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大友克洋最新作『SHORT PEACE』公開記念(2)『GAMBO』安藤裕章監督インタビュー

大友克洋最新作『SHORT PEACE』公開記念(2)『GAMBO』安藤裕章監督インタビュー

『GAMBO』の先にあるもの

CGW:『GAMBO』はメインキャラクターも3DCGで描かれていますね。

安藤:3DCGで描かれているのは、GAMBO(白い熊)と鬼、そして人間ではカオと二元次(ニゲンジ)ですね。3DCGを得意とするサンライズ荻窪(現・練馬)スタジオの企画ということで、最初からメインキャラは3DCGで作ることが決まっていました。結果的には、作画だと大変だったであろうアクションシーンを盛り込むことができ、3DCGで正解だったと思っています。

『GAMBO』 『GAMBO』

『GAMBO』
<あらすじ>
16 世紀末。戦国時代末期。東北地方(最上領)の山中に天空より何かが落下した。直後、寒村に一匹の巨大な鬼のような化け物が現れ略奪の限りを尽くす。時を同じくして寒村に暮らす少女カオは白い熊と出会う。人の言葉を理解するその神秘的な熊にカオは救いを求めた。かくして鬼と白熊との激闘がはじまる。新機軸のバイオレンス作品たるべく、荒く力強い画面を3DCGの技術を活用し描き出す。

<主要スタッフ>
監督:安藤裕章/原案・脚本・クリエイティブディレクター:石井克人/キャラクターデザイン原案:貞本義行/キャラクターデザイン・作画監督:芳垣祐介/CGI監督:小久保将志/CGアニメーションチーフ:坂本隆輔/コンポジットチーフ:佐藤広大
©SHORT PEACE COMMITTEE
©KATSUHIRO OTOMO/MASH・ROOM/SHORT PEACE COMMITTEE

CGW:確かにクライマックスの格闘などは、「これでもか!」というくらい動き回っていました。

安藤:人間キャラクターの3DCG化にあたっては、デザイン原案を貞本義行さんにお願いしたときから、「アニメだけど記号化しすぎないでください」と、こだわりました。アニメは記号化した絵の世界なんですが、もともとの生身の部分、骨だったり肉だったりを、なんというか"匂うように "してほしいと。そういう"生っぽい "部分が残るように意識して進めてもらいました。日本のアニメキャラクターは可愛い絵でありながらもフェティッシュな"生っぽい "部分があるのが魅力だと思うんです。アニメーターにはそんなフェティッシュな絵が描ける方が多くいますが、貞本さんはその中でも特に優れた方だと思います。

『GAMBO』

『GAMBO』のキャラクターデザイン原案を手がけた貞本義行氏が描いたヒロイン「カオ」の決定稿(表情パターン)
©SHORT PEACE COMMITTEE
©KATSUHIRO OTOMO/MASH・ROOM/SHORT PEACE COMMITTEE

CGW:3DCGキャラクターの制作について、もう少しお聞かせください。

安藤:鬼とGAMBOについてはCGI監督の小久保(将志)さん自らが担当しています。彼とは『STEAMBOY』からの付き合いで私のフェティッシュな性格もよく知っているので、小久保さんに任せておけば安心でした(笑)。カオについては、モデリング担当の北仙さんがとても上手い方なのですが、それゆえに通常通りに作っていただくと可愛くなり過ぎてしまったんです。なので、あえて「もうちょっと不細工にして」という酷なオーダーをしました。頬のラインや顎の筋肉などのディテールをあえて作ったりと......私自身はそういった不細工なところも可愛いと思うんですね。それが先ほどお話した"匂い "の部分なのかなと思います。

CGW:キャラクターアニメーションについては、いかがでしょう?

安藤:3DCGでキャラクターをアニメーションさせるとき、サーフェスモデルの場合は上手に動かさないとすぐに風船みたいになってしまう。要するに、骨や肉の入っていない、ただの袋みたいな動きになってしまうんですが、そこを今回はアニメーターの力で補ってもらったと思います。これは筋肉だけでなく、着物の袖の表現なども同様です。油断すると、すぐにゴムのような動きになってしまう。なので曲がったとき、「布で、縫製はこうだから、ここにはこれくらいのシワが入る」という感覚が身についていないと、正しくアニメーションさせられないんです。

CGW:アニメーターにとって必須の素養なわけですね。

安藤:自分の場合、こうした筋肉や骨やあるいは布の量感といった部分にフェティシズムを感じるんですが(笑)、アニメーターであれば当然知っているべきことだと思います。


SHORT PEACE『GAMBO』15秒PV

CGW:監督が3DCGに取り組みを始めた頃と今とを比べて思われることはありますか ?

安藤:自分が始めた頃は、3DCGでアニメーションを作るというというよりは、その前段階としてアニメーション制作のデジタル化に取り組むという感じでした。ですので『STEAMBOY』では、3DCGによるキャラクターアニメーションにまでは踏み込んでいません。大友監督が当時のあるインタビューの中で「『STEAMBOY』のラストシーンで、主人公の影が回り込むカットを3DCGで表現しようとしたら、安藤に止められた」と愚痴られているのですが(苦笑)、あえて3DCGの役割を限定していました。と言うのも当時は、3DCGよりも作画の方が高いクオリティをだせる、3DCGでは不十分だと思ったからです。過渡期の時代だったからこその選択ですね。

CGW:お話を聞いて、安藤さんたちの世代がアニメーション制作へのデジタル技術の導入を進めてきたのだなと、改めて思いました。

安藤:『FREEDOM』などのサンライズ作品を通じて、森田(修平)さんが" 3DCGでアニメーションできるアニメーター"を育ててくれていたことはとてもありがたかったです。自分では手が回っていなかった制作環境を準備してくれたということで、頭が下がります。

CGW:3Dと2D(作画)の使い分けについては、どのように行なっていますか?

安藤:取り組む案件によって分け隔てなく、ケースバイケースで制作スタイルを変えるようにしています。『GAMBO』で言えば、メインキャラは3DCGですが、それ以外では作画も使っていますし、二元次も1カットは作画でした。また3DCGレイアウトは半分くらいです。最終的な美術原図には全て自分で手を入れさせてもらいましたが、3DCGと作画を上手く混ぜることができたんじゃないでしょうか。『GAMBO』では「3DCGでアクションをやろう」というのが主軸としてあったんですが、キャラクターを動かすことに関しては、作画と3DCGのどちらが主軸とは考えておらず、やはり案件次第で使い分けることが重要だと思いました。

CGW:作品テーマがあってこその"表現 "ですものね。

安藤:当たり前のことですが、作画と3DCGそれぞれの魅力、持ち味があるわけですしね。ただし日本のアニメのスタイルとして、3DCG表現がセルアニメを追いかけているということは、確かにあります。ですが、自分としては日本のアニメ表現の根底にあるのは漫画だと思っていて、3DCGはパーフェクトにセルアニメを模倣する必要はないと思うんです。3DCGならではのアプローチから、漫画をアニメーションすればいいじゃないかと。戦略的に、今は「セルアニメと見分けのつかない3DCG」を売りにした方が受けが良いのですが、それをずっと売りにするつもりはない、という気持ちもあります。

『GAMBO』 『GAMBO』


©SHORT PEACE COMMITTEE
©KATSUHIRO OTOMO/MASH・ROOM/SHORT PEACE COMMITTEE

CGW:ぜひ、3DCGなりの漫画の解釈を追求してください! ところで、若い制作者に向けてアドバイスをいただけませんか?

安藤:自分が幸運だったなと思うのは、過去に勉強したことが全て役に立っているということです。高校時代は漫研で絵を描いたりしてましたが、理系だったもので、そのとき学んだ数学が3DCGに関わるようになって多いに役に立っています。座標変換など、数学の考え方は、3DCGの基礎知識としてトラブル解決の糸口になるんです。例えば『MEMORIES』やケン・イシイMV『EXTRA』の制作時は、カメラマップ(プロジェクションマップ)がメインで使っていた3DCGソフトには用意されていなかったのですが、代替手法を考案する上で役立ちました。

CGW:3DCGには理数系の知識があって損をすることはないですよね。

安藤:また、人物の"肉や骨の感じ"を表現する上で一番勉強させてもらったのは高校のときに買ったA. ルーミス『やさしい人物画』(マール社刊)です。それに、『GAMBO』の美術設定でも参考にしているA.ワイエスに出会ったのも、高校の頃でしたね。アニメを作るにあたって、アニメ以外のものが肥やしになるということはよくあります。画面構成やカメラワークで言えば映画が参考になりますし、画作り、ルックなら漫画、テンポで言えば音楽といった具合に。ですからアドバイスとしては、いろんなことを経験して実人生を充実させろ、ということでしょうか(笑)。あとは、書店にある美術書や映像系の書籍なんてたいした量じゃないんだから「全部読んでおく」くらいの姿勢はほしいかなと思います。

CGW:最後に、改めて『GAMBO』をはじめとする『SHORT PEACE』プロジェクトの感想をお聞かせください。

安藤:自分はどうもバランスに欠いた人間で、細部にこだわりすぎてしまったりして、尻を叩かれながらでないと作品を作れないようなのです。そんなところで最もお礼を言いたいのは、制作担当の方々です。『SHORT PEACE』プロジェクト全体の制作デスクを務められた高山(清彦)さんにはいつもご迷惑をおかけしてますし、『GAMBO』の制作進行を担当してくれた元山(怜桐)さんには本当に感謝しています。また、本作はオムニバス短篇ですが「もっと観たい!」というお客さまの声があれば、続編もあるかと思います。大友監督と話していて、最近はポッと出てくるような人がいないよね、という話になったんですが、そのとき監督は「(自分みたいに)みんなもっと好きなことをやって好きなものをつくってみたらいいのに」とおっしゃってました。ですので「おれにもつくらせてよ!」という人がいれば、ぜひ手を挙げてみてください。

INTERVIEW & EDIT_岸本ひろゆき、沼倉有人(CGWORLD)
PHOTO_大沼洋平

『SHORT

オムニバス映画『SHORT PEACE』

新宿ピカデリー他にて全国で上映中!
『火要鎮』_脚本・監督:大友克洋、CGI監督:篠田周二
『九十九』_脚本・監督:森田修平、CGI監督:坂本隆輔
『GAMBO』_監督:安藤裕章、原案・脚本・クリエイティブディレクター:石井克人、CGI監督:小久保将志、CGアニメーションチーフ:坂本隆輔
『武器よさらば』_原作:大友克洋、脚本・監督:カトキハジメ、演出:森田修平、CGI監督:若間 真
オープニングアニメーション_デザインワーク・作画・監督:森本晃司、CGI:篠田周二、吉野功一
アニメーション制作:サンライズ
配給:松竹
shortpeace-movie.com
©SHORT PEACE COMMITTEE
©KATSUHIRO OTOMO/MASH・ROOM/SHORT PEACE COMMITTEE

Profileプロフィール

Hiroaki Ando

Hiroaki Ando

1966年愛知県出身。1993年より『MEMORIES』のCG担当としてアニメーション業界に入る。
主な作品として『MEMORIES』(1995)、『STEAMBOY』(2004)などのCGI監督を務める一方、『鉄コン筋クリート』(2006)や『FREEDOM』(2006~2008)などに演出として参加。
監督作として『ノラゲキ!』(2011)などがある。現在は、『シドニアの騎士』プロジェクトに参加中。

オムニバス映画『SHORT PEACE』

オムニバス映画『SHORT PEACE』

新宿ピカデリー他にて全国で上映中!
『火要鎮』_脚本・監督:大友克洋、CGI監督:篠田周二
『九十九』_脚本・監督:森田修平、CGI監督:坂本隆輔
『GAMBO』_監督:安藤裕章、原案・脚本・クリエイティブディレクター:石井克人、CGI監督:小久保将志、CGアニメーションチーフ:坂本隆輔
『武器よさらば』_原作:大友克洋、脚本・監督:カトキハジメ、演出:森田修平、CGI監督:若間 真
オープニングアニメーション_デザインワーク・作画・監督:森本晃司、CGI:篠田周二、吉野功一
アニメーション制作:サンライズ
配給:松竹

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