SIGGRAPH2020期間中に開催されたProduction Sessionsでは、ハリウッド映画のメイキングが連日披露された。今年も興味深いテーマが目白押しであったが、レポートの第2回は「ILM Presents: The Making of Star Wars: The Rise of Skywalker(ILMプレゼンツ~『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』メイキング )」の模様をお届けする。講演の中で紹介されたクリップや映像がないと理解しにくい部分もあるかと思うが、補足も加えつつわかりやすく紹介してみたので、少しでも当日の模様を楽しんでいただければと思う。
著者注:『スター・ウォーズ』シリーズには、日本のメディアにおける作品名や記述方法に規定がある。しかし本稿では、アメリカのコンベンションであること、また、ILMの現場で伝統的に使用されている名称、そしてパネラーの発言とProduction Sessionsでの臨場感をそのままお伝えすることを目的に、パネラーの言葉はあえてそのままカタカナもしくは英語で記載させていただいた上で、日本語での規定表記も追記している。
TEXT_鍋 潤太郎 / Juntaro Nabe
EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE)
『ILM Presents: The Making of Star Wars: The Rise of Skywalker(未知への冒険〜『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』メイキング)』
▲VFXスーパーバイザー/パトリック・トゥバック(Patrick Tubach)
© 2020 ACM SIGGRAPH / Lucasfilm Ltd.
パトリック・トゥバック:VFXスーパーバイザーのパトリック・トゥバックです。この映画でのVFXは1,900ショットで、デジタルの群衆、エンバイロンメント、スペースバトル、プラクティカル(撮影時に実物を用意して撮影すること)とデジタルキャラクター、クリーチャーや宇宙船、そして複雑なシミュレーション等が含まれます。例えば、スピーダーチェイスのシークエンスでは、プログラムでコントロール可能な、フライトシミュレーターのようなモーションベースのセットも構築されました。また、『スター・ウォーズ』シリーズの伝統的な撮影手法であるミニチュア撮影によるサンドクローラーや、ミニチュアのハイスピード撮影によって表現した惑星キジーミの爆発シーンなどがあります。
▲惑星キジーミの爆発はミニチュアの高速度撮影だった
© 2020 ACM SIGGRAPH / Lucasfilm Ltd.
デジタルエンバイロンメントも多用されています。冒頭のアイストンネルでのバトルや、レジスタンスの惑星のジャングルにおけるレイのトレーニングシーン、デス・スター内部、シスの惑星などです。スピーダーチェイスにおけるシークエンスのエンバイロンメントはフルデジタルで構築されましたし、ケフ・ビァでのデス・スター周囲の海面もデジタル、そしてエクセゴルにおけるスーパー・スター・デストロイヤー司令船上でのバトル等などがその例です。レイア姫とレイがハグするシーンは、既に撮影されたフッテージをデジタルダブルにブレンドさせ、別途撮影した背景と差し替えています。このシーンの背景プレート撮影では、モーションコントロールカメラが活躍しました。クリーチャーチームは過去のスター・ウォーズの伝統を引き継ぎ、一輪車のD-O(ディオ)やバブ・フリックはパペッターが操作するプラクティカルのキャラクターです。マズ・カナタはプラクティカルのアニマトロニクスですが、彼女の動きはモーションキャプチャスーツを着た俳優の演技が、リアルタイムでアニマトロニクスに反映されました。砂漠の惑星パサーナで踊るアキ=アキ星人は俳優が演技していますが、群衆はシミュレーションによるものです。プラクティカルとデジタルのアプローチを組み合わせて使っているのがパルパティーンや馬などです。
『スター・ウォーズ』である以上、バトルシークエンスは外せません。膨大な数の宇宙船が登場しますが、これに対するアニメーションとコリオグラフィ(※1)も必要です。海面シーンは本作で最も複雑なシミュレーションが必要とされたシークエンスでした。カメラからの距離に応じてLOD(※2)等も必要となりました。他にも黒い砂に沈んでいくシーン、TIEファイターを飛び越えるレイ、地面に激突しながら大破するスター・デストロイヤー、レイとパルパティーンとの対決......、様々なチャレンジがありました。リアルとイマジナリーの境界を埋めるべく、レンズを通して撮影した映像とポストプロダクションによるデジタルテクノロジーを洗練された手法で組み合わせることで、目の肥えた観客やファンの期待に応えるべく、シリーズ最後を飾るに相応しいハイレベルな映像の実現に挑んだのです。
監督のJJ(J・J・エイブラムス)は、ご存じのようにエピソード7(『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』/2015)の監督ですが、エピソード4(『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』/1977)の「DNA」を踏襲し、シリーズを通して共通した世界観や映像の説得力を求めました。また撮影時に可能な限り多くの要素を撮影するという方針を採り、主要撮影は2018年5月から2019年2月にかけて行われ、ポストプロダクションは2019年3月から11月までの8ヶ月という短い期間で完成しました。
※1 コリオグラフィ:動きの演出 ※2 LOD:レベル・オブ・ディテール。カメラからの距離に合わせてポリゴン数を段階的に減らしていく手法
▲左から時計回りに、モデレーター/ジョン・カライジャン(John Kalaigian)、VFXスーパーバイザー/ロジャー・ガイエット(Roger Guyett)、ポール・カバナー(Paul Kavanagh)、VFXプロデューサー/ステーシー・ビッセル(Stacy Bissel)
© 2020 ACM SIGGRAPH / Lucasfilm Ltd.
■VFX作業の全容
ステーシー・ビッセル:エピソード9(『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』)のVFXプロデューサーのステーシー・ビッセルです。私のチームは、時間通りに全ショットを完成に導くというミッションがありました。初期の脚本が届きブレイクダウンをしてみたところ、VFXは2,000ショットありました。ILMにはサンフランシスコ、ロンドン、バンクーバー、シンガポール、そしてシドニーにスタジオがあるのですが、それに加えてグローバルサードパーティ・パートナーであるVirtuos、Hybride、 Important Looking Pirates(ILP)、Base FX、Ghost VFX、Yannix、 Stereo DといったVFXスタジオにシークエンスを割りふって作業を進めていきました。
■スケジュール管理
シバニ・ジャベリ:エピソード9のプロダクションマネージャー、シバニ・ジャベリです。私に課せられた任務は、時間通りにショットを完成させていくことにありました。スケジュールを考慮すると、毎週100〜200ショットをファイナル(納品)までもっていかねばなりません。もし遅れが生じれば、「ドミノ倒し」現象が起こり、どんどん次の週に影響が出て来るので避けなければなりませんでした。
■アイストンネルでのバトル
ジェフ・カポグレコ:ILMシンガポールのVFXスーパーバイザー、ジェフ・カポグレコです。私はアイストンネルでの、ミレニアム・ファルコン号とTIEファイターのバトルについてお話しします。まず、アート部門が精細なコンセプト・アートを起こします。そしてプリビズで有名なThe Third Floorが、JJの意見や編集タイミングを反映させた、画的にかなり完成度の高いプレビスをつくります。この段階で、シークエンスを通したカメラの動きや宇宙船のスピードが固まります。
このシークエンスでのミレニアム・ファルコン号の平均時速は時速2,092km/hですから、いかに見せていくかが鍵となる訳です。トンネルの中は、構造物やパイプ等が似通って見えないよう、それぞれの場所でユニークなフレーバーをもたせる必要があります。最も大切なのは氷に見えること。膨大なポリゴン数で氷の壁を表現し、ライトの配置にも細かい配慮がされています。そしてスキャタリングや屈折、ディスプレイスメントなどがモーションブラーを経て最終的な画になります。一瞬で破壊される建造物も壊れる順番などが詳細に設定されているんですよ。
■女優キャリー・フィッシャーによるレイア姫
パトリック・トゥバック:ここでレイア姫のシークエンスについてお話ししたいと思います。JJはキャリー・フィッシャーが、この作品においていかに重要であるかを強調していました。プロダクション初期からJJが言っていたのは「レイア姫の演技は、"CGバージョン"ではダメなんだ。キャリー・フィッシャー本人の演技によるレイア姫。これこそが重要だ」ということでした。そのときはまだ具体的な技法が確立していませんでしたが、JJはロジャーと私、そしてILMのチームを完全に信頼していました。
撮影を始める前に、エピソード7(『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』)とエピソード8(『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』/2017)のときに撮影されたキャリー・フィッシャーの未使用ショットを繰り返し観て、ストーリーボードを仮編集に組み込みタイミングを詰めていきました。エピソード9でのレイア姫は過去作とは髪型と衣装が異なります。撮影ステージで、スタンドインの俳優を撮影した映像に顔面を合成するテストも行いましたが、人間がもつ自然な動作は大変微妙で、この手法では自然に見せることが非常に難しいということがわかりました。ILMロンドンのチームがこの難題に挑戦し、キャリーの動きを完璧にトラッキングしたエピソード9の髪型と衣装のデジタルダブルにキャリーの顔面をレンダリング&ブレンドさせる技法を生み出しましたが、これもまた非常に困難なタスクでした。また、初期のテストの段階からキャリーの各ショットのレンズを調べ、プレート撮影の際にはパースペクティブが合致するようにして、ショットの中に彼女が本当にいるかのような感覚を違和感なく実現したのです。
これらショットの背景用プレート撮影では、モーションコントロールカメラが使用されました。その際、テックビズを活用して正確なカメラ位置とアングルの算出、そしてエピソード7の撮影監督ダン・ミンデルと照明のペリー・エバンスの協力を得て、撮影当時の照明環境を再現して同じライティングになるようにしました。もしライティングが合わなければ、このシークエンスがストーリーを語るという側面において成功は望めません。作品を観た観客が「キャリーが亡くなったのにどうやって撮影したんだろう」という興味ではなく、ストーリーに強い興味をもってもらって画面に引き込んで楽しんでもらえたなら、こんなに嬉しいことはないですね。
■スピーダー・チェイスのSFX
ドム・トゥオイ:スペシャルエフェクツスーパーバイザーのドム・トゥオイです。私は撮影時に行う特殊効果(SFX)の担当で、砂漠でのスピーダー・チェイスのシークエンスについてお話ししたいと思います。このシークエンスでスピード感を出す難しさは撮影前からわかっていました。プリビズが上がり、それから我々は6軸の油圧制御のモーション・ベースによるスピーダーを制作しました。セットにレールを敷いてそれによって浮揚して左右に移動するような動きを実現しています。ティルトとヨーもでき、プリビズに合わせて後からロールをつけることも可能でした。
■パサーナ砂漠
ジョン・セル:エンバイロンメント・スーパーバイザーのジョン・セルです。私からはパサーナ砂漠の構築についてお話しします。我々の使命は、スピーダー・チェイスにライフ(リアル感)を与えることにありました。このシークエンスでは『スター・ウォーズ』にふさわしい高速度のチェイスが継続できるような、広大な砂漠のロケ地を探す必要がありました。主要な背景用のプレート撮影は、砂漠のロケで撮影されました。スピーダーはアート部門のプロダクションデザイナーがデザインを起こし、それを基に実物大のスピーダーがつくられ、モーションベースに固定されました。俳優を乗せた撮影はセットではなくロケ地で行われ、現地の太陽光や風による自然な雰囲気が撮影されたのですが、セット撮影だけではこうしたリアリティが失われてしまうことでしょう。また、様々なリファレンス画像も現地で撮影できます。
ロケ地ではドローン撮影によるフォトグラメトリを行い、現地の山々を高解像度の3Dジオメトリで再現しました。その際、HDRI対応のテクスチャも現地で撮影したのですが、実在する砂漠地帯をコンピュータ内で完全に再現することができ、チェイスシーンを構築し始めました。これにはMetashapeを使用。Metashapeのアルゴリズムは、採取した膨大な画像を解析し、高解像度の3Dジオメトリ、UV情報、HDRIテクスチャを生成するなど、これらをMayaやNukeに読み込んで作業しました。エンバイロンメントのメインレイアウトツールにはClarisseを使いました。Clarisseの強みの1つは、膨大なポリゴンを読み込みすぐさま表示してレンダリングできることです。膨大な岩を配置する際にはスキャタリングツールが役立ちましたし、手作業による山脈のレイアウトが容易にできる点も強みでした。デジタルアセットはエフェクト部門にパブリッシュされ、煙や爆炎等が生成されました。また、ILMのDMS(デジタルモデルショップ)は様々な植物やスピーダー、デジタルスタンドイン等をモデリングし、エレメントはライティング部門に引き継がれ、 KatanaでRenderManによってレンダリングされました。
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■惑星キジーミの雪の街
ジョセフ・カスパリアン:Hybrideのジョセフ・カスパリアンです。惑星キジーミの雪の街についてお話しします。街のセット撮影は全てロンドンの Pinewood Studiosで行われました。我々が担当したのはセットエクステンション(※3)で、ILMから提供されたツールをベースに構築していきました。ハイディテールな建造物のライブラリを読み込み、スキャタリングツールによって増やしていきます。また、カメラからの距離によってLODも設定しています。市街地のショットでは、デプス感を出すためにフォグや舞い散る雪、暖炉の煙などのアトモスフィア素材を足しています。景観ショットではフォトグラメトリによって得られた山脈データを読み込んで構築し、街を包む雲は中景・遠景などを感じさせる重要な役割を果たしており、ライトスキャタリングやディフュージョンによって夜の景観をよりスタイライズさせました。
※3 セットエクステンション:撮影された部分的なセットが遠方まで続くかのようにデジタルで延長すること
レイがTIEファイターを燃やしてルークに出合うシークエンスはロケ地に組まれたセット撮影ですが、これをセットエクステンションさせる必要がありました。ロケ地で撮影した写真を基に、マットペインティングを組み合わせた2.5次元で表現しています。TIEファイターの炎や煙もデジタルで追加してより効果的に仕上げています。ちなみに、焦げた金属のテクスチャはMARI、炎や煙はHoudiniによるものです。
■バブ・フリックはパペットだった
ニール・スキャンラン:クリーチャー・スーパーバイザーのニール・スキャンランです。私はバブ・フリックについてお話しましょう。こういうプラクティカルなクリーチャーの撮影に苦労はつきものです。バブ・フリックは、全身グリーンを着た3〜4人のパペッターが手で操作しています。つまり、撮影された映像の背景は緑の3人衆が占めているということで、彼らを画面から消し去る苦労は並大抵なことではありませんでした(笑)。10〜15年前ではこの技法は不可能だったかもしれませんが、これによりオーガニックな動きが実現しているのです。また、バブ・フリックの頭部には25種類の精巧なモーターが仕込まれており、ラジコンで操作により口や目、表情のコントロールが可能です。このように、オーガニックとハイテクの融合によって、バブ・フリックに生命が吹き込まれたのです。
■海のシークエンス
ナイジェル・サムナー:ILMシンガポールのVFXスーパーバイザー、ナイジェル・サムナーです。我々ILMシンガポールのチームが海のシークエンスを手がけたのですが、墜落して破断したデス・スターを囲む海はフルデジタルで構築されています。エピソード6(『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』/1983)から30年後という設定で、まずはコンセプトアートが起こされ、空から印象的な光が差し込んでいるデス・スターの破片と大海原、デス・スター内部などのデザインが用意されました。デス・スターのキーシェィプに関しては、アーカイブと呼ばれる過去に撮影されたミニチュア保管庫を訪問し、ミニチュアを観察してアイデアを得ています。
さて海のショットですが、当初の予定では40ショットほどの予定でしたが110ショットに膨れ上がりました。レイとカイロ・レンのライトーセーバー対決シークエンスは、Pinewood Studiosにブルースクリーンで取り囲んだ18メートル長のセットが組まれ、周りから2人に向かって水をかけたり風を吹き付けながら撮影して臨場感を出しました。
■海面の表現
ニコ・デルベク:ILMシンガポールのエフェクト・スーパーバイザー、ニコ・デルベクです。技術がある程度進歩した今日でも海の表現は依然としてチャレンジングです。まずは実際の海面の写真などを観察することからスタートし、チーム内のコミュニケーションを円滑にするために、特徴的なパーツに「スプレー」、「ミスト」、「チャーン(飛沫)」、「フォーム」といった名前を付け、コンセプトアートをベースに可能な限りリアルにつくる必要がありました。海面のシミュレーションはカメラからの距離で6段階ほどのLODを設定し、各レイヤーで可能な限り解像度を低く保っています。巨大な波はカーブをベースにプロシージャルにコントロールしました。この波から大気の流れをシミュレーションしミスト等の動きに流用。波の頂上で決壊する波しぶきは、ジオメトリベースでプロシージャルに容易にコントロールしています。ここに先ほどの大気の流れ情報を使って水飛沫のシミュレーションを5レイヤー計算しました。海はこうして出来上がったのです。
■海面のシミュレーション
フランシス・マクセンス・デスプランク:エフェクトリードのフランシス・マクセンス・デスプランクです。速度、高さ、向き、シャープネス、波の間隔など、HoudiniのOcean Spectrum ノードを用いてショットごとに調整することで、ねらった結果を得ることができました。波の高さは24メートルにもおよび、数ショットでテストをして感覚を掴んでから、バランスやリアリズムを考慮しつつ各エレメントを仕上げていきます。アニメーターのように、海面をヒーローキャラクターとして動きをつけていったのです。各ショットを1人のアーティストが担当し数週間を要しました。
■レイとカイロ・レンの戦い:ホワイトウォーター
ゴンガロ・カバカ:エフェクトリードのゴンガロ・カバカです。私はホワイトウォーターについてお話ししたいと思います。チャレンジだったのは、レイとカイロ・レンが戦う建造物と海面の衝突&干渉です。波が防波堤にぶつかると、ホワイトウォーターは海面からの圧力で噴き上がった後に落下します。海面自体はさほど形状に変化はなく、ベロシティを用いてホワイトウォーターの噴き上げをコントロールしました。また、ショットごとにシミュレーションのプリロールを行い、最初のコマで充分な量を得る必要もあったので、各シミュレーションはレンダーファームでディペンデンシーを設定。シミュレーション1つあたり3時間程度で終わるようにして、1晩で全てのシミュレーションが完了するように工夫しました。またコントロールするパラメータをなるべく減らし、アーティストが調整しやすいようにしています。
■若きルークとレイアの回想シーン
タニ・カーター:リードコンポジターのタニ・カーターです。 若きルークとレイアの回想シーンについてお話しします。2人のトレーニングシークエンスはブルースクリーンのセットで撮影され、ジャングル風の木が茂っていました。テスト映像をつくった後にレイアウトアーティストと相談して、空間を埋めるためにブルースクリーンの背景にはGen(ILMにおけるエンバイロンメント・チームの部署名)がつくったたくさんの木々を入れることに。VFXスーパーバイザーのロジャーは「後でコンポジターの手間が増えるように、撮影時にスモークを焚いてやった(笑)」と言ってましたが、おかげでCGの木とのデプス感をマッチさせなければなりませんでした(笑)。これにFX部門からのライトセーバーのエフェクトや火花などを入れ、よりエキサイティングに見えるようにフレアも足しています。ルークのブルーのライトセーバーが地面に転がるショットは、途中でCGのライトセーバーに差し替えて拾い上げを行なっています。ルークとレイアの顔は、過去作からの実写プレートを3Dモデルに投影したものですが、ライトセーバーの反射等があるので、ライトの向き等の調整が難しかったです。
■エクセゴルにおける最後のバトル
カリン・クーパー:CGスーパーバイザーのカリン・クーパーです。エクセゴルにおける最後のバトルについてお話ししましょう。エクセゴルにおける最後のバトルは、映画の中でも重要なシークエンスでした。特に、ランド・カルリジアンが膨大な数の宇宙船を率いて駆け付けるハイライトシーンは16,000種類の宇宙船から成り、デジタルデータとして現存する全ての船を流用し53種類の宇宙船を新たに制作しています。また、1,000機のスター・デストロイヤーにフォーメーションを組ませる必要もありました。 また、司令船が地面に激突する複雑なショットもあります。デストロイヤーのCGモデルは、破断に備えて内部も精密にモデリングされていて、エフェクトチームは、炎、爆発、火花などをつくり、自社開発のソルバで爆発が生成されました。司令船上でのバトルでは16,000の戦艦が登場し、レンダリングには840万コア時間と膨大な量のレンダリングを要するため、メモリ量の事前予測などのオプティマイズが重要でした。2020年現在の最新ラップトップ1台のみで計算させた場合、970年かかることになります。
■エクセゴルにおけるバトルのアニメーション
リー・マクネア:ILMバンクーバー アニメーション・スーパーバイザーのリー・マクネアです。 私はエクセゴルのバトルのアニメーションについてお話しします。エクセゴルでのバトルはチャレンジの連続でした。膨大な数の戦艦や宇宙船が登場する中でのアクションシーンや、ドッグファイトのコリオグラフィも難しい課題でした。スーパー・スター・デストロイヤー司令船上でのバトルでは、空には1,800機近くものスター・デストロイヤーが登場します。ポー・ダメロンのXウィングが飛び交い、様々なことが起こります。司令船の艦橋爆発ショットでは、アニメーション、ライティング、テクスチャ・カード、nClothによるシミュレーション、などなどが実写プレートのタイミングに寸分もたがわず構成されています。また、司令船のデッキを走る馬は、本物の馬を顔面だけCGで差し替えているのですが、馬の顔面にはマーカーが貼られマッチムーバーがトラッキングを行い、アニメーターが馬のフェイシャルをアニメートしています。
■サンドクローラーは、ミニチュアによる遠近法トリック撮影
ロジャー・ガイエット:VFXスーパーバイザーのロジャー・ガイエットです。最後に遠近法トリック撮影(Forced Perspective)についてお話しましょう。映画の最後に一瞬サンドクローラーが登場するのですが、前述したアーカイブにはサンドクローラーのミニチュアがありました。これを見て、伝統的な遠近法トリック撮影を使ってみてはどうかと思ったのです。この特撮技法は古く、使用例としては『ダービーおじさんと不思議な小人たち』(1959)などが有名です。このアイデアは、原寸大で30メートルのサンドクローラーを、もし3メートルのミニチュアでつくった場合、実物を撮影したときよりも10倍カメラに近づけて撮影すれば画面の中では原寸に見えるというトリックで、ロケ地にアート部門がつくった高さ60センチのミニチュアを持って行き、現地の子どもたちが演じるジャワと一緒に撮影しました。これに、サンドクローラーの上部に、斜めに差し込む夕日を足して完成です。『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』のVFXはこのように制作されています。