YouTubeで100万回以上再生された、フルCG自主制作アニメーション『東京コスモ』
DigiCon 6 ASIA観客賞、富山水辺の映像祭スフィア 2015 グランプリ、国際 デジタルアニメーションフェスティバルNAGOYA 2015準グランプリ&観客賞を受賞し、国内のみならず海外からも注目される本作品の魅力に迫る。

▲TOKYO COSMO /東京コスモ【Independent Animation/自主制作アニメ】

ふんわりとした雰囲気で心をつかむアニメーション作品

今回はWebやTVで話題となり、様々な賞を受賞している自主制作作品『東京コスモ』の制作エピソードやメイキングに関してお話を伺った。本作を制作したのは名古屋にあるトライデントコンピュータ専門学校の卒業生で、現在は白組で数々の作品に関わっている若手クリエイター3人。各々の役割は明確で、ストーリー・キャラクター原案など作品の枠組みは岡田拓也氏が、CG制作~編集・音響などの実制作は宮内貴広氏が、完成後のプロモーションは北村翔平氏が主だって行なっている。

作品本編に負けず劣らず面白いエピソードをもつ3人のお話はCGWORLD.jpでインタビュー記事を掲載しているので、そちらもチェックして見てもらいたい。

本作の魅力は数あるが、ひとつに共感できるストーリーがあるだろう。ひとり暮らしのOLが、アパートに帰ってきてお弁当を食べて......想像しやすいところからお話はスタートし、短編として入り込みやすい。「基本的に僕が感じた"寂しさ""孤独"をテーマにしています。上京してひとり暮らしを始めた当時の心境を作品にしました」と岡田氏。自分の感じているものを作品として生み出すことはクリエイターの基本でもあるが、それを実行に移せるところが素晴らしい。ルック的にもソフトなシェーディングと丁寧につくり込まれた小物類が散りばめられ、全体的にふんわりとした印象で気負わずに観られる。またひとつひとつの演技には、しっかりと意味をもたせた気持ちの良いアニメーションが付けられている。

本作はキャラクターの声はないのだが、現在(2015年12月)は声優を募集しており、視聴者にも楽しんでもらおうという試みも。北村氏いわく「声優をやってみたいけどとっかかりをつくれない人に、募集を大々的にかけることで披露する場をつくりたいと企画しました」とのことで、作品制作だけでは終わらず、広く盛り上がりを見せている。宮内氏は今後も自主制作を続けるとのことで、次回作がすでに楽しみだ。

Topic1:仕事と自主制作を両立する秘訣

オリジナル作品をつくり続けるモチベーション

本作は学生時代から自主制作をしていたながれから、宮内氏ら同期数名で「社会人になっても自分たちの作品をつくろう」と話が盛り上がったところから始まったという。だが、社会人1年目は忙しい。本作も企画後1年ほどは具体的な制作はできなかったそうだ。その後仕事に慣れ、落ち着いてきた頃から制作が開始するものの、途中からひとり抜け、ふたり抜け......最後は宮内氏ひとりで全てを制作して完成させたというエピソード付きである。

筆者もたまにお酒の席で「自主制作しよう!」と盛り上がるが、実際に行動に移すことはなかなかない。仕事をしながらひとりでこれだけの作品を完成させるには相当なモチベーションが必要だったのでは?と聞いたところ「岡田さんが"もうやりたくない"と言い出したときに"じゃあひとりでやります!"と啖呵をきった手前、意地でも完成させたいという思いはありましたね(笑)。趣味も特にないので、だったらCG制作に集中してもいいんじゃないかと続けました」と宮内氏。モチベーション云々ではなく宮内氏にとって「つくること」は生活の一部になっているのだ。

それでもモチベーションが切れることもあるそうで「上司とか周りの人に"作品をつくっている"と宣言するという手があります。会うたびに"進んでいるの?"とか聞いてくれるので"やらなきゃヤバイ"と危機感が煽られて手を動かします(苦笑)」と宮内氏は語る。周りがクリエイターばかり、という環境は適度にプレッシャーがあり、続けていくには良い環境なのかもしれない。

なお宮内氏の制作環境を紹介すると、PCはHP製h8-1080jpモデル(CPU:Core i7 3.20GHz、メモリ:24GB、NVIDIA GeForce GTX 460)1台、アプリケーションは3ds Max、After Effects、Photoshop、一部でHair Farmなどを使用しているとのこと。

▼キャラクターデザイン

主人公はOLという設定だが、なぜOLを選んだのかというと「やっぱり女の子のキャラクターをつくりたかったので」と岡田氏。筆者世代はアニメの主人公=少年の印象だが、主人公=女性の構図に世代を感じる。「僕はスタジオジブリの作品が好きで、女の子が主人公の『魔女の宅急便』や『耳をすませば』が特に好きだったこともあります」(岡田氏)。結果的に本作がもつ「寂しさ」というテーマを上手く表現したキャラクター制作につながったようだ。

▲(A/C)岡田氏による初期デザイン/(B)制作中盤のデザイン/(D)デザインを参考に宮内氏がCGで作成したキャラクター

▼主人公コスモちゃん

主役である「コスモちゃん」のCGモデル。

▲左から、初期モデル、途中段階、完成モデルのワイヤーフレーム表示

▲同じく左から、初期モデル、途中モデル、完成モデルのシェーディング表示

▲初期モデルと完成モデルの顔のアップ。こうして段階を経て見てみると、コスモちゃんのCGモデルは徐々に丸く柔らかい顔に修正されていることが見て取れる。服はClothを仕込むために他よりもかなりハイメッシュになっている。キャラクターの顔や表情などのディテールに関しては「前髪をどうするかなど、初期は他のメンバーとやり取りしながら詰めていっています。故・今 敏さんの作品が大好きで、似たキャラクターがいたので参考にさせてもらいました」(宮内氏)とのこと

▼ゴキブリ

敵として現れるゴキブリだが、実はコスモちゃんに好意を抱いており、気持ちに気づいてほしい......という裏設定が盛り込まれている。悪意はないのにコスモちゃんには恐ろしい敵に見えるというゴキブリの描写も盛り込まれているのだとか。「なかなか気づいてもらえないんですけどね」(宮内氏)。作中ではリアルな怖いゴキブリA(下図)と、よく見るとけっこうかわいいデフォルメされたゴキブリB(下図)が登場する。シェーディングもリアル調とソフトなぬいぐるみ風の異なる質感で仕上げられているので、注目していただきたい。







▶︎次ページ:約4年にわたる制作の軌跡 [[SplitPage]]

Topic2:約4年にわたる制作の軌跡

CGの特徴を活かしたひとり暮らしの女性像

前述の通り本作はほぼ宮内氏ひとりで実制作が行われた。キャラクターはリグを含めて納得いくまで何度も修正を重ね、背景は間取りやプロップの配置は岡田氏の部屋を参考にし、小道具は「自分の部屋のものを参考にしました」(宮内氏)という。街並みは「ビルがたくさん必要でしたが、窓があればビルっぽく見えるという結論にいたりました」(宮内氏)と、わりきってモデリングしている。評価の高いアニメーションまわりは書籍『アニメーターズ・サバイバルキット』を熟読して参考にしつつ、キーポーズを付けて間を補完するブロッキングではなく、ながれに沿って動かしていく方法が採られたそうだ。

制作期間は約4年。レンダリングはPC1台で「夜に作業して出社前にレンダリングをかけ、帰ってきたら作業する......というくり返しでした。レンダリングだけで半年ほどかかっています」と宮内氏。コンポジットに関しては「やったことがほぼなかったので、本で勉強しながら作業しました」(宮内氏)とふり返る。素材は細かくマルチマットを出力して調整、洗濯機の水表現は、実際の洗濯機内を撮影して素材を貼り付けたのだとか。

最後に、自主制作の魅力について伺った。「仕事だとお伺いを立てなければいけませんが、それがない分自主制作は自由に楽しくつくれますね」と宮内氏は語る。「人選の楽さがあるかもしれません。ストーリーが得意な岡田さんと、CGの得意な宮内さんがいて、誰を選んでもいい自由さがこの作品を生んだのだと思います」と北村氏。自主制作は、自由度も高いが自己責任もある。楽しさがある一方で続けられる継続力、そして強い欲求がある人のみが完成させられるものなのだろう。

▼コスモちゃんの部屋

▲コスモちゃんの部屋のCGモデル。リファレンスとなった岡田氏の部屋をあらゆる角度から撮影し、その写真が参考にされた。小物に関してもひとつずつ丁寧に作成されており、それが画面全体の密度を上げている。シェーディングは柔らかめに統一されており、一部ではSSSも使っているそうだ。それが本作のカラーになっているのだろう。また、生活感を出すためにそれなりの下調べをしたのでは? と聞いてみると「何人かに話を聞いてみました。それとは別に、人の部屋を撮影した『堕落部屋』という写真集があり、それを参考にさせてもらいました」と宮内氏。また「コスモちゃんは"良い子ではあってほしい"という宮内さんのキャラクターに対する思い入れも、この部屋のモデリングに影響を及ぼしているのではないでしょうか?」(岡田氏)とのことだった。

▲完成画。CGでもセルアニメでもそうだが、あまり整った部屋だと生活感が出にくい。ゆえにゴチャゴチャさせて生活感を出すという意図があったそうだ。レンダーエレメントはひと通り出しているが、実際にそれほど使っておらず、一方でマルチマットを細かく出すことで微妙な色調補正が行われている

  • ▲カラー

  • ▲AOマップ

  • ▲ノーマルマップ

  • ▲SSS



▲マルチマットの一部

▼東京の夜景

東京の街並みは最も苦労したところだそうで「部屋の中のものは実際に台所にあるものを見ながら制作できましたが、街はそうもいかず、建物の数も必要で大変でした。背景は高いビルと普通のビルを配置して、隙間を低いビルで埋めています」と宮内氏。最終的に"窓があればビルに見える"とわりきってどんどんつくっていったという。それ以外にもクルマなどもモデリングされている。

  • ▲背の低いビル

  • ▲普通のビル

  • ▲背の高いビル

  • ▲完成画

▼フェイシャル

作品を観ると、キャラクターはとても表情豊かに仕上がっている。フェイシャルはボーンとモーフターゲットを組み合わせており、母音や基本の笑顔を作成し、パラメータで調整している。モーフターゲットを作成していくと当初つくったモデルはポリゴン数が足りなくなり、再びベースモデルを修正することもあったのだとか。制御に関してはコントローラも用いられている。

▲モーフターゲット

  • ▲フェイシャルコントローラ

  • ▲フェイシャルリグ

  • ▲FFDによる変形

  • ▲眉を動かしたところ

  • ▲目を閉じた状態

  • ▲口を開けた状態

▼ヘア

  • ▲髪の毛のモデル

  • ▲髪の毛に仕込まれたボーン。制御しやすいように3色の色で分けられている

▲3ds Maxの作業画面

▲シーンの作業画面。髪の毛をかなり激しく動かしていることが見て取れる

▲完成カット

ブワッとした動きが上手く表現されている。当初はClothで表現することも考えたそうだが、激しく髪が動くカットもあるため結局手付けの方が早いとのことで、ボーンを仕込んで制御されている。ボーンは髪の外側、中側、内側と三段階に仕込まれており「髪の毛の広がりや、奥と手前で動きをずらすことで柔らかさを表現しています」(宮内氏)とのこと。Hair Farmも使われており、細かく風になびくシーンなどではスクリプトでノイズのようなものをボーンに加えて制御している。

▼アニメーション

アニメーションは全て手付けで行われている。「いろいろ仕込んで動かすにはそれなりに勉強しないといけませんので、手付けの方が早い場合もあります。なるべく今ある技術で作成しようというのもありました」と宮内氏。4年の年月をかけた作品のため「初期に付けたアニメーションは"うわっ"(汗)となりますが、完成させることを優先してそのまま使っているものもあります」(宮内氏)とのことだ。途中のブタに乗って飛び回るシーンは、壊れるクルマなども全て手付けで制作されている。岡田氏いわく「宮内さんのアニメーションは良い意味で泥臭い。予定調和でないところが、感情をよく表しているのでしょう」。実写作品で役者が演技した場合、本人が予期しないしぐさや動きが生まれるように、宮内氏の動きは周りを納得させる演技につながっているのだ。









▼関連記事
話題の『東京コスモ』は、ほとんどひとりでつくった!? 3人とも毛色がまったく違う「チーム東京コスモ」に直撃インタビュー。

TEXT_草皆健太郎(Z-FLAG)
※CGWORLD Vol.210からの転載