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ドイツ&ベルギーVFXスタジオ事情~PIXOMOND, RISE & Walking The Dog

ドイツ&ベルギーVFXスタジオ事情~PIXOMOND, RISE & Walking The Dog

映画VFXに特化した少数精鋭チーム「RISE」(ベルリン)

次に訪れたのは、旧東ドイツエリアの陰鬱としたエリアにある古い建物を利用した商業ビル。その一角にある VFX スタジオ 「RISE」 だ。訪問時は、ちょうど納品間際で忙しい日だったにも関わらず、取締役プロデューサーのロベルト・ピンノウ/Robert Pinnow 氏は快く迎えてくれた。

2007 年に、ピンノウ氏ら2人のプロデューサーと2人のスーパーバイザーの4人が集まりスタートしたRISE。制作のピーク時こと30人ぐらいまで膨らむが、基本的には15人程度で活動しているという。「常勤スタッフは約12名。そして、案件に応じて日頃から交流のある80名以上のフリーランスの方々に適宜参加してもらっています」(ピンノウ氏)。少数精鋭主義を掲げるのと同時に、国外からの人材も積極的には受け入れておらず、基本的にドイツ国籍のスタッフで構成している点も同社独自のこだわりと言えそうだ。

RISE

旧東ドイツの古い建物をリノベーションしたという RISE のオフィス

メインツールには Maya と NUKE を採用。レンダリングには PIXOMONDO と同様に mental ray や V-Ray が中心だという。画づくりにおいてはカスタムシェーダは使わず、スキルの高い NUKE アーティストが中心となり、基本的にはコンポジットで細かな調整に対応しているそうだ。
また同社では、Autodesk Flame 等のフィニッシング・ツールは使用せず、いわゆるカット編集作業も行わないという。その理由は、CM 等の短尺コンテンツはまったく手がけてておらず、業務の大半が長編映画向けの VFX 制作であるから(長編映画以外ではTVシリーズのVFXなども扱っている)。

RISE は2011年に公開された作品だけでも、『キャプテン・アメリカ』『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART 1』『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』『Nova Zembla』(※オランダ製作、日本未公開)など、スタジオの規模からは想像できないハイペースでVFX制作行なっており、いずれもVFXヘビーな作品ばかりだ。
訪問した2010年も 『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』 を手がけていたが、本作では複雑な合成と背景マットの処理や、NUKE 上でプラグイン SAPPHIRE を用いて "イカズチ" 処理を施したりしたという。また、劇中で主人公たちをスケール感の異なるキャラクターと合成する必要があったため、非常にタフな合成処理も行う必要があったそうだ。「『パーシー・ジャクソン~』では、約60ショットを担当しました。12~14名のアーティストが約3ケ月の期間で制作しました」(ピンノウ氏)。『ハリーポッターと死の秘宝 PART 1』では、ショット数こそそれほど多くないそうだが背景マットも手がけており、その見事な出来映えからは、同社が CG と実写素材を組み合わせた背景マット処理やコンポジットワークを得意としていることが窺える。

Robert Pinnow 氏

RISE取締役プロデューサーのロベルト・ピンノウ氏

そんな RISE だが、実は現在、世界中の NUKE ユーザーから注目を集めている。というのも同社は NUKEpedia という、NUKE ユーザーのポータル Web サイトに多数のスクリプトを提供しており、2009年の 「FMX」(Film and Media Exchange) では、The Foundry http://www.thefoundry.co.uk/ のプレゼンテーションで、RISE 社 CEO であり、VFX スーパーバイザーのフロリアン・ゲリンガー/Florian Gellinger 氏が、映画 『This is Love』 における実例として、プロジェクションマッピングを用いた実に興味深い、背景マットや合成等のデモンストレーションを行うなど、見事なNUKEテクニックを披露しているからだ。
このVFXは、同社公式サイトで今でも見ることができる(こちら)。クルマの車内からのショットであり、実際に車内から3方向(前・右斜め前方向・左斜め前方向)を捉えた撮影素材を元に、3D トラッキングされた街のモデル用いて、そこへプロジェクションマッピングで投影して、自動車の進行に合わせた背景マットを作り上げるというもの。そうすることで、実際に撮影されたカメラパスを後から変更するという非常に高度な手法を用いて、その自動車の事故シーンを再現していた。


映画『This is Love』トレイラー

ところで、ピンノウ氏に競合相手として意識しているスタジオがあるか聞いてみたところ、Scanline VFX と先に紹介した PIXOMONDO の2社を挙げてくれた。しかしながら、Scanline は RISE の2倍以上、PIXOMONDO にいたっては、ドイツ国内だけでも約7倍の規模を誇っている。RISE の少数精鋭主義がいかに高いレベルで実践できているのか窺えよう。
実際、前述の NUKEpedia には RISE から発信された数多くの NUKE 用のツールが上がっており、それらは全て、1人の Pythonプログラマによって書かれたもの。なおかつ所有しているレンダーサーバは50台程度と、この手のスタジオとしては少ない印象である。しかしその物量の少なさを、効率良く、少数精鋭で運営することでクリアしているわけだ。

Robert Pinnow 氏

RISE のオフィス。小規模ながらも効率の良いワークフローでハイクオリティな画づくりを実践している

最後に、RISE のセールスポイントを尋ねたところ、「私たちはクライアントと共に歩んでいくことを信条にしています。だから、より効率よく、時間を短く、価格を抑えた制作が行えるわけです。実際に問題を持ち帰ることなく、その場で判断できるプロデューサーやスーパーバイザーが在籍しているため、クライアントは非常に満足している」と答えてくれた。

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