>   >  DigiCon 6 ASIA観客賞受賞ほか話題の『東京コスモ』の魅力に迫る<メイキング>
DigiCon 6 ASIA観客賞受賞ほか<br>話題の『東京コスモ』の魅力に迫る<メイキング>

DigiCon 6 ASIA観客賞受賞ほか
話題の『東京コスモ』の魅力に迫る<メイキング>

Topic2:約4年にわたる制作の軌跡

CGの特徴を活かしたひとり暮らしの女性像

前述の通り本作はほぼ宮内氏ひとりで実制作が行われた。キャラクターはリグを含めて納得いくまで何度も修正を重ね、背景は間取りやプロップの配置は岡田氏の部屋を参考にし、小道具は「自分の部屋のものを参考にしました」(宮内氏)という。街並みは「ビルがたくさん必要でしたが、窓があればビルっぽく見えるという結論にいたりました」(宮内氏)と、わりきってモデリングしている。評価の高いアニメーションまわりは書籍『アニメーターズ・サバイバルキット』を熟読して参考にしつつ、キーポーズを付けて間を補完するブロッキングではなく、ながれに沿って動かしていく方法が採られたそうだ。

制作期間は約4年。レンダリングはPC1台で「夜に作業して出社前にレンダリングをかけ、帰ってきたら作業する......というくり返しでした。レンダリングだけで半年ほどかかっています」と宮内氏。コンポジットに関しては「やったことがほぼなかったので、本で勉強しながら作業しました」(宮内氏)とふり返る。素材は細かくマルチマットを出力して調整、洗濯機の水表現は、実際の洗濯機内を撮影して素材を貼り付けたのだとか。

最後に、自主制作の魅力について伺った。「仕事だとお伺いを立てなければいけませんが、それがない分自主制作は自由に楽しくつくれますね」と宮内氏は語る。「人選の楽さがあるかもしれません。ストーリーが得意な岡田さんと、CGの得意な宮内さんがいて、誰を選んでもいい自由さがこの作品を生んだのだと思います」と北村氏。自主制作は、自由度も高いが自己責任もある。楽しさがある一方で続けられる継続力、そして強い欲求がある人のみが完成させられるものなのだろう。

▼コスモちゃんの部屋

▲コスモちゃんの部屋のCGモデル。リファレンスとなった岡田氏の部屋をあらゆる角度から撮影し、その写真が参考にされた。小物に関してもひとつずつ丁寧に作成されており、それが画面全体の密度を上げている。シェーディングは柔らかめに統一されており、一部ではSSSも使っているそうだ。それが本作のカラーになっているのだろう。また、生活感を出すためにそれなりの下調べをしたのでは? と聞いてみると「何人かに話を聞いてみました。それとは別に、人の部屋を撮影した『堕落部屋』という写真集があり、それを参考にさせてもらいました」と宮内氏。また「コスモちゃんは"良い子ではあってほしい"という宮内さんのキャラクターに対する思い入れも、この部屋のモデリングに影響を及ぼしているのではないでしょうか?」(岡田氏)とのことだった。

▲完成画。CGでもセルアニメでもそうだが、あまり整った部屋だと生活感が出にくい。ゆえにゴチャゴチャさせて生活感を出すという意図があったそうだ。レンダーエレメントはひと通り出しているが、実際にそれほど使っておらず、一方でマルチマットを細かく出すことで微妙な色調補正が行われている

  • ▲カラー

  • ▲AOマップ

  • ▲ノーマルマップ

  • ▲SSS



▲マルチマットの一部

▼東京の夜景

東京の街並みは最も苦労したところだそうで「部屋の中のものは実際に台所にあるものを見ながら制作できましたが、街はそうもいかず、建物の数も必要で大変でした。背景は高いビルと普通のビルを配置して、隙間を低いビルで埋めています」と宮内氏。最終的に"窓があればビルに見える"とわりきってどんどんつくっていったという。それ以外にもクルマなどもモデリングされている。

  • ▲背の低いビル

  • ▲普通のビル

  • ▲背の高いビル

  • ▲完成画

▼フェイシャル

作品を観ると、キャラクターはとても表情豊かに仕上がっている。フェイシャルはボーンとモーフターゲットを組み合わせており、母音や基本の笑顔を作成し、パラメータで調整している。モーフターゲットを作成していくと当初つくったモデルはポリゴン数が足りなくなり、再びベースモデルを修正することもあったのだとか。制御に関してはコントローラも用いられている。

▲モーフターゲット

  • ▲フェイシャルコントローラ

  • ▲フェイシャルリグ

  • ▲FFDによる変形

  • ▲眉を動かしたところ

  • ▲目を閉じた状態

  • ▲口を開けた状態

▼ヘア

  • ▲髪の毛のモデル

  • ▲髪の毛に仕込まれたボーン。制御しやすいように3色の色で分けられている

▲3ds Maxの作業画面

▲シーンの作業画面。髪の毛をかなり激しく動かしていることが見て取れる

▲完成カット

ブワッとした動きが上手く表現されている。当初はClothで表現することも考えたそうだが、激しく髪が動くカットもあるため結局手付けの方が早いとのことで、ボーンを仕込んで制御されている。ボーンは髪の外側、中側、内側と三段階に仕込まれており「髪の毛の広がりや、奥と手前で動きをずらすことで柔らかさを表現しています」(宮内氏)とのこと。Hair Farmも使われており、細かく風になびくシーンなどではスクリプトでノイズのようなものをボーンに加えて制御している。

▼アニメーション

アニメーションは全て手付けで行われている。「いろいろ仕込んで動かすにはそれなりに勉強しないといけませんので、手付けの方が早い場合もあります。なるべく今ある技術で作成しようというのもありました」と宮内氏。4年の年月をかけた作品のため「初期に付けたアニメーションは"うわっ"(汗)となりますが、完成させることを優先してそのまま使っているものもあります」(宮内氏)とのことだ。途中のブタに乗って飛び回るシーンは、壊れるクルマなども全て手付けで制作されている。岡田氏いわく「宮内さんのアニメーションは良い意味で泥臭い。予定調和でないところが、感情をよく表しているのでしょう」。実写作品で役者が演技した場合、本人が予期しないしぐさや動きが生まれるように、宮内氏の動きは周りを納得させる演技につながっているのだ。









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TEXT_草皆健太郎(Z-FLAG)
※CGWORLD Vol.210からの転載



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