>   >  年間250件のプレゼンを徹夜ゼロで実現した制作フローとは?〜「Tech Trend Talk Vol.16 国境を超えるクリエイティブのインスピレーション」
年間250件のプレゼンを徹夜ゼロで実現した制作フローとは?〜「Tech Trend Talk Vol.16 国境を超えるクリエイティブのインスピレーション」

年間250件のプレゼンを徹夜ゼロで実現した制作フローとは?〜「Tech Trend Talk Vol.16 国境を超えるクリエイティブのインスピレーション」

様々な分野で活躍するクリエイターやエンジニアをスピーカーとして迎え、最新の知見を深めるトークイベント「Tech Trend Talk」。同イベントは、東京でWeb制作などを手がける株式会社GIGが主催。同社を会場に定期的に開催され、6月19日(水)には、16回目のイベントが行われた。予定時間をオーバーして活況を呈したイベントの様子をレポートする。

TEXT_水溜兼一/Kenichi Mizutamari(Playce
PHOTO_久保 駆/Riku Kubo(Playce
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

年間250件の競合プレゼンに参加しても、徹夜作業はゼロ。その理由は?

今回、スピーカーとして招かれたのは、ロンドンに本社がある世界的なデジタルプロダクション「UNIT9」で、クリエイティブディレクターを務めた岸本高由氏。「国境を超えるクリエイティブのインスピレーション」と題し、UNIT9の仕事内容や日本のプロダクションとのちがい、日本人クリエイターが海外で活躍するために必要なことなどを語った。会場には多くのクリエイターが集まり、GIGの社員も岸本氏の話に熱心に耳を傾けた。

UNIT9は、広告制作をはじめ、ゲーム、映像、VRなど、デジタルクリエイティブを幅広く手がけているロンドンのプロダクションだ。ニューヨーク、ロサンゼルス、ベルリンにもオフィスを構え、グローバルに事業を展開。UNIT9が生み出すコンテンツはいずれもクオリティが極めて高く、世界三大広告賞(カンヌライオンズ、クリオ賞、One Show)をはじめ、世界的なアワードを多数受賞している。

  • 岸本高由氏/Takayoshi Kishimoto

    早稲田大学在学中から映画の助監督やPCゲームのスタートアップに携わる。卒業後、TYO Interactive Designにてデジタル広告などのディレクターとして活躍、2006年にロンドンに移住。デジタルプロダクション UNIT9のクリエイティブディレクター・インタラクティブディレクターとして、欧米のデジタル広告制作などを幅広く手がける。現在は、AOI TYO Holdingsにて事業開発研究チーム「Pathfinder」を率いている
    Twitter:@kishi_nihongo

岸本氏は、2006年から2014年まで、ロンドンの本社でクリエイティブディレクターとインタラクティブディレクターを兼務。様々な国から集まるデザイナーやプランナーなどを束ね、チームのマネジメントや作品のディレクションを行い、会社の経営戦略やブランディングにも関わった。2006年当時、スタッフは15名ほどだったが、9年間で100名規模にまで拡大。岸本氏はUNIT9のクリエイティブを牽引し、世界でも指折りのプロダクションに育て上げた立役者である。

企業のWebサイト、ブランド広告、美術館の展示用インターフェイス、デジタルゲームなど、岸本氏の仕事は多岐に渡る

UNIT9に加わって驚いたことの1つとして、岸本氏は「ピッチ(競合プレゼン)」の多さを挙げた。2014年には1年間に250件ものピッチに参加し、そこで勝ち取った50~60の案件を制作していた。年間の稼働日を考えると、ほぼ1日1本のペースでピッチに参加していたことになるが、徹夜したことは、ほぼなかったと言う。その背景には、制作体制の徹底的な効率化があった。

「打ち合わせのためにスタッフが集まることは基本的にありません。Googleハングアウト(チャットサービス)でディスカッションしながら、思い付いたアイデアをGoogleスライドにどんどん上げて、毎回30分ほどで企画やデザインの方向性を決めていく。アイデアがまとまらなくて、『各自一度もち帰って考えよう』ということもない。イケそうなアイデアが出たら、即断即決。一気に詰める。半日で企画書やラフデザインを仕上げて、プロデューサーがチェック。次の日がプレゼン。日本の制作会社にはないスピード感でした」(岸本氏)。

圧倒的な速さの理由には、アイデアの引き出しの多さもあったと思うが、スケジュール管理も含めてG Suiteをフル活用していたことは興味深い。さらに岸本氏は、デザイナーがPhotoshopなどソフトのショートカットを全てマスターしていて、驚くほど手が速かったことに衝撃を受けたそうだ。

制作実装フローを2段階にわけ、さらなる効率化を図った

ところが、制作実装の段階になると、クライアントからの修正指示がたびたび入り、作業に時間がかかることが多かった。さらに、「UNIT9はテクノロジー面でいつも新しいことにトライしていたので、納期が読めないこともあった」と、岸本氏はUNIT9に加わった当時の状況を振り返った。

制作に時間がかかれば、当然コストもかかる。そこで岸本氏らは、制作実装フローを「ディスカバリー」「本制作」の2つのフェーズに分割。クライアントを説得して、それぞれ制作費を請求できるようした。

「ディスカバリーフェーズ」では、例えば制作の総予算が1,000万円としたら、その10%に当たる100万円だけを先にもらい、プロトタイプなど、MVP(Minimum Viable Product/実用最小限の製品)を制作。技術的に実現可能なのか、納品までどれくらいかかるのか、予算の範囲内でできるのかなどを検証。このフェーズを設けることで、制作スタッフが設計を見直せるメリットがあっただけでなく、クライアントには作品のイメージを具体的に掴んでもらうことができた。これにより、「本制作フェーズ」では、修正指示をあまり受けることがなく、作業がスムーズに進んだ。

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