<2>シーンメイキング
フットワークの良さとハイクオリティを両立させる
CG・VFXチームは仲山氏を中心とした3名。髪を専門に行うのが1名、テクスチャやモデル調整が1名、仲山氏自身がHDRの検証や全体をディレクションするという座組だ。コンポジットは、3氏を中心にアタリのデジタルアーティストがその都度、担当しているという。当初はデザインが決まっていなかったため、髪や肌の質感の検証が先に進められた。その後、デザインFIXのタイミングで頭部モデルをブラッシュアップ。その際は、アタリが独自にストックしてきた3Dモデルのデータベースを利用することで効率化が図られた。このデータベースは同一トポロジーで作成されたデータであり、各データをブレンドシェイプで組み合わせることで新しいモデルを作成することができるそうだ。同様に肌テクスチャもライブラリ化されている。スキャン時にデータが不十分だった部分は、シェイプ・テクスチャ共にデータベースを利用して補間された。このシェイプをブレンドするという工程のおかげで、フィードバックに対するレスポンスもかなりスピーディに行えたという。とはいえ、MEMEが目指す"典型的な美人ではないけれど何だか気になる"顔を創り出すにはかなりの試行錯誤を重ねたそうだ。「なかなか難しかったです、ブサイクに寄りすぎてしまったり整い過ぎてしまったり(苦笑)。その点に関しては、アートディレクターの松下さんやディレクターの橋爪さんから女性ならではの意見をもらえたことにも助けられました」(神林氏)。
レンダリングシーンの作成では、シーン内でイメージプレーンを用いてモデルの位置合わせを行う。表情はブレンドシェイプで近い形状にまでもっていき、髪や目の微調整を行う。ライティング環境の再現は、ベースとなるモデルを撮影する際に、可能なかぎりHDRI素材も撮影しているとのこと。RICOH THETA Sを使い、露出の段階は最大数で撮影。計13枚撮影し、Photoshopのフォトマージで1枚に統合。作成したHDRIだけでバウンスのライティングを再現できない場合は、シーン内に簡易的なオブジェクトを配置したりしながら調整しているそうだ。レンダリングにはV-Rayを使用。基本的にはシンプルにビューティパスのみで、必要に応じてデプスやマスクとして用いるIDパスも書き出す。レンダリングは基本的に4Kで行なっており、アップショットでは8時間も要することがあるそうだ。レンダリングイメージに対して、PhotoshopやLightRoomでシャドウやハイライトの細かい修正をして、リファレンスの写真に近づけていく。コンポジットワークは、撮影したときの背景だけの素材をベースに行われる。なお、ポスト処理はフォトグラファー森氏の領分となっている。こうした一連のCG・VFXワークは、写真1枚につき3~5時間ほどで済まされるというから驚きだ。レンダリング時間が別途求められるとは言え、このスピーディさがMEMEのコンセプトのひとつである「その場のノリを活かすこと」に貢献していることはまちがいない。「表現としては、さらなるリアリティの追求を。チャンスがあればリアルタイムで動かすことにもチャレンジしたいですね」(仲山氏)。
痣の表現
痣については、ベースの肌とは別に一連のテクスチャ素材が作成された
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顔に痣をもっている方に協力してもらった、フォトグラメトリーによるスキャン画像。diffuseテクスチャの素材となる
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スキンmaterial (alshader)のsss1、sss2アトリビュートに使われているテクスチャ
スキンmaterial(alshader)のsss3アトリビュートに使われているテクスチャ。なお、SSS用テクスチャはcolor correct nodeも繋がっているため、本来の色味、色相から少し異なる
リフレクションのテクスチャ素材
顔メッシュのdisplacement mapノードグラフ。displacementマップは複数種類を組み合わせている(meme_displacement.exrとmeme_displacement_add.exr)。例えば、本誌カバーアートの場合は、シワを寄せている部分、顎が手にあたって変形しているところなど
スキンマテリアルのノードグラフ。メイク用には別マテリアル(mtl_meme_makeup)を使い、blendmaterial(vray)でスキンマテリアル(mtl_meme_skin3)と重ねている
カバーアートのメイキング
掲載号(CGW253)カバーアート向けメイク表現用テクスチャ例
メイクが濃く付けられた追加テクスチャ。先述したノードグラフ「mtl_meme_makeup」に繋がっている「meme_face_pattern_diffuse」に該当する
Photoshop上のパターン
ライティング作業の例
スチール撮影時のスタジオ環境
バウンス用のメッシュオブジェクト(机、マットなカード、腕)が配置されたビューポート表示。「影を付けたり映り込みのために置いています。場合によって、写真からオブジェクトにマテリアルとしてプロジェクションしています」(仲山氏)
森氏によってレタッチが施されて完成となる