日本にいるとあまり情報が入ってこない欧州のVFX事情。そこで今回はドイツとベルギーにある VFX スタジオを取材し、現地の生の声を紹介する。国を超えてグローバルに展開する大手から高い技術力を持つ少数精鋭のスタジオまで、実力派揃いの VFX スタジオを訪問し、手がけている仕事やその制作体制について話を聞いた。
※本記事は、2010年11月上旬に行なった取材を元に制作しました
発展著しい PIXOMONDO(フランクフルト本社)
ドイツ・マイン川沿いの倉庫街にあるインテリジェンスビルディングに居を構える VFX プロダクション PIXOMONDO(ピクソモンド) のフランクフルト・スタジオ。同社がリードVFXを務めた 映画『ヒューゴの不思議な発明』 が第84回アカデミー賞で視覚効果賞など5部門で受賞(6部門でノミネート)したことから、ピクソモンドの名は世界に知れ渡ることとなった。
まずはエグゼクティブ・プロデューサーを務めるセバスチャン・ロイトナー/Sebastian Leutner 氏とアートディレクターのマックス・リース/Max Riess 氏に、国内外に11もの制作拠点を構える同社の制作パイプラインについて紹介してもらった。
PIXOMONDOフランクフルト本社(PIXOMONDO STUDIOS GmbH & Co.KG)エグゼクティブ・プロデューサー/セバスチャン・ロイトナー氏(右)と、アートディレクター/マックス・リース氏(左)
PIXOMONDO は 1997年、ここフランクフルトで産声を上げた。現在ではドイツ国内に、フランクフルト、シュトゥットガルト、ベルリン、ミュンヘン、ハンブルクの5拠点。そして国外には、ロサンゼルス、バーバンク、トロント、ロンドン、北京、上海の6箇所にスタジオを構え、その規模を拡大し続けている。スタッフはフランクフルト本社の約60名をはじめ、シュトゥットガルト約40名、ベルリン約20名、ミュンヘン約10名、サンタモニカに約30名、ロンドン約20名、北京約20名、上海約20名といずれも中規模な構成(※2010年11月取材時の情報)。加えて、例えばフランクフルトではプロジェクトの入り具合に応じてコアメンバーのみ、つまり半数ぐらいの規模で活動する時期もあるそうだ。
欧州でも北米と同じく、プロジェクト単位でスタッフを構成するスタジオが主流のようだが、フリーランスで活動できる労働基盤が確立されている裏付けとも言えるだろう。ちなみに、ドイツ国内に複数の拠点を構えている理由だが、ドイツ連邦共和国各州ごとに地域活性化を促す税制優遇策が設けられていることが大きいとのこと。
長編映画やテレビ CM、ライブメディア、企業 VP といった具合に、幅広いジャンルの映像を制作している PIXOMONDO。現在はその中でも長編映画プロジェクトが一番多く、全体の約3割を占めているという。
映画VFXを手掛け始めたきっかけは、2008年にドイツで製作された 映画『レッドバロン』(日本公開は2011年)。さらにその後、ドイツ国内だけにとどまらず、ハリウッド映画にも積極的に参加している。そうした場合は、サンタモニカ・スタジオにいるプロデューサーが橋渡しとなり、世界中のスタジオにタスクが分配されていく。「PIXOMONDO のスタジオは世界各地にあるため、24/7(「24 hours/ 7 days a week」、年中無休の意)で対応できます」(セバスチャン・ロイトナー氏)。
したがい、全てのスタジオで同じパイプラインを共有しており、使用ツールはもちろん、ディレクトリ構造やフォルダの命名規則等も、完全に揃えているそうだ。これにより、例えばあるスタジオでレンダリングできないといった場合でも、ピンポイントでその時に空いているスタジオで代行してもらうといった、物理的な距離の制約を超えて、むしろ逆にそれを利用した素晴らしいシステムを構築した。
Hugo Cabret: 3D-Animation Making-of von Pixomondo
実際に、映画『2012』(2009) プロジェクトでは当初、プリビズだけを担当することになっていたそうだが、同社のクオリティと作業効率の高さが認められ最終的にエフェクトショットまで手掛けることになった。「このプロジェクトをきっかけに、ハリウッド作品のVFXを担当する機会が増えましたね」(ロイトナー氏)。
その後も、『アイアンマン2』(2010) や 『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』(2010) など大作長編 VFX 映画にもショット単位で携わっている。上述の通り、各スタジオの規模は決して多くはないものの、強力なスタジオ間の連携力によって、まさにグローバルな展開で発展・進化をしている旬なVFXスタジオなのだ。
PIXOMONDOフランクフルト本社のエントランス。自由で開放的な雰囲気が印象的だった
最後に、使用ツールについて聞いてみた。メインツールは 3ds Max、Maya、NUKE。これらに CM や企業 VP などで需要のあるモーショングラフィックス制作用に After Effects を用いているとのこと。レンダラは mental ray もしくは V-Ray を使っているが、独自でシェーダを書くことはほとんどないという。
また、プラグインとしては SHAVE and a HAIRCUT for Maya や thinkingParticle などをよく使っている、とのこと。実際に、SHAVE and a HAIRCUT for Maya と mental ray で制作したという体毛に覆われたフル CG 動物キャラクターのアニメーション(イギリス BBC の番組向けとのこと)を見せてもらったが、毛並みの動きや質感で素晴らしい出来映えだった。また、前述の映画『2012』では雪山の中、飛行機から自動車に乗って脱出するシーンがあるのだが、そこでは thinkingParticle をフル活用しており、現在の R4 開発にもフィードバックの面で大きく貢献したそうだ。同様に映画『アイアンマン2』では、金属表現が多くみられる敵ロボット(ハマー・インダストリーズ社製「度ローン」のこと)の VFX では、V-Ray を用いてフォトリアルなルックを見事に完成させているので、ぜひご覧いただきたい。
ちなみにマッチムーブについては boujou や 3DEqualizer ではなく、SynthEyes を主に用いているとのこと。より高機能な boujou や 3D Equalizer のライセンスも有しているそうだが、普段は敢えて使わない理由は、「オートでトラッキングを行う場合は確かに高機能な boujou 等が優れています。ですが、実際にオートで解決できるプレート(実写素材)はほとんどありません。最初からマニュアルトラッキングが求められるケースが圧倒的に多いのです」(ロイトナー氏)とのこと。こうしたアプローチには日本のVFXスタジオにとっても参考になるはずだ。
PIXOMONDO もうひとつの国内主要拠点、シュトゥットガルト
数日後、今度は同じドイツ国内にある PIXOMONDO のシュトゥットガルト・スタジオを訪問。こちらでコンポジット・スーパーバイザーとして働いているヨルン・グロスハンズ/Jorn Groshans 氏にも話を伺うことができた。そこで運よく見ることができたのが、現在進行形(※2010年11月上旬時点)で制作が進んでいたドイツ国内向け長編ドラマ 『Hindenburg』 の最終仕上げである。と言うのも、グロスハンズ氏とスクリーニングルームでデモリールを観ていた途中に、同プロジェクトにアサインされているコンポジット・アーティストが、彼にチェックをしてもらおうとやって来たのだ。
シュトゥットガルト・スタジオでインタビューに応じてくれた、ヨルン・グロスハンズ氏(コンポジット・スーパーバイザー)
それは、実写プレートがないフル CG のショットだったのだが、そのクオリティの高さに驚かされた。せっかくの機会だったので、そのアーティストにも話を聞いてみたところ、3DCG工程はモデリングのみ Maya で、その他のアニメーションやエフェクト、レンダリング作業は 3ds Max を使用。作成したデータは OpenEXR フォーマットで出力し、それらを NUKE でコンポジットしているとのことであった。OpenEXR は用いているものの、マルチレイヤーではなく、各レンダーパスをそれぞれ連番として出力しているそうだ。約50レイヤーで構成されているその NodeGraph はそれだけで、ある意味芸術的に複雑なものであったが、まったく混乱することなく、修正を加えたいノードオペレーターにアクセスできると話してくれたが、これはやはり複数のチャンネルを大量に扱うことに長けている NUKE の強みではないかと思う。
また、レンダーパスにはシャドーやスペキュラ、リフレクション等の各種要素や RGB のカラーマット等が見受けられたが、さらには UV チャンネルを出力して STMap (コンポジット上で後からテクスチャを操作するための NUKE のノードオペレータ)を用いて、巧みに調整を行なっているのが印象的であった。さらに、炎や飛沫などは撮影素材のアーカイブを用いて、NUKE 上で、上手く変形させて画のクオリティをグッと上げていた。これら、アーカイブも PIXOMONDO の各スタジオで共有され、どこのスタジオでも同じような条件で出来るようになっているという。
『Hindenburg』トレイラー。1937年に実際に起きた「ヒンデンブルグ号爆発事故」を題材にした特別ドラマである
ちなみに、著者が見たショットのエフェクトの9割が、これら実写素材のアーカイブを使っているとのことで、撮影前に緻密にプリビズ等を行うことで、最終ルックで必要な素材等をシッカリと押さえているのだという。こうした事前の計画こそが、スーパーバイザーとしての大きな役割のひとつと言えよう。余談だが、PIXOMONDO は中国にもスタジオがあり、この「緻密さ」という点においては「アジア人は、非常に素晴らしいよ」とも語っていた。
今回、ドイツ国内にある PIXOMONDO の主要スタジオ2施設を訪問し、そのグローバルな制作パイプラインを目の当たりにしたわけだが、彼らがハリウッドのみならず、世界中の長編映画の制作にドンドン食い込んできている理由が何となくわかった気がした。
PIXOMONDO シュツットガルト・スタジオにて
映画VFXに特化した少数精鋭チーム「RISE」(ベルリン)
次に訪れたのは、旧東ドイツエリアの陰鬱としたエリアにある古い建物を利用した商業ビル。その一角にある VFX スタジオ 「RISE」 だ。訪問時は、ちょうど納品間際で忙しい日だったにも関わらず、取締役プロデューサーのロベルト・ピンノウ/Robert Pinnow 氏は快く迎えてくれた。
2007 年に、ピンノウ氏ら2人のプロデューサーと2人のスーパーバイザーの4人が集まりスタートしたRISE。制作のピーク時こと30人ぐらいまで膨らむが、基本的には15人程度で活動しているという。「常勤スタッフは約12名。そして、案件に応じて日頃から交流のある80名以上のフリーランスの方々に適宜参加してもらっています」(ピンノウ氏)。少数精鋭主義を掲げるのと同時に、国外からの人材も積極的には受け入れておらず、基本的にドイツ国籍のスタッフで構成している点も同社独自のこだわりと言えそうだ。
旧東ドイツの古い建物をリノベーションしたという RISE のオフィス
メインツールには Maya と NUKE を採用。レンダリングには PIXOMONDO と同様に mental ray や V-Ray が中心だという。画づくりにおいてはカスタムシェーダは使わず、スキルの高い NUKE アーティストが中心となり、基本的にはコンポジットで細かな調整に対応しているそうだ。
また同社では、Autodesk Flame 等のフィニッシング・ツールは使用せず、いわゆるカット編集作業も行わないという。その理由は、CM 等の短尺コンテンツはまったく手がけてておらず、業務の大半が長編映画向けの VFX 制作であるから(長編映画以外ではTVシリーズのVFXなども扱っている)。
RISE は2011年に公開された作品だけでも、『キャプテン・アメリカ』、『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART 1』、『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』、『Nova Zembla』(※オランダ製作、日本未公開)など、スタジオの規模からは想像できないハイペースでVFX制作行なっており、いずれもVFXヘビーな作品ばかりだ。
訪問した2010年も 『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』 を手がけていたが、本作では複雑な合成と背景マットの処理や、NUKE 上でプラグイン SAPPHIRE を用いて "イカズチ" 処理を施したりしたという。また、劇中で主人公たちをスケール感の異なるキャラクターと合成する必要があったため、非常にタフな合成処理も行う必要があったそうだ。「『パーシー・ジャクソン~』では、約60ショットを担当しました。12~14名のアーティストが約3ケ月の期間で制作しました」(ピンノウ氏)。『ハリーポッターと死の秘宝 PART 1』では、ショット数こそそれほど多くないそうだが背景マットも手がけており、その見事な出来映えからは、同社が CG と実写素材を組み合わせた背景マット処理やコンポジットワークを得意としていることが窺える。
RISE取締役プロデューサーのロベルト・ピンノウ氏
そんな RISE だが、実は現在、世界中の NUKE ユーザーから注目を集めている。というのも同社は NUKEpedia という、NUKE ユーザーのポータル Web サイトに多数のスクリプトを提供しており、2009年の 「FMX」(Film and Media Exchange) では、The Foundry http://www.thefoundry.co.uk/ のプレゼンテーションで、RISE 社 CEO であり、VFX スーパーバイザーのフロリアン・ゲリンガー/Florian Gellinger 氏が、映画 『This is Love』 における実例として、プロジェクションマッピングを用いた実に興味深い、背景マットや合成等のデモンストレーションを行うなど、見事なNUKEテクニックを披露しているからだ。
このVFXは、同社公式サイトで今でも見ることができる(こちら)。クルマの車内からのショットであり、実際に車内から3方向(前・右斜め前方向・左斜め前方向)を捉えた撮影素材を元に、3D トラッキングされた街のモデル用いて、そこへプロジェクションマッピングで投影して、自動車の進行に合わせた背景マットを作り上げるというもの。そうすることで、実際に撮影されたカメラパスを後から変更するという非常に高度な手法を用いて、その自動車の事故シーンを再現していた。
映画『This is Love』トレイラー
ところで、ピンノウ氏に競合相手として意識しているスタジオがあるか聞いてみたところ、Scanline VFX と先に紹介した PIXOMONDO の2社を挙げてくれた。しかしながら、Scanline は RISE の2倍以上、PIXOMONDO にいたっては、ドイツ国内だけでも約7倍の規模を誇っている。RISE の少数精鋭主義がいかに高いレベルで実践できているのか窺えよう。
実際、前述の NUKEpedia には RISE から発信された数多くの NUKE 用のツールが上がっており、それらは全て、1人の Pythonプログラマによって書かれたもの。なおかつ所有しているレンダーサーバは50台程度と、この手のスタジオとしては少ない印象である。しかしその物量の少なさを、効率良く、少数精鋭で運営することでクリアしているわけだ。
RISE のオフィス。小規模ながらも効率の良いワークフローでハイクオリティな画づくりを実践している
最後に、RISE のセールスポイントを尋ねたところ、「私たちはクライアントと共に歩んでいくことを信条にしています。だから、より効率よく、時間を短く、価格を抑えた制作が行えるわけです。実際に問題を持ち帰ることなく、その場で判断できるプロデューサーやスーパーバイザーが在籍しているため、クライアントは非常に満足している」と答えてくれた。
ベルギーのアニメーション制作事情「Walking the Dog」(ブリュッセル)
最後に訪問したのは、ドイツの西側に隣接するベルギー王国。その首都、ブリュッセルにあるブリュッセル中央駅から地下鉄で5駅ほど離れた宅街の一角にある 「Walking The Dog」 である。話を伺ったのは、スタジオマネージャーの フレデリック・ディリックス/Frederic Dirickx 氏。2000年に設立され、現在は20名ほどの規模という同社。ただし、少ない時は7名以下で制作することもをあるという。
ヨーロッパのスタジオは、基本的にはフリーランスの集まりで、スタジオの根幹となるスーパーバイザーですらその時の仕事の種類や規模の応じて探すことが多い。アニメーションに特化したこのスタジオは、かつては手描きの仕事が多かったといい、つい最近も50人もの手描きアニメーターを集めた案件もあったのだとか。ちなみに同社の代表作である 『Dji Vou Veu Volti』(2011) は約12分の短編アニメーション作品であるが、デジタル・アーティスト3人という少人数で、3ds Max を使い1年ほどかけて完成にさせたという。
オリジナル短編アニメーション『Dji Vou Veu Volti』トレイラー
訪問時に制作中の案件として紹介してくれたのは、フランスのアニメーション作品で、フル3DCG長編の 『Monster in Paris』 だ。このプロジェクトは、リュック・ベッソンが創立者の1人であることでも知られる ヨーロッパ・コープ 製作で、いくつかのスタジオと共同でアニメーション制作を行なったそうだが、面白いことにショット単位で任せられているのではない。Walking the Dog はライティング、レンダリング、コンポジットおよびエフェクトを担当......といった具合に、作業(工程)単位で分業したという。つまり、ヨーロッパ数カ国かにまたがり、ひとつのショットを作り上げるという、なんとも大掛かりなパイプラインで動いていたわけだ。
その詳細について実際に話をしてくれたのは、ライティングおよびコンポジットのスーパーバイザーを担当しているカナダ人のジョナサン・ジャーメイン/Jonathan Germain 氏と、エフェクトのスーパーバイザーを担当し、以前まで豪アニマル・ロジックで働いていたというベルギー人のジョー・プレート/Jo Plaete 氏。余談だが、筆者はプレート氏の名前を以前から知っており、実際にお会いする機会に恵まれて驚いてしまった。と言うのは、著者の知り合いの日本人アーティストが、VIMEO でプレート氏が公開していた Softimage ICE の作例を見てコンタクトをとり、まさにこの『Monster in Paris』を一緒に制作しないか? というオファーを受けたというエピソードを聞いていたからだ(世界は狭い)。
左から、Walking The Dog スタジオマネージャーのフレデリック・ディリックス氏、エフェクトスーパーバイザー/ジョー・プレート氏、ライティング・コンポジットスーパーバイザー/ジョナサン・ジャーメイン氏
『Monster in Paris』の制作では、フランスからポイントキャッシュされたデータが届き、それを元に作業を行なったという。ちなみに著者が普段から NUKE を用いたパイプラインで、各アプリケーションをいかにして連帯するかを考える際、必ず行き着く問題がデータをポイントキャッシュするか、否か......という点なのだが、ここではそれを普通に行なっているわけだ。
考えてみれば、ポイントキャッシュさえしていれば、データはアプリケーションに依存せずに済み、各スタジオ、アーティストの得意な方法を用いて、プロジェクトを進めることができる。また、アニメーションに修正が入れば、アニメーション部門で修正を行えばよい、というように問題の責任分界点もわかりやすくなる。一見、そこまで作業を戻さなくても、レンダリング前にちょこっと修正すればいいじゃないか......と思えなくもないが、それによって、アニメーションの付け方、リグのハンドリングに関する情報共有など、仕様が複雑化するのを防げる。見方を変えれば、とても合理的な方法とも言えるのだ。
長編アニメーション『a Monster in Paris』トレイラー
Softimage でのレンダリング時間は1フレームあたり大体1.5時間ほど。レンダーファームの規模が不明瞭であるが(約70 台のマシンでレンダーファームを構成しているとのこと)、かなり高負荷であることが窺える。様々なパスを書き出し、NUKE によるコンポジット作業の際には 50 エレメントほど扱うのが常だという。プラグインなどには極力頼らず、デフォルトの機能や Python スクリプティング等でデータベース管理を行い、制作を進めたそうだ。
NUKE は現在の機能ではリライティングによる影落としはできないが、本プロジェクトではライティングの強弱、色彩の調整、またはタッチの追加等によって、長編アニメーションではあるものの、どのフレームを切り取っても、絵画のような美しさを持たすべく、細かな調整が行われているのが印象的だった。また、Jジャーメイン氏の話によると、10フレーム飛ばしでコンプまで行い、それを、Photoshop でカラーチャートのように並べて、1 枚 1 枚、見比べながらチェックを行なったという。コンプでは様々なパスを Softimage のシェーダツリーとレンダーパスを出す機能を用いて、OpenEXR でレンダリング。ただし、ここでもマルチレイヤーは用いず、各パスをそれぞれの OpenEXR のファイルとしたという。
その中でも特筆すべきは、BentNormal のようなパスを用いて、タッチや照り返しを自在にコントロールしていた点だ。カスタムシェーダはほぼ使用せずに、デフォルトのシェーダツリーで構築してマテリアルをアサイン。1つ2つほどのみ、mental ray を用いてカスタムシェーダを組む必要があったが、社内にプログラマーが在籍いるわけではないので、イタリアにいるプログラマーに依頼して構築したそうだ。その他にも ラングラー(※レンダリングジョブを実行・管理する専任スタッフ)の存在まであり、とても 20名規模のスタジオとは思えないくらいに、分業化が徹底されていたのが印象的であった。全ての作業がシステマティックに動いており、先に紹介したドイツの VFX スタジオとはアプローチがまったく異なっていたのが興味深かった。
TEXT_テラオカマサヒロ(Galaxy of Terror)