>   >  シド・ミードは人類で唯一の"ビジュアル・フューチャリスト" 日本を代表するコンセプトアーティストが語る「コンセプトデザインの真髄」レポート
シド・ミードは人類で唯一の"ビジュアル・フューチャリスト" 日本を代表するコンセプトアーティストが語る「コンセプトデザインの真髄」レポート

シド・ミードは人類で唯一の"ビジュアル・フューチャリスト" 日本を代表するコンセプトアーティストが語る「コンセプトデザインの真髄」レポート

シド・ミードが"ビジュアル・フューチャリスト"と呼ばれる理由

話題はミードの技術的な巧みさについても及んだ。富安氏は「カーブを描くときに人間の肩の可動範囲を使って描くわけですが、それをトレペに描いて何度も重ねて究極の1本のカーブを描いたものが集積された絵。尋常ではない完成度」。木村氏は「フレーミングの中で描いていない。外に行こうという力と共に描いている」と、プロセスを分析する。

ミードは座って描くことはしなかったという。人間の持っている可動範囲を存分に使って描いたことがミードの大きな魅力である伸びやかな曲線を生み出したのだと富安氏は語る。

ミードの有名な「Sentinel Cover Art」については、「無駄なストロークがない。迷いがない」(木村氏)。「手際の良さがそのまま美しさに繋がる。面のハリが凄い」(富安氏)と、アナログ時代の描き方の観点から解説を行なった。

つづいて、富安氏がtwitter上に投稿した「シド・ミードごっこ」の動画が映し出された。

ミードの特徴を捉え方について「陽が当たっている何もないところと影のゴチャゴチャしたところの粗密感。アンテナと燃料タンクを描いていく」とポイントを解説した。

木村氏の"ミード風"作品はこの講演の前日に撮影したジオラマだった。

宇宙船にも見えるこのオブジェは「コンビニのぶっかけうどんの容器」だった。「この曲線、ミードじゃん!」と気づいて、ホチキス止めをしてスプレーをかけ、フィギュアを置いてライティングを施し、21歳のときに描いた空模様を背景に置いて即興的に撮影を行なって作成したという。「右手から青いライトを照らすと空のオレンジと青が絡まってミードっぽくなる」とプロセスとともにミードの"らしさ"を構成するものが何かを分析した。「ミードの継承者」としての2人のリスペクトを見せた。

締めくくりとして木村氏は「シド・ミードは芸術家だと思っている。なぜなら、彼の絵の中には絵画の歴史が入っている。古典技法やバルビゾン派、ハドソンリバー派、印象派なども入っていて、牧歌的な感じを絵の中にコンポジションとして成立させている。なぜここで我々が絵を描いているのかを感じ取りながら絵を描くというスタイル。未来の世界で冒険する、知らない感じの出し方を分かってやっている感じがする」と解説した。

裸体の絵をひとつとっても「シュメール文明やエジプト文明の感覚が未来になった場合、何が起きるだろう? それを考え抜いて絵を仕上げている」と、"ビジュアル・フューチャリスト"としてのミードを分析した。ミードはニューヨークのワールドトレードセンタービルの跡地のコンペに参加した際、教会をイメージした絵を提出したという。負の状況を文化としてどのように立て直していくかを考えるその姿勢に富安氏は「こういうことをできるのがコンセプトアーティストなんじゃないか」と考えを述べる。それに応える形で木村氏は「ただ絵が上手いだけではなく、何を人間のためにプレゼンして次を獲得していくか、根底の考え方ができるかどうか」と話をした。

最後に来場者の質問に答える形で、木村氏は「シド・ミードを超えてオリジナリティを出すために」という難題に答えを寄せた。「ミードは映画や小説から勉強しているのではなく、科学の本を徹底的に読んで、機械工学の要素を入れた上でファンタジーを表現する。曲線のメカニカルな美しさをどのように自分が感じ取るか。そこで過去の文明を勉強するのでもいい。なぜ滅んだのか、生き残っているのはなぜかという理由を勉強するとファッションや文化の考えを自分が引き取ることで絵を描いていく」と述べ、2人のミード愛に溢れた講演を締めくくった。

関連情報

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「シド・ミード展 PROGRESSIONS TYO 2019」公式サイト:
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e+Shop「シド・ミード展」特設ページ:
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