今回はLAからお届けしよう。LAには、モーショングラフィックスや広告デザイン分野で著名なVFXスタジオが複数存在する。その1つであるLogan.tvで活躍中の奥泉 遊氏に、話を伺った。
Artist's Profile
奥泉 遊 / Yu Okuizumi (Logan.tv / Houdini Artist)
新潟県出身。2004年に東京工業専門学校(現在は廃校)の映像科を卒業後、株式会社イエロー、有限会社リンダ(現・ 株式会社グリオグルーヴ リンダチーム)でCM、MV、映画、ゲーム映像などの制作に携わる。2013年にLAのKing and Countryに入社。その後、フリーランスとなり、Zoic、Brand New Schoolを経て、現在、Logan.tvに勤務。
logan.tv
業界にレイオフの嵐が吹き荒れていた時期に始めた就職活動
――子供の頃や、学生時代の話をお聞かせください。
子供の頃は絵を描いたり、工作が大好きでした。小学生の頃に父親の影響でプラモデルをつくり始め、すっかりハマってしまい、毎日没頭していました。父はハリウッド映画も好きで、家に大きなスクリーンとスピーカー、大量のDVDがあり、毎日のように映画を観ていました。子供の頃のこうした経験から、映像制作に興味が芽生えたのではないかと思います。
その後、周りの子供たちと同じようにTVゲームにもハマりました。中学生のときにファイナルファンタジーVIIが発売され、ゲームをプレイするうちに初めて「将来、3DCGをつくる仕事がしたい」と思ったのを覚えています。当初はゲーム制作に携わる仕事がしたかったのですが、VFX満載の迫力あるハリウッド映画を観ていくうちに、将来は海外で映画の3DCGに携わる仕事がしたいと思うようになりました。
――日本でお仕事をされていた頃の話をお聞かせください。
日本ではジェネラリストとして、CM、MV、映画、ゲーム映像と幅広く経験しました。当時は制作期間が非常に短いことが多く、1つのCMを丸ごと1人で担当するということも多かったため、とても大変でした。
有限会社リンダで働いていた頃は、林田宏之さんという素晴らしいアーティストのもとで経験を積むことができました。その後、林田さんは若くして他界されてしまい非常に残念です。日本で働いていた頃は林田さんをはじめ、多くの方たちに大変お世話になりました。米国で就労ビザを取得する際にも、実績のある方たちに推薦状を書いていただくなど助けてもらい、とても感謝しています。
――海外の映像業界での就職活動は、いかがでしたか。
2013年頃にカナダのバンクーバーで就職活動を開始したのですが、不運なことに、大手VFX会社のRhythm & Huesが倒産したり、他のVFX会社やアニメーション会社も大規模なレイオフを開始した時期でした。
そのこともあってか就活には苦戦しました。そもそもアーティストを募集している会社が少なく、たまに募集があっても他でレイオフされたアーティストが多くいましたから、そういったポジションはすぐに埋まってしまいました。
その後、バンクーバーの小さな会社や米国の会社まで幅を広げて就職活動を続け、運良くバンクーバーや米国にあるいくつかの会社からオファーをもらうことができました。いろいろと考えた末、LAにある会社に就職することを決めました。
O-1という就労ビザの申請の手続きを進めている間に、以前になんとなく応募してあったグリーンカード(米国永住権)の抽選に当選したことが判明しました。ただしグリーンカードの申請は、当選しても期間内に面接の順番が回ってこない場合は無効となるほか、長期間待つ必要があるため、O-1ビザの申請を進めることにしました。O-1ビザの取得にも、4・5ヶ月ほどかかったと思います。膨大な量の書類や推薦状などを用意しなければならず、とても大変でした。
O-1ビザを取得した1年ほど後に、グリーンカードの面接の順番が回ってきて、永住権に切り替わりました。グリーンカード抽選で当選した場合は、簡単な手続きのみで永住権が手に入ります。
渡米後は、就労ビザをサポートしてくれたKing & Countryという小さな会社で社員として5年ほど働きましたが、経営不振でほぼ全員がレイオフとなり、その後、フリーランスとしての活動を始めました。
いくつかの会社で短期間働いた後、現在も契約中のLoganという会社で働き始めました。当時はフリーランスの立場でしたから、その後も様々な会社を渡り歩くつもりでしたが、Loganとは契約が終わる度に再更新となり、6年以上経って現在に至ります。
パンデミックが起こった2020~2021年には、米国で人手不足が起こりました。私はフリーランスという身ですから、普段からコーディネーターやリクルーターから仕事のメールが来るのですが、この時期にはそれこそ、3日に1件のペースで仕事のオファーが来ていました。
カナダにある会社からも「大作映画の仕事をリモートでしませんか」というメールが来ました。今は他の会社と契約していますと伝えると、「誰か周りで空いてる人がいたら、すぐに教えて下さい」といった状態だったので、人手不足はかなり深刻だったのではないかと思います。
また、某大手VFX会社の社長から直接メールが来たことがあり、これには驚きました。どうやら私が以前一緒に働いたことのあるスーパーバイザーとプロデューサーが彼と友人らしく、私のことを推薦してくれたようです。これには少し迷いましたが、現在勤めている会社の居心地が良かったので、そのまま留まることにしました。
小さな会社でも良いのでまずは潜り込むと、そこからチャンスが広がる
――現在の勤務先であるLoganはどんな会社でしょうか。簡単にご紹介ください。
LoganはLAにある、モーショングラフィックスやデザインを得意としている会社です。大手テック企業の製品発表用の映像や広告、デザイン、映画のオープニング映像、アートギャラリー用映像など幅広く扱っています。
――最近参加された作品で、印象に残っているエピソードはありますか?
ラスベガスにあるSphere※という施設で使う映像制作に関わったのですが、12Kx12Kという超高解像度でした。そのような高解像度の映像を扱ったのは初めてで、尺もそれなりにあったので、レンダリングに時間がかかる上、レンダリングされたアニメーションを自宅のモニターで確認するのも非常に困難で、縮小して全体を確認し、細かいところは部分的にチェックするという感じでした。レンダリングにはUnreal EngineとRedshiftを使用しました。
※ラスベガスにある球体型巨大シアター
――現在のポジションの面白いところは何でしょうか。
現在はHoudiniアーティストとして働いています。一般的なHoudiniアーティストのようにエフェクト専門でやるのではなく、Houdiniをメインにもう少し幅広い作業を担当しています。
仕事によってはショットを全てを1人で担当することもありますし、エフェクトのみ担当する場合もあります。モデリング、テクスチャ、キャラクターアニメーションなどは専門のアーティストがいるので自分でやることはほぼないですが、ライティングとコンポジットは担当することがあります。
今の職場では、デザインから任せてもらえることもあり、アートの部分に自分のクリエイティビティを反映できる点が面白いですね。どういった表現にするかを考えるところから始めるため、面白い反面、大変でもあります。特に表現が抽象的な場合は、いくつもパターンをつくってプレゼンする必要があります。
また、社内では実験的な映像やアート作品を制作している期間もあります。クライアント案件ではないため、ある程度自由に制作でき、楽しく取り組むことができます。
――英会話のスキルはどのように習得されましたか?
日本にいる頃から海外就職を目標としていたので、時間があるときに英会話教室に通ってみたり、自宅でできる学習教材を試していましたが、あまり話せるようになりませんでした。
最初はバンクーバーの語学学校に3ヵ月ほど通い、その後、デモリールの準備をする傍ら、英語のプライベートレッスンを毎日1時間半ほど続けました。語学学校へ数ヵ月通ってもあまり英語を話せるようにはなりませんが、英語を話すことに対しての抵抗感のようなものはかなり軽減されると思います。
今では生活する上で特に困ることはありませんが、それでも母国語のように流暢に話すことはできません。それでも必要な英語には徐々に慣れますから、それほど心配する必要はないと思います。
ただ、現在はリモート、ハイブリッドワークが続いていることもあり、そういった会社で働く場合は同僚と雑談したりランチに行く機会も減ってしまうので、英語習得という点では少し不利かもしれません。
――将来、海外で働きたい人へのアドバイスをお願いします。
海外で働くということ自体はそれほど難しいことではないと思います。確かに面倒なことや、かなりの労力を要することをたくさん乗り越えなければいけませんが、強い意志さえあれば誰でもできるはずです。
ただ、タイミングは非常に大切です。例えば私が就職活動を始めた時期はあまりタイミングが良いとは言えませんでしたが、それでも需要がまだあったので、なんとか就職することができました。
当然、不況の際には仕事を見つけることが難しくなりますし、人手不足の時期であれば、仕事を見つけやすくなります。
コネクションも重要です。一緒に働いた同僚たちも、様々な会社を転々と渡り歩いています。以前、小さな会社で一緒に働いていたプロデューサーやリクルーターが、いつの間にか有名な大手企業にいたり、どこかのプロダクションでHead of Productionになっていて、そこから声が掛かるということもあります。そうした意味でも、LinkedInは必須ですね。
小さな会社でもなんでも、どこかに潜り込むことができれば、そこからコネクションは一気に広がります。それに様々なチャンスが生まれてきますから、まずはどんなところでも良いので現地の会社でキャリアをスタートさせることが重要ではないかと思います。
最近は急速なAIの進化が、私たちの業界にも少しずつ影響を及ぼしています。この業界が将来的にどうなるかは正直、私には分かりませんが、今後もこのトレンドが加速していくことは間違いないです。最新のAI技術などにアンテナを広げるなど、柔軟に対応できようにしておいたほうが良いのかもしれません。
【ビザ取得のキーワード】
①東京工業専門学校の映像科を卒業後、株式会社イエロー、有限会社リンダにて経験を積む
②学生ビザ、ワーキング・ホリデー制度を利用してカナダのバンクーバーへ
③ロサンゼルスの King & Country に就職、O-1ビザ※を取得
④グリーンカード抽選に当選し、アメリカ永住権を取得
※O-1ビザ:「科学、芸術、教育、ビジネス、またはスポーツの分野で“卓越した能力を有する者”」に発給される米国合衆国の就労ビザ。審査は厳しいが、VFX業界&映像業界ではO-1ビザで働いている日本人も多い。またO-1ビザは、現時点ではトランプ政権による影響も受けていない。詳細は『ハリウッドVFX業界就職の手引き』でも詳しく述べられているので、興味をお持ちの方はチェックしてみると良いだろう
連載「新・海外で働く日本人アーティスト」では、海外で活躍中のクリエイター、エンジニアの方々の海外就職体験談を募集中です。
ご自身のキャリア、学生時代、そして現在のお仕事を確立されるまでの就職体験について。お話をしてみたい方は、CGWORLD編集部までご連絡ください。たくさんのご応募をお待ちしてます!(CGWORLD編集部)
TEXT_鍋 潤太郎 / Juntaro Nabe
ハリウッドを拠点とするVFX専門の映像ジャーナリスト。著書に『海外で働く日本人クリエイター』(ボーンデジタル刊)、『ハリウッドVFX業界就職の手引き』などがある。
公式ブログ「鍋潤太郎☆映像トピックス」
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada