映画、アニメ、ゲーム、イラスト……。クリエイティブな画づくりの基礎をCGWORLD.jpで学ぼう!

この連載では、画づくりの基礎を学びたい、復習したい人に向けて、有名な映画やTVドラマシリーズからシーンをピックアップして、そのセオリーを解説していきます。紹介する内容は、「画」が関わる全てのクリエイティブに通じるもの。登場する映画やTVドラマを研究しながら、基礎を一緒に学んでいきましょう!

今回から3回にわたって、Netflix映画『シティーハンター』の画づくりを語っていきます。

記事の目次

    栗田 唯/Yui Kurita

    高知県出身、ストーリーアーティスト。

    2016年にサンフランシスコの美術大学アカデミーオブアートユニバーシティ大学院を卒業。Blizzard Entertainmentにてキャリアをスタートし、『Overwatch』など数々の短編アニメ作品のストーリーボードを手がける。日本に帰国してからは、MARZA ANIMATION PLANETで映像作品『ニンジャラ/Ninjala』などに関わり、その後、Tonko HouseにてNetflixアニメーション作品『ONI 〜 神々山のおなり』に参加。

    現在はストーリーアーティストの専門チーム「ソイフル」を立ち上げ、クリエイティブ・ディレクターを務める。2017年より、オンラインクラス「アニメーションエイド」ジェスチャードローイング、ストーリーボード講師。2021年より、京都芸術大学イラストレーションコース ビジュアルストーリーテリング講師。

    2023年に著書「カフェスケッチ / CAFE SKETCH感じることはタカラモノ」(ボーンデジタル刊)を発売。

    ・X(Twitter):@yui_kurita
    ・Instagram:@yui_kurita

    今回の題材

    ● Netflix映画『シティーハンター』(2024)

    Netflix にて独占配信中
    出演:鈴木亮平、森田望智、安藤政信、華村あすか、水崎綾女、片山萌美、阿見201、杉本哲太、迫田孝也、木村文乃、橋爪功、監督:佐藤祐市、脚本:三嶋龍朗、エグゼクティブ・プロデューサー:高橋信一(Netflix)、プロデューサー:三瓶慶介、押田興将、制作:ホリプロ、制作協力:オフィス・シロウズ、製作:Netflix、原作:北条司「シティーハンター」/原作協力:コアミックス
    © 北条司/コアミックス 1985

    今回はNetflix映画『シティーハンター』(2024)が題材です。ありがたいことに題材としての使用許可をいただいたので、すごく真剣に何周も観て、連載に合ったカットを選りすぐりました。

    ちなみに僕は1985年生まれなので、マンガやアニメの『シティーハンター』が大ブームだった頃はまだ物心がつく前で、後から知りました。イメージとしては「大人びた作品」という印象でしたね。

    今回はせっかくなので、事前にNetflixでTVアニメ版(1987)をざっと鑑賞したんですが、作品の雰囲気やキャラクターについて発見もありました。今回はそういったマンガやアニメ原作の実写化という観点でも少し考察を加えたいと思います。

    この『シティーハンター』回は、語りたいことが多すぎたので全3回にわたってお届けします。長くなりますが、ぜひ読んでもらえると嬉しいです。では初回、いってみましょう!

    ※ネタバレについて

    本記事では、Netflix映画『シティーハンター』の中から印象的なカットやシーンをピックアップしています。ストーリー上の出来事について具体的な記述を避け、極力ネタバレにはならないよう配慮していますが、どうしてもストーリーのヒントとなってしまう箇所があります。そのため、もし本作を未鑑賞でしたら、まずは本作をじっくり鑑賞し、作品世界とストーリーに浸ってから本記事を読み進めてください。

    Point 01:原作の外連味とコメディにリスペクトを示す

    Netflix映画『シティーハンター』は原作マンガとTVアニメを経ての実写版です。だから原作へのリスペクトの証として、外連味のあるマンガっぽい“止め画”を多く使っています。

    決めのシーンでアクションをスローで見せたり、格好良いシルエットをつくって一瞬静止するといった演出ですね。こうした演出は、初めてこの作品のトーンやスタイルに触れる視聴者には「この作品ってこんなだよ」と伝え、コアなファンには「ああ、これだよね」と納得させる役割を果たしてくれます。

    冒頭、主人公・冴羽 獠(さえば・りょう)が飛び蹴りを食らわすシーンがまさにそれです。

    グッとスローになって外連味のある画を見せてくれると同時に、少し大げさな格好良さみたいなものをてらいなく表現しています。つまり、シリアスというよりはコメディ寄りだよ、というメッセージを出してもいるんです。

    原作のコミカルな誇張表現を実写でもやっちゃうという、視聴者がニヤつくシーンもそうです。

    冴羽の相棒、槇村 香(まきむら・かおり)が、冴羽に巨大なハンマーでツッコミを入れるところです。ただ、このシーンはとても上手で、ちゃんとストーリー上意味がある表現なんですよ。

    コスプレのイベントがあって、香がくるみを守るためにハンマーを持っているんです。単なるファンサービスとして原作と同じ表現をするような安直なことはせずに、ストーリーとして意味のある落とし込み方をしている。感動しました。

    ラストはこの止め画で、もう漫画の最終回みたいですよね。作中には激しいアクションあり、シリアスな駆け引きのシーンありで、冴羽の格好良さが光る見どころがたくさんあるんです。でも最後はやっぱりおちゃらけて、ちょっとエロいキャラで着地するという「これがシティーハンターだよね」という終わり方。完ぺきでした。

    Point 02:“シティー”というロケーションを大事にする

    “シティー”ハンターだから、ことあるごとに都市の夜景や摩天楼が出てきて、冴羽がそれを見下ろしたり眺めたりしてます。この街を護るのが冴羽の役目だということを画で伝えていて、グッドですよね。

    冒頭、ビルの屋上から夜のシティーを見下ろすシーンから始まるのがまず印象的ですね。

    今度は、いかにもアーバンなシティーのビルの中から、ビル街の夜景に囲まれてのシリアスなトークシーン。こういうロケーションへのこだわりが素晴らしいですね。だって、どこで喋ったって良いんですよ、会議室でも廊下でも良いんです。でもシティーハンターだから、やっぱり“俺の街”を見下ろしながらトークするんです。

    夕焼けに染まるシティーを見下ろす冴羽です。

    クライマックスの舞台はシティーの象徴、摩天楼です。大都会の一番高いところから見下ろし、バトルの舞台になる。「これがシティーハンターだよね」を画で見せていく抜け目のなさが素晴らしい。

    Point 03:サブリミナルで脳に刷り込む

    作品には架空の化粧品ブランド「LORE」が出てきて、そのイベントにくるみという人物がコスプレをして登壇するというながれがあります。そのイベントのシーンより前にたびたび、いろんな場所でLOREのロゴや広告が出てくるんですよね。画面に一瞬しか映らないんだけど、視聴者の潜在意識にすり込むようなサブリミナル効果を上手く仕込んでいたなと感じました。

    サブリミナル効果で有名な作品に『ファイトクラブ』(1999)がありますよね。主人公がストーリー上タイラーと出会う前に、何度もタイラーが画面に登場していて、視聴者の頭に刷り込まれていた、というものです。

    いきなり序盤のシーンでLOREのビルボード広告が登場します。もちろん視聴者としてはそこに注目していないんですが、なんとなく目に入ってきます。本作は初回を妻と一緒に観たんですが、妻もLOREのイベントシーンを観て「あ、あのとき映ってたよね?」と言っていました。僕は当時気づいてませんでしたけど(笑)。

    中盤の冴羽と槇村秀幸(まきむら・ひでゆき)のトークシーンの背景にLOREの広告が映ってます。

    ネットカフェのシーンにもLOREの広告ポスターが貼ってありました。この直後にローレからくるみに連絡が来て、イベントへというながれですが、僕が確認しただけでも3回LOREが出てきていたと。

    こうやって視聴者にサブリミナルな刷り込みをしていくというのは画づくりの秘訣と言っても良いと思います。すごく面白いですね。

    Point 04:アクションシーンにおけるセンターフレームの役割

    画づくりとしてアクションシーンを見やすくするためには、画面の中央にフォーカルポイント(注視点、第1回前編参照)が来る、センターフレームがよく使われます。有名作で言えば、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)はまさにその典型例ですね。

    アクションシーンはカメラを激しく動かしたり、視点があちこちに飛び交うようにして臨場感を出せばそれっぽくなると勘ちがいされがちですが、実際そうすると、 単純に気持ち悪くなったり、どこを見たら良いかわからない、意味のわからない画面づくりになってしまいます。目で追いかけられないので、何も伝わって来ないんですね。

    でも正解はむしろ逆、アクションシーンこそ見やすい画面づくりにして、散らばりがちな情報をしっかり視聴者に届けなくちゃいけないんです。その代表例がセンターフレーム、真ん中だけ見てくれたら大丈夫だよという、みんなに優しい画面づくり。

    このショットで言ったら、縦3分割した中央がセンターフレーム。登場人物は6人ぐらいいますが、この真ん中の人だけを見てくれたらオッケー、というメッセージです。

    これは縦3分割の中央付近に冴羽と槇村がフレームインしています。そして大事なのは真ん中、後ろから敵が来ることです。冴羽と槇村が挟み撃ちに遭って、身動きが取れないというシーンなので、敵が画面の真ん中から見えているというのが非常に大切です。

    そして挟み撃ちからのアクションスタート。現場は敵味方入り乱れてカオスですが、まずは真ん中の冴羽を見てくれれば大丈夫だよと誘導してくれています。

    さらに、ナイフを突き刺すシーンもセンターフレームです。手前の特殊警棒で殴られるときも、ちゃんとカメラがセンターフレームになるように追いかけて、次のアクションに移っています。

    ひと仕事終えて、冴羽と槇村が揃うカットもセンターフレーム。

    Point 05:危険な香り——事件を予感させる演出

    次は危険な“香り”。ダブルミーニングです。

    僕は、映画の中で起きるサプライズには、優しくないサプライズと優しいサプライズの2種類があると思います。優しくないサプライズというのは、視聴者が全然予期していないところにバーンと来るもの。別にそれはそれで良いけれど、あっけにとられてしまって、そういうのが多すぎると、だんだん作品から気持ちが離れてしまいます。

    優しいサプライズというのは、これから何かが起きそうだということを視聴者に感づいてもらって、「これ、次何か起きるぞ、なんか起きるんじゃないか……。ほら! やっぱり起きた。俺の思ってた通り!」と、視聴者が気持ち良くなるサプライズです。

    もちろん、全てはつくり手の手中にあることですが、危険な香りの“匂わせ”をちょいちょい仕込んでおくと視聴者の興味が持続しやすくなるという、演出のテクニックですね。

    ストーリー上はこの後で事件が起こります。それを予兆させる出来事として、対向車線からトラックが来てスレスレで衝突しそうになるんです。

    車中では冴羽と槇村が男同士じゃれ合っていて、衝突しそうになって「危なかったな」「おまえも気を付けろ」みたいなギャグっぽいノリが展開されました。これが伏線になって、結末に繋がってくるんです。「車が危ない」という危険な香りを視聴者の脳に植え付けるんです。

    その後、香と槇村がテーブルに相対してトークをするシーン。画面が平坦で映画としてはすごくつまらない画面づくりなのがポイントです。水平・垂直のラインが多用されていて、画面のデザインも静かです。あえて意図的に、すごく平穏で平和で安心安全で、何も起きなさそうという印象を視聴者に届けるんです。

    この後、大きなトラックが通り過ぎるシーンが挿入されます。画面いっぱいにトラックが通っていくので、ちょっと怖く感じるんですね。視聴者はここで「あれ、大丈夫かな?」と思ったはずです。

    これが危険な香りの仕込みですね。クルマが危ないよということを刷り込みつつ、大きなトラックが通過する。「嫌な予感がする」って思うはずです。

    そして次のカットはこちら。この局面で、わざわざこんな広角レンズであおりの構図でシャンパンを注ぐ必要なんてないですよね。

    さっきまで、平穏で安心安全な状態だったのに、急にこんな極端な画面づくりをされると、すごく心がざわざわして落ち着きません。ワイングラスを使った画づくりだけでそんな気持ちにさせる。もう見事だと思います。

    最後はそう、最悪の事態が起こります。このとき、カメラがぐっとローアングルから撮るんですよね。斜めのラインが多用されていて、画面のデザインが騒がしくなっています。安心安全な感じはまったくしないですよね。僕らが普段景色を見ている位置とは全然ちがって不安です。テーブルや人が倒れていて、ガラスの破片が飛び散って、さっきまでの安心安全な世界が真逆にひっくり返りました。

    この一連のながれで、それぞれの画がすごく上手く効いていました。水平・垂直のライン(静か)から斜めのライン(騒がしい)に画面のコントラストを大きく変えることで、何がどう変化したかが明確になります。視聴者はまるで事件の第一発見者みたいに、事件を予兆させる出来事から事件発生までを当事者感覚で見ることができるシーンに仕上がっています。これは映画づくりでめちゃくちゃ重要な要素です。とても素晴らしかったですね。

    冒頭のダブルミーニング、答え合わせはミステリアスな“香り”と槇村“香”、でした(笑)。

    Point 06:環境で語る——キャラの状況を背景で伝える

    次は、背景や画面に映っているものといった“環境”で伝える、ビジュアルストーリーテリングです。キャラクターが台詞を喋ってしまえばストーリーは伝わりますが、映画は映像表現ですから、画で伝えてこそ面白いわけです。

    香が冴羽に、ある事件の犯人捜しを手伝うから雇ってくれ、手伝わせてくれと懇願するけれども、冴羽はここはお前が来るような場所じゃないと一蹴するシーンです。冴羽は鉄格子越しに、ずらっと立てかけられた銃器に囲まれた状態で香に背を向けていますね。「住む世界がちがう」とでも言っているかのようです。香と冴羽の背景に大きなちがいがあって、隔てられていることを画面づくりを通してわかりやすく伝えています。

    映画『ウォール街』(1987)にも似たシーンがありました。自滅していくキャラクターの背景に銃があって、そのキャラクターのこめかみに向かって銃が添えられているような画面づくりでした(本編0:50:20付近)。

    このシーンも環境で多くを語る良い例です。冴羽と裏社会の人間がカジノの中でトークするシーンで、裏社会の人間がディーラー側、冴羽がゲスト側に座るという対比になっています。「あくまでこの社会を動かしてるのは俺たちだ」とディーラー側にいる裏社会の人間が伝えているんですね。

    単純にトークシーンを見せるだけなら、隣に座って話したって良いんです。でも、そんな安直なことはせずに、オシャレなカジノのセットを上手に利用して、効果的な画づくりで語っている、そんな好例です。

    いかがでしたか? 次回も引き続き、Netflix映画『シティーハンター』の画づくりのテクニックを紹介します。お楽しみに!

    TEXT _kagaya(ハリんち
    ILLUSTRATION_栗田 唯 / Yui Kurita
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)