<2>カメラマップのつくりかたと演出技法
そしてデジタルアニメならではの演出手法である「カメラマップ」について具体的な説明を行なった。カメラマップとは1カットでロングショットからアップへと近づくカメラワーク(またはその逆)を3DCGで表現する手法。いわば、CGにプロジェクションマッピングを貼り付けるやり方で、これによってダイナミックな映像演出を行なうことができる。手描きアニメーションの場合は背景動画(一枚絵で描かれる背景美術を動画で描く手法)で表現していた手法だが、使いどころが非常に限られていた。莫大な労力を必要とするのもさることながら、パースの変化を動きに合わせてきちんと描写できるアニメーター自体も限られていたためだ。それを手法としてはずっと手軽にしたのがこのデジタル技術だ。
CGを使う上で注意すべき点として挙げているのはまず、"CGの使用目的を明確にする"こと。手軽になったといっても緻密な作業を必要とし、工数がかかる手法ではあるので注意が必要だ。また"作品の世界観から離れないようにする"こともポイントとして挙がった。手描きアニメでは美術と色指定で作品全体の色味が完成する。CGでもそれを崩さないようにするのが重要だと石井氏は述べる。続けて出た、"手描き(アニメの方法)では表現しにくい部分を作品として効果のある画で表現する"という言葉は会場の演出家(志望者)に刺さったのではないだろうか。「見せたいところに向けて絵をつくって流れを考えると、より見せ方が深まるのでは」と石井氏は語る。
続けて、前述したYKKのショートフィルム『Fastening Days』の二作目からカメラマップの作例を説明していった。
YKK ショートアニメ『Fastening Days 2』
まずは絵コンテを撮影し、カットのタイミングを決める。それに対してCGの仮モデルを置いてカメラワークを決める。これはプリビズなどと呼ばれ、映画『シン・ゴジラ』の制作にも使われた手法として近頃知られるようになった。これをしっかりと作ることによって工数や費用のムダを省くことができる。
つづいて、この画面を元に美術担当が原図を起こし、それをCG担当に戻してテクスチャのように貼り込んでいく。ディレクターはここで角度変化に破綻が起きていないかを確認する。このカットの船はUVを展開してモデルに貼り付けていった。
原図が完成したら美術と作画担当にデータが渡り、そこから原画作業が始まる。同時に美術は背景を仕上げていく。本作はクライアントの意向でカラフルな画面が求められていたと石井氏は述べた。
また、上記の画面のようにUV展開とカメラマップが両方入り組んだ部分もある。「トラックバック(カメラが引くこと)をするときは、どこまでカメラマップにしたらいいか判断が分かれるところ。外側の変化が少ないところはカメラマップを使い、近いところはUV展開したモデルを貼り、3Dとのハイブリッドが多くなる」と石井氏は説明した。
また撮影に関連して、解像度についても言及をした。同社ではフルサイズ(1920×1080ドット)出力するアニメの場合、1648×936ドット(160dpi)をレイアウト枠としている。これは13インチのタブレットのサイズに合うように割り出した数値だ。これを"Stylos"上で100%表示にするとレイアウト用紙の1870×1322ドットの解像度になる。それを1648×926ドットで撮影し、フルサイズへアップスケールするという手法を執っているといったころまで講演では説明をしていた。今後ますます増えるであろうタブレットを使った作画ではこうした統一も重要なポイントだろう。
YouTubeで公開された『Fastening Days 2』は3ヵ月あまりで日本語版が約300万再生、英語版が500万再生されている。クライアントからも好評でさらなる展開が期待される。また同社では長編映画の制作を予定しているとのこと。「興味がある方はぜひ一緒につくっていきましょう」とクリエイターへアピールする石井氏。最新の技術を使いオリジナル作品を志向し、作品発表形式もユニークな同社は今後の日本のアニメ業界において注目すべきスタジオのひとつになることは間違いないだろう。
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「CGWORLD 2016 クリエイティブカンファレンス」
参加費:無料 ※事前登録制
開催日:2016年11月6日(日)
場所:文京学院大学 本郷キャンパス(東京都文京区向丘1-19-1)
主催:ボーンデジタル、文京学院大学 コンテンツ多言語知財化センター
協力:文京学院大学、ASIAGRAPH CGアートギャラリー
cgworld.jp/special/cgwcc2016