STEP 02:「セル処理」と「ライティング」
一定のクオリティを保つために
色指定が上がった段階でベースとなるセル処理用のコンポを作成し、アセットとして登録。仕上げから上がったセルに「セル処理」スクリプトを実行すれば、アセットに準じて色トレスやアンチなどの主線に関わる設定や金属表現やグラデーション処理などを自動で組み上げてくれるという優れものだ。グラデーションやハイライトなどの数値はキャラのサイズによって値が異なるため、構図に応じて基準となる値を設定し、カットごとに微調整を行なっている。
「当初はカメラと被写体との距離に応じてグラデーション幅を指数関数で変更することも考えたのですが、アニメパースから距離を算出するのが難しく断念しました。最初は担当者ごとにバラつきが生じるこ
ともあったのですが、制作を進めていく中でまとまりつつあります」と、中西氏。目の下のハイライトや変身後のアイシャドウは原作の
イラストを参考に撮影で処理を加えるだけでなく、マントのグラデーションなどは2色ではなく差し色を加えることでリッチな仕上がりになっている。
© 2015 ひろやまひろし・TYPE-MOON/KADOKAWA/「プリズマ☆イリヤ ツヴァイヘルツ!」製作委員会
もちろん、「セル処理」は作画素材だけでなくCGキャラや版権素材にも適用されている。「近距離は作画で、遠景のイリヤは3DCGで作成されているので、CG班にもセルを同じように素材を出力してもらい撮影で処理を加えています。『セル処理』を適用した素材をテクスチャとしてCGモデルに貼り込むことも検討しましたが、セルとの馴染みを優先して、前者のかたちにしました」(中西氏)。
CGの主線は撮影でアンチをかけるとチラつきが目立つので、アンチ有りの素材も出力してもらっているという。
セル処理後はシートが打たれ背景と合成、シーンの状況に応じてフレアやパラ等を加える「ライティング」工程に移るが、ここで使用するのが「aep変更 」というスクリプトだ。シーンごとに登録されたアセットに置き換えるツールで、フレアなど様々な処理を自動で加えてくれるが、より複雑な作業になるため「セル処理」工程に比べると手作業による調整も多いという。「カットの内容に応じて、CG班からカメラ情報やデプス素材なども書き出してもらっています。余談ですが、本家『Fate』シリーズのフレアはスミアが多いので、実は『プリヤ』ではアナモルフィックレンズを意識してボカシをちょっと楕円形にしていたりもします」(中西氏)。
2−1.セル処理(全体のながれ)
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色彩設計の平井麻美氏から提供されたイリヤ「転身ノーマル色」の色指定表
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「セル処理」全体のながれを図示したもの(その1)。(左)処理前(素上がり)のセル/(中)塗りに対して「セル処理(前半)」を施した状態/(右)「主線処理」を施した完成形/以
降、セル処理(前半)における「グラデーション処理」の例
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「セル処理」全体のながれを図示したもの(その2)。(左)マントと羽根を色指定表の指示通りに色替えした状態/(中)グラデーションラインの間に差し色(中間色)を加えた状態。差し色は撮影側で決めている/(右)3色をブラーでぼかし、グラデーション化させた状態
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セル処理(前半)における瞳&アイシャドウの処理の例。(上段)処理前/(下段)処理後
2−2.主線処理(セル処理の前半)
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- 「セル処理(前半)」の後に、輪郭線などの主線に対して色トレス処理を行う。「そのために『F's MAX』(古橋 宏氏(http://bryful.yuzu.bz/)が無償配布しているAEプラグインのひとつ)で塗りを膨張させて主線を消した素材(左図)を用意します」(中西氏)。単純に膨らませるわけではなく、色を反転してから膨らませ、その色をさらに反転(色を戻して)したものにブラーを施すといった細工を施している
2−3.「セル処理」スクリプト
<Process 1>
「セル処理」スクリプトの使用例。遠坂 凛のABセルを選択した状態。この状態で「セル処理」スクリプトを実行する
<Process 2>
スクリプトを実行すると、図のようなウインドウが表示される。当該カットは第7話のものなので自動で「ep07」フォルダに飛んでいる
<Process 3>
フォルダに書かれたカット番号に従い、凛の.aepを選択し、適用するとABコンポがAB_セル処理コンポに変更される
<Process 5>
手動で細かな調整を施した、「セル処理」工程としての完成形
2−4.「aep変更」スクリプト
<Process 1>
「 aep変更 」スクリプトの使用例。「AB_セル処理」を選択した状態で「aep変更 」スクリプトを実行すると、図のようなウインドウが表示される
<Process 2>
このカットは「鏡面界地下」のシーンなので、「鏡面界地下_lighting.aep」を選択、適用した状態
<Process 3>
中に入り、制御レイヤーで画に合わせて調整。ここでパラも入れる
<Process 5>
中に入ると、このシーン用にあらかじめ調整しておいたフレアやBGパラが入っているのでこれをそのままコピーする
<Process 6>
フレアパラコンポの中身を取り出し、この画に合わせて位置等を調整した状態。さらに、その上でBGをぼかし、フィルタを加えれば基本的な処理は完成となる
2−5.ライティング処理
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ライティング処理では、シーンによって変わるキャラクターの照り返しを表現しており、光源が1つでない際にも対応できるようになってる。上図は、5話に登場するナイトシーンのライティング例(左:ライティング設定前、右:ライティング設定後)。「演出さんから『トレンディ空間』と言われて、私的に考えて出来上がった画がこれです。バックライトを強調して被写界深度を浅くしています」(中西氏)
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第10話(最終話)に登場する、戦いが終わった直後のシーンのライティング例。(上段)ライティング設定前/(下段)ライティング設定後。「色背打ちの時点で色が決まっていなかったため、セルはどのようにでも染まるソフトハイコン色で上がってきました。撮影打ちの際に監督から『ゴールド』という指示をいただいたので撮影上で色を変えています」(中西氏)