映画、アニメ、ゲーム、イラスト……。クリエイティブな画づくりの基礎をCGWORLD.jpで学ぼう!
この連載では、画づくりの基礎を学びたい、復習したい人に向けて、有名な映画やTVドラマシリーズからシーンをピックアップして、そのセオリーを解説していきます。紹介する内容は、「画」が関わる全てのクリエイティブに通じるもの。登場する映画やTVドラマを研究しながら、基礎を一緒に学んでいきましょう!
この連載について
皆さん、こんにちは! ストーリーボードアーティストの栗田です。キャリアとしてはBlizzard Entertainmentからマーザ・アニメーションプラネット株式会社、トンコハウス・ジャパンを経て、現在はフリーランスで様々な作品に携わっています。本業の傍ら、ジェスチャードローイングやストーリーボードのオンライン講座などでも活動しています。
冒頭で紹介した通り、この連載では構図やストーリーテリングを含めた画面づくりの基礎を、名手による作品を通じて学んでいきます!
僕は職業柄、いつも画面づくりについてあれこれ考えていて、大好きな映画をそうした角度から分析して観ることも好きです。今回CGWORLD.jpからお話をいただいたとき、「よっしゃ!しめたぞ!」と思いました(笑)。ずっとしたかったんです、こういう話が。
皆さんもどうぞ楽しみながら画づくりの基礎を習得してくださいね。
栗田 唯/Yui Kurita
高知県出身、ストーリーアーティスト。
2016年にサンフランシスコの美術大学アカデミーオブアートユニバーシティ大学院を卒業。Blizzard Entertainmentにてキャリアをスタートし、『Overwatch』など数々の短編アニメ作品のストーリーボードを手がける。日本に帰国してからは、MARZA ANIMATION PLANETで映像作品『ニンジャラ/Ninjala』などに関わり、その後、Tonko HouseにてNetflixアニメーション作品『ONI 〜 神々山のおなり』に参加。
現在はストーリーアーティストの専門チーム「ソイフル」を立ち上げ、クリエイティブ・ディレクターを務める。2017年より、オンラインクラス「アニメーションエイド」ジェスチャードローイング、ストーリーボード講師。2021年より、京都芸術大学イラストレーションコース ビジュアルストーリーテリング講師。
2023年に著書「カフェスケッチ / CAFE SKETCH感じることはタカラモノ」(ボーンデジタル刊)を発売。
・X(Twitter):@yui_kurita
・Instagram:@yui_kurita
カフェスケッチ / CAFE SKETCH 感じることはタカラモノ
著者:栗田 唯
定価:3,080円(本体2,800円+税10%)
発行・発売:株式会社 ボーンデジタル
ISBN:978-4-86246-579-5
総ページ数:168ページ
サイズ:200 × 220 mm
画面づくりで意識すること
では早速はじめましょう!
初回のテーマは「視線誘導」です。視線誘導が何なのかを話す前に、まずは良い構図、良いレイアウトをつくるために必要な、画面づくりで意識することを押さえておきましょう。
映像作品制作をシーンごと、あるいはカットごとに分けて考えると、まずは「ストーリーテリング」から始まります。そのシーンで自分が何を伝えたいのか、伝えるために何をすべきかを考えることです。
そしてどう伝えるかを「デザイン」します。そのシーンに合った画面構成です。クールで格好良いデザインなのか、ダイナミックなデザインなのか、ドラマチックな場面に合わせたシンプルで見やすいデザインなのか。
デザインが決まったら、「フォーカルポイント(注視点)」を設定します。視聴者に見せたいところはどこなのか。あれもこれも見せたいというのはダメ。視聴者が置いてけぼりになります。1つの画面では1つのものを見せるように、フォーカルポイントを設定します。
そして次が、今回のテーマの「視線誘導」です。視聴者の視線をフォーカルポイントに向けるために、どのような手法を使うのかということです。今回と次回の2回に分けて、視線誘導の7つの基本手法と、複数を組み合わせる手法を紹介します。
視線誘導はなぜ必要?
ここで、視線誘導がなぜ必要なのかについて考えておきましょう。
よく例として出されるのは、ゲームと映画のちがいです。ゲームはプレイヤーがキャラクターを動かして見たいものを見に行けますし、触って動かせたりもします。一方で、映画は制作サイドから与えられた情報を一方的に受け取るコンテンツです。そのため、つくり手と視聴者のコミュニケーションが大切になります。
つくり手は、動けない状態の視聴者に向かってボールを投げるため、取りやすい場所に投げないと、視聴者は走り込んでボールをキャッチすることになったり、悪ければ取れなかったりするわけです。別の言い方をすると、取りにくい場所にボールが投げられるたびに、視聴者にはストレスがかかるということになります。
僕は過去に、描いたストーリーボードを上司に見てもらったときに「Don't let me choose.(俺に選ばせるな)」と言われました。僕が描いた構図では、どれを見たら良いかわからない、という意味で、今でもずっと頭に焼き付いています。映像作品では基本的に、視聴者が意識することなくフォーカルポイントに着目できるような画面づくりをしないといけないのです。
ただし、誤解してほしくないのは、視線誘導は意識すべきことではあっても。ルールではないということです。あえてセオリーを破るのもフィルムメイキングですし、セオリーにも絶対はなくて、僕はこう思う、私はああ思うというのがあって良いのです。
とはいえ、まずは基本の型を学ぶこと。それがこの連載の主旨です。
今回の題材
第1回の題材としては、大好きな作品で、素晴らしい画面づくりをしている『ブレイキング・バッド』シリーズをチョイスしました。
●『ブレイキング・バッド』(2008〜2013)
各シーズンデジタル配信中/ブルーレイBOX全巻セット復刻版27,280円(税込)
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
© 2008 Sony Pictures Television Inc. All Rights Reserved.
●『ベター・コール・ソウル』(2015〜2022)
シーズン1~4 デジタル配信中/シーズン1~2 ブルーレイ&DVD発売中
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
© 2015 Sony Pictures Television Inc. All Rights Reserved.
●『エルカミーノ: ブレイキング・バッド THE MOVIE』(2019)
ブルーレイ&DVDセット5,280円(税込)
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
© 2019 Sony Pictures Television Inc. All Rights Reserved.
では、視線誘導の手法を具体的に見ていきましょう! なお、一部に本作のネタバレを含む箇所がありますので、その点ご注意ください!
手法1:ポイント(点)
まずは、真っ白のキャンバスに黒い点を打つイメージで、フォーカルポイントを点で示すことで、視線をそこに誘導するというパターンを紹介します。
このショットの場合、画面内には自動車以外にフォーカルポイントになりそうなものはありません。
これもわかりやすい例です。男性の後ろ姿は背景に近い扱いで、自動車のヘッドライトの光がフォーカルポイントになります。
マッチの火がフォーカルポイントです。人物は薄暗いですし、自然に火に目が行くようになっています。
これは少し複雑な例です。カメラレンズのボケを利用して奥行きを出すことで、指輪が際立ち、そこに目が行きます。
手法2:ライン(線)
次は線を使った視線誘導です。見てほしいものに向かってラインが伸びているというパターンです。
これを見てください。自然と右側の人物に目が行きますよね? それはなぜでしょうか。テーブルや天井、壁のラインがリーディングライン(Leading Line)としてフォーカルポイントに向かっているからですね。
このショットを含め、「2点透視」、つまり消失点(Vanishing Point)が2つあって、縦のラインが地平線に対して垂直になっているパースでは、2つの消失点に向かうラインがリーディングラインとなり、フォーカルポイントへの視線誘導に使うことができます。
このショットでも、中央からやや左側に小さく映っている人物に目が行くのは、手前の大きな車からリーディングラインが発生していて、人物に向かっているからです。
これは少し複雑なパターンです。中央の人物に向かって、左右と上からリーディングラインが複数向かい、フォーカルポイントがわかりやすくなっています。
これはとても面白いショットです。フォーカルポイントは顔ですが、単に「顔があると見てしまう」という無意識のクセがそうさせているだけではありません。
画面づくりをひも解いていくと、実は「影」が良い感じにリーディングラインを構成しているんです。物体だけでなく、シャドウもラインとして利用して構図をつくっているんですね。
いわゆる「お天道様待ち」で撮った、今しか撮れない生もののショット。こういうのを見ると、「おおー! 工夫しながらやってるんだろうな」と感じます。
リーディングラインは幾何学的(ジオメトリック)な直線だけなく、有機的(オーガニック)な曲線でも良いんだという例です。丸太の塀は直線ですが、太い木の枝は曲線、さらに車体のシルエットも曲線で、いずれも顔に向かってリーディングラインを形づくっています。
これは、手前の人物の首元から始まって、腕を通って手までがリーディングラインになり、奥の人物に向かっています。
体を使ったリーディングラインに加えて、ふたりの目線が見えないリーディングラインになっています。
暗いシーンですが、手前の人物の顔に目が行くように、後ろのふたりの顔と一番手前にある指先が同一線上に揃っていて、それがリーディングラインを構成しています。
手法3:シェイプ(図形)
ポイント、ラインときて、次はシェイプです。フレームインフレームといって、映画の画面=フレームの中に、さらにフレームがあるというかたちです。囲われている場所があると、その中を見たくなるという人間の心理が、視点誘導に繋がっています。
こちらはほぼ正方形に近いシェイプで、ストーリー上も重要な場面です。
長方形のシェイプです。次回解説する手法5「デッドセンター」も含まれています。
丸いシェイプで、ランドリーマシンの中から撮ったものです。『ブレイキング・バッド』シリーズには、「そんなところにカメラ置く?」という画面づくりの遊びが多数仕込まれています。
車窓の曲線的シェイプもあります。このショットの場合、手に挟んだ名刺がリーディングラインにもなっていますね。
自動車のルームミラーに映った目。定番の表現ですが、これもシェイプによるフレーミングです。このショットでは、ミラー以外はレンズのボケで奥行きを出し、よりミラーを強調しているのもポイントです。
シェイプに顔を反射させるというのも定番表現です。
鏡に顔を反射させています。フォーカルポイントは札束なのですが、演者のリアクションも見たいということで、鏡に映った顔をフレームに収めています。
これは少し特殊な、途中からフレーミングが発生するパターン。芝居中に、動的に台形のフレームが形成されて、役者さんがフォーカルポイントになるというものです。上手ですね。
影を利用したパターン(図2-4)と一緒で、撮影監督やプロダクションデザイナー、演者たちが協力しあってはじめてつくることができる画です。シェイプって面白いですね!
いかがでしたか? 次回は引き続き、視線誘導の手法4から8までを紹介します。お楽しみに!
Information
ストーリーアーティストが教える画面演出の技術
ストーリーボードは物語(脚本)を具現化するための設計図です。ストーリーアーティストはその物語の流れやキャラクターの感情などを画で演出します。本講座では、ストーリーアーティストの栗田 唯が画面演出する技術として、ショットの種類や視線誘導、レンズとの関係性について解説します。
開催日時:2024年3月29日(金)19:00〜22:00
講義時間:180分 ※休憩も含みます
アーカイブ配信:あり
価格:10,000円(税抜)
TEXT _kagaya(ハリんち)
ILLUSTRATION_栗田 唯 / Yui Kurita
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)