デザインプロセス〜最終デザイン
サムネイル
サムネイルでは、体のプロポーション・ポーズ・シルエットを探求します。さまざまな種類の翼を試し、ハーピーの性質とシルエットに最も合うものを見つけましょう。コウモリの翼はハーピーの悪魔めいた性質に合いますが、ハーピーの一部は鳥なので、羽毛の翼のほうが理にかなっています。
羽毛の翼に決めたら、次は天使の翼のように独立させるか、鳥の翼のように腕の一部にするかを検討します。ここでは、肩甲骨の間に生えた天使の翼のほうが、個性とシルエットを強調し、腕も自由になるので機能的だと判断しました。
他に取り組んだのは、ポーズと体のプロポーションです。女性らしいポーズ・マンガのようなポーズを試した後、どう猛さを表すため、男性に寄せた手足のプロポーションも試しました。続けて、人間の特徴の一部を弱め、野生動物に近づけてギリシャ神話により忠実にしてみました。最初のサムネイルは、しゃがんだポーズをスケッチし、ハーピーが潜んでいる様子を表しています。
飛行するハーピーも描いていますが、天使に酷似するので諦めました。木の枝などの要素を付け加えると、より自然で動物的なポーズになります。
もっと掘り下げる
人間と鳥を組み合わせたプロポーションが気に入ったので、森に関連したコンセプトを突き詰めることにします。正面図では、手足に付いたかぎ爪(枝に止まったり、獲物をつかんだりする)が見えます。魅力的な女性らしいルックを避けたかったので、手足のかぎ爪を人間のプロポーションより大きくしました。この視点では、体に対する頭部と羽のプロポーションも確認できます。そして、局部は羽とシェーディングで部分的に覆われています。
背面図では、尻尾が生えている場所と、尻尾から背中・頭部・翼に沿って生える羽毛のテクスチャパターンが分かります。頭部周りに生えている巨大な羽(冠羽)は、求愛行動や、敵を威嚇する防御手段として使われるものです。この視点だと、羽の模様や、頭蓋骨の後ろで放射状に生えている冠羽のリズムも見て取れます。ハーピーはまた、サルのような長い尻尾でバランスを取ったり、森の天蓋の間を巧みに進んだりできます。
側面図では、飛行をサポートする補助翼のような羽が、肩と脚から生えています。また、額のプロポーションと形状、それらが顔と頭部に調和をもたらしているの分かります。この視点では、頭部の冠羽の位置が体全体とどのように関わり、肩に下りているのかを示しています。翼の奥行きもより明確になり、その秘められた力が伝わってくるようです。
ポーズ
森に住むハーピーを選択したので、枝に止まる悪魔のようなクリーチャーを描いていきましょう。最初のスケッチでは、木の枝でしゃがんでいます。長い腕をぶら下げて、鳥にもサルにも見えます。このポーズで休憩を取っている、あるいは、さまよえる魂や遊んでくれる子どもを待っているのかもしれません。この待機する姿勢はとても魅力的に感じます。遠近法や短縮法によって、立体感を力強く表現できるでしょう。
次のポーズは鳥というよりも、木につかまった猿に見えます。これは獲物を見つめている場面です。長時間、全体重を片手で支えるのは難しいことから、ハーピーの腕の力を暗に示しています。しかし、体のリアルなプロポーションを捉えきれていないため、全体の形状はあまり好みではありません。サルに似すぎている気もします。
亜種
岩のハーピー
岩のハーピーは、森のハーピーのような人間と鳥の特徴だけでなく、割れたひづめや大きな角など、シロイワヤギに似た特徴も持っています。他のハーピーほど攻撃性はなく、鋭いかぎ爪もありません。住みかの山では、手を使って岩を登ったり、つかんだりします。飛行能力の有無は定かではありませんが、手から羽が直接生えているため、飛行に適していないのかもしれません。おそらくこの羽は、岩上でバランスを取るのに役立つのでしょう。
海のハーピー
歴史を通じて、海のハーピーはよくセイレーンと混同されてきました。外見は似ていますが、どちらも独立したクリーチャーです。この亜種は魚と人間のハイブリッドで、頭部などに鳥のような羽が少しあるだけです。深海を住みかにする傾向がありますが、陸地や人里にも近づくと言われています。よく船舶と衝突し、岸に打ち上げられているという報告もあります。翼の代わりに、腕と胴体の間に、伸び縮みするトビウオのような膜を持ちます。空は飛べませんが、遠くまで波の上を優雅に滑ることができます。
最終デザイン
最終デザインのハーピーは、木の枝に止まり、頭を少し右に傾けた動物のようなルックです。これには、頭を傾ける鳥の動作を参考にしました(鳥には対象を片目で見て、意識を集中する種がいます)。また、その特徴的な頭部構造も影響しているのでしょう。このポーズから、攻撃後か、次の攻撃に備え、脚を休めて力をためていると分かります。 悪魔のようなクリーチャーの上で、翼がドームを形作っています。つまり、この姿勢は、いつでも飛び立てることを示唆しています。左に見える曲がった尻尾はネコのようで、不安やずる賢さの象徴と言えるでしょう。下部にあるかぎ爪は、そのどう猛さを伝えています。あえて瞳は描かず、完全に空白のまま残すことで、魔法的/印象的な個性を強めました。全体として、今にも頭上から襲い掛かり、地獄へ連れ去りそうな、優雅で情け容赦ないルックです。
-
書籍情報
世界のモンスター・幻獣を描く
説得力のあるコンセプトのつくり方
制作:3dtotal.com
発行・発売:株式会社 ボーンデジタル
ISBN:978-4-86246-407-1
サイズ:210 x 279 x 29 mm (A4変形)
総ページ数:320頁(カラー)
価格:5,184 円(税込)