<2>Fabric Engineの大きな可能性
Fabric EngineとはFabric Softwareが開発する次世代のフレームワークだ。昨年バージョン2がリリースされたのだが、正直、日本では馴染みの薄い存在だと思う。しかしテクニカルアーティストやエンジニアの間では着実に知られつつある。そんなFabric Engineをひと言で説明するならば、次世代型のCGツール開発プラットフォームとでもいうべきだろうか。
What is Fabric Engine 2? from Fabric Engine on Vimeo.
先述したセッション「Dancing Trees」におけるMPCの『ジャングル・ブック』講演では、Fabric Engineを使ったフローが解説された。非常に大規模なジャングルを描くにあたり、大量の樹木を生成する必要があった次第だ。樹木自体の生成にはSpeedTreeが用いられていた。一連のデータの受け渡しはFBXやAlembicが使用されていたが、パイプラインにはFabric Engineを用いてMayaとやり取りをしていたようだ。
SpeedTreeの『ジャングル・ブック』事例に関するブログ記事
Fabric Engineのフレームワークで開発を行なった結果、Mayaと比べても非常に高速だという結果を披露していた。このように海外の大手スタジオでも導入されはじめており、これまでの開発の概念を打ち崩す力を秘めていると感じた。特にビジュアルプログラミングという概念が重要なポイントだ(さすがはICEを生み出したSoftimageの開発者たちによるツールである)。
Fabric Engineでは、Canvasと呼ばれるインターフェイスで関数などを組み合わせてプログラミングするという、HoudiniにおけるVOPに近い考え方を有する。
Fabric Engine 2: Canvas Overview (Easy To Use) from Fabric Engine on Vimeo.
Houdiniにおいては、そのほかのDCCツールと連携を図るためにHoudini ENGINEがリリースされているが、そちらをより高速な拡張ツールとして連携するためにはFabric Engineに軍配が上がる。もちろんHoudini ENGINEはアーティストフレンドリーな仕様ではあるのだが、Fabric Engineはテクニカルディレクターが使用しやすい設計になっているように感じた。
Fabric for Maya | Fabric Engine 2 from Fabric Engine on Vimeo.
Fabric Engineなどの登場から見えてくる未来は、高速な開発フレームワークをプログラマー不在の小さなスタジオや、テクニカルに強いフリーランスでも自前のツールを開発しやすくなるということだ。次世代の開発環境とは、従来までは相応の規模や組織力が求められた時代から、より手軽にインハウスツールの開発が可能になる時代がそこまで迫って来ていると言えよう。そして、そこから得られる成果は、MPCの創り出した大規模かつハイクオリティなジャングルの表現を見れば一目瞭然である。これまで小規模スタジオにとってコスト面でネックだった自社開発が、テクニカルディレクターとアーティストが密になって創り出せるとしたら、Fabric Engineに対して期待を膨らませざるを得ない。