>   >  山賀博之演出、貞本義行キャラクターデザインの最新映像『砂の灯』も上映、特別講演「日本型VRはなぜ必要か」~「コンテンツ東京2017」レポート(2)
山賀博之演出、貞本義行キャラクターデザインの最新映像『砂の灯』も上映、特別講演「日本型VRはなぜ必要か」~「コンテンツ東京2017」レポート(2)

山賀博之演出、貞本義行キャラクターデザインの最新映像『砂の灯』も上映、特別講演「日本型VRはなぜ必要か」~「コンテンツ東京2017」レポート(2)

<3>VRは古典的な表現の場

特別ゲスト・山賀氏(右)のサプライズ登場で会場は盛り上がった。竹内氏(左)、貞本氏(中)と息の合ったトークを披露

ここで特別ゲストとしてガイナックスの山賀博之氏が登壇し、貞本氏がキャラクターデザイン、山賀氏が監督した最新映像『砂の灯』がプレミア上映された。少年と少女が石畳の街中をフラメンコのBGMにあわせて踊るという短編映像で、VR HMDでの鑑賞も視野に入れた演出となっており、カット割が最小限に抑えられるなどの工夫がなされている。冒頭に砂が舞うシーンで3DCGが使用されている他は、手描きアニメーションで制作されている。

欧州を思わせる石畳の街角で出会う少年と少女

イメージキャラクターの造形デザインには永島信也氏(Gallery花影抄)を起用した。フィギュアはCGではなく、木材の一本掘りでつくられている

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もっとも山賀氏は「映像業界は新技術に保守的な人も多いが、僕は日本の演出家としてVRに触れたとき、すごく古典的な表現の場だと思った」と語った。理由はモニターに相当する「フレームが存在しないからだ。額縁に代表されるフレームは、もともと150年前に西洋絵画から日本にもち込まれた概念で、オペラも舞台というフレームで観客席と隔絶している。これに対して日本のアートはフレーム感が薄く、最初からVR的だった」と言う。

一例を挙げると歌舞伎の花道は観客席に向かってせり出しており、観客と演者の関係性が曖昧になる仕掛けが備わっている。観客席の後ろから演者が登場し、舞台に向かって駆け上がってくるといった演出も、極めて日本的だ。絵画においても屏風絵や掛け軸には西洋絵画のような額縁がない。こういった点がVRに近しいというわけだ。

これについて貞本氏も「日本のキャラクターデザインにおける記号化は、ディズニーとは少し異なっていて、人形浄瑠璃の延長線上に位置している。そもそも10世紀に『源氏物語』を生み出した点で、日本は最先端を走っている」と補足。竹内氏も元週刊アスキー編集長 福岡俊弘氏の解釈を引用し「初音ミクは現代の人形浄瑠璃」だと引き継ぎ、日本人ならではだとした。

また同作のサウンドは11.1chのドルビーアトモス対応となっている(残念ながら会場では2chステレオで再生されたが)。その一方で映像作品にしては珍しく、BGMのみで効果音が省かれている。これについては山賀氏のねらいによるもので、「すぐ目の前でギターが鳴っているような感覚を再現したかったから、余計な音を省いた」とのこと。その上で「ドルビーアトモスは音と観客との距離を縮められる」と振り返った。

欧米圏でのVR映像におけるフレーム問題に対する取り組み(参考映像)

会場では竹内氏から欧米圏の「ノンフレームVRコンテンツ」の例も紹介された。『360 Google Spotlight Story: Pearl』ではカメラを自動車の中央に置くことで、車内全体の状況を見わたすことができ、音楽と合わせてロードムービー的な映像に仕上げている

『Kinoscope - A virtual reality journey into the world of cinema』では演劇的な演出とカメラ位置を採用している

<4>4K解像度のVRコンテンツは何をもたらすか

VR HMDでの視聴も視野に入れた世界初の手描きアニメーションによる4K映像。ドルビーアトモスによるサウンド演出も加わり、これまでにない映像体験ができるという

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そして、最大の特徴が手描きアニメーションによる4K解像度のグラフィックだ(ちなみに、こちらも会場のプロジェクターは2K解像度だった)。もっとも貞本氏は「アニメーターなら同意すると思うが」と前置きした上で、「線の粗が目立つようになるので敬遠したい」と語った。アニメ制作は集団作業なので、原画と動画ではクオリティが異なる場合がある。そのため解像度が上がると粗が目立つというわけだ。

ちなみに時間と予算がたっぷりあれば、こうした粗も修正できる。しかし実際にはどこかで妥協せざるを得ない。こうした状況をふまえて山賀氏は、「手描きアニメーション製作はダメージコントロールの文化」だと評した。砂が舞うシーンで3DCGを使用したのも、手描きでは粗が目立ちすぎるため、不本意な選択だったという。

ただし粗が目立つということは、逆に素晴らしい線のクオリティが、より前面に出てくるということでもある。山賀氏は「4K解像度になると、鉛筆で描いた線の迫力が伝わってくる」と評価した。これに対して3DCGでは、良くも悪くも映像のクオリティが一定になる点は否めない。つまり3DCGと手描きアニメーションには向き不向きがあるのだ。

4K解像度になると線の粗が出てくると語る貞本氏(左)と、生の線の迫力が出てくると語る山賀氏(右)

「手描きアニメーションはライブと同じで、絵を描いた人の超絶的なパフォーマンスに対してお客様が沸くところがある。解像度が上がることで、優れたアニメーターのパフォーマンスがより伝わるようになる。あの人の線が見られるとか、迫力が伝わってくるとか、そうした世界になっていくのではないか」(山賀氏)。

これに対して竹内氏も「画集ではなく美術館で本物の絵画を見ると、なんとも言えない重みが伝わってくるのに似ている」とコメント。貞本氏も「演劇も映像でみるより、劇場でみるほうがいい。VRも同じように、生の迫力に近づけるかもしれない」と同意した。こうした方向性に、日本ならではのVRコンテンツがあるのではないか......というわけだ。

最後に竹内氏は「冒頭でも指摘したとおり、日本のコンテンツを世界に羽ばたかせるには技術が必要で、そのためには異業種とのコラボレーションが重要」だと語った。だからこそアニメイベントではなく、コンテンツ東京でプレミア公開を行なったというのだ。本イベントのように7つの異なる展示会が一堂に会する場所は珍しく、1995年に初めて訪れたSIGGRAPHのようなイノベーションが期待されるという。

このように大きな可能性を見せた『砂の灯』だったが、会場では2K解像度のプロジェクターと2chステレオサウンドで上映され、その実力を十二分に発揮することはなかった。もっとも竹内氏いわく「IoT関連のプロモーション映像として、9月に4K解像度と11.1chサラウンドで無料配信を予定している」と言う。竹内氏はぜひ、そうした環境を揃えて視聴して欲しいとコメントし、講演を締めくくった。

『砂の灯』は9月にプロモーション映像として無料配信が予定されている。詳細が気になるところだ

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