原作の担当編集も参加した格闘アクション撮影
内山:今作の一番のポイントは、やはり格闘アクションのロケ撮影ですね。
福島:絵コンテが上がってから格闘アクションのロケ撮影をして、それをやった後でカッティングという流れです。アニメーターはカッティングされた映像を見ながらアニメーション作業に入っていきます。
内山:アニメーションをつけた後にまたカッティングがあったりしつつ、ダビング・音入れがあって、V編と続いていきます。
福島:格闘アクションロケは、実際に格闘技経験のある方をお呼びして、殴り合ってもらいました。どうしてモーションキャプチャじゃないかというと、機械をつけたら体に当てることができないんですよね。監督としては、当てた画、当てた動きを撮りたいということで、ヘッドギアとグローブを着けて、安全面を確保した上で本気で殴ってくれと。
格闘アクションロケの様子(『アニメCGの現場 2020』より)
内山:20〜30本くらい撮りましたね。
西入:撮った後に、倍速にした上でモーションのアタリにしています。
福島:殴り合うだけでなく、投げてもらったりもして。いろいろ参考になりましたよね。単発のアクションだと、サンドバックを構えて本気で一撃、というのも参考にしました。あとは人間に対して不可能な「トンデモ技」は人形で再現しています。
内山:この人形はもともと『クズの本懐』(2017)の絡みのシーン用に用意したものなんですが、それがこういうふうに使われてしまいました。本来はもっと優しいシーンに使われる子だったのに、『ケンガンアシュラ』の方が遥かに使用頻度が高かったですね(笑)。
西入:アクション映像があったことで大きかったのが、殴り続けるアクションのときですね。この映像がなかったら、左撃って・右撃って・脚が出て......みたいなコンビネーションをアニメーターが考えなければいけなかったので。
内山:原作の編集担当の方も空手経験者で、撮影に協力いただいたんですよ。編集者さんなので、流れや意図を誰よりも理解しているんですよね。実際にアニメで動かしたら漫画通りにいかないことが結構あるんですけど、アニメならこう変えても大丈夫という判断を同時にしてもらえて。アニメのアクションとしておかしくないだけでなく、格闘としておかしくないという判断も同時にしてもらえたので良かったです。
西入:現役の格闘家の方に来ていただいたときは、拳が大きくて当たったら怪我しそうでした。こういう方が来ると迫力がすごく伝わるので参考になりました。
内山:特にこの作品はおかしな身長のキャラクターが出てくるので、ご協力いただく方も身長を意識してオファーしていました。
福島:いろいろなことを試しながらやったので、いろいろ無駄にもなったところもありましたけど、結果的には良かったですね。
内山:弊社の2階で撮影していたので、下の階の森田さんから毎週毎週、うるさいと怒られましたけど(笑)。
福島:一生分殴り合った気がしますね。
西入:そうして撮った映像を参考にフルコマで素材をつくって、AEで抜いて、変則的なコマ打ちになっています。
福島:現場的にはここまで動かさなくても見せる方法はあるんじゃないかなと思いつつ、撮影した動画の動きがあるので、結果的に逃げ道があまりなくなっていました。
内山:監督もあまり逃げる気がなかったですね。
福島:今作では、足の動きを止めてエフェクトで表現、みたいな画はなくて。殴る・食らう・ガードを見せたいというねらいがありました。
成田:20話に関節技を取り合うシーンがありまして、すごく印象に残っています。関節を取っているけど、アクション監督にこの取り方は痛くないのでこういう取り方をしてとか、細かく見ていただけて、本当に作業者のレベルを上げていただいて良かったなと。
福島:なんどの戦いは新鮮でしたね。
内山:髪が動くキャラクターがいるくらいなので、正直リアルファイトじゃなくて良いんじゃないかという話もあったんですけど、監督がどうしてもリアルファイトにしたいということで......。カット的にも経済的にも重いことにはなってしまったんですが。
福島:話数予算は200カット分しかなかったんじゃないのかと! 次にやる作品はビームの打ち合いが良いな(笑)。
内山:かなり大変でしたけど、とても勉強になりました。
西入:本当ですね。スタッフがみんなすごく上達しました。
福島:アニメーションは向き不向きを考慮して振り分けていました。女性キャラの繊細な動きは女性スタッフにといった感じです。
内山:アクションをやりたいと言われたときにはシーン単位で振ってみたりと、フレキシブルにやっていましたね。
福島:後は殴られたときの肉の変化をやりたいと言われていたので、殴られた顔については、モーファーと微調整用コントローラで、カットごとに対応しています。
内山:まず、原作マンガからこの顔を使う・使わないと精査して、表情のモーファーをつくっています。原作ではかなり崩した顔が出ることが多いので、対応できるようなコントローラを事前に仕込んでいますね。最終的に作画を被せることもできるように下準備だけはしてありました。
福島:他に大変だったところはありますか?
西入:個人的には因幡の回(11話)のCGディレクターを担当したので、髪の流れの表現が大変ではありましたね。体の動き自体はアクション撮影の動画があるので付けられるけど、髪の流れは誰ひとりわからないので......(笑)。結局、ハッタリでやったのが良い感じになりました。
内山:まっすぐの毛をセットアップして、Spring Magicで追従させて動かしています。
因幡の髪の毛のボーン参考(『アニメCGの現場 2020』より)
福島:根元はボーンにはスクリプト適用せず、めり込みを防ぐように誤魔化しつつ作業しました。リアルさというより、ここでは記号的なものなので、フサフサしていればそれで良いと。
西入:実は髪が地面に垂れ下がって止まっているときの方がカット的には大変でしたね、
内山:因幡はモデリングしていたときからどうしようかと思っていましたけどね。最終的には格好良いかたちにしていただきました!
成田:私たちとしては、大変だったのは雨ですね......。弊社スタッフに「何で雨が降るんだ!」と怒られました(笑)。
福島:雨はAEで、拡散で散らして再現しています。ラークス側ではそれだけで良かったんですけど、exsaさんの方で地面の雨の反射までつくっていただきまして。
成田:地面にも降らなきゃおかしいでしょ、となりまして......。
福島:頑張っていただきました!
内山:後は大変とは違いますけど、見どころという意味では、特殊回想シーンですね。
福島:本来は3Dモデルをつくるのも大変だし、作画で画を動かすのも大変だから、止メ画にできないかというところから始まったんです。
内山:何とかお金がかからないようにしようと進んでいたんですけど、結局監督という人たちが、ああしたい、こうしたいと言い始めて......。最終的にはサイクロングラフィックスさんにお願いすることになりました。
福島:きっと断られますよって言っても、やだ、あそこが良いと。ダメ元でお願いしたら受けていただけて、すごいものが上がってきました。
サイクロングラフィックスが担当した特殊回想シーン(『アニメCGの現場 2020』より)
内山:カロリーOFFの予定だったのに凝ったものになりましたね。こういうものをつくれる会社さんはなかなかないので、お願いしてすごく良かった。これのおかげで作品全体がリッチなものになったなと。
福島:サイクロンさんのカットは、スケジュールに乗せてもらわないと困るという意向もあり、最優先で進めました。
内山:サイクロンさんに「やらない」と言われたら終わりなので。絵コンテもサイクロンさん担当のカットはスケジュールが別でした。本編は上がってないけどサイクロンさんのところだけありますみたいな(笑)。サイクロンさんが以前制作されたTVアニメ『DRIFTERS』(2016)のOPも良くできていて、ああいったクオリティを結構な本数つくっていただいて良かったなと思っています。
福島:今回の作品をやって、世間ではCGアニメに抵抗があるという声が多いけど、一方で観てみたら良かったという声もあったので、安心しました。何かしらアニメに貢献できたという気持ちがありますね。
内山:そうですね。ジャンルとしてこういうアニメもあるというのは提示できたかなと思いますね。
福島:実はセルルックのCGは、止メという意味では何年も前から完成しています。今回は動きで詰めています。何年もすれば作画に近いCGアニメができていくと思っている。
西入:作画で濃い画を描ける人の高齢化もあって。
内山:今はこういう濃い画を描ける人がいないからこそのCG制作というのもある。こういうジャンルが盛り上がると良いなと思います。
福島:続編もあったりなかったり?
内山:やりたいという話はあります。監督から「実はこういうのやりたかった」といろんな要望が出てきそうで大変だとは思いますが......。期待していてください!
豪華スタッフ陣による座談会、いかがだったろうか。本作の最大の魅力である迫真のリアルファイトへのこだわりとその影に潜む努力。驚くほど実際の組み手に忠実なアニメーション、またそれを表現の域へと押し上げるための工夫があるからこそ、『ケンガンアシュラ』は観る者の血を滾らせるのだろう。そしてなにより、スタッフ陣がただ監督に従うのではなく、それぞれが最善を尽くし、時には監督ともぶつかり合うという環境が、本作のような新しい色のアニメを生み出したのだと感じた。今後の展開を期待できる言葉も飛び出し、ますます目が離せない『ケンガンアシュラ』。王馬の拳はどんな未来を切り拓くのか。その行く末にぜひ注目していただきたい!
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