>   >  人の手とハイテクの融合で作り上げた『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』メイキングレポート〜SIGGRAPH 2020(2)
人の手とハイテクの融合で作り上げた『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』メイキングレポート〜SIGGRAPH 2020(2)

人の手とハイテクの融合で作り上げた『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』メイキングレポート〜SIGGRAPH 2020(2)

■惑星キジーミの雪の街

ジョセフ・カスパリアン:Hybrideのジョセフ・カスパリアンです。惑星キジーミの雪の街についてお話しします。街のセット撮影は全てロンドンの Pinewood Studiosで行われました。我々が担当したのはセットエクステンション(※3)で、ILMから提供されたツールをベースに構築していきました。ハイディテールな建造物のライブラリを読み込み、スキャタリングツールによって増やしていきます。また、カメラからの距離によってLODも設定しています。市街地のショットでは、デプス感を出すためにフォグや舞い散る雪、暖炉の煙などのアトモスフィア素材を足しています。景観ショットではフォトグラメトリによって得られた山脈データを読み込んで構築し、街を包む雲は中景・遠景などを感じさせる重要な役割を果たしており、ライトスキャタリングやディフュージョンによって夜の景観をよりスタイライズさせました。

※3 セットエクステンション:撮影された部分的なセットが遠方まで続くかのようにデジタルで延長すること

レイがTIEファイターを燃やしてルークに出合うシークエンスはロケ地に組まれたセット撮影ですが、これをセットエクステンションさせる必要がありました。ロケ地で撮影した写真を基に、マットペインティングを組み合わせた2.5次元で表現しています。TIEファイターの炎や煙もデジタルで追加してより効果的に仕上げています。ちなみに、焦げた金属のテクスチャはMARI、炎や煙はHoudiniによるものです。


■バブ・フリックはパペットだった

ニール・スキャンラン:クリーチャー・スーパーバイザーのニール・スキャンランです。私はバブ・フリックについてお話しましょう。こういうプラクティカルなクリーチャーの撮影に苦労はつきものです。バブ・フリックは、全身グリーンを着た3〜4人のパペッターが手で操作しています。つまり、撮影された映像の背景は緑の3人衆が占めているということで、彼らを画面から消し去る苦労は並大抵なことではありませんでした(笑)。10〜15年前ではこの技法は不可能だったかもしれませんが、これによりオーガニックな動きが実現しているのです。また、バブ・フリックの頭部には25種類の精巧なモーターが仕込まれており、ラジコンで操作により口や目、表情のコントロールが可能です。このように、オーガニックとハイテクの融合によって、バブ・フリックに生命が吹き込まれたのです。


■海のシークエンス

ナイジェル・サムナー:ILMシンガポールのVFXスーパーバイザー、ナイジェル・サムナーです。我々ILMシンガポールのチームが海のシークエンスを手がけたのですが、墜落して破断したデス・スターを囲む海はフルデジタルで構築されています。エピソード6(『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』/1983)から30年後という設定で、まずはコンセプトアートが起こされ、空から印象的な光が差し込んでいるデス・スターの破片と大海原、デス・スター内部などのデザインが用意されました。デス・スターのキーシェィプに関しては、アーカイブと呼ばれる過去に撮影されたミニチュア保管庫を訪問し、ミニチュアを観察してアイデアを得ています。

さて海のショットですが、当初の予定では40ショットほどの予定でしたが110ショットに膨れ上がりました。レイとカイロ・レンのライトーセーバー対決シークエンスは、Pinewood Studiosにブルースクリーンで取り囲んだ18メートル長のセットが組まれ、周りから2人に向かって水をかけたり風を吹き付けながら撮影して臨場感を出しました。


■海面の表現

ニコ・デルベク:ILMシンガポールのエフェクト・スーパーバイザー、ニコ・デルベクです。技術がある程度進歩した今日でも海の表現は依然としてチャレンジングです。まずは実際の海面の写真などを観察することからスタートし、チーム内のコミュニケーションを円滑にするために、特徴的なパーツに「スプレー」、「ミスト」、「チャーン(飛沫)」、「フォーム」といった名前を付け、コンセプトアートをベースに可能な限りリアルにつくる必要がありました。海面のシミュレーションはカメラからの距離で6段階ほどのLODを設定し、各レイヤーで可能な限り解像度を低く保っています。巨大な波はカーブをベースにプロシージャルにコントロールしました。この波から大気の流れをシミュレーションしミスト等の動きに流用。波の頂上で決壊する波しぶきは、ジオメトリベースでプロシージャルに容易にコントロールしています。ここに先ほどの大気の流れ情報を使って水飛沫のシミュレーションを5レイヤー計算しました。海はこうして出来上がったのです。


■海面のシミュレーション

フランシス・マクセンス・デスプランク:エフェクトリードのフランシス・マクセンス・デスプランクです。速度、高さ、向き、シャープネス、波の間隔など、HoudiniのOcean Spectrum ノードを用いてショットごとに調整することで、ねらった結果を得ることができました。波の高さは24メートルにもおよび、数ショットでテストをして感覚を掴んでから、バランスやリアリズムを考慮しつつ各エレメントを仕上げていきます。アニメーターのように、海面をヒーローキャラクターとして動きをつけていったのです。各ショットを1人のアーティストが担当し数週間を要しました。


■レイとカイロ・レンの戦い:ホワイトウォーター

ゴンガロ・カバカ:エフェクトリードのゴンガロ・カバカです。私はホワイトウォーターについてお話ししたいと思います。チャレンジだったのは、レイとカイロ・レンが戦う建造物と海面の衝突&干渉です。波が防波堤にぶつかると、ホワイトウォーターは海面からの圧力で噴き上がった後に落下します。海面自体はさほど形状に変化はなく、ベロシティを用いてホワイトウォーターの噴き上げをコントロールしました。また、ショットごとにシミュレーションのプリロールを行い、最初のコマで充分な量を得る必要もあったので、各シミュレーションはレンダーファームでディペンデンシーを設定。シミュレーション1つあたり3時間程度で終わるようにして、1晩で全てのシミュレーションが完了するように工夫しました。またコントロールするパラメータをなるべく減らし、アーティストが調整しやすいようにしています。


■若きルークとレイアの回想シーン

タニ・カーター:リードコンポジターのタニ・カーターです。 若きルークとレイアの回想シーンについてお話しします。2人のトレーニングシークエンスはブルースクリーンのセットで撮影され、ジャングル風の木が茂っていました。テスト映像をつくった後にレイアウトアーティストと相談して、空間を埋めるためにブルースクリーンの背景にはGen(ILMにおけるエンバイロンメント・チームの部署名)がつくったたくさんの木々を入れることに。VFXスーパーバイザーのロジャーは「後でコンポジターの手間が増えるように、撮影時にスモークを焚いてやった(笑)」と言ってましたが、おかげでCGの木とのデプス感をマッチさせなければなりませんでした(笑)。これにFX部門からのライトセーバーのエフェクトや火花などを入れ、よりエキサイティングに見えるようにフレアも足しています。ルークのブルーのライトセーバーが地面に転がるショットは、途中でCGのライトセーバーに差し替えて拾い上げを行なっています。ルークとレイアの顔は、過去作からの実写プレートを3Dモデルに投影したものですが、ライトセーバーの反射等があるので、ライトの向き等の調整が難しかったです。


■エクセゴルにおける最後のバトル

カリン・クーパー:CGスーパーバイザーのカリン・クーパーです。エクセゴルにおける最後のバトルについてお話ししましょう。エクセゴルにおける最後のバトルは、映画の中でも重要なシークエンスでした。特に、ランド・カルリジアンが膨大な数の宇宙船を率いて駆け付けるハイライトシーンは16,000種類の宇宙船から成り、デジタルデータとして現存する全ての船を流用し53種類の宇宙船を新たに制作しています。また、1,000機のスター・デストロイヤーにフォーメーションを組ませる必要もありました。 また、司令船が地面に激突する複雑なショットもあります。デストロイヤーのCGモデルは、破断に備えて内部も精密にモデリングされていて、エフェクトチームは、炎、爆発、火花などをつくり、自社開発のソルバで爆発が生成されました。司令船上でのバトルでは16,000の戦艦が登場し、レンダリングには840万コア時間と膨大な量のレンダリングを要するため、メモリ量の事前予測などのオプティマイズが重要でした。2020年現在の最新ラップトップ1台のみで計算させた場合、970年かかることになります。


■エクセゴルにおけるバトルのアニメーション

リー・マクネア:ILMバンクーバー アニメーション・スーパーバイザーのリー・マクネアです。 私はエクセゴルのバトルのアニメーションについてお話しします。エクセゴルでのバトルはチャレンジの連続でした。膨大な数の戦艦や宇宙船が登場する中でのアクションシーンや、ドッグファイトのコリオグラフィも難しい課題でした。スーパー・スター・デストロイヤー司令船上でのバトルでは、空には1,800機近くものスター・デストロイヤーが登場します。ポー・ダメロンのXウィングが飛び交い、様々なことが起こります。司令船の艦橋爆発ショットでは、アニメーション、ライティング、テクスチャ・カード、nClothによるシミュレーション、などなどが実写プレートのタイミングに寸分もたがわず構成されています。また、司令船のデッキを走る馬は、本物の馬を顔面だけCGで差し替えているのですが、馬の顔面にはマーカーが貼られマッチムーバーがトラッキングを行い、アニメーターが馬のフェイシャルをアニメートしています。


■サンドクローラーは、ミニチュアによる遠近法トリック撮影

ロジャー・ガイエット:VFXスーパーバイザーのロジャー・ガイエットです。最後に遠近法トリック撮影(Forced Perspective)についてお話しましょう。映画の最後に一瞬サンドクローラーが登場するのですが、前述したアーカイブにはサンドクローラーのミニチュアがありました。これを見て、伝統的な遠近法トリック撮影を使ってみてはどうかと思ったのです。この特撮技法は古く、使用例としては『ダービーおじさんと不思議な小人たち』(1959)などが有名です。このアイデアは、原寸大で30メートルのサンドクローラーを、もし3メートルのミニチュアでつくった場合、実物を撮影したときよりも10倍カメラに近づけて撮影すれば画面の中では原寸に見えるというトリックで、ロケ地にアート部門がつくった高さ60センチのミニチュアを持って行き、現地の子どもたちが演じるジャワと一緒に撮影しました。これに、サンドクローラーの上部に、斜めに差し込む夕日を足して完成です。『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』のVFXはこのように制作されています。


  • 『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』
    MovieNEX発売中、デジタル配信中
    © 2020 & TM Lucasfilm Ltd.
    発売:ウォルト・ディズニー・ジャパン

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