3DCG業界は、息をのむようなビジュアルエフェクトが日常的に求められるなか、高度な技術と創造力を兼ね備えたエフェクトアーティストの人材不足に直面している。このジレンマを解決すべく、エフェクト制作特化で知られるランチタイム社が、業界での深刻な人材不足に対応するための大胆な一歩としてエフェクトスクール「エフェクトラボ」を新設した。同社はなぜスクール事業を始めるのか、それによってエフェクトアーティストの需要はどのように変わるのか。最新トレンドを踏まえ、エフェクトアーティストとしてのキャリアの可能性を、エフェクトアーティストである邑上貴洋氏の視点を交えながら探る。
エフェクト業界のトレンド
CGW:今回はランチタイムの皆さんと、アプリボットの邑上さんと共に、エフェクト業界についてお話しを聞いていきます。自己紹介をお願いします。
髙橋龍太氏(以下、髙橋):ランチタイム代表取締役社長兼エフェクトアーティストの髙橋です。ゲームエフェクト制作特化の会社を作り、現場ではディレクションや管理の他、制作業務も担当してます。スマートフォンやコンシューマー問わず幅広くお仕事をいただいております。
髙橋龍太
ランチタイム/代表取締役社長
ランチタイム社の制作実績
五十木 絹氏(以下、五十木):取締役兼管理部部長の五十木(いそぎ)です。当社がこの度新設したスクール「エフェクトラボ」の統括責任者としてスクール事業全体の監督、進行もしております。当社にはエフェクトアーティストが全部で24名おりまして、そのうち私と杉本以外が、代表の髙橋も含め全員エフェクトアーティストとして活動しています。
杉本達弥氏(以下、杉本):同じく管理部事業課の杉本です。元々私自身もエフェクトアーティストとしてこの業界に入りましたが、今はアーティストの方々のサポートや、今回のエフェクトスクール事業の企画・運営をしております。
五十木 絹
ランチタイム/取締役兼管理部部長
Lunch Time エフェクトラボ/統括責任者
杉本達弥
ランチタイム/管理部事業課
Lunch Time エフェクトラボ/事務局局長
CGW:エフェクトアーティストがほとんどなのですね。
髙橋:完全にエフェクト専門の会社です。今まで大きく告知してないんですが、エフェクト専門というブランディングの成果と言いますか、エフェクトスキルを身につけたいアーティストが来やすいのだと思います。
CGW:ありがとうございます。そして今回はエフェクト業界をよく知る邑上さんも駆けつけてくれました。直接本スクールの教育や運営に関わってはおりませんが、邑上さんと髙橋さんは古くからお付き合いがあるようで、エフェクト業界について色々伺えたらと思います。
邑上貴洋(以下、邑上):邑上です。アプリボットでエフェクト制作やシェーダー開発などを行なっています。
邑上貴洋
アプリボット/Creative.Div シニアエフェクトアーティスト
CGW:早速ですが、エフェクトアーティストが少ない、足りない、と聞きます。理由や原因はあるのでしょうか?
邑上:色々理由はあるけれど、まずはエフェクト制作の需要が高まっていることが挙げられると思います。昨今のゲームに求められるクオリティはコンシューマ、モバイル共に高くなっていて、制作規模はどんどん大きくなっています。比例してエフェクト制作の物量も増えてきていますね。
髙橋:今いるエフェクトアーティストの数に対して制作需要が高くなっているので、必然的に人材不足になっています。別の視点ですと、エフェクト制作は海外の制作会社に出しづらいという理由もあると思います。エフェクト制作はフレーム単位での調整をしながら求められる表現やニュアンスを出していく作業なのですが、海外のスタジオですと”カッコイイ”や”可愛い”に関しての考え方や、フィードバックをする際の伝え方の壁があり、舵取りが難しいと聞きます。
邑上:あとは学校で専門的に教われないということがあるのでしょうね。専門学校に入ると基本的にはモデリングから始まって、アニメーション、ライティング、レンダリング、といった工程ごとにカリキュラムが進んでいきます。もちろんエフェクトの授業もあるのですが、あまりそこに時間をかけられる学校が少ないというのが現状かと思います。
髙橋:そうですね、私も講師として専門学校で教えているのですが、他の学校様を見ているとエフェクト自体の授業がない、又は特別授業などスポットでの単発授業になりがちですね。またこれは現場に入ってから特に感じることだと思いますが、エフェクト制作は学ばなければいけないことが多いです。
各DCCツールの違いもそうですし、ゲームエンジンもUnreal EngineやUnityといったものから各社オリジナルの自社エンジンもあり、またエフェクト制作を行う上で必要なツールなども含めると結構な数になるんですよね。もちろん全て一気に覚える必要はないのですが、そういった点もエフェクトアーティストが増えづらい要因かと思います。
CGW:なるほど。邑上さんもシェーダー開発されてましたよね。
邑上:そうですね、サイバーエージェントグループがオープンソースで無料で公開している「NOVA Shader」というUnityのParticle System用のシェーダの開発に携わりました。エフェクト制作でよく使われる機能をまとめていて、効率的に高品質なエフェクトを作成できます。
髙橋:NOVA Shader 便利ですよね(笑)。エフェクト関係のツールは覚えなければいけないことは多いのですが、実はUIや機能名が違うだけでできることは同じなことが多いです。Unityの機能が、Unreal Engineではどのような名前なのか分かっているだけで応用が効きます。それは独自ツールでも同じで、だからこそエフェクトの作り方を根本的に理解することが重要なのかなと思います。
邑上:プログラミング言語に近いと思うんですね。それぞれ得意なことや決まり事は違えど、プログラミングそのものを理解していたら新しい言語でもある程度理解できます。
CGW:ありがとうございます。エフェクトのトレンドなどはあるのでしょうか?
邑上:リアル調といいますか、フォトリアルなエフェクトが増えているのは感じますね。
髙橋:そうですね、作品としてはセル調の表現がメインでも、エフェクトは写実的な表現を求められることが多いです。
ゲームエフェクト専門スクール「エフェクトラボ」開校!
CGW:今回エフェクト専門のスクール「エフェクトラボ」を開校されたと伺いました。何故制作会社であるランチタイムがスクールを立ち上げようと思われたんですか?
五十木:エフェクトデザイナーという職業自体が最近出来たものなので、「業界にエフェクトデザイナーがいるぞ」とアピールしたい、というのが社長の夢なんですよ。
髙橋:(照)。人数を増やしていくことによって、専門のエフェクトデザイナーが増えれば、エフェクトの地位が向上するんじゃないかなって。教育を通じてそれをしたいと思っています。もちろん先ほどの話の通り、業界人口を増やしていくためにも必要だと。あとは、ランチタイム社のブランドを確立することも目的のひとつですね。
五十木:業界人口を増やさないとどうにもならないところまで来ているのもあって。
髙橋:元々フリーランスでやっていた時に感じたことは、エフェクトの品質を上げるにも1人で出来ることって限界があって。ゲーム業界全体として見てもデザイナーの人数は限られていて、結局奪い合いになってしまう。それだったら自分たちで育てようと。
CGW:素晴らしい考えですね。でも制作だけをしていた方が利益率は高いのでは?
髙橋:(笑)。それはそうなんですけれど、でも「エフェクトラボ」で結果的に業界全体が活気付いたらいいよねという気持ちでやっています。
五十木:ランチタイムとしては、育った人を採用することで採用コストを抑えていく、みたいな側面もありますね。
CGW:なるほど、スクールのゴールに業界への就職があると励みになりますね。そんな「エフェクトラボ」の特徴を教えてもらえますか?
杉本:エフェクトをゼロからデザインできるエフェクトデザイナーに成長できるスクールです。未経験OK、仕事をしながらでも始められる。ポイントはゼロからデザインできるっていうところです。
髙橋:業界には、演出の提案とか、自分で考えたものをゼロから作れる方っていうのが少ないです。
五十木:即戦力となるようなエフェクトデザイナーを育てていこうというのが、本スクールの主な目的になります。
CGW:重視してるのはどんな点ですか?
五十木:対面の授業ですね。オフライン授業とオンライン授業、どちらも合わせて学べます。オンラインだと少しタイムラグが発生してしまうので、ランチタイムでは作業途中のエフェクトを直接見ながらコマ送りでフィードバックをするっていうことが多いです。授業もできるだけ同じように対面で講義をしていくつもりです。
杉本:もちろんオンライン参加の生徒のフォローもしますし、ツールの使用法やエフェクトの作成方法などをまとめた動画教材も用意しています。
髙橋:エリアは市ヶ谷で、駅から徒歩5分くらいかな。生徒さんが来やすい立地を意識しました。
CGW:改めて「エフェクトラボ」はどんなスクールですか?
五十木:3ヶ月ごとに入学を受け付けていて、受講期間は6か月、ゲーム業界に就職したい方が対象です。一応年齢としては18歳〜34歳くらいを想定させていただいていますが、どんな方でもやる気があればOKです。
杉本:人数は、1期生5名、2期生以降は10名を予定しています。あまり多くの人数は取らずに、しっかり教えていこうという方針です。学べるソフトは、Maya、Unity、Photoshop、AfterEffectsといった、ゲームエフェクト制作の現場でよく使用するツールになります。
Blenderのような無料のツールも増えてきましたが、実際、現場で多く使われているのはMayaです。できるだけ現場に近い環境を想定して、デザインや演出の考え方、実際のオペレーションではテクスチャを描いたりといったところをベースにしています。
CGW:業界就職をかなり意識されてるんですかね。
杉本:そうですね。またもっと具体的にいうとポートフォリオを完成させることを重視しています。ポートフォリオがしっかりしていれば、就職にも選択肢が持てるようになりますし、その選択肢を持てるレベルまで導きたい。生徒みんなに自信を持って好きなところに就職してほしい。
五十木:現場レベルのポートフォリオがゴール、ですよね。
CGW:6ヶ月でそのレベルまでいけるのですか?
杉本:その人のやる気にもよりますが、就職・転職できるポートフォリオ完成までを6ヶ月で想定しています。カリキュラムの内容は、最初の2ヶ月はツールを覚えながら1つの作品を仕上げ、そこから1ヶ月1作品というペースで4つ作っていただいて、ポートフォリオの完成になります。
髙橋:金額帯も、やる気のある方だけに来ていただけるような、けっこう難しめの価格にしていて。その分、生徒さんのやる気に応えて徹底的に指導いたします。たとえば現場に出た時に、ソースツリーとか処理負荷であるとか、データ周りでトラブルが起きることがよくあるんですが、そういったトラブルにも対応できるように講師陣が細かなところまで見ていく予定です。
CGW:講師はどなたがされるのでしょうか。
五十木:ランチタイムの現役のエフェクトデザイナーが務めます。現役のデザイナーが教えることで、今必要とされているエフェクト制作についてタイムラグなく伝えていけると考えています。
髙橋:うちがゼロからデザインできるエフェクトデザイナーの会社なので、そういうのをちゃんと理解して教えられるってなると、自社デザイナーが適任だと思いました。
五十木:今後の展開によっては、外部の講師をスポットでゲストにお招きすることも考えていますが、いずれにしても現役のデザイナーが講師をする、というのを重視しています。その時は邑上さんにも是非お願いしたいですね(笑)。
邑上:わかりました(笑)。
CGW:とても実践的ですね。1期生と2期生が3ヶ月間被っているのはどのような理由でしょう?
杉本:相互にフィードバックをする機会を多くするためにあえて被らせました。生徒さんも、講師や先輩や仲間に自分のエフェクトを説明するときに、どう言語化すればいいのか考えますよね。その考えること自体が勉強になりますし、説明するという行為はコミュニケーションの練習になります。さらにフィードバックを受けることで理解が深まる。全部現場に出た時につながります。
五十木:エフェクトデザイナー自体が、プランナーさんやプログラマーさん、いろんな方とコミュニケーション取りながらしか進められない仕事だと思うので、コミュニケーション取る練習も、「エフェクトラボ」でがっつり練習してもらいたいと思っています。
邑上:それってこのスクールの特徴だよね。後輩は先輩の作品をみてモチベーションが上がるだろうし。逆に先輩が後輩の作品を見て「負けられないな」ってなることもあるだろうし。短期スクールにありがちなツールのオペレーション学んで終わりではない、すごく良い仕組みだと思います。
髙橋:実際に3ヶ月でどこまでレベルが上がっていったのかが可視化できるから、自分が目標としているところが見えやすいですよね。
杉本:就職活動がやっぱり簡単には行かないと聞きますので、当社への内定もゴールのひとつにあるというのは大きいのかなと。もちろんそれぞれの目指す会社や場所があれば、全力でサポートさせていただきます。
邑上:「エフェクトラボ」発の、現場で働けるクリエイターが増えたら、ゲーム業界としてもありがたいかな。もうどんどん業界人口増やしてほしい。
髙橋:「エフェクトラボ」の生徒たちなら他社様でも現場の負担を減らしつつちゃんと戦える、そういう練習ができる環境作りができればいいなと思っています。皆様からの応募をお待ちしています。
エフェクトラボ 概要
概要:対面を重視したオフライン授業とオンラインでも学べるハイブリット型スクール
受講期間 :6ヵ月
募集時期:4、7、10、1月の四期
応募資格 :エフェクトデザイナーになりたい方、ゲーム業界で就職したい方、18歳以上34歳以下(35歳以上の方はCG業界ゲーム業界経験者のみ) 、一定のスペックのPC、ネットワーク環境をお持ちの方
定員 :一期生5名、二期生以降各期10名
学べるソフト :Unity、Photoshop、After Effects、Maya
ご用意していただくもの:PC、各必須DCCツールは個人にて用意
・学費:¥750,000(税別)
※使用ツールを別途購入必要。
※第一期生のみ特別割引 受講料30%OFF
問い合わせ先
株式会社ランチタイム 公式HP:https://lunch-inc.jp/
エフェクトラボ 問い合わせフォーム:https://lunch-inc.jp/effectlabo/?page_id=142