日本とはちがう、イギリスのワークライフバランス
次に岸本氏は、イギリスのプロダクションのワークライフバランスについて語った。日本では最近、働き方改革が進んで、プロダクションの労働時間も短縮傾向にあり、テレワークも可能になりつつある。一方、イギリスには、昔から仕事より家庭のことを優先する文化があった。UNIT9では仕事を効率的に進めていたこともあって、岸本氏は、普段、夜6時から7時には仕事を終えていたそうだ。
「保育園や幼稚園に子どもを送り迎えするために、仕事を途中で抜けても咎められません。家族や彼女が病気のときは、家で看病しながら仕事することもOK。これは、プロダクションだけでなく、クライアントも同じです。だから、打ち合わせのときにクライアントの担当者がいないこともある。でも、属人的な仕事の進め方をせず、チームでカバーできる体制が整っているので、問題なく仕事が進みます」(岸本氏)。
岸本氏は、日本とちがう点としてフラットな人間関係も強調。日本の大企業の場合、他部署や関連会社のスタッフに頼みごとがあるときは、上長に話を通さなければいけないことが多い。一方イギリスでは、Skypeなどで本人と直接連絡が取れるので、レスポンスが速いと言う。これも仕事が効率よく進む一因だ。
日本のクリエイターが海外で働くために必要なこと
海外で働くためには英語力はある程度必要だが、磨くなら現地に行ってからの方が良いと、岸本氏は言う。
「僕は渡英したとき、観光で通じる程度の英語力しかなかったので、英会話学校に通いました。現地の生きた英語を学ぶことができたし、学校にはフランス人やイタリア人など様々な国の人がいました。彼らと友人になれれば強い絆ができるので、そういう意味でも現地で英会話学校に行くのがお薦めです」(岸本氏)。
デジタルプロダクションの場合、現在はチャットでやりとりをすることが多いので、英語を話すことができなくても読み書きできるスキルがあれば、仕事にほとんど支障がないことも伝えた。
英語力を身につける他に、仕事のスタッフと打ち解けるためには、絵が描ける、プログラミングが速い、Photoshopのレタッチが速いなど、言葉なしでも伝わるスキルがあると楽なことも述べた。海外で働くためには、自分の武器になるものを磨いておくことも必要だ。
さらに岸本氏は、海外で働くための心構えとして、「人間を好きになること」と「素直さ」を挙げた。
「UNIT9には、日本人も何人か来ましたが、上手くいく人といかない人がいました。それは語学力の差ではありません。『この人、実は人があまり好きじゃないな』と感じる人は、上手くいかない。人を好きになるということは、相手に対して興味をもち、相手が何を考えているのかを想像して行動することです。笑顔で挨拶されたら、自分も笑顔で挨拶を返すとかね。『相手のことが好き』という気持ちは、英語ができなくても伝わるから、誰とでも仲良くなれます」(岸本氏)。
「素直さ」については、「海外に行くと、様々なところで常識のちがいに直面します。そのときに日本とちがうといちいち腹を立てていたら、やっていけない。この国ではこうなんだと素直に受け止められる人。人から何か言われても、まずは素直に受け止めてから考えられる人が、海外で働くのに向いている」と語った。
国境を越えてわかった、クリエイティブで大事なこと
最後に岸本氏は、「どんな『読後感』を与えたいか」を考えて作品をつくることが、クリエイティブの大事なポイントであることを述べた。「読後感」とは、コンテンツやアプリ、インスタレーションでも、それを体験した人が、どんなことを感じるかということ。これを制作前にチームで共有できていれば、軸がぶれることはないと言う。
そして、「読後感」を考えるためには、全世界の人々に共通する感情に目を向けることを説いた。国がちがっても喜怒哀楽の感情はみんな同じ。「例えば、ダジャレを言って爆笑するのも全世界共通です。誰もがもつ普遍的な気持ちを掘り下げていけば、必ず多くの人に伝わる表現やコンテンツをつくっていけると思う」と語った。
国境を超えるクリエイティブのインスピレーション【TTT.16】
日時:2019年6月19日(水)19:30〜21:30
場所:株式会社GIG
giginc.connpass.com/event/132583