないでプレイしてしまえば放送と同じ土俵になりますし、プレイ動画をYouTubeに上げてみんなで見ることも一般的になっています。オープニングムービーなども映像と同じ制作体制になっているので、これらは本来しっかりチェックをしておくべきものになります。

安納:今やスマートフォンはほとんどの方が所持されています。アカツキの提供するゲームは、スマートフォンをお持ちの方であれば誰でも遊べるものであるため、遊んでいただく可能性がある対象の方が多岐に渡るため、製品品質についてはリリースする前にきちんと対処をしておく必要があると考えております。この考え方はアカツキに限ったことではなく、他の会社様も同様の対策は行なっていると思いますが、光過敏性発作の観点については業界のルールが存在するわけではないため、なかなか表には情報が出てこない部分だとも思いますので、対策についてはどこまで進んでいるのかなどもマチマチなのではないかと思います。

――ゲーム業界でのパカチェックは、ノウハウの蓄積や情報公開が、他の技術領域に比べると少ないということですね。こうした中、アカツキはHardingFPAを2019年7月から導入しているとのことですが、この経緯について教えてください。

安納:スマートフォン向けゲームの作品の中でも、スキルの演出や戦闘画面でのエフェクト、シナリオ展開に応じた動画の再生など、光による演出はあらゆるシーンで用いられています。こうした中で、光過敏性発作の観点について関係各社様やユーザー様からのご指摘などもあり、弊社としてもパカチェックをしっかり実施すべきではないかと考えました。我々自身も当初知識がほとんどありませんでしたが、2019年ごろからツールの調査を始めるなかで、HardingFPAというソフトウエアの存在を知るにいたり、そのソフトウエアを取り扱っている伊藤忠ケーブルシステム様に問い合わせをさせていただきました。

――ちなみに、導入に際しては他の競合製品やサービスの検討は行わなかったのですか?

安納:HardingFPAを自社で導入するまでは、外部でのパカチェックのサービスを利用して対応していました。開発中のものを社内で動画に落とし、そのサービスに依頼することでパカチェックを実施してもらい結果をいただくというフローでした。このやり方の場合、自社でソフトウエアの導入が必要ないところはメリットとしてありましたが、外部に依頼するための日程や工数調整がかかったり、結果を得られるまでの待ち時間が発生したりするため、自社内で自由にチェックできる体制を整えるために、自社での導入を検討するようになりました。いくつかの製品を調べましたが、映像業界での導入実績も多いHardingFPAを選びました。アカツキ社内ではMacの端末が多く利用されているため、Mac対応という点も我々にとっては大きなメリットでした。問い合わせ後には、志賀さんにはHardingFPAの基本的なことや、映像業界での状況や利用方法などを教えてもらいながら理解を深めていき、ツール自体もスムーズに導入できました。

▲HardingFPAシリーズで解析をした結果は「分析証明書」として出力することができる

――現在のワークフローを教えてください。

安納:アカツキはプロジェクトごとにチーム編成があり、開発がそれぞれのプロジェクトチームで進行していますので、どのプロジェクトからでも必要なタイミングで自由にサーバ上でパカチェックを行える環境をつくっています。社内のメンバーであれば、誰でも製作中のものをパカチェックでき、合否判定のもとでブラッシュアップをしていくという流れになっています。制作に関わっている人たちが直接「これはどうだろう?」と思うところをチェックして、NGなら修正するというフローです。HardingFPAを導入することによって、自社内で自由にチェックできる環境が構築できたため、外部に依頼する手間は工数、コストも考慮することなく、社内のメンバーが自由にいつでも確認でき、試行錯誤ができるようになりました。

志賀:アカツキ様に導入いただいた製品はHardingFPAシリーズの「HFPA-Server」というサーバクライアント型のネットワークパッケージソリューションです。解析エンジンが2基搭載されており、2ファイル同時並行で解析ができます。3ファイル目をサーバに投げると、サーバ側でキューに貯めこまれて、順番に処理をするというかたちになっています。ゲーム開発のような複数プロジェクト、大人数のメンバーで使うような使用状況に適した製品になっています。

▲HardingFPAシリーズの「HFPA-Server」のシステム構成図。複数の編集システムからネットワーク経由で送られる解析リクエストジョブを2系統の解析エンジンが効率よく解析する

――HardingFPA導入前後で、業務効率はどのように変化しましたか?

安納:先ほども申し上げたように、自社内にHardingFPAを導入する以前は、外部のサービスを利用しておりました。外部に依頼する場合、依頼するために日程調整、工数確認が必要になり時間もかかってしまいますし、毎回費用もかかってきます。また、チェックがNGだった場合、修正してそれを再度チェックする必要があった場合、再依頼が必要になってしまいます。これを複数のプロジェクトごとに外部のサービスで実施することは非常に難しいのではないかと考え、自社内での導入を検討するに至りました。現在はサーバ側に常にHardingFPAが起動しており、好きなときに好きな人がチェックできる体制になっています。サーバ接続のためのクライアントツールにファイルをドラッグアンドドロップするだけで良いので、操作も非常に簡単です。社内マニュアルも用意してありますので、全員がまったくストレスなく作業ができるようになっています。

――ワークフローの中にパカチェックを自然に取り入れたことで、スムーズにチェックと修正のイテレーションが行えるようになったということですね。先ほどパカチェックに関する情報が少ないというお話もありましたが、今後導入を進めたいと考えるゲーム企業にとって、HardingFPAを導入する一番のメリットはどういった部分でしょうか?

志賀:ゲーム開発は海外市場を見越したものも多いですが、例えば今後「VRも含めたゲーム産業を国を挙げて推し進める」となったときは、当然海外へのアプローチもより積極的になるでしょう。ただ、そうなったとき、もしもゲーム内の演出で光過敏性発作が起きてしまったら......。市場の拡大にブレーキがかかってしまうかもしれません。一方で、作品にとって光の演出は絶対に必要で、格好良く「ギラギラ」や「ドカーン」と演出することの重要性も非常にわかります。パカチェックを行うことで、「どのあたりまでやって良いのか?」、いわば「安全な攻め際」を判断できるようになりますので、これには大きな価値があると思います。

安納:映像の業界では、納品のタイミングでパカチェックの実施の証明が求められるということをお聞きしました。スマートフォンゲーム業界ではルールや規制が存在するわけではないために、やるかやらないかは自分たち次第の状況です。そういう背景もあって、パカチェックについて知見や知識がないという方も多いと思いますし、我々のように、何かやる必要があると認識していても、何をどうすればよいかという部分で戸惑う方も多いのではないかと思います。スマートフォン用のゲームの場合、誰でも無料でダウンロードして遊んでいただけるものなので、不特定多数の方に行きわたる可能性があり影響範囲も広いので、誰でも安全に安心して楽しんでいただくためにも、多くの人に行き渡る前にきちんとパカチェックをしておく必要があると認識しています。

――最後に、今後の展望について教えてください。

志賀:HardingFPAは放送業界から生まれたものです。現在もSDやHD、4K/8K、HDR等が測定できますが、これらはまだ放送用フォーマットに依存しているとも言えます。今後はスマートフォン向けの縦長サイズやスクエアサイズ、また120fpsなどの高フレームレートのものなど、他業界で使用されている解像度や仕様に適合した幅広いフォーマットへの対応をメーカーと協力しながら進めていきたいと考えています。

安納:多くの皆さまに遊んでいただくためには、「安全性」がなにより大切だと感じています。ただ、私たちも元を正せば「パカチェックをやらなければいけない」というのは外部からの指摘で認識し始めたものでしたのでパカチェックの重要性については後追いで認識をしたのが実情です。安全のためになにをすべきか、業界全体の知見がまだ不足している状況にあると思いますので、社内でノウハウや知見を蓄えてつつ、ノウハウの蓄積や情報公開に努めるのが重要だと考えています。

――ありがとうございました。

製品情報

■PSE解析ソフトウエア(光過敏性発作対応)/HardingFPAシリーズ
・シングルユーザー向けターンキーシステム
 HFPA-Desktop
・サーバ/クライアント型ネットワークパッケージソリューション
 HFPA-Server

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