■Tech02:着物のシワや指の表現のつくり込み
ZBrushを活用して ディテールを付ける
LWでベースモデルが完成したら、モデルをZBrushに読み込み、シワなどのディテールを区分けながらフィギュアとしての完成度を高めていくことになる。「おおまかな形状を作成する分にはLWなどのポリゴンベースのモデラーでも十分にモデリングすることができるのですが、例えば足袋の細かいシワなど細部のニュアンスが必要な形状を作成するにはZBrushのようなスカルプトモデラーでないと難しい」と宮嶋氏。また、宮嶋氏がZBrushを使う理由には、このような細かい彫り込み形状を作成する目的のほかに、少しずつ形状に歪みを施してCGくささを消すという理由もあるという。「どうしてもポリゴンモデラーを使ったモデリングでは形状が硬くなりがちです。リアルな世界では人物などの形状として直線的なものは存在しないので、なるべく歪みを入れて柔らかい形状になるように心がけています」。
本作はポーズにしても、着物にしてもとても柔らかいイラストのニュアンスを大事にした造形が施されている。特に指の表情は一番気を遣って造形しているという。「マミであれば舞っているポーズなので、軽やかさと女の子らしさといった、キャラクターの設定として説得力のあるデザインになるように最後まで調整しました」と宮嶋氏。
ZBrushによるデジタル原型制作が完成すると、金型制作に向けて3Dプリントするための分割作業に入る。分割作業では、3D-Coatを使って宮嶋氏がパーツを分割。その分割したデータを小田氏が引き取って3Dプリントし、小田氏自身が磨きやクリアランスなどの微調整を施して、量産工場へ納品になる。
小田氏はもともとアナログの造形師でもあるのだが、デジタルによって造形することについてどのように思っているのだろうか。「以前は肌の表現や骨格の表現は3DCGには難しいというイメージが業界全体であったのですが、現在はフィギュア造形において3DCGは一種のツール、マテリアルと感じるほどまでモデラーのスキルが上がっています。造形にデジタルを使うことには何の抵抗も壁もない」と語る小田氏。「例えば、衣装が宙に舞っているような、重力がモデリングに影響してきそうな造形は手原型では大変で、私ならやりたくないかな(笑)」とも話してくれた。宮嶋氏も自身の造形について「データと商品として完成した造形にはどうしても印象の差が出てしまうのですが、今回はその差がかなり小さく抑えられて、造形時にイメージしていた印象そのままの商品に仕上げられたのがとても嬉しい」と語る。
■指の表現
宮嶋氏が今回の造形作業の中で一番注力したという指の表現の例だ。扇子を持ったり袖をたぐる動作のポージングをしたときに、自然に見える指の形状はどのようなものなのか実際に女性の手の仕草を撮影したり、自分で試してみたものをリファレンスとしながら時間をかけて調整していったという。小道具として使用されている扇子も「写真を参照するだけではなく、実物を触らないとポーズの感じが出ない」(宮嶋氏)ということで実際に舞用の扇子を購入して参考にしているという
■カールした髪の作成
造形として難しそうなのが巴マミのカールした髪型だが、モデリング的にはそれほどポリゴン数を使っているわけではなく、難しいことはなかったという。ただ、このような渦状の形状は、前から見た状態と横から見た状態でかなりデザイン的な印象が変わってくるのと、髪の毛と頭の角度をイラスト通りにすると上手くはまらないため、位置や長さの調整に手間がかかったという。「もともとがイラストとして二次元で描かれているものなので、そのまま立体化できない部分もあります。立体造形では形状的な嘘はつけないので、なるべく基のイラストのバランスを崩さないように微調整するのに とても時間がかかります」(宮嶋氏)。
■カスタムブラシの活用
宮嶋氏がZBrushで作業する場合、ほとんどが標準のブラシを使用しているというが、用途に応じてネットで公開されているカスタムブラシなども利用している。例えばフィギュアの着物にシワを入れる作業によく使用しているのが、デジタル原型師の榊 馨氏が作成、配布している「SK_Cloth」だという。山なりにシワを盛り上げたいような場合に非常に使いやすく、髪の毛のディテールを作成する際にも重宝しているという。