8月の公開から今や100万回再生を超えた、謎に満ちたオリジナルドラマ『呪縛少女バギラちゃん』。本映像はいったい何なのか? VFXメイキングと共に紹介しよう。
呪縛少女バギラちゃん&レイ探偵事務所とは?
心霊現象を専門で取り扱う皇レイ率いるレイ探偵事務所。そこにはバギラちゃんという地縛霊が所属しており、このバギラちゃんを中心とした探偵事務所の活動を記録した再現VTRが大きな話題を呼んでいる。再現VTRといえど、実写をベースにアニメ、CGなど多彩な表現がミックスされた本映像は、クオリティもさることながらシンプルに面白いというひと言だ。
本映像は探偵事務所の助手が中心となって始められたプロジェクトとのことで、映像業界で働く友人たちに協力を募って制作されたという。ここでは企画の発起人となる助手と、友人として制作に参加したVFXアーティストの涌井 嶺氏に再現VTRをはじめとしたプロジェクトの裏側の話を伺った。
CGW:レイ探偵事務所とはどういったものなのでしょうか?
助手:心霊現象に特化した探偵事務所です。ぼくはそこの助手をしています。事務所の活動はお化けや幽霊などお悩みを解決する活動をしています。その活動の中で、人を生き返らせる“輪廻鏡”をめぐる問題が発生しています。悪い幽霊たちがその封印を解き、集めようと動き出しているんです。僕たちはそれを阻止するために、日々格闘しています。
CGW:事務所はいつから活動しているのですか?
助手:今後そのあたりのエピソードは公開していく予定ですが、ひとまずは古くからあったというところで。僕自身は2年ほど前から事務所に加わっています。
CGW:バギラちゃんは地縛霊とのことですが?
助手:そうなんです。最近レイさんが拾ってきた地縛霊です。うちに所属させることになり、レイさんに面倒をみろって言われて……。話を聞いてみると、このバギラちゃん、すごく強いらしいです。生前の境遇がすごく悪かったみたいで、その怨念のような力を秘めているようです。レイさんのことをすごく好きで、レイさんに婚約者がいることを知り、そのことからレイさんの子供に生まれ変わろうとしたんですが、結局生まれ変わることができなくて地縛霊になったらしいです。
CGW:なるほど。そうしたエピソードが再現VTRとしてYouTubeで公開されたということですね。
助手:はい。助手としてバギラちゃんの面倒を見ているうちに、このバギラってアホだけど面白いのかもしれないと感じてきて。バギラちゃんを中心とした日々の活動を、Vログというか、記録に残していければと考えました。ただバギラちゃんは霊感のある人にしか見えない存在なので、再現VTRをつくるということを企画して始めました。この再現VTRを通じてレイ探偵事務所を知ってもらう機会になればと。いわば広告的なものですね。
CGW:そうは言っても非常に本格的な映像となっていますね。
助手:手弁当で、友人に声をかけて制作しましたが、あれよあれよとスケールが大きくなり予算も非常にかかってしまっています。この再現VTR以外にも探偵事務所の活動を紹介する動画も上げていて、1作目は心霊スポットに行くみたいなものですが、これからも切り出せる活動はシリーズものとしてどんどん紹介していく予定です。
CGW:再現VTRの制作体制に関してもう少し詳しく教えてください。
助手:手伝ってくれる友人を多く集めてつくりました。今日取材に同席してもらっている涌井さんもそのひとりです。レイさんとバギラちゃんの話を聞いて事務所界隈で起きていることを絵コンテに落とし、制作を友人にお願いしているといった感じです。
CGW:ビジュアルコンセプトなどはありますか?
助手:僕がアニメも好きだし、CGも好きなので、そういうのをミックスした映像で再現したかったことが影響しています。 アニメや実写、特撮など、それらが掛け算された作品ってあんまりないですよね。ただ再現VTRをつくるのではつまらないので、やっぱり見せ場としていろいろな工夫を加えたかったんです。例えば銃を撃つカットとか。実写の上にアニメーションを乗せて、昔のアニメ表現にある雷に打たれたら骸骨になるみたいな。いろんなものをミックスして、映像として面白みを出しています。制作手法もいろいろなアプローチを試してもらっています。一部の背景にAIで生成した画像を使ったり。
涌井:そうそう、バギラちゃんが落ちていくところですね。CGで全部つくり込むほどパース感もないところで、AIで生成した背景をカメラマップでちょっと立体感をつけてとか、そういう手法とかを取り入れてみました。あと提灯の飾り文字などの呪文もAIでつくりましたね。
CGW:制作期間はどれくらいだったのですか?
助手:映像自体は1年くらいかかってます。レイさんやバギラちゃんに聞いた話を整理して、いわゆる企画書みたいなものとプロットとして落とし込んでいき、起った出来事を脚本として書くといった感じで、がんばってまとめました(笑)。花子さんたち強かったな、あの戦い大変だったなとか、そういうのを詳しく書いていきました。
CGW:20分の映像でしたが、非常にテンポの速い密な映像でしたね。
助手:絶対早送りさせないという強い気持ちで、テンポ感を大事にしました。冒頭から早口で語るバギラちゃんに始まり、とにかく展開を速く。最終的に密度の高い面白い映像に仕上がったと思います。ただ、意外と予算がかかってしまったこともあり、第2話を制作するためのクラウドファンディングを実施させていただいたところ、多くの方にご支援いただくことができました。皆さんのおかげで、井浦 新さん、としみつさん(東海オンエア)、入山杏奈さん、そらちいさんなど、豪華キャストがすでに出演決定しています。第2話もご期待ください!
VFXシーンメイキング
Blenderを活用したCG・VFX制作
ここからは涌井 嶺氏が担当したCG・VFXカットのメイキングを紹介していく。「助手さんがオフラインを担当してくれて、他のパートに参加したアーティストが素材出しをしてくれました。それを全員共通でACEScgのデータで受け取り、各々CG作業を行うというかたちです。僕の場合、CG作業はBlenderで行なっています」(涌井氏)。
涌井氏が担当したカットは、花子の部屋の一連のカット、エレベーターのカット、バギラちゃんが幼少期に幽霊に襲われるカットなどだが、Blenderのジオメトリノードを活用した制作が特徴的だ。例えば、花子の部屋で散る桜の花びら、花子の攻撃エフェクト、壁に並ぶトイレの開閉など、いたるところで活用されている。「細かくオブジェクトコントロールしながら作業の効率化を図っています」(涌井氏)。
もちろんCG・VFXによって支えられた世界観、ルックも非常に見事な出来映え。何より花子の部屋での戦いは作中最大の見せ場となる。妖麗で高密度なその世界観は没入感高く、バギラちゃんと花子の戦いを体感できる。
「トレイの花子さんにちなんで和式トイレが並んでいる壁となっています。桜もシンボルとなっていますが、ここはしだれ桜という指定があり、アセットでまかなうことができなかったため、イチからモデリングして作成しました。共にデータ量が多く、シーンが重くなってしまったので、ひと通りの背景はライティングまでとし、フォグなどの効果はコンポジットで付け加えることにしました」(涌井氏)。
このように密度の高い背景制作が行われているが、天井の飾りや壁に貼られた札など、細かい部分にまでひと手間加えられている。「地下という設定でしたが、天井のディテール感を与えるため、提灯を足したり、龍の紋様を活用した光の効果などを加えました。それが幻想的な異世界観の演出につながったと思います」(涌井氏)。
花子の部屋のコンポジット
花子の部屋のコンポジットの様子。グリーンバックでの撮影であったが、実際の広さや高さを確保することができなかったため、その分を加味しながらの撮影であったという。もともとフィックスでの予定であり、撮影もフィックスで行われたが、奥行き感がほしいとのことでCG上でドリーイン/アウトのカメラワークを施し、コンポジットで人物との辻褄を合わせていったとのこと。またシーンが重く、フォグなどの視覚効果はAfter Effects(以下、AE)で付け足された。
しだれ桜の制作
意図した桜のアセットがなかったため、しだれ桜はイチからモデリングされた。「桜の表現で難しかったのは、寄りのカットのときにCGっぽさが出やすい点をカバーすることです。風による揺らしなどを加えて自然に見えるよう詰めていきました」(涌井氏)。
敷き詰められたトイレ
トイレが並ぶ壁の表現は、撮影現場でアイデアが浮かび、急遽取り入れたという。即席でトイレのユニットを作成し、ジオメトリノードを使用して複製配置。扉がウェーブするように開閉する動きも、ジオメトリノードを活用して作成された。
壁に貼られたお札
壁に貼られたお札は世界観を底上げするディテールだ。札のデザインはAEで作成し、Blender上でジオメトリノードを使って配置。一方、提灯の呪詛はMidjourneyで生成されている。
龍の紋様
天井のディテールアップで役割を果たした龍の紋様。テクスチャ自体にライト効果を与え、妖麗な雰囲気を演出した。
花子の攻撃エフェクト
花子の攻撃エフェクトは、トイレットペーパーを模したもの。ジオメトリノードによって捩れが発生するペーパーの動きをつくり、さらにランダムで複製配置している。呪詛によるエフェクトも加えられ、こちらも呪詛のインスタンスをジオメトリノードでコントロールしている。
エレベータのカット
エレベータで下りていくカット。トラッキングデータに沿ったカメラワークから、引きのカメラワークをCG側で追加してつないでいる。また、撮影時には照明灯の光を演出するためスクロールに合わせてライトを振って人物に当てているが、CG上では影生成用オブジェクトを配置し馴染ませている。
カメラマップ
バギラちゃんが落ちていくカットの背景は、AI生成した画像をカメラマップで3D化。エフェクトは別の制作者が作成したHoudiniによる破片エフェクトのほか、花吹雪、ボリュームエフェクトを合わせて構成されている。
幽霊に襲われるカット
幼いバギラちゃんが幽霊に襲われるカット。お化け(モンスター)は多くのクリーチャーを手がけているefu氏(@efusc5)に依頼。「自分の中でモンスターのイメージはそこまでなかったのですが、涌井さんの提案でコンタクトを取り制作していただきました。まったく別の世界観だからこそのミックス感がとても面白いなと感じました」(助手)。
CGWORLD 2024年12月号 vol.316
特集:ガンダムCGの変遷と最前線
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2024年11月9日
価格:1,540 円(税込)
TEXT_渡邊英樹
EDIT_藤井紀明 / Noriaki Fujii(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada