>   >  『四女神オンライン』の事例にみる、気どらない「UE4」の使い方 〜「UNREAL FEST 2016 YOKOHAMA」レポート〜
『四女神オンライン』の事例にみる、気どらない「UE4」の使い方 〜「UNREAL FEST 2016 YOKOHAMA」レポート〜

『四女神オンライン』の事例にみる、気どらない「UE4」の使い方 〜「UNREAL FEST 2016 YOKOHAMA」レポート〜

<3>キャラクターに躍動感を与えるモーションと背景

こうしてルックが決まったイラスト再現性の高いモデルに対して、生き生きとした躍動感を与えるために、モーションは揺れものに至るまで、全て手づけで製作されている。いわゆる「リミテッドアニメ」のルックを再現することを目指しており、アニメにおける原画にあたる部分のポーズを、しっかり画面に残している。秒間のフレーム数不定が標準のPCの流儀を持つUE4では、フレーム数ベースのアニメーションが行えず、秒単位のアニメーション制御を行わなくてはならないため、意図したポーズを画面に残すことができず、モーションアニメーションの調整には非常に苦労したという。

キャラクターにモーションアニメーションを与える方法論としては、当然モーションキャプチャによることも考えられる。ただし、モーションキャプチャの場合、リアリティ重視のキャラクターならともかく、「リミテッドアニメ」を目指す場合、アクターの姿勢や位置の揺らぎがかえって邪魔になり、その揺らぎを消すために余計な作業が発生してしまうことも多い。また、イラストやアニメ調キャラクターと実際の人体との体格差異が顕著だということもあって、キャプチャしたモーションでは、そもそも違和感が生じてしまうこともある。

こういった問題点があることと、ゲーム特有のループやアクションのツナギを考慮すれば、タムソフトが採用したように、モーションアニメーションは総じて手づけの方が優位だと言えるだろう。

  • UNREAL FEST 2016「UE4でつくる『四女神オンライン』開発事例」"
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モーションアニメーションは、揺れものも含めて全て手づけによる。UEの物理演算によるリアルタイムアニメやモーションキャプチャは使用されていない。意図したキャラクターのポーズを見せることを優先しており、揺れものも含めたポージングを重視

ダイナミックで躍動感のある背景にするために、本作ならではの明度が高くコントラストの低いパステル調のルックが求められた。またダイナミックなものとするために、キャラクターに追従するパーティクルや軌跡エフェクトが採用されている。また、攻撃などによって、塵や火の粉といった要素で、背景に対してエフェクトで動的に変化が生じるようにしている。

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上段・左図は戦闘中にカットイン演出で表示されるエフェクト、右図は通常攻撃時のスラッシングエフェクト。下段・左図は移動中エフェクトで移動方向や速度に応じてパーティクルや土煙の尾引きの向きや長さが変化する。右図は2D画面でのパーティクルエフェクト

背景のルックを決定づけるライティングは、光源からの光が当たっている部分には暖かい色味がしっかりと乗りつつも、影の部分が暗く沈んでしまわないように試行錯誤を繰り返している。直接光源からの照度が強すぎるあまり、影の色が黒くなってしまわないように、最終的なライティングとしては、イメージ・ベースト・ライティング(IBL)のスカイライトに加えて、直接光源の色温度を4500Kに調整することによって、本作に似つかわしい明るいものに仕上げている。ただし、本作では、スカイライトのデフォルトの振る舞いであるスカイボックスのマップからカラーを拾う設定ではなく、別途指定できるキューブマップテクスチャに単色カラーのテクスチャを与え、全体的な背景のトーンを、それぞれの環境ごとの変化を反映させたものとはせず、常に明るく柔らかいものになるようにしている。

IBLの正攻法からは離れてしまっており、物理的に正しいか正しくないかで言えば、まったく物理的に正しくないアーティスティックなアプローチだと言えるが、本作の場合、複雑で多様な色味が乗るようなライティングは求められていない。物理ベースが基本のUE4においては、イメージした色味を直接的にアーティスティックに与えるのはむしろ困難だと思われる。それでも、こういった、いわば邪道なアプローチでも、相応の試行錯誤は必要なものの、UE4は依然として柔軟に対応できる懐の深さを持ち合わせているということが確認できた。

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ライティングのパラメータやテクスチャからも本作の背景の画づくりの方向性が見てとれる。間接ライトキャッシュの角ポイントに極端な色が格納されてしまうと、キャラクターのが極端に塗り分けられてしまう。予期せぬ色が乗りすぎてしまわないように反射する間接光の調整が必要

もう一点、興味深い話題があった。広大なランドスケープはどうしても散漫になってしまい、情報密度が上げられないにもかかわらず、本作のようなテイストの背景でも、より重要度の高いキャラクターより計算コストがかかってしまうとのことだった。ミップマップの使用、モデルのLOD、オクルージョンカリング、アニメーションのLOD、ファーのクリッピング等の対策を行えば、ある程度パフォーマンス向上は望めるように思うが、このあたりの最適化は、いくつか行われているようで、これ以上はプロファイリングを行なった方が効率が良いだろう。

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本作がカスタマイズしているポストプロセス項目。カメラはDOFが効いて画面が眠くならないように、パンフォーカスといって良い設定値。またアウトラインが見えやすいようにアンチエイリアスはFAAA。極端に輝度が変化してしまわないようオートエクスポージャーやSSAOといった項目はカットされている

本セッションを通じて、ノンフォトリアルな画づくりを目指すプロジェクトであったとしても、短納期、省コストでありながらエンドユーザーが望むクオリティを出すだめにUE4を活用することがプラスに作用することが確認できた。ただし、そのためには大胆な取捨選択が必要だ。プロジェクトの技術的志向が強すぎると、どうしても従来のハードやゲームエンジンで実現できなかった魅力的な機能の誘惑に駆られ、ついつい野心的に様々な技法を採り入れたくなるものだが、本プロジェクトからはそういった野心が感じられない。UE4を導入したからといって、何もAAAタイトルと同じことをしなければならないわけではなく、またゲームエンジンに全てを合わせる必要もない。プロジェクトメンバーにとって使いこなせない、作品にとって使っても合わない機能を無理して使う必要はないのだ。

実用的なUE4の機能は積極的に活用するが、そうではない機能は使わないというのが本作におけるタムソフトのアーティストのスタンスだ。中小開発プロジェクトにとって、本セッションの内容は大いに参考になるだろう。

info.

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  • UNREAL FEST 2016 YOKOHAMA
    会期:2016年10月1日(土)
    場所:パシフィコ横浜 会議センター 3F(横浜市西区みなとみらい1-1-1)
    主催:EPIC GAMES JAPAN

    atnd.org/events/81132

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