
ゲーム業界で高まる一方のエフェクトデザイナー需要。その一方で、現場からは「人材が足りない」「育成が追いつかない」という切実な声も多い。では、いま現場ではどのような育成が行われているのか?
本記事では、エフェクトデザイナーの実践的な育成に取り組む3名──ランチタイム代表・髙橋龍太氏、アプリボット チーフエフェクトアーティスト兼マネージャー・邑上貴洋氏、Flypot代表・秋山高廣氏──に取材。「対面で密に」「データ蓄積による効率化」「教える側を増やす」など、3名が実践する具体的な育成術を紹介する。
プロフィール

エフェクトデザイナー育成に携わる3人のキーパーソン
――まずは簡単に自己紹介をお願いします。
髙橋龍太氏(以下、髙橋):ランチタイムの髙橋龍太です。会社の代表を務めながら、メインは今も現場でエフェクト制作やディレクションを行っています。また、東京デザインテクノロジーセンター専門学校で講師としてエフェクトの授業を担当していて、エフェクトデザイナーの育成にも力を入れています。
邑上貴洋氏(以下、邑上):サイバーエージェントグループのアプリボットで、チーフエフェクトアーティストと3D部門のマネージャーを兼務している邑上貴洋です。教育にも以前から関わっていて、デジタルハリウッドのCGGYMでは5年間講師を務めていました。ほかにも、バンタンゲームアカデミーでは特別授業という形で、3年ほど教えていました。
秋山高廣氏(以下、秋山):フライポットの代表をしています、秋山高廣です。クリーク・アンド・リバー社主催の「C&Rクリエイティブアカデミー」というプログラムで、エフェクトコースの講師をしています。また、自身の会社ではエフェクトの受託業務もしています。余談ですが、最近はUnreal Engineを使って個人開発でゲームもつくっています。
――そもそも、なぜエフェクトデザイナーが不足しているのでしょうか?
髙橋:制作需要が高まっているのはもちろんですが、マルチに対応できるジェネラリスト型のエフェクトデザイナーが求められるようになってきているのも理由だと思います。
秋山:そうですね、エフェクトデザイナーってプランナー、モーションデザイナー、エンジニアとも密にやりとりしますし、実装についても踏み込んで考えることが多い。まさにジェネラリスト的な職種に最も近い存在だと思います。
邑上:エフェクトって、総合芸術に近い側面があるんです。技術や色彩センスだけじゃなくて、背景や演出の環境まで一定水準を超えないと、全体のクオリティが上がらない。一部分が良くても、他が弱ければ台無しになってしまう。そこがすごく難しい職能だと感じています。
髙橋:ある分野に特化した人ではなく、複数のスキルをバランスよく伸ばせる人が求められるんです。これが中々難しいですし、学べる場も限られています。
だからこそランチタイムは、エフェクトデザイナーを目指す方々にできる限りの育成体制を整えて、この課題を解決していきたいと考えています。弊社が設立した「エフェクトラボ」もこういった背景があって創設しました。
エフェクトラボとは?

現場直結の実践教育を目指して──それぞれの育成体制
――ランチタイムさんではどういった育成をされているのでしょうか?
髙橋:ランチタイムは、「即戦力の育成」を目的として、基本的には対面を重視して、細かいところまでリアルタイムにフィードバックを返すことに力を入れています。リモートで伝えられることも確かにあるんですが、やはり習熟するために必要な個人の考え方や個性などは、対面のほうが伝わりやすいと感じたところがあったんです。だから基本的にはインターンも含めて、その場で教えるということをやっています。インターンは約3ヶ月間、実務に近いかたちで実施しています。

高橋:僕は自分が学校を出て、初めて現場でエフェクトを触った時、誰も専任でやっている方がいらっしゃらず、教えてくれる人がいなかったんです。その当時は秋山さんの書籍が唯一の頼りでした(笑)。だからこそ、エフェクトをやりたい!と言っている子を拾い上げられる会社でいたいという思いがあるので、熱量がある子がいたらインターンで呼んで、現場で徹底的に教えています。「エフェクトデザイナーとして就職し頑張りたいんだ!」という特に熱意がある子に対しては、特別カリキュラムを組んだりもしています。
邑上:すごいですね(笑)。短期間で即戦力のラインまで育成するとなると、密なコミュニケーション、時間投資がやっぱり必要ですよね。

邑上:アプリボットが所属するサイバーエージェントのゲーム・エンターテイメント事業部(SGE)では、まずオンライン講座型のインターンシップ「3D Academy」で基礎スキルを習得してもらい、実務に必要な力は、別途インターン後のアルバイト期間に身につけてもらうようにしているので。
秋山:同感です、本当にすごいなと。初心者、しかもPhotoshopなどのAdobe関連のソフトの使用方法から教えるとなると、リアルタイムにコミュニケーションが取れないオンラインでは、短期間では難しいでしょう。また仕事を進める上での、コミュニケーションや考え方の面は、直接対峙する中で学ぶことが多いと思いますからね。
――秋山さん、邑上さんが、育成する体制を構築する上で重視している点を教えてください。
秋山:これまで蓄積したデータを生徒さんが活用できるようにすることで効率化を図っています。今までの生徒さんの蓄積もあり、私から細かい指示を出さずとも学習が進むような環境になってきていると思います。
UnityのプロジェクトデータはSVNで一括管理しており、生徒さんはそのデータをダウンロードできるようになっていて、卒業生の作品を閲覧できるようにしています。加えて、チェックバックには、AdobeのFrame.ioというアプリを使っていて、バージョンごとの履歴がすべて残るようになっています。

秋山:また、基本的に講義は動画教材なのですが、1つの動画は5分以内に収めるようにしています。短く区切ることで、復習したい項目をすぐに見つけやすくなりますし、シンプルに長いと疲れるので、このようなかたちにしています。
邑上:注力したのは、「教えられる人」を増やすことでした。パーティクル・システムや NOVA Shaderの使い方など基礎的な部分は、長年ブラッシュアップしてきた動画教材があるのでそれで学んでもらうのですが、そのあとは作品をつくってもらって、それをアシスタントとしてついている社員4,5人が実際に見てチェックし、質問などがあればそこで対応するというかたちをとっています。実際には彼らに支えられている部分がとても大きいですね。
「教えられる人」を増やすことができれば、教育の規模も倍々に広げていける。なるべく自分1人で抱え込まないことが大事だと思っています。
“本人らしさ”を引き出す指導とは──目指すゴールから逆算するフィードバック術
――フィードバックをする際にどんなことを意識していますか?
髙橋:「何となくつくる」のではなく、「なぜこれをつくるのか」「なぜそうなるのか」「どういう世界観なのか」といったことを、きちんと理論立てて説明できるかどうかを重視しています。これは僕自身が制作をする際にも、常に大切にしている姿勢でもあります。
エフェクトデザイナーは、そもそも“目に見えないもの”を可視化する仕事でもあります。だからこそ、「何でもあり」になってしまいやすい。しかし、そうではなく、“説得力をどう付与するか”を考えることがとても重要だと考えています。
邑上:その人自身の良さを損なわないようにするということを意識しています。たとえば絵コンテが上がってきたときには、まず最初に「どのテイストを目指しているのか?」を聞くようにしています。リアル寄りの表現をしたいのか、それともアニメ調にしたいのかによって、アプローチはまったく変わってきます。そのため、まずは本人が「何をつくりたいのか」「どういう雰囲気を出したいのか」といったイメージを明確にしてもらうことから始めます。
そこから、つくりたいものの中で「何ができていないのか?」を一緒に確認し、それに対して「この表現にはシェーダーを使うといいよ」とか「この動きを出すにはこのパーティクルをこう動かせば近づくよ」といった具合に、技術的なアドバイスをしていくかたちですね。
――なるほど。本人の意見を確認した上で、その目的から逆算したアドバイスをしていくと。
秋山:本人の目指している完成像を確認せずに、フィードバックしちゃうとその人の作品じゃなくなっちゃいますからね。そこが育成ではすごく難しい。
自分でつくりたいものを決めてつくる課題を出す際には、まずコンセプトボードを提出してもらって、つくりたいものを説明してもらい、その上ですり合わせをしてつくっていくようにしています。ゴールがズレちゃうと、見当違いなフィードバックをしてしまうかもしれませんから。
髙橋:あとは、褒めて伸ばすというか、自己肯定感を上げてあげることも大事だと思っています。クリエイターあるあるだと思うんですけど、「上には上が居すぎていて自分なんて……」っていう感じの、ネガティブとまではいかずとも、そこまで自己肯定感が高くないっていう状態になりがちだと思います。
だからこそ、「ここまでできていることはすごいよ」「この頑張りがちゃんと成果になっているよ」といったことを、きちんと言葉にして伝えるようにしています。そのうえで、「ここまでできたなら、次はここを目指せるよね」と、次の目標を一緒に設定して、伴走するようなかたちで成長を支えることが多いですね。
邑上:「まずは、よかったところを肯定する」って大事ですよね。でも油断するとまだまだ忘れがちですね。まだ初心者で、これから伸びていく段階だと、「ここがいいね、でもこうするともっとよくなるよ」と、けっこう丁寧に伝えられるんですけど、ちょっと良い感じの作品が上がってくるようになると、つい勢いで「いいね! でもここはこうして、ここはこうするともっと良くなるよ!」って、すぐにフィードバックモードに入っちゃうんですよね。
めちゃくちゃ良いって本気で思ってるからこそ、「ここを直せばもっと絶対に良くなるから!」とつい先に改善点を言ってしまう。その勢いでアドバイスをしてるうちに、良かったところを褒めるのを忘れちゃってて(笑)。最後の方になって「あ、そういえばこの光の見せ方、すごく良かったよね」って思い出したように褒める、みたいな……。
秋山:ちゃんと最後に褒め言葉を返せるだけでも、すごいと思いますよ。最初から「褒めるぞ」と意識していないと、つい改善点の話ばかりになってしまいがちなんですよね。本当は良い部分の方が多いのに(笑)。だから最近は、「行く前に褒める」くらいの気持ちでいますね。
「時代を動かす」教育者としての姿勢・今後の展望
――それでは最後に、お三方がこれから教育者としてどうありたいか、また個人的な今後の展望についてもお聞かせください。
髙橋:学生さんに対して言うことがあるとすれば、やっぱりたくさんゲームをやって、映画を観て、好きな事をやって、自分というものを形成して欲しいですね。後々そこで培われた美的感覚や、気づきが活きてきます。
またランチタイムの展望としては、弊社はゲームエフェクト制作専門の会社なので、メンバーは1名を除いてエフェクトデザイナーのみです。「エフェクトを学びながら成長していく人たちの会社」にしたいですね。
それから自分自身としては、これは邑上さんともよく話していたことなんですが、「時代を動かしたい」「一歩先の表現を生み出していきたい」と思っています。もっと日本から世界に向けて発信できるようになれば面白いと思います。

邑上:僕は常々、世界一のエフェクトデザイナーになりたいと思ってやっているんですが、そもそも世界一のエフェクトデザイナーって何だろうと考えた時に、それはアウトプットの質が一番高い人ではなく、世界のみんなが認めた人だと思うんです。みんなが認めているということは、その人は新しい技術を世界中に広めたり、育成も含めて、色んな影響を世界中に与えられる人のはずです。そうなって初めて世界一のエフェクトデザイナーだと思ってもらえると思うので、技術を高めるだけではなく、育てることを楽しみながら、育成についてもしっかりやっていきたいと思います。そのために今英語も勉強しているんです。次は世界に出るぞ(笑)!
秋山:今後も講師を続けていくつもりです。生徒さんと一緒にレベルアップしていければいいなと思っています!
――ありがとうございました。
TEXT_オムライス駆
PHOTO_弘田 充
INTERVIEW&EDIT_中川裕介(CGWORLD)