
昨今、建築ビジュアライゼーションのインテリアデザイン表現にはフォトリアルなPBRマテリアルが必要不可欠だ。本記事では、SonaGrafのヤーッコ・サーリ氏が木目のマテリアル制作をテーマに、Substance 3DのフレキシブルなワークフローからAdobe Fireflyによる画像生成の活用法まで紹介していく。

ヤーッコ・サーリ(Jaakko Saari)氏
株式会社SonaGraf
Founder
フィンランド出身・日本在住の3DCGクリエイター・CGコンサルタント。デジタルハリウッド大学特任准教授。作品『代々木駅』がEpic Games Launcherの今週の1枚に選ばれ、CGWORLDクリエイティブカンファレンス2023では「UE5で代々木駅をリアルに再現するテクニック」を講演。ミラノデザインウィーク2025のLEXUS出典ブースのスクリーンを手掛けた。
cgworld.jp/special/cgwcc2023/event/sonagraf
Substance 3D Designerでつくるプロシージャルな木目マテリアル
ヤーッコ氏が今回紹介する木目マテリアルは、リファレンス画像を用いながらSubstance 3D Designerのノードで組み上げたもの。リファレンスと3Dビューを見比べても、とてもリアルな仕上がりとなっている。

「テクスチャ画像を使わずにノードだけで、手触り感を感じるぐらい細かなディテールまで表現できます。全ノードがプロシージャルで、パラメータで調整が可能です。これだけのリアルなマテリアルを、構築後どこからでも自在に調整できるんです。マテリアルのパラメータはエクスポーズしておくことで、Unreal EngineやUnity、Maya、3ds Maxなどの主要ツールに読み込んだあと、そのツール側でパラメータを変更することもできます」(ヤーッコ氏)。
グラフビューポートで今回の木目のグラフを一望すると、一見複雑に見える。初見のユーザーにはやや敷居が高く感じられるが……。「みなさんグラフを怖がるんですが、そんなに難しいものではありません。今回は節とストライプ、板の仕切りという3つの要素だけ。中を見ていくとシンプルです」とヤーッコ氏は話す。
今回のグラフを青の網掛けごとに見ていくと、「木の節の模様(Knots)」(左上)、「ストライプ模様(Stripes)」(左下)、「板ごとのルック調整とすき間の表現(Planks)」(右下)という3つの処理を経て、グラフ右端に並ぶベースカラーやラフネス、ノーマル、ハイトマップなど、PBRのテクスチャマップに出力するという構造になっていることがわかる。



ストライプ模様のノード構成
ヤーッコ氏の言葉を信じて、まずはストライプ模様のノードを見てみよう。まずは「Gradient Linear 1」(白から黒へのシンプルなグラデーション)に「Gradient Map」を接続して、木目のリファレンス画像をなぞってグラデーションを拾う(Pick Gradient)。

次に「Levels」(レベル補正)を接続してストライプのコントラストを高め、別途作成した「Directional Noise 2」を「Blend」ノードでブレンドする。「BlendノードはPhotoshopのレイヤーによく似ています。不透明度や描画モードを使って2つのパターンを馴染ませるんです。すごく面白くて強力なノード。よく使います」(ヤーッコ氏)

続いて、「Gradient Linear 3」(パイプ状のグラデーション)に「Tile Generator Grayscale」を接続してパイプを垂直方向にタイリングし、量やスケール、サイズをランダムに設定。

そして、先ほど作成した「Blend」ノードにもうひとつ「Blend」ノードを接続し、このパイプをブレンドに合流させる。2つ目の「Blend」ノードに今度は「Directional Warp」を接続し、別途作成した「Perlin Noise」を接続して、ストライプ模様を波打つように変形させた。

仕上げに「Gradient Map」を接続して、リファレンス画像をなぞってグラデーションカラーを拾い、着色。これで木目のストライプ模様が完成する。冒頭のヤーッコ氏の言葉通り、ひとつひとつのノードはシンプルで、それらを組み合わせて自在にマテリアルを構築できることがわかった。

木の節の模様の作成
木の節の模様は、「Shape」ノードを作成し、パターンを「Gaussian」にして横長に変形し、「Tile Generator Grayscale」でランダムさを加えつつタイリングする。「こういうふうに、ShapeをつくってTile Generaterで加工するというのがとても便利です」(ヤーッコ氏)。

そこに「Directional Warp」ノード、「Gradient Map」を接続。黒・白・黒の3つのグラデーションのキーを狭い範囲で何箇所も打つことで、木の節のような模様をつくることができる。

最後に、ストライプ模様と木の節を「Blend」ノードでブレンドして、木目模様の完成となる。

板ごとのルック調整とすき間の表現
木目マテリアルは室内のフローリングに用いるため、継ぎ目や板ごとのルック調整を行っていく。Substance 3D Designerのようなプロシージャルなマテリアル制作ツールでは、板ごとに見た目を変えるのは難しそうに思われるが、実は非常に簡単だ。
まずは「Shape」ノードでSquareパターンをつくり、「Tile Generator Grayscale」でタイル状の2値画像にする。

ここで、プロパティ「Luminance Random」を調整すると、タイルごとにグレースケールでランダムな着色を施すことができる。そこに「Bevel」ノードを接続して、継ぎ目の段差に角度をつける。

次に、木目模様の完成ノードに「Directional Warp」ノードを接続し、このノードのIntensity Inputにタイルのノードを接続して、Intensity値を調整。これにより、タイル単位でパターンがランダムに変化するようになる。

「例えば、タイルの数(X Amount、Y Amount)のパラメータをエクスポーズしておけば、このマテリアルをUnreal Engineに持っていってから、そちらでタイル数を変更することもできます。便利ですね」(ヤーッコ氏)。

制作したマテリアルをUnreal Engineで活用
Substance 3D Designerで作成したマテリアルはゲームエンジンや3DCGツールなど多様なツールに持ち込んで利用できる。ヤーッコ氏は一例として、TGA形式でエクスポートしたファイル群をUnreal Engineのシーンに読み込む様子を解説してくれた。
「今回の木目のマテリアルでは、ベースカラー、ノーマル、ラフネスのTGAを読み込んで、Unreal Engineの新規マテリアルをつくり、ノードを繋いで再構築します。Substance 3D Designerと同じように、Unreal Engineのマテリアルエディタの中で、ノードベースでタイリングやスケールの調整できます。これがUnreal Engineの強みのひとつですね」(ヤーッコ氏)。

わずか数ステップの設定だけで、Unreal Engineのインテリアシーンに対して、Substance 3D Designerで作成したリアルなPBRの木目マテリアルが適用できた。

Adobe FireflyとSubstance 3D Samplerによるテクスチャワークフロー
ヤーッコ氏は、Substance 3D Designerによるプロシージャルなアプローチだけではなく、Adobe FireflyとSubstance 3D Samplerを活用したAIベースのワークフローにも可能性を感じている。「Fireflyで生成したテクスチャ画像をSubstance 3D Samplerに読み込んでマテリアルを作成できるんです。Samplerはとても使いやすくて面白いツールですよ」(ヤーッコ氏)。
今回、まずはFireflyで「pine wood texture tiling」(パイン材のタイリングテクスチャ)というプロンプトで画像を生成。

続いて、Substance 3D Samplerの「Turn an image or a Substance files into a 3D asset」→「Convert image to material」を実行する。この「Convert image to material」にはAIが活用されており、作成するマテリアルのカテゴリに応じて自動で最適なPBRパラメータが設定される。「今回はCategoryからWood(Indoor lighting)を選びました。これで、画像をベースに、室内でライティングされた木のマテリアルのパラメータが自動設定されます」とヤーッコ氏。

設定を終えると、生成されたマテリアルのタイルがビューポートに表示される。Substance 3D Samplerでは、レイヤー(画面右ペイン)単位でマテリアル編集を行え、各種エフェクトなども追加できる。今回は「Paint」フィルタを最上位レイヤーに追加し、任意のカラーペンキで塗ったような効果を追加した。また、「Peeling Level」パラメータを調整することで、ビンテージ感のあるペンキの塗りムラのような表現も適用。

これらはSubstance 3D Designerと同様にパラメトリックで、エクスポーズ(expose)にも対応する。そのため、パラメータをエクスポーズしてUnreal Engineなどの外部ツール内で再調整するというワークフローが利用できる。
「Substance 3D Designer、Substance 3D Sampler、Fireflyを活用することで、簡単にマテリアルをつくることができます。とても面白いツールなので、みなさんぜひ使ってみてください」(ヤーッコ氏)
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EDIT_kagaya(ハリんち)harinchi.com、Mana Okubo(CGWORLD)