今回は、DCCツールを開発している会社で働く方にご登場いただいた。ハリウッド映画のエフェクト分野を中心に、VFX業界で幅広く使用されているHoudini。このHoudiniを開発するSide Effects Software Inc. (以下 SideFX)で、Marketing FX Artist Internとして活躍中の奥野莉奈氏に話を伺った。

記事の目次

    Artist's Profile

    奥野莉奈 / Rina Okuno(Houdini FX Artist / SideFX)
    アメリカ・カリフォルニア州出身。中学進学と同時に日本へ移住し、国際基督教大学を卒業後、東京で総合職として勤務。その後、映像業界への転身を志し、オンラインでCG Spectrumのコースを受講。3Dアニメーション、モデリング、VFXの基礎を学び、VFXに専攻を絞る。その後、2024年にバンクーバーのVFX専門学校Campus VFX(旧Lost Boys Studios)のFX TD Programに入学し、Houdiniを中心に1年間学ぶ。卒業後、トロントのSideFXにてMarketing FX Artist Internとしてキャリアを開始し、現在に至る。
    www.sidefx.com

    Houdiniを中心にエフェクトを学び続け、FX Artistとしての土台を築く

    ――子供の頃や、学生時代の話をお聞かせください。

    エンジニアをしている父の仕事の関係でアメリカ・カリフォルニアのシリコンバレーに生まれ、幼い頃からPCやカメラが身近にある環境で育ちました。また、カリフォルニアに住んでいたこともあり、両親にLAのディズニーランドへよく連れて行ってもらっていました。

    そういった環境の影響もあって、ディズニーやピクサーなどのスタジオで働くことにずっと憧れはありましたが、絵を専門的に学ぶことはせず、大学も美大ではなく教養学部へ進学しました。

    その後、一般企業へ就職しましたが、自分の進路に対して疑問をもつようになりました。改めて映像業界について調べると、3DCGは大人になってからでも学べる分野だとわかりました。もともとPCを扱うことへのハードルが低かったことや、英語環境にも抵抗がなかったことから、スタジオの多いバンクーバーへの進学を決意しました。

    ――バンクーバーでは、どのような勉強をしたのですか?

    バンクーバーのCampus VFX(旧Lost Boys Studios)でFX TD Programを専攻し、1年間、Houdiniを中心にエフェクトを学びました。

    他の学校では幅広いソフトや分野を扱うことが多いですが、すでにCG Spectrumでの学習を通してエフェクトを専門的に勉強したいと考えていたため、このプログラムが自分には合っていると感じて選びました。

    クラスは約8人と少人数で、切磋琢磨しながら1年間を過ごしました。約2ヵ月に1回のペースで個人プロジェクトに取り組み、作品を制作していきました。最終的には、それまでにつくった作品をまとめてデモリールを制作し、そのまま就職活動に活用できました。

    また、この学校はイベントが多いのも特長で、BBQやハロウィン、クリスマスパーティなどを通して他のクラスの学生や卒業生と交流する機会が多く、とても楽しい学生生活を送ることができました。

    ――海外の映像業界での就職活動は、いかがでしたか?

    映像業界ではやはりポートフォリオとレジュメが最重要で、まず面接まで進むことが難しく、逆に面接の機会をいただければその後は話が進みやすい印象があります。ジュニア枠の募集も少なく、1〜2年の経験を求められることも多いため、未経験からの就職活動はかなり厳しいものでした。

    応募条件を満たしていなくても同じカナダ国内であれば都市を問わず、とにかく見つけた求人に応募し続けていました。ただ、ほとんどのスタジオから連絡がなく、不採用の連絡すら来ないことも多く、正直かなり心がすり減ることもありました。先生やリクルーター、イベントで出会った方々にデモリールやレジュメを見てもらいましたが、「準備はできているので、とにかく応募数を増やすしかない」という助言が多かったです。

    それでも応募を続け、卒業から約4ヵ月後、応募していた中の1社であるSideFXで初めて面接の機会をいただき、採用に至りました

    ユーザー向けサンプルエフェクト制作中の奥野氏

    「アートに終わりはありません」、行動の積み重ねがキャリアにつながる

    ――現在の勤務先は、どんな会社でしょうか。

    2026年7月にリリースされたHoudini 22.0に標準搭載された公式サンプルエフェクトの制作に携わりました。これらは、Houdini内のシェルフツールからワンクリックで読み込むことができ、実際のセットアップを確認しながら制作手法を学べる技術デモとして提供されています。

    私は7種類のエフェクトを担当し、そのうち3種類が魔法、4種類が花火のエフェクトです。ユーザーがそのまま扱いやすい形で使用できるよう、エフェクトに加えてルックデブやレンダリング、Copernicusを用いたコンポジットまで一貫して担当しました。

    エフェクトというと爆発や崩壊のようなダイナミックな表現が注目されがちですが、私はキラキラした魔法や柔らかな動きも大きな魅力だと感じています。面接でも「魔法を担当したい」と伝えていたため、実際に任せていただけたことはとても嬉しかったです。また、学生時代に授業で学んだHoudini公式コンテンツの制作者から直接フィードバックをいただきながら制作できたことも、非常に印象深い経験となりました。

    ▲奥野氏が制作した、ユーザー向けサンプルエフェクトの一例

    ――現在のポジションの面白いところは何でしょうか。

    通常のスタジオとは異なり、ソフトウェア会社での制作になるため、最終的な見た目の完成度だけでなく、「どの機能をどう使ってその結果に至ったか」というプロセス自体が重視されます。

    学校では、最終的に完成すればプロセスはある程度自由でしたが、ここでは他のユーザーやアーティストが再利用することを前提に、汎用性や使いやすさを考慮した設計が求められます。完成したサンプルは手軽に使えるものですが、その裏側では、ユーザーが直感的に扱えるツールになるよう設計段階から考え、R&Dチームのサポートを受けながら制作を進めました。

    個人制作では意識しなかった設計思想や開発の進め方に触れられたことは大きな学びであり、苦戦しながらもHoudiniならではの面白さを実感しています。

    ――トロントでの生活ぶりはいかがですか?

    今年の冬は例年より長く、5月の頭頃までダウンコートを着て過ごしていました。バンクーバーと比べてもかなり寒く雪も多い冬でしたが、暖かくなってからは一気に過ごしやすくなり、外でのイベントやテラス席のあるカフェ・レストランも増えてきました。地元の人も「トロントは夏が楽しい」とよく言っています。

    日が長く21時前まで明るいこともあり、17時に仕事が終わってそのまま帰るのが少しもったいなく感じることが多いです。平日は買い出しのついでにカフェに寄ったり、運動をしたりと寄り道することが増え、週末は新しいエリアを開拓したり友人と過ごしたりしています。

    トロントはトレンド感のあるカフェやレストランが多く、グルメ好きとしては行きたい場所が尽きません。一方でバンクーバーは自然が身近で、外でゆったり過ごせる時間が多く、それぞれに異なった魅力があると感じています。

    ――英語や会話のスキル習得はどのようにされましたか?

    アメリカで生まれ育っているので英語の基礎はずっと身についておりましたが、中学から大学を日本で過ごしていたため、改めて英語で授業を受けたり仕事をすることに対して不安がありました。また、当時はやりたいこともまだ明確ではなかったため、いきなり渡航するのではなく、まずは準備期間としてオンラインで3Dアニメーション、3Dモデリング、VFXの基礎を学ぶことにしました。 

    CG Spectrumというオンラインスクールではすべての授業が英語で行われており、週1回、業界経験者の先生からフィードバックをいただける環境がありました。海外で学び、働くことを視野に入れていた私は、まず専門用語やソフトの使い方から英語でインプットしておくべきだと思いました。また、課題を見てもらいながら英語で質問し、英語でフィードバックを受けるという経験を通して、実践的に英語に慣れていくことができました。 

    この期間のおかげで英語環境に入るための準備ができただけでなく、エフェクトを専門にしたいという方向性を見極めることもでき、渡航前にやって良かったと思っています。

    ――将来、海外で働きたい人へのアドバイスをお願いします。

    2026年半ばに入り、アーティスト職の求人はジュニアレベルも含めて少しずつ増えてきた印象があります。

    就職活動は「タイミング」と「ご縁」が大きいと言われますが、本当にその通りだと思います。だからこそ、イベントへの参加や応募を通してチャンスを増やすことが大切だと感じています。私自身、先生や業界の方から勧められたことをどんどん行動に移すようにしていました

    ネットワーキングを目的としたイベント参加やSIGGRAPHのボランティア、都市を問わない応募など、作品づくりと並行して挑戦しました。その中で、出会った方からアドバイスをいただいたり、リクルーターを紹介していただいたりと、ひとつひとつの行動が次の機会につながりました。

    もちろん作品のクオリティは重要ですが、アートに終わりはありません。「まだ完成していないから」と応募や作品公開をためらっていると、次の機会につながりにくくなります。信頼できる方からのアドバイスを素直に受け取り、自分にできる範囲で行動してみることが大切だと思います。その積み重ねが、現在カナダでFX Artistとして働くきっかけにつながったと感じています。

    ▲同僚の皆さんとボルダリング

    【ビザ取得のキーワード】
    ①国際基督教大学を卒業
    ②東京で総合職として勤務後、CG Spectrumでオンライン学習
    ③Campus VFX(バンクーバー)に学生ビザで1年留学
    ④卒業後、ワーキングホリデーを活用しSideFXに入社

    連載「新・海外で働く日本人アーティスト」では、海外で活躍中のクリエイター、エンジニアの方々の海外就職体験談を募集中です。

    ご自身のキャリア、学生時代、そして現在のお仕事を確立されるまでの就職体験について。お話をしてみたい方は、CGWORLD編集部までご連絡ください。たくさんのご応募をお待ちしてます!(CGWORLD編集部)

    ご連絡はこちらから!

    TEXT_鍋 潤太郎 / Juntaro Nabe
    ハリウッドを拠点とするVFX専門の映像ジャーナリスト。著書に『海外で働く日本人クリエイター』(ボーンデジタル刊)、『ハリウッドVFX業界就職の手引き』などがある。
    公式ブログ「鍋潤太郎☆映像トピックス」
    EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada