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ドイツ&ベルギーVFXスタジオ事情~PIXOMOND, RISE & Walking The Dog

ドイツ&ベルギーVFXスタジオ事情~PIXOMOND, RISE & Walking The Dog

ベルギーのアニメーション制作事情「Walking the Dog」(ブリュッセル)

最後に訪問したのは、ドイツの西側に隣接するベルギー王国。その首都、ブリュッセルにあるブリュッセル中央駅から地下鉄で5駅ほど離れた宅街の一角にある 「Walking The Dog」 である。話を伺ったのは、スタジオマネージャーの フレデリック・ディリックス/Frederic Dirickx 氏。2000年に設立され、現在は20名ほどの規模という同社。ただし、少ない時は7名以下で制作することもをあるという。
ヨーロッパのスタジオは、基本的にはフリーランスの集まりで、スタジオの根幹となるスーパーバイザーですらその時の仕事の種類や規模の応じて探すことが多い。アニメーションに特化したこのスタジオは、かつては手描きの仕事が多かったといい、つい最近も50人もの手描きアニメーターを集めた案件もあったのだとか。ちなみに同社の代表作である 『Dji Vou Veu Volti』(2011) は約12分の短編アニメーション作品であるが、デジタル・アーティスト3人という少人数で、3ds Max を使い1年ほどかけて完成にさせたという。


オリジナル短編アニメーション『Dji Vou Veu Volti』トレイラー

訪問時に制作中の案件として紹介してくれたのは、フランスのアニメーション作品で、フル3DCG長編の 『Monster in Paris』 だ。このプロジェクトは、リュック・ベッソンが創立者の1人であることでも知られる ヨーロッパ・コープ 製作で、いくつかのスタジオと共同でアニメーション制作を行なったそうだが、面白いことにショット単位で任せられているのではない。Walking the Dog はライティング、レンダリング、コンポジットおよびエフェクトを担当......といった具合に、作業(工程)単位で分業したという。つまり、ヨーロッパ数カ国かにまたがり、ひとつのショットを作り上げるという、なんとも大掛かりなパイプラインで動いていたわけだ。
その詳細について実際に話をしてくれたのは、ライティングおよびコンポジットのスーパーバイザーを担当しているカナダ人のジョナサン・ジャーメイン/Jonathan Germain 氏と、エフェクトのスーパーバイザーを担当し、以前まで豪アニマル・ロジックで働いていたというベルギー人のジョー・プレート/Jo Plaete 氏。余談だが、筆者はプレート氏の名前を以前から知っており、実際にお会いする機会に恵まれて驚いてしまった。と言うのは、著者の知り合いの日本人アーティストが、VIMEO でプレート氏が公開していた Softimage ICE の作例を見てコンタクトをとり、まさにこの『Monster in Paris』を一緒に制作しないか? というオファーを受けたというエピソードを聞いていたからだ(世界は狭い)。

Walking the Dog スタッフ

左から、Walking The Dog スタジオマネージャーのフレデリック・ディリックス氏、エフェクトスーパーバイザー/ジョー・プレート氏、ライティング・コンポジットスーパーバイザー/ジョナサン・ジャーメイン氏

『Monster in Paris』の制作では、フランスからポイントキャッシュされたデータが届き、それを元に作業を行なったという。ちなみに著者が普段から NUKE を用いたパイプラインで、各アプリケーションをいかにして連帯するかを考える際、必ず行き着く問題がデータをポイントキャッシュするか、否か......という点なのだが、ここではそれを普通に行なっているわけだ。
考えてみれば、ポイントキャッシュさえしていれば、データはアプリケーションに依存せずに済み、各スタジオ、アーティストの得意な方法を用いて、プロジェクトを進めることができる。また、アニメーションに修正が入れば、アニメーション部門で修正を行えばよい、というように問題の責任分界点もわかりやすくなる。一見、そこまで作業を戻さなくても、レンダリング前にちょこっと修正すればいいじゃないか......と思えなくもないが、それによって、アニメーションの付け方、リグのハンドリングに関する情報共有など、仕様が複雑化するのを防げる。見方を変えれば、とても合理的な方法とも言えるのだ。


長編アニメーション『a Monster in Paris』トレイラー

Softimage でのレンダリング時間は1フレームあたり大体1.5時間ほど。レンダーファームの規模が不明瞭であるが(約70 台のマシンでレンダーファームを構成しているとのこと)、かなり高負荷であることが窺える。様々なパスを書き出し、NUKE によるコンポジット作業の際には 50 エレメントほど扱うのが常だという。プラグインなどには極力頼らず、デフォルトの機能や Python スクリプティング等でデータベース管理を行い、制作を進めたそうだ。

NUKE は現在の機能ではリライティングによる影落としはできないが、本プロジェクトではライティングの強弱、色彩の調整、またはタッチの追加等によって、長編アニメーションではあるものの、どのフレームを切り取っても、絵画のような美しさを持たすべく、細かな調整が行われているのが印象的だった。また、Jジャーメイン氏の話によると、10フレーム飛ばしでコンプまで行い、それを、Photoshop でカラーチャートのように並べて、1 枚 1 枚、見比べながらチェックを行なったという。コンプでは様々なパスを Softimage のシェーダツリーとレンダーパスを出す機能を用いて、OpenEXR でレンダリング。ただし、ここでもマルチレイヤーは用いず、各パスをそれぞれの OpenEXR のファイルとしたという。
その中でも特筆すべきは、BentNormal のようなパスを用いて、タッチや照り返しを自在にコントロールしていた点だ。カスタムシェーダはほぼ使用せずに、デフォルトのシェーダツリーで構築してマテリアルをアサイン。1つ2つほどのみ、mental ray を用いてカスタムシェーダを組む必要があったが、社内にプログラマーが在籍いるわけではないので、イタリアにいるプログラマーに依頼して構築したそうだ。その他にも ラングラー※レンダリングジョブを実行・管理する専任スタッフ)の存在まであり、とても 20名規模のスタジオとは思えないくらいに、分業化が徹底されていたのが印象的であった。全ての作業がシステマティックに動いており、先に紹介したドイツの VFX スタジオとはアプローチがまったく異なっていたのが興味深かった。

TEXT_テラオカマサヒロ(Galaxy of Terror

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