Session2
自己満足で終わらないエンタメへの強いこだわり
映画『聖闘士星矢 LEGEND of SANCTUARY』全国で公開中!
©2014 車田正美/「聖闘士星矢 LEGEND of SANCTUARY」製作委員会
今村:監督とは長年ご一緒させてもらっていますが(※2)、本作で随分変わられたなって思いました。以前ならカメラ動かさなくてもいいよと言っていたような箇所でも積極的に動かすといった具合に、とにかく何事も極限までこだわっていました。
※2= 今村氏はさとう監督の初監督作『鴉-KARAS-』(2005)の頃から、複数のプロジェクトを共にしている
さとう:とは言ってもゲームムービー的にむやみに動かすのはイヤなんだよね。目指したいのは映画的なカメラなんで、悪い意味でのゲーム的な、CG映像的なものは壊したい。いかに暴れるか、いかに新しいアニメーションにするかを追求して、もっとだ! もっとだ! と現場に求めました。なのでいろんなものを折った気もしますが、折って繋ぐ気にもならない。僕は壊し屋なんで、接骨医にはなれないですね(笑)。
鈴木:脚本への指示でも、よくディズニーを例え話にされてて、そのときは正直理解しきれないところがありました(笑)。でも実際に初号試写を観て「なるほど、そういうことか」と。
上村:ディズニーを例に出されるのですが、ディズニーそのものでは当然ダメ。そこに日本特有のケレン味を上乗せすることで、本作独自の表現に仕上がっています。
さとう:カッコいいアニメーションがやりたくてこの業界にきてる人が多いと思うんだけど、「カッコいいのは何年かやっていれば誰でもつくれちゃうよ?」と、なるんですよ。
ーーなるほど。
さとう:ずっと求めていたのは"カッコ悪いものの中にあるカッコよさ"。オッサンの仕草とか、もしくは、照れてるんだけど、でも高校生だから照れ隠ししちゃってる星矢、みたいなアニメーション。
えい:フェイシャルに対する演出では特に顕著だった気がします。
さとう:とにかく退屈させないように気をつけましたね。聖域(サンクチュアリ)の黄金十二宮についても、それぞれパビリオン的に仕上げようとか。
©2014 車田正美/「聖闘士星矢 LEGEND of SANCTUARY」製作委員会
ーー確かにそれぞれに凝った背景や演出が用意されていて、見応えがありますね。なかでも巨蟹宮はかなりインパクトがあります。
さとう:巨蟹宮のシーンは映画が始まって30分~40分のところ、星矢たちも聖域に到着してお客さんの集中力が落ちてしまうタイミングなんです。そこでちがう空気を入れようと、映像的にも演出的にもガラッと変えたらあのようになりました。こうした多彩な表現を織り込めたのも、応えてくれるスタッフたちと出会えたからですね。
上村:監督がなんだかよくわからないことを言ってるけどやってみるか、みたいな(笑)。
さとう:本制作に入る前に今村さんが「星矢説明会」と題したミーティングの場を設けてくれました。デジタル映像部の総勢100名ちょっとを一同に集めて、みんな言いたいこと言っていいぞーって。でも、あまり言ってくれなくて2時間くらいの予定が30分くらいで終わっちゃった(笑)。
一同:(笑)。
さとう:だから最後に、「異論がないってことは、みんな監督の言うことちゃんと聞いてね。ついてきてくれたら、絶対面白くなるから」と、大風呂敷を広げました。これくらい言わないと誰もついてこないと思ったんです。根性論ですけど(笑)。
上村:スタッフの限界を引き出すのが上手い監督だなって、つくづく思います。
さとう:限界を引き出すというか、「何、言われた通りにやってんの?」みたいなダメ出しはしますね。面白いことができそうな人には。どんな現場でも、自己満足ではなく、お金を払って観に来てくれているお客さんの方を向いてるか? といった話はよくします。ハリウッド大作が日本で上映されるときには、お客さんはすでに"魔法"がかかっているものだけど、その魔法は日本の作品に対してはかからない。
ーーそれは言えますね。
さとう:星矢というビッグタイトルだから大丈夫、っていうわけにはいかないんですよ。徹底的にエンタメをつくろう、観た人にトラウマにも近い強烈な印象を与えるものをつくろうって、『鴉』のときに思ったのですが、その思いは今も変わりません。
今村:ちなみに、『鴉』のときのキャッチコピーは「タブーへの挑戦」でしたね!
一同:(笑)。
さとう:要するに、チャレンジャーとしてやらなきゃダメだなって。東映アニメーションという老舗スタジオの全力をもってね。その中で、ナナメ上の発想、「こうくるのか?」っていう仕込みをする必要があった。そうした思いを現場と共有するのは、やっぱり大変でしたけど。
今村:僕らとしては本プロジェクトを通して新しいワークフロー、ノウハウが蓄積できましたし、その試算もできました。次はより効率的に取り組めると思うので、ぜひ劇場へ足を運んでいただいて、次回作ができるよう応援していただければと思います。
えい:CGというのはただのツールなので、これからも新しい表現を突き詰めていきたいですね。同じメンバーでやってこそ蓄積というのはあると思うので、本当に、これからだと思います。
上村:演出する立場として、日本のCGアニメで『世界で戦う』ことができると思いました。監督が実写、セルアニメ、CGと渡り歩いてこられたからこそ完成した作品のはずなので、ぜひ多くの方に観ていただきたいですね。
©2014 車田正美/「聖闘士星矢 LEGEND of SANCTUARY」製作委員会
構成_ ks、沼倉有人(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充